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慰霊師  作者: 皇南輝
第3章 心霊配信すると事故るトンネル
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3-4 心霊配信者に起きた異変

「タケハルに取り憑くつもり?」


 結羽は停止フリーズした配信画面を注視しながら心霊配信者の身を案じた。しかし、余計な心配まではしていない。心霊スポットを訪れた人が霊に取り憑かれることは珍しくないからだ。それに、霊に取り憑かれたからといって、すぐに危険を招くとも限らない。


 結羽はスマホ画面から視線を外すと、彼女の隣りで硬直したように眠っている白猫のホイップを見つめた。


「私も、ある意味、この猫の霊に取り憑かれているわけだしね」


 結羽はホイップに優しげな笑みを向けながら呟いた。

 再び、スマホ画面に目を戻すと、心霊配信が再開されていた。


『ようやくトンネルを出て、近くの駐車場に向かって歩いてるよ』


 配信画面は、懐中電灯に照らされたボロボロのアスファルトを映し出している。ハアハアという息遣いと足音、枝葉を踏みつける音が聞こえ、タケハルが前へ進み続ける様子が間接的な映像となって送られ続けている。

 やがて、タケハルは駐車場にたどり着いたらしく、自分の車に乗り込んだ。ただ、車の映像は確認できない。タケハルが座る運転席からの視点、フロントガラスから見える深夜の森、が配信映像として流されているだけだ。

 そのとき、ズズーッというタケハルが鼻をすする音が聞こえた。


『みんな、ごめん。今夜は体調が悪いからこのまま帰宅するよ。ここまで見てくれてありがとう。ズズーッ』


 タケハルが鼻をすすりながら、視聴者へのお詫びと感謝の言葉を述べた。すると、タケハルの視聴者ファンたちによる応援や労いのコメントがライブチャットに次々と流れた。


『気をつけて帰ってね』


 結羽もコメントを送ったが、次から次へと激しく流れるコメントの波に飲まれてすぐに画面から消えてしまった。その様子を見た結羽は苦笑いを浮かべた。


「やっぱりタケハルは人気者だね。確かに、心霊配信ではタケハルのチャンネルが一番面白いからなー」


 多くのコメントが表示されてはすぐに流され、消えていく配信画面を見つめながら、結羽は小さくため息をついた。やがて、心霊配信が終了すると画面は真っ暗になった。その直後、心霊配信中に現れた女性の手の映像が結羽の脳裏に浮かんだ。


(あの手は何を意味するんだろ······)


 そう思うと同時に、数年前に発生した女井戸トンネルでの殺人事件が頭に浮かんだ。


 数年前、女井戸トンネルでは若い女性が乱暴されて命を落としていた。当時、まだ孤児院で暮らしていた結羽は、ニュース映像を通して、女井戸トンネル付近で立っている若い女性の霊を見ていたのだった。


(さっきタケハルの心霊配信で現れた霊と、あのときニュースで見た霊が同じだとしたら······)


 そこまで考えた結羽だが、すぐに考えるのをやめた。

 考えても仕方ないからだ。

 この世界には、様々な理由で成仏できていない霊が無数にいる。女井戸トンネルの件も、そのひとつにすぎない。それに対してあれこれ考えても疲れるだけだ。


(そうよね。慰霊師として依頼を受けたわけじゃないんだから、余計な考え事をするのはやめよっと)


 結羽はスマホ画面をフリップして動画配信サイトを閉じると、スマホを充電器に差し込んだ。


「次回の心霊配信が楽しみ」


 タケハルの心霊配信を毎回楽しみにしている結羽は、ワクワクする気持ちを抱きながら眠りについた。




 翌日の夜、動画配信サイトに掲載されていたタケハルの投稿を目にした結羽は、驚きのあまり言葉を失った。

 いつもならタケハルの心霊配信が始まる時間に、動画ではなく画像が投稿されていた。そして、その画像には病院のベッドに横たわるタケハルと思われる人物が写っていたが、モザイク処理されており顔までは判別できない。


『女井戸トンネルからの帰り道に自動車事故を起こして入院しました。タケハル』


 画像には、病室画像が掲載されている理由が短い文で表示されていた。

 モザイク処理がされている画像をよく見ると、全身に包帯が巻いてあるかのように見えなくもない。


(まさか、あの霊が······?)


 結羽には、タケハルの交通事故にはトンネルに現れた女性の霊が絡んでいるように思えた。しかし、タケハルの体調不良が事故原因である可能性もある。


「いずれにしても、タケハルの心霊配信は、しばらくお休みだね」


 結羽は残念そうにため息をついた。そんな結羽を、ホイップは不思議そうな顔をしながら見上げていた。






(つづく)

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