3-1 アルバイトの帰り道
「お疲れ様でしたー」
結羽は棒読みのセリフのような挨拶をして『ファンシーバーガー』を離れた。
『ファンシーバーガー』とは、ショッピングモールのフードコートにあるハンバーガー店。結羽は孤児院から自立して以来、このハンバーガー店でアルバイトをしている。
今日は日曜日。
結羽は朝から夕方まで、1週間で最も忙しい時間帯をひたすらレジ担当として働いた。
仕事を終えた結羽は店の裏口からバックヤードの通路に出た。
ショッピングモールの薄暗いバックヤードは従業員や納入業者などの関係者しか入ることができない。バックヤードの人気の無い通路を歩く結羽にとって、その静かな空間は癒しになる。なぜなら、日曜日のハンバーガー店は多忙を極める。レジを一人でこなす結羽の目前には、ハンバーガーを求める客が4時間ほどに渡って絶え間なく来店するからだ。
日曜日の忙しさから解放された結羽は、誰もいないバックヤードを従業員出入口に向かって歩いた。
結羽は、ため息をついた。
(今月の慰霊師としての収入はゼロ。なんとかバイトで食いつないでいかないとなー)
先月から慰霊師の仕事を始めた結羽だったが、1ヶ月経っても収入はゼロだった。
ハンバーガー店でのアルバイトは週4日。時給がアップする土日をメインにシフトを入れているが、それでも生活は厳しい。
従業員出入口に近づいた結羽は、何かに気がついて足を止めた。そして、従業員出入口に立っている警備員のおじさんを見つめた。
(あのおじさん、もうやめればいいのに······)
結羽は、従業員出入口で突っ立って挨拶を繰り返している初老の男性警備員を見ながら首を傾げた。
そのとき、女性が従業員出入口から入ってきた。女性は警備員詰所で入館証を詰所内の警備員に見せると、バックヤードの通路に向かって歩いていく。そのとき、結羽が見つめていた初老の警備員と女性の全身が一瞬重なった。女性は何事もなかったかのようにバックヤードの奥へと歩き去った。一方、初老の警備員は笑顔で挨拶を繰り返している。
よく見ると、初老の警備員の全身は透き通っていた。
(あのおじさん、霊になっても働くなんて、この仕事がよほど好きなんだね)
結羽は、初老の警備員の霊に近づくと彼に会釈だけして通り過ぎた。初老の警備員の霊は、一瞬驚いたような表情を見せたあと、結羽の背中に向かって「お疲れ様です」と労いの言葉をかけた。結羽は初老の警備員の霊に反応する素振りを見せることなく従業員出入口をあとにした。
ショッピングモールの駐車場は、夕方とはいえ、まだまだ満車に近い駐車台数だ。
7月の夕方、空はまだ明るい。
結羽はショッピングモールの駐車場を横目に“いつもの”公園を目指した。そのとき、十字路の角から若い男女のカップルが現れた。結羽は驚いて歩みを止めたものの、男女のカップルは結羽のことなど目もくれずに笑い合いながら反対方向へ歩き去っていく。
結羽は、歩き去っていく男女のカップルの楽しそうな背中を見つめた。
(いいなあ······)
結羽は視線を足元に落とした。そして、ため息をつく。
(私もたまには遊びたいな)
そう思った結羽だったが、すぐに頭を振って気持ちを切り替えた。
(生活、厳しいからなー。まずは収入を安定させなきゃ······)
結羽は、再び歩き始めた。
(つづく)




