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武蔵転生 ~最強剣豪は異世界でも無双する~  作者: 川合 佑樹


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第1話

 慶長二十年五月十九日。

 宮本武蔵は、熊本の細川家屋敷の一室で息を引き取った。


 六十余年の生涯。

 六十余度の決闘、無敗の剣。

 巌流島の佐々木小次郎、二天一流の完成、各地の強者たちとの死闘。


 すべてを極め、すべてを統べたはずだった。


 だが、息を引き取るその時。

 武蔵の胸に残ったのは、ほんの小さなしかし決して消えなかった棘のような想いだった。


「この力の先に……人の手で届く世界の外に、まだ何かがあるのではないか」


 その問いを抱えたまま、武蔵は目を閉じた。



 そして、再び目を開けた。


 視界に飛び込んできたのは、苔むした古い石壁と、木々の隙間から差し込む柔らかな陽光。

 地面は湿った土。

 背中には冷たい感触。


 そして自分を見下ろす、一人の少年。

 金色の髪、透き通るような緑の瞳。

 白い肌は貴族らしい気品を湛えている。

 口元に浮かぶ笑みはどこか歪んで、陰湿だった。


「……っ!」


 頭の奥に膨大な情報が雪崩のように流れ込んできた。


 ここは神聖ヴァルドリア帝国の名門、王立ヴァルドリア魔法学院。

 校舎裏の、人影のない茂みの中。


 自分はこの学院の一年生、ラインハルト・フォン・エーゼルヴァルト。

 十三歳。

 武門の名門エーゼルヴァルト家の次男。


 そして、目の前に立つ少年はユーリウス・フォン・ヴァインベルク。

 敵対する大貴族、モントフォール公爵家の派閥。


 数分前。

 ラインハルトは、ユーリウスに殺された。

 背後から放たれた氷の槍魔法が、首筋を直撃した。

 当たりどころが悪く、意識は途切れた。


 運悪く命を落とした少年の体。

 そこに、今、宮本武蔵の魂が宿った。


「は? ……おい、ラインハルト? 生きてんのか?」


 ユーリウスが、眉をひそめてこちらを見下ろしている。

 取り巻きの二人は、少し離れたところで青ざめている。


 武蔵──いや、ラインハルトは上体を起こした。

 ラインハルトは首筋を撫でるが、致命傷はもうない。


「ひっ……」


 ユーリウスが息を漏らし、取り巻きの二人が無意識に一歩後ずさった。


 ラインハルトは自身の手を開いたり閉じたりしてみた。

 老いた躯とはまるで違う。

 羽が生えたように体が軽く、血が熱く脈打っている。


 指先を動かすだけで、体内を川のように流れる異質な力が応える。

 この体は確かにか弱い……が、同時に、かつてないほどの可能性を感じる。

 魔力と気力が満ち溢れている。


(……魔法、か。知らぬが使えそうだ)


 指先に意識を集中すると、淡い光が灯った。

 この少年の体は、確かに魔法を扱える。


 そして、腰に差した練習用の細剣も、握ればしっくりと手に馴染む。


(まだ、首筋に痛みが残るが……。さて、どうするか……些か不愉快だ)


 口角が吊り上がった。


(詫び賃程度に新世界の力見せて貰おうかの)


 ユーリウスが、たじろぐ。


 ラインハルトは立ち上がった。

 そして何も言わず、一歩、また一歩とユーリウスに近づいていく。


 ユーリウスは後ずさりながら、声を絞り出した。

「な、何だお前……! やめろよっ!」


 その声には、明らかに怯えが混じっていた。


「おい大丈夫なのか?」

「怒るに決まってるよ。直撃だったんだぞ」


 取り巻きの二人も、互いに意味ありげに目をやった。


 ラインハルトは足を止め、自分の細い手を見つめた。


「この体でよくぞ主君を守ったものだ。礼をせねばなるまいな。……どれ手合わせといこう。なぁに死にはせんよ」


 冷ややかな声音に、三人が同時に身を硬くする。


 ユーリウスが虚勢を張って叫んだ。

「脅したって無駄だ! こっちは三人、お前は一人だぞ!」


 ラインハルトは口角を吊り上げた。


「腕が六本に、目が六つに、脚が六倍に速くなったわけではあるまい」


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