第9話:聖都の金脈と、燃やされる若者たち
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「海岸線には幾重にも塹壕が掘り巡らされ、有刺鉄線が視界を埋め尽くす。要所には毎分数百発の徹甲弾を吐き出す連射式魔導機関砲が隙間なく据えられ、死角は完全に潰されている」。敵軍は、これを精神論だけで攻略しようと攻めてくる。その結果や、果たして?
圧倒的な陣地設営と『完璧な防衛計画』を、お楽しみいただけますと幸いです!
「――イグナシオ将軍率いる『極光騎士団』、黒竜島にて全員壮絶なる戦死を遂げました!
我が軍の陣地奪還作戦は失敗に終わりました!」
聖イグニス王国の首都・聖イグニシア。
荘厳な大聖堂の謁見の間にて、伝令の若い騎士が膝を折り、震える声で報告を叫んだ。
だが、豪奢な絨毯の上に佇む枢機卿や貴族たちの顔に、ショックや悲痛の色はほとんど見られなかった。
「ふむ……一千の極光騎士団が、わずか一時間で消滅したか。相変わらず帝国の魔導兵器とやらは、いささか風情に欠けるな」
金糸の刺繍が施された枢機卿服を着た老男、オルランド枢機卿は、気取った仕草でワインカップを傾けた。
「しかし、素晴らしい成果だ。イグナシオ将軍らは己の命を燃やし、帝国の不信心な鉄壁に傷をつけたのだからな。国民にはこう発表せよ。『高潔なる一千の魂が、聖地奪還のために光となりて昇天された』とな」
「……枢機卿閣下! イグナシオ将軍らは重火器の支援もなしに、裸同然で敵の集中砲火に放り込まれたのです! これは敗北ではなく、無意味な——」
「口を謹め、若造」
オルランド枢機卿の冷ややかな一言が、大聖堂の空気を凍りつかせた。
「無意味などではない。彼らが美しく散ってくれたおかげで、我が聖国の『戦意』は最高潮に達した。今朝も戦死した騎士たちの遺族や信徒たちから、多額の『聖戦寄付金』が集まっている。これによって国債の発行も実にスムーズだ」
枢機卿は楽しそうに目を細め、机の上に積まれた金貨の目録を指で突いた。
「イグナシオは良くやったよ。彼の『直情型で狂信的な性格』は重宝した。まさか本当に『精神の炎があれば弾丸など防げる』と信じ込んで、一千の若者を率いて突き進んでくれるとはな。おかげで軍の予算も増額決定だ」
「そんな……! 将軍も、兵たちも、国の正義を信じて命を捧げたのですよ!?」
「だからこそ価値があるのではないか」
オルランドは冷酷に言い放った。
「戦術的勝利など、どうでもよいのだ。我が国に必要なのは『帝国という冷酷な悪魔に傷つけられた悲劇の犠牲者』と『死を恐れぬ高潔な殉教者』なのだからな。国民が怒りに燃え、我が聖教に全財産と子供たちの命を捧げ続ける限り、我々の権力と富は揺るがない」
聖教の教義では、戦死者はみな「聖霊」となり、天界で永劫の救済を受けるとされている。
国家の中枢にいる権力者たちは、国民のその純粋な信仰心を都合よく利用し、若者たちの命を「集金用の燃料」として炉に放り込んでいたのだ。
「さて、次の『薪』を用意せねばな。第二波の支援艦隊には、まだ世間を知らん志願兵の若者たちを集めよ。イグナシオの『壮烈な最後』を語ってやれば、喜んで死地へ向かうだろう」
黄金の光が差し込む美しい大聖堂で、権力者たちの笑い声が静かに響いていた。
戦場で散った一千の光は、彼らにとってただの「金儲けの出玉」に過ぎなかったのだ。
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【作者より】
第10話を、この後 7/24 14:20 投稿予定です。よろしくお願いいたします。
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