12 勝利と勝機
理沙は、誰にも触れられない。
悲鳴の原因は、きっとあのリビングを見てしまった。
下はダメだと書いたのに…。
メッセージ見てないのかしら。
だとしたら、あの光景を見て、私を探すとは思えない。
私も死んでいる。
そう思われたら…。
どう助けを呼べばいいのだろう。
今は、ウォークインクローゼットのドアノブすら届かないのに…。
「はぁ……」
溜息を吐き、視線を下に移した瞬間、眼を疑った。
床から透けた頭半分が出ていた。
「!!?」
お願いだから、驚かすような事をしないで欲しいわ…。
深呼吸をして呼吸を整える。
変わらず、大きな瞳を潤ませながら、私を凝視している。
室内では、本当に幽霊のようで不気味だわ。
「理沙……っ!!?」
声をかけた途端に勢いよく飛びかかって来る姿に驚いた。
だって理沙は、透けている。
スゥッ
案の定、私の身体を通り抜けていく。
「………。」
この子は、何をしているのだろう…。
あ!?
そうか。
この姿では似ていても気付いて貰えないわ!
私が澪だという事に…。
がっかりして、理沙を見ようと振り返る。
「!?」
理沙は、変わらず私を見ていた。
ボロボロと涙を流して、私を見続けていた。
小声で話しかける。
「私が分かるの?」
『当たり前でしょ!!』
理沙は、周りを気にせず大声で話しかけてくる。
「こんな姿なのに…」
『このお家は、澪の写真でいっぱいじゃない! 驚いたけど…分からない訳ないでしょ!』
私の言葉を遮って理沙が話し続ける。
『私だって、こんな姿なんだからね!!』
そう言って、両腕を広げて抱きしめるように飛んでくる。
『澪が生きていて良かったよぅ…』
理沙と一緒に私も泣きたくなった。
でも今は泣けない。
鼻水を啜る音ひとつで命取りになるから…。
溢れる涙を堪えて、一粒が零れ落ちる。
「理沙! 助けを呼んで欲しいの!!」
『任せてよ!!』
涙を手で拭いながら、精一杯微笑む理沙。
「ついでにコレの戻し方、分かるかしら?」
『女神が助言を進ぜよう!』
鼻水をぐずぐずさせながら、瞳を潤ませて精一杯おちゃらけている理沙に優しさを感じた。
『己に聞け!』
日光を浴びていない幽霊のような姿で決めポーズに浸っている理沙をジト目で見つめる。
「………」
『ぷっ……』
二人で静かに吹き出した。
『私も初めて外に飛び出た時は嬉しくって、夜通し飛び回ったの』
理沙が視線を合わせてくれる。
『そしたら、いざ戻りたくても戻れなくて、目を覚まさない私の身体が危険な状況になっちゃって…』
『私、死んじゃうのかなぁって思いながら、ふわふわしてたら、私の事を見えるおじさんに出会ったの。 そのおじさんがこの能力の事を知ってる人で本当にラッキーだった』
理沙が微笑んで教えてくれる。
『澪が自分の力を信じて自分のしたい事を思い描けば、力がお返事してくれるよ』
そう言って、理沙が両腕を左右に振り広げる。
ふわっ
次の瞬間、透明な色とりどりの大量の花が降り注がれた。
「…っわぁ!!」
透明な花は、床の下にすり抜けて落ちて行った。
その姿さえも美しかった。
私の戻りたい姿。
今までと同じ私の姿。
パァァッ
花が降りしきる中。
澪の姿が2歳程の幼児から元の10歳の身体へと変貌していく。
同時になくなった小指が元に戻り始める。
折れた小指も痛みが消え動かせるようになっていく。
「戻れた…」
指先から理沙へ視線を移す。
「戻れたよ! 理沙!! ありがとう!」
抱きしめようとして空ぶる。
スカッ
理沙と見つめ合って、笑い合う。
理沙が来てくれた。
理沙がいてくれた。
理沙が元気づけてくれた。
理沙が笑わしてくれた。
私、生きている。
私、笑えている。
理沙のお蔭で生きている。
『今度、透けてない私に会いに来てね』
ウォークインクローゼット中で着られる服を探していた澪に理沙が声を掛けた。
伸縮性のある黒いワンピースを着る。
「絶対に行くわ!」
キィ…
嫌な音が聞こえた。
「澪ちゃん。 見ぃつけたっ♪」
「!?」
寝ると言っていたアイツ。
久了が寝室のドアから顔を出していた。
ダッ
咄嗟に走ってウォークインクローゼットの扉を閉める。
バタンッ
ドンッ
ダメだ!!
子供の私の力では押し負けてしまう!
子供…!?
パァァァッ
タイトな黒のワンピースが身体のラインを強調するように変化していく。
大人になれば押し負けないわ!!




