010 武器に見惚れる魔法少女。
四天王オリビアは、自分の目で見たものが信じられないでいた。
「おかしいわね、そんなに高い魔力も感じなかったのに……」
しかし現実に、トロールキングはたったの一撃で屠られた。
魔王軍四天王である自分でさえ魔法を使わなければ不可能なことだ。
もし可能性があるとすれば、あのカラフルな杖に何か秘密があるのかもしれない。
「……少し調べる必要があるわね」
一緒に現れたもう一人の少女からは微弱な魔力反応があった。
その割に攻撃は中々の威力だったようだが、警戒するほどではない。
(街に戻って行ったのなら好都合だわ)
オリビアは魔法でしっぽを隠し、大きなバッグを取り出すと街へ向かって行った。
◇ ◇ ◇ ◇
変身を解いた紅葉は、華蓮と共に街をぶらついていた。
「あれが異世界の魔物かー」
でかくてトロくて棒を振り回しているだけのただの的でしかなかった。
でも怪人相手と違って色々飛び散って悲惨な状況に……飛散だけに。
「ちょっとキモかったよねー……って何でやけてんの?」
「な、何でもないよ」
いけないいけない。
華も恥じらう女子中学生がこんな親父ギャグを考えたらダメだよね。
「で、実際のところ紅たん的に魔物ってどうだったの?」
「どうって言われてもなぁ……」
強いか弱いかでいえば弱かった。
しかしなんだろう……既視感というか、同じような気分を前にも感じたことがあるような気がする。
「そう……あれは弟のプラモデルを壊しちゃった時に似てるかな」
「複雑な感想だね」
思ったことをそのまま言ったつもりなのにわかりにくかったらしい。
「ていうか紅たん弟いるんだ?」
「不本意ながら」
「あーしも妹がいるんだよねー」
「心中お察しいたします」
「何を察したのかなー?」
察するとも。
姉というのはいつだって損な役回りなんだ。
「それより、私は魔物が現れたときに民間人がちゃんと避難してることにちょっと感動したよ」
街中の光景もまだ人の姿は少ない。
先程魔物討伐を報告して回っている人がいたので、元通りの光景になるのは時間の問題だろう。
しかしこれはちゃんと避難していたからこその光景だ。
「現代人は緊張感ないからねー」
「そうなんだよ! どいつもこいつも逃げろって言ってんのにスマホ構えて動じてないんだもん。それで怪我したら被害者面するんだからやってらんないよ」
配信まで始められた日にはさすがにキレそうだった。
魔法少女の闇を暴きたいなら深夜の時間帯にしてほしいよ。
「あー……魔法少女ルージュではないけど、他の魔法少女が炎上してる動画見たことあるわ」
「それってもしかしてゴールドの動画?」
「そうそう、魔法少女ゴールドがビームぶっ放して、逃げ遅れた民間人を巻き込んじゃった的な動画ね」
「あーあれね。よく撮れてたでしょ」
紅葉はどこか自慢気だった。
「紅たんもしかして……」
「あ、でもあの民間人私だから心配なくてもいいよ。ちょっと喧嘩しちゃった時のを動画にしてみただけだから」
そういうことじゃないんだけど……と思う華蓮だったが、それ以上聞くのはやめておいた。
魔法少女の闇は思ったよりも深いのである。
魔物による騒ぎも落ち着きを取り戻し、街中に日常と活気が戻ってくる。
そんな中、華蓮はふと武具屋の前で足を止めた。
「どしたの華蓮?」
「いやぁ、あーしらも武器の一つぐらい持ち歩いてないと不自然なのかなーって思って」
それは城下町から出る際にも門番に指摘されたことだった。
なるほど一理ある、と紅葉は頷く。
「武器や防具は装備しないと意味がない、ってやつだね」
「うん、それはちょっと違うかな」
二人は店内に入ると、「おぉ……」と同時に感嘆の声をあげた。
「剣、槍、斧……博物館みたい」
「あーしも同じこと思った」
店内には、乱雑にまとめられた武具から綺麗に陳列されたものまで様々である。
その中でも、紅葉は壁に掛けられた剣に魅入られていた。
「私、ステッキ捨てて剣にしようかな……」
「紅たんの魔法少女要素半減するよ?」
ステッキが要素の半分はさすがに大袈裟だろう。
……大袈裟だよね?
二人の様子を眺めていた店主は、ため息混じりに店内の隅を指差した。
「はぁ……嬢ちゃんたちに扱えるのは、あの辺にある杖ぐらいなもんだよ」
そこには、杖というよりは棒切れに近い物が乱雑に樽に突っ込まれている。
おそらくまともな客だと思われていないのだろう。
「華蓮、ひょっとしてこれ舐められてる?」
「冷やかし扱いされてるねー」
博物館扱いしたから気を悪くしちゃったのかな。
たしかにそれだと見物に来たみたいだもんね。
「大丈夫だよおじさん、ちゃんと剣を買いに来たから」
そこで、紅葉は棚に飾られた剣を手に取った。
「おいおい……ったく、勘弁してくれよ」
意図が伝わらなかったことで店主は苛立ちを覚える。
(追い出したいところだが、身なりを見るに揉め事は避けねぇとな)
未だ学生服の二人は、店主にとって下級貴族か商家の娘に見えていた。
持つとしたら精々護身用の短剣程度がお似合いだろう。
(……金は持ってそうだな)
それならと思い、店主は別の物を勧めてみた。
「杖が嫌ならこっちのナイフなんてどうだ」
そこにあるのは、実用性より見た目重視の短剣である。
まともな冒険者ならまず買うことはないが、見栄っ張りな貴族等にはこれで十分だと思ったのだ。
「んー……あっ、これ可愛くない?」
華蓮は一番派手な装飾の短剣を手に取った。
「か、可愛い……?」
店主もそんな理由で選ばれたのは初めてだった。
「短剣かぁ、それなら華蓮のトランプのほうが切れ味良いんじゃないの?」
「それはそれ、これはこれっしょ」
そういうものか。
それなら私も好みで選んでみよう。
さてどれがいいかな……。
「紅たん剣の方はいいの?」
すでに紅葉は剣に飽きていた。
「いいよ、どれも私の手より切れ味悪いみたいだし」
「手の切れ味とは」
手刀は刃、常識だよ。
剣は思いのほか残念な出来だったけど、見映え重視で短剣を買うのは悪くない。
でも私は華蓮と違って、可愛いよりかっこいいを優先する。
「うーん、どれも物足りないなぁ」
「紅たんはどういうのが欲しいわけ?」
そりゃもう見知らぬ土地で買う短剣と言ったらアレでしょう。
「龍が巻き付いてるやつ」
「少年かな?」
乙女に向かって少年とは失敬な。
たしかに普段なら堂々と買うのは私も恥ずかしい。
なので通販で済ませるところだが、ここは異世界……今買わなければ後悔する!
「うん、これにしよう」
龍は巻き付いてないが、意味深な文字が彫ってあってかっこいい。
「ねぇおじさん、これ何て書いてあるの?」
古代文字等なら非常にクールだ。
つまり店主の回答は「読めない」が理想的である。
「なんだ、文字読めねぇのか? 鍵は植木鉢の下にあります……だそうだ」
「メモかよ」
まさかのネタ商品なのだろうか。
しかし言わなければわからない。
英語Tシャツも似たようなもんだし、きっとセーフだ。
「ま、とにかくこれで二人とも冒険者に見えるよね」
「あーしはとりまデコりたいかなー」
華蓮はまだ派手にするつもりらしい。
腰に装着するとどこかワクワクする……わざと見せびらかしながら歩きたい気分だ。
お金を払い、二人が店を後にすると、店主は新しい可能性を感じていた。
(装飾品感覚で買っていったな……ひょっとして最近の女子供にはそういうのが流行ってんのか?)
ファッションに疎い店主には理解できなかったが、女性向けコーナーを作ってみようと模索するのだった……。




