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たびゆめ ~何度でも追い求め続けよう~  作者: 幸明沙夜
NEVER EVER GIVE UP
14/60

14 制御

ポーン


 地下8階のエレベーター音がリビングに響く。


「だから! 結城(ゆうき)君が能力をコントロール出来るようになれば、危険犯罪者にはなりえないって言っているの!」

「何故そうお前は、断言するんだ!! そういう人を信じすぎるところが昔から危ういと何度言えば、お前は分かるんだ!」


 来客があった音にも気付かない位に口論し続けている。


「あ。 やっぱ、まだヤッてた…」

「…あの…東条(とうじょう)警部。 上で大変な事態になってまして…」

 まだこの場所で口論し続けているのを見越して、一斑の新人の巡査を連れてきた。

 上の取調室で透視鏡越しに音声も聞いていたが事故後の未成年に対して、決めつけてかかる物言いは、酷かった。


「何だ? 取り調べもまともに出来ないのか!?」

 口論の苛立ちを部下に八つ当たりしている東条警部。

「怯えているじゃないの。 大人気ないわね」

 それを見て侮蔑の一言を放つ寿主任。


「そういう余計な一言をお前が言うからだろう!?」

 東条警部と寿主任は、同期に近いと聞いた。

 本当に仲が良いのは結構だが…。

 揚げ足取りが終わりそうもないな~。

 そう思い、サラッと割って入る。


「上の取調室へ急がないと死人でますよ~」

桜雅(おうが)! そういう事は早く言いなさい!」


「いや~。 一応、一斑の取調なんで俺、部外者じゃないっすか? 新人君! この二人の口論中は、要点を早急に言う方がいいよ」

「はい! すみません」

 全員でエレベーターに乗り込む。


「主任。 泳ぐ準備しといた方がいいっすよ」

「どういうことだ? 武下(たけした)


 一斑の先輩を立てるようにオレでも一応、言葉を選んで伝える。

「一斑の先輩の取り調べを拝見させて頂いてました。 お見事でしたよ。 相手を苛立たせながら、追い込んで、思い込ませるような手腕には驚きすらありましたが…」

「え!? それを精神不安定でコントロールすら出来ない能力者にしていたの!?」


「お蔭で暁澄(あきと)もイライラして、能力暴走中っすよ。 オレ泳ぎ得意じゃないし。 暁澄の制御をさせながら、運動神経も良いと言えば、寿主任しか適任はいないっすよね」

「東条。 あんたの部下。 阿呆なの?」

「馬鹿を言うな! 優秀な奴らだ!」

「東条警部! ありがとうございます」


「もうっ! 甘やかさないでよ! やっぱりコントロール完了後に危険犯罪者になり得る人物かを見極めてからの逮捕が正しいわ! そしたら、こんな不測の事態にもならないのだから!!」

「…検討させて頂こう」


「そういう素直じゃない返答は、嫌いよ」

「……」

 後ろから、二人の会話を聞いている巡査と桜雅は、気付いていた。

 寿主任の一言で東条束冴が傷心していることに…。


 ニブい!


 鈍すぎるっすよ寿主任。

 いつまで経っても気付かないのは貴女だけです。




 取調室前に到着し、扉を開けようとするがビクともしなかった。

「あ。 すみません。 私が開けてみます」

 そう言って、新人巡査が扉を引っ張る。


ベキベキベキッ


 パンでもちぎっているかの様にドアを外していく。

 凄く柔らかそうに軽くドアを開けているが、音は真逆の破壊音だ。


バキ ベキ バリッ


「開きました。 先輩を助けて下さい! お願いします」

 礼儀正しい新人を見て、寿主任がオレを上から下まで無言で見てくる。

 見習えとでも言いたげであるが、諦めて鼻で溜息をつく。

 どうも。オレを良くお分かりで感謝します。


 怪力能力の新人巡査君が開けた先には、ドアの高さまでいっぱいになっている海水があった。


「潮のかおり。 海水?」

「何だこれは!?」

 海水が取調室いっぱいになっているが、ドアを開けても海水は、取調室に充満したままであった。

 手を入れると、こちらからは中へ入れるようだった。

 中の巡査や巡査部長は、こちら側に出られないようで見えない壁にでも阻まれているみたいだ。


 二人が海中からドンドンと叩く仕草をしているのを見て思う。

 変に体力を消耗しないように上で空気を吸っていた方が良いのにな~。

 まぁ。出られないのは暁澄を怒らせたせいだから、ザマーみろとしか思えない。

 俺でさえ、能力で暫く苛め倒すことを決意した程だ。

 暁澄が出てきたら、誉めてやろう!

 次からは、もっと上手く仕返す方法も教えてやろう。



ビリビリビリッ



「なっ!? 何をしているんだ寿!」

 音の方を見ると寿主任がヒールを脱いで、パンツスーツの下のストッキングを破っていた。

 隣で東条警部が慌てふためいている。


「時間がないわ。 桜雅これ預かっといて!」

 そう言ってジャケットを脱ぎ始める寿主任。

 細胞活性の能力を使ったのだろう。

 筋力も持久力も高い10代位に若返っていた。


「こんな状況でコントロールなんて、荒療治にも程があるわ」

 そう言って、海水の中へ歩き入る寿主任。



 頼りになるなぁと、尊敬し直したところで中の状況が分かりやすい透視鏡の部屋へ行く。

 その中には、サンタを潰しそうなくらい強く抱きしめている天祥(てんしょう)がいた。

 天祥の肩を揉み、緊張を緩め、サンタを回収する。

くぅ~ん

 サンタに泣きつかれる。

 天祥は、暁澄に気を取られ、透視鏡にへばりつく。

 余程、心配しているのだろう。



 能力者の教育・指導と言ってもここまでコントロール出来ない人は、あまりいない。

 急に自分の周囲で変なことが起こったり、何かできるようになっても大抵の能力者は、受容(うけい)れて付き合っていく覚悟をすることが多いからだ。

 そもそもエレメント(元素)系などを自在に扱える者や身体能力向上系やサイキック系やタイムキーパー系、頭脳系なんかもいる。

 特に頭脳系や身体能力向上系なんかは、否定する余地もない程、受容れやすい。

 もしかしたら、能力と知らず使っている場合もあるだろう。

 それを確認して、把握していく作業もサンタのお蔭で楽になってはいるが、説明や書類など色々と骨が折れる。


 オレの能力は、特殊系に分類される。

 多分、暁澄の能力もその分類枠だろう。

 自分では、気付きにくく、使っている気もしない、一瞬では分からないような物が多い。



 暁澄の元へ泳ぎ辿り着いた主任を見守る。

 主任は、どう暁澄を制御させるんだろうか。






 細胞活性の能力を使えば、水中でも一時間程であれば耐えられる。

 でも、結城君と一斑の二人は耐えられない。

 テーブルに足を付けば、まだ肩ぐらいの水位だった。

 結城君をこれ以上、混乱させてはならない。


 時間との勝負だ。


 海面から顔を出すと、涙を滲ませながら、パニックになっている結城君と目が合った。

 その姿が苛められた小動物のように見えて、思わず微笑み返す。

「寿さん。 俺…俺、人を殺そうなんて思ってないんです。 でも、こんな力が俺の能力なら、怖いです。 こんな物、要らないです」


 まだ能力を否定している。

 このままでは駄目。


「大丈夫。 大丈夫だから、殺そうなんて思ってないなら、どうして海水がここにあるの?」

 優しく頭を撫でながら、問いかける。

「言い方にムカついてしまって、溺れそうになる事がどんなに大変か経験してみろって思ったら、こんなことになってしまって…」


「もう十分身に染みたよ! 絶対にお前を逮捕する!!」

 事の発端は、この男か…。

「死にたくなければ、貴方は、黙りなさい!」

 男の言葉に腹が立ち邪魔をしないように威喝する。


「魔女の能力も俺だって聞きました。 あんな酷いこと…逮捕されて当然です」

「大丈夫よ。 まだ分からないわ。 結城君は、能力をまだ使いこなしていないのだもの」

 私が折を見て話そうと思っていたことを酷いタイミングと酷い言い方で伝えたのではないかと思い、先程の一言で黙っている男を睨みつける。


「まずは、この海水を止めて皆の命を救いましょう。 それが出来るのは、結城君だけよ」

「でも、どうしていいか…分からないです」


「この能力が結城君の物だと受容れてあげて。 そうすれば、能力が応えてくれる筈よ」

「この能力が…」


「出せたのなら、消すことも出来るわ」

 テーブルから足が離れていく、泳いでいないと海面に浮上できなくなる。


「結城君が許しても私は、あの男を許さないから、安心して海水を排除して大丈夫よ」


 海水が天井ギリギリまで迫ってくる。

 声を掛けるのも最後だ。


「結城君なら大丈夫よ! 皆で生きて、ここを出ましょう」

 話しながら少し海水を飲んでしまう。



 とうとう、空気が無くなって、海水で浸水してしまった。

 結城君意外に止められない。

 見守るしか出来ない歯痒さで苛立つ。

 結城君の首筋に両手を当てる。

 結城君が窒息しないように細胞活性能力で私の酸素を供給出来る体勢をとる。






 冷たい海水。


 あの事故を思い出す…。


 寿さんに触れられ、未来(みくる)の温もりを思い出す。




〝生きて〟




 そうだ。


 こんな所で俺は終われない。

 生きて未来(みくる)に会わなくては…。


 例え、どんな姿の未来(みくる)でも、未来(みくる)をもう一度抱きしめたい。


 俺は約束したんだ。


 未来(みくる)の元へ戻ることを誓ったんだ。


 絶対に諦めない。






 諦めたくない。






ゴポゴポゴポッ…






 俺の周りに微細な気泡が集まり始める。




 その微細な気泡は、取調室全域に広がる。






 約束のために能力(おまえ)を信じよう。


 信じるから、俺に力を貸して欲しい。


 この海は、もう必要ない。




 俺の力なら、消失に応じろ!!






パァンッ






 無数の微細な泡が弾け飛び、海水が消失する。


ドサッドサッ


 気泡である程度、下の方まで降りてきていたようだったが、海水が消失したことで床に落ち、尻もちをつく男達。


「「ごほっ ごほっ ごほっ」」

 二人とも息をしていた。


 俺と寿さんは、机の上に立っていた。



「凄い…。 寿さん本当に力が応えてくれました!!」

「凄いのは結城君よ! 良かった。 無事で本当に良かった」

 そう言って、よく見ると若返っている寿さんに抱きしめられる。


 寿さん自身も危なかったのに俺の心配をしてくれている。

 お姉ちゃんがいたら、こんな感じだろうか。



 ふと、もう一つ忘れてはならない事を思い出す。

「あの…。お願いがあるんですが…」

「何?」




「魔女の所へ行きたいんです」




 一瞬驚いた表情をして見せた寿さんへ尋ねる。

「ここを出られますか?」


 俺が何をしたいのか悟ってくれたようだ。

 満面の笑みで応えてくれる。



「任せて!!」






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