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34話 時の鐘 2

 龍介さんの姿が何度もよみがえる。大好きな人。愛している人。どんな言葉で言い表しても足りない気がする程に、恋しい人。頬に残る涙の跡をそのままに、何度か頷いて、それから栞ちゃんを見た。


「栞ちゃん、連れてきてくれてありがとう」


「……綾乃さん、ハワイで出会ったのは、誰ですか?」


 もう気付いている。もうわかっている。彼女の瞳を見つめたまま、ゆっくりと頷けば、彼女の瞳から涙が零れ落ちていく。


「黙ってて、ごめんね」


「どうして……」


 言葉はそれ以上続かずに、静かに嗚咽が零れる。ずっと一緒にいるから、彼女がなぜ泣いているのかわかる。


「ごめんね」


 もう一度そう告げて、栞ちゃんの手をそっと握った。


 会場から出ていく人々の足音や話し声でざわつく中、視界の端で通路を走ってくる人の影をとらえた。どこか見覚えのあるその人は、どんどんこちらに近づいてきて、とうとうわたしの隣に来ると腰をかがめる。


「綾乃ちゃん」


「……畑中さん」


「良かった。綾乃ちゃんだね。みんな、ずっと心配してたんだよ」


「あの……」


「一緒に来て。話したいことがあるから」


 突然の畑中さんの姿に戸惑いを隠せずに、なにも答えられずにいるわたしの右腕に手が添えられた。そちらを見れば栞ちゃんが心配そうな顔を向けていた。


「綾乃さん、どなたですか?」


「お友達? もし大丈夫なら一緒に」


「でも」


「綾乃さん、行きましょう」


「え?」


「じゃあ、こっちに」


 二人とも、答えを聞かずに歩き出す。わたしは栞ちゃんに腕を引かれるまま、半ば引きずられるようにして歩いた。


「しお、栞ちゃん、待って」


「大丈夫です」


 彼女は畑中さんの後を確かな足取りで進んでいく。すぐ近くにあるドアを開けて、明らかにスタッフのいる通路を進み、更に警備員のいる先に入る。同じ黒いシャツを着ている人たちが、広いとは言えない通路を行きかっていた。


 通路を進みながら、ふと右手を見れば、記憶通り出入り口のドアがあって、そこから何人ものスタッフが出たり入ったりを繰り返している。そこから少し進んだところで畑中さんが止まり、こちらを振り返る。その場所の先に控室があるらしく、警備の人と思われる体格のいいスーツを着た男性が立っていた。


「綾乃ちゃん、ここで待ってて。絶対に待ってて」


「畑中さん」


「連れてくるから。龍に会ってやって。優斗も徹も仁さんも心配してる。ね? 待っててね! 本当にすぐ、すぐだから!」


 畑中さんはそう言って、更に奥に走っていく。


「綾乃さん、会わなきゃだめですよ」


「栞ちゃん……」


「このままなんて、わたしは嫌です。絶対」


 強い眼差しが向けられて、また心が揺れだす。会いたいと願う心と、いけないと思う理性がせめぎ合うわたしの中は、今にもばらばらに砕け散りそう。


 でも、もう一度龍介さんに会ってしまったら、再び離れることなんてできない。龍介さんの声を聞いて、温もりを感じたら、その胸に飛び込んでしまいたくなる。

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