021 女帝VS魔法少女。
目撃者の一人、警備兵のガリオンは取材に対して、その時のことをこう語っている。
「聞きたいのは震源地の光景か? それとも見るもの全てが揺れた時のことかな?」
「いやいや、先日の地震も気になるところではありますけど、それよりもドラゴン襲撃と魔王軍四天王についてですよ。謎の英雄が突如現れて解決に至ったと聞き及んではいますが……」
記者の質問に、ガリオンは気さくに笑った。
「はっはっは、だとしたら同じ話だよ」
「……?」
ガリオンの言っていることが記者は理解できなかった。
まさか自然現象である地震が、街の窮地を救ったとでも言うつもりだろうか。
「揺れは一瞬でしたし、それほど大きな地震でもなかったと思うのですが……」
「まぁ、深度0の地震だとそれほど揺れの範囲は広くないんだろうな」
深度0の地震……?
この警備兵、まさか非番なのをいいことに真昼間から酔っているのではないか。
「深度0って……それだと地上が震源地じゃないですか」
「おう、正にその通りだよ」
馬鹿馬鹿しい、酔っぱらいにはこれ以上聞いても無駄だろう。
そう思い、記者はため息混じりに席を立った。
「おいおい、話はもういいのかよ。せっかくだから記念池でも見て行けよ」
「記念池……?」
そういうのもあるのか。
このまま手ぶらで帰るのも記者としてのプライドが許さないので、せめてその場所を取材することにした。
その場所はあっさりと見つかった。
しかし聞いていた話とは少し違う。
記念池なのは間違いないが、なぜかもう一つ真新しい物があった。
「少女の像……?」
なぜこんな物が震源地に……?
それは、数日前の光景を知る者ならば誰でも知っていることだった……。
………………
…………
……
オリビアの指先から伸びる魔力の鞭が、不規則な動きでルージュを襲う――――が、一度も捉えられていなかった。
「よっ、ほっ、はッ!」
「あーくそ、何で当たらないのよ!」
オリビアは苛立ちながら、鞭の本数を増やしていく。
しかしそれも気が付けば10本……これ以上は増やせないところまできていた。
そしてルージュは得意気に答える。
「ふふん、それはね……当たらなければどうということはないからだよ!」
「理由になってないでしょ!」
竜の背は広い……といっても、足場として考えると狭い。
大きく回避することができないので、結果的にルージュは最小限の動きで全てを回避している。
「ねぇグリっち、アレどうなってんの?」
「……多分、勘だと思うよ」
特に加勢する必要がないと悟り、華蓮とグリ公は傍観することを決めた。
「ところでこのドラゴン何て名前なのおばさん」
「おばさんおばさんって、絶対わざと言ってんでしょ!」
「いや、だって名前知らないし……」
私は魔法少女ルージュって自己紹介したのに、おばさんは名乗ってくれないから仕方がない。
「あらそう……私としたことが少し熱くなり過ぎたようね」
ルージュの言葉に、オリビアは一旦攻撃を止める。
「私の名はオリビア……魔王軍四天王が一人、女帝のオリビアよ!」
その瞬間、周囲は静寂に支配された。
ドラゴンも空気を呼んでブレスを止める。
オリビアの声は、地上の警備兵や冒険者にも聞こえていたのだ。
「魔王軍四天王だって……?」
「そんな奴らが存在してたのか……」
「四天王て」
「ちょっと恥ずいよな」
「女帝だってさ」
「踏んで欲しい……」
思った反応と違い、オリビアは舌打ちした。
「チッ、ちょっと大人しくしてたらゴミ共はすぐに忘れるわね」
さすがのルージュも、ここまで面と向かって名乗られては名前を間違えたりはしない。
ただ、覚える気があるかどうかは別である。
「なるほど……よくわかったわ。じゃあオリビアおばさんだから……略しておばさん?」
「名前を省略すんじゃねぇぇぇッ!」
激怒したオリビアの全身から、禍々しい魔力が放たれる。
それに応えるようにドラゴンは雄叫びを上げた。
「ギュアォォォォォッ!」
(せ、背中が痛いぃぃぃぃぃ!)
どことなく悲痛な叫びに聞こえるが、その迫力に警備兵や冒険者は後退りしていた。
そしてドラゴンは暴れ始め、勢いでルージュは上空に投げ飛ばされる。
「すごい暴れるじゃん……あっ、ひょっとしてこれってそういう展開かな?」
暴れる動物を鎮める方法といったらアレでしょう。
まさか異世界で憧れのシチュエーションに出会えるとは思っていなかったよ。
しかし、自由落下に身を任せるルージュを、オリビアは見逃すわけもなかった。
「空中じゃさすがに躱せないでしょ、食らいな!」
両の手を合わせ、集束した魔力の鞭が純粋な魔力砲としてルージュを襲う――――
――魔法少女は、本来各々の特性に応じた移動手段を持っている。
魔法少女ゴールドは空を自由に飛び回り、魔法少女アクアは水のあるところであれば、ある程度の範囲内で瞬間移動することができた。
それに引き換え、ルージュは特別な移動手段を持ち合わせていない。
だから彼女は作った――――
「ほっ」
ルージュの体が、自由落下とは違う軌道に変わる。
「んな!? はずした……?」
オリビアは再度ルージュに狙いを定め、魔力砲を放つ。
――が、ひらりとルージュの体が空を舞う。
「どうなってんのよ……」
焦るオリビアにトドメを刺すように、ルージュは落下するのではなく加速した。
「ちょっ――!?」
「やば、勢いつけすぎた――」
ルージュはそのままオリビアへ、もといドラゴンの背に激突する。
そのまま地上に叩きつけられ、一体は砂塵に包まれた。
「ねぇグリっち、アレどうなってんの?」
「……以前ルージュが言ってたんだけどね、『落下する時の風圧を足場にすればいける』って言ってたよ」
「グリっちはそれで納得したんだ?」
「してるわけないでしょ……」
理屈で説明できる存在じゃないと悟り、華蓮とグリ公は傍観を続けた。
砂煙が薄れていくと、ルージュはドラゴンの目の前で仁王立ちしていた。
それに気づいたドラゴンは唸り声を上げる。
「大丈夫、怖くない……」
興奮した動物を鎮める方法といえばこれだ。
ルージュは今までになく、慈愛に満ちた目をしていた……少なくとも本人はそういうつもりだった。
(怖ッ――!)
背筋にゾッと寒気を感じたドラゴンは、つい反射的にブレスを吐いた――――
しかし、ルージュは敢えてそれを無防備に受ける。
これも必要なプロセスだと考えていた。
(……この炎ちょっと生臭い)
ブレスが止むと、ルージュは少しだけ煤けていた。
そして再び慈愛の目を向け、優しく語り掛ける。
「ほら、怖くな――
言葉を遮るように、先程より強力なブレスがルージュを襲った。
次の瞬間――――大地が大きく揺れる。
「怖くないって言ってんでしょうがッ!」
ひび割れる大地、震える空間――――
ルージュの拳が、半径10m以上のクレーターを生み出した。
「もう、ちょっと衣装が焦げちゃったじゃない」
魔法少女の衣装は自動修復するが、カメラ映りを気にするルージュにとっては死活問題である。
「ったく、どう落とし前……ん?」
目の前のドラゴンの反応がまったくない。
それどころか足元に水気が……
「湧水……じゃないよねこれ。ひょっとしてお漏らし……?」
白目をむいたドラゴンからチョロチョロと聞こえる。
「えぇ……ちょっと乗る気失せちゃったかも」
ドラゴンは雄々しく逞しい存在でいてほしかった。
こうなってくると、花火にびびって吠えながら漏らすチワワのようではないか。
「んーチェンジで。おばさん、他にドラゴンは……」
ルージュは、オリビアの姿がないことに気が付いた。
それもそのはずである。
オリビアは、ルージュが思い切り地面を殴りつけた瞬間に、すでに逃げ出していた。
(まずい…アレはまずい……)
一足で街を囲う壁を越え、全力疾走で逃げる。
とにかく今は少しでも遠くへ逃げたかった。
(アレを相手にするなら、四天王を全員集めないと――)
――ふと、上空からの飛来物に気づきその場で急停止する。
それはズシンと鈍い音をたてて、オリビアの目の前に落下した。
「……ここまで投げたっていうの?」
すでに街からはそこそこ離れている。
まさかここまで気を失ったドラゴンを投げつけるなんて……。
「追ってはこないようね……見逃された?」
少しホッとしたものの、異臭に鼻をつまむ。
「……なんか臭うわ」




