第一話 魔力災害
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黒に近い灰色の髪。
少し細身の身体。
そして、
光の加減で灰色にも見える瞳。
八歳のルークは、
父の隣を歩きながら、
嬉しそうに目を輝かせていた。
夕暮れの森を、二つの足音が並んで進む。
草むらをかき分けながら、ルークはきょろきょろと周囲を見回していた。
小さな手には、練習用の短い木槍。
まだ子供用だ。けれど本人は、立派な狩人のつもりだった。
「父さーん」
少し前を歩いていた父さんが振り返る。
「いた!」
ルークは声を潜めながら、茂みの向こうを指差した。
草の隙間。
耳の長い小動物が、地面の木の実を齧っている。
父さんは目を細めた。
「……よく見つけたな」
そう言うと、静かに腰のナイフへ手を伸ばす。
「えへへ」
褒められて、ルークは少しだけ胸を張った。
次の瞬間。
父さんの腕が動く。
短く鋭い音。
投げられたナイフが獣へ突き刺さった。
「わぁっ!」
獣が倒れる。
父さんは近づいて、それを軽々と持ち上げた。
「良い獲物がかかった。今日はご馳走だぞ」
「ほんと!?」
ルークの顔が一気に明るくなる。
「やったぁ!!」
「お前、肉絡むと本当に元気だな」
「だっておいしいもん!」
「この前も食っただろ」
「あれちっちゃかった!」
「今日は大きい」
「やったぁ……!」
思わず口元が緩む。
そんなルークを見て、父さんが小さく笑った。
フェルノ村へ戻るには、まだ少し距離がある。
森を抜けて、川沿いの道を通る。
さらに開けた草原を越えれば、ようやく村が見えてくる。
空は夕焼け色へ染まり始めていた。
そろそろ急がないと、帰る頃には日が落ちる。
「帰るぞ」
「うん!」
父さんの隣へ並びながら、ルークは楽しそうに歩く。
今日の夕飯は肉。
母さんもきっと驚く。
『ルークが見つけたのかい?』
って、褒めてくれるかもしれない。
そんなことを考えているうちに、森が途切れた。
視界が開ける。
草原の向こう。
フェルノ村の灯りが見えた。
村の周囲には、魔物避け用の結界術式が設置されている。
夜になると、入口付近の魔法陣が淡く光り始めるのだ。
家々を照らす魔導灯の明かりも見える。
ルークは、あの灯りを見ると「帰ってきた」と感じるのが好きだった。
「ついたぁ」
「まだ入り口だ」
「でも帰ってきたー」
ルークは嬉しそうに笑った。
父さんも少しだけ口元を緩める。
村の入口を抜ける。
見慣れた家々。
いつもの灯り。
夕飯の匂い。
誰かの笑い声。
いつものフェルノ村。
――その瞬間だった。
ぶわっ――と、空気が歪んだ。
「――え?」
耳鳴りみたいな低い音。
世界そのものが揺れた。
次の瞬間、村中から無数の光が吹き上がる。
「な……」
入口近くの結界術式が、一斉に砕け散った。
青白い火花。
割れる音。
家々を照らしていた魔導灯も、次々と消えていく。
そして。
悲鳴。
「きゃあああっ!!」
「助け――っ!」
「が、ぁぁ……!」
人々が次々と倒れていく。
空へ。
身体の中から何かを引き剥がされるみたいに、淡い光が吸い上げられていく。
「な、なに……!?」
呼吸が苦しい。
胸が重い。
空気そのものが、身体へ圧し掛かってくる。
「ルーク!!」
父さんの声。
次の瞬間、身体が強く抱き上げられる。
「と、父さん!?」
「喋るな!!」
低い怒鳴り声。
父さんは全力で走り出していた。
村の外へ。
木柵を飛び越え、草原を駆け抜ける。
速い。
でも。
父さんの腕が、少し震えていた。
ルークは初めて見た。
父さんが、こんな顔をするのを。
「父さん……こわい……」
「大丈夫だ」
即答だった。
けれど、その声は少し掠れていた。
後ろでは、まだ悲鳴が続いている。
空気がさらに重くなる。
ぐらり、と視界が揺れた。
「っ……!」
父さんの足が止まる。
村から少し離れた草地。
そこで父さんは、後ろを振り返った。
フェルノ村。
村全体が、淡く光っている。
空へ向かって。
何かが吸い上げられていく。
「……っ」
父さんの腕へ力が入る。
そして。
「ルーク」
低い声。
けれど、優しかった。
「生きろ」
「え――?」
次の瞬間。
身体が宙へ投げ出される。
「と、父さんっ!!」
景色が回る。
地面。
草。
衝撃。
「いたぁっ……!」
何度も地面を転がる。
涙が滲む。
それでも、必死に顔を上げた。
遠く。
父さんが立っていた。
こっちを見ていた。
安心させるみたいに。
怖がらせないように。
ほんの少しだけ笑って。
その身体が、光へ飲み込まれた。
「――ぁ」
頭が真っ白になる。
嫌だ。
なんで。
父さん。
立ち上がろうとして、腕へ力が入らない。
その時だった。
ぶわっ――と、空気が逆流した。
「っ、ぁ……!?」
身体へ、何かが流れ込んでくる。
熱い。
違う。
痛い。
焼ける。
身体の中を無理やり掻き回されるみたいな激痛。
「あぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
叫ぶ。
涙が止まらない。
苦しい。
痛い。
怖い。
嫌だ。
助けて。
父さん。
――その時。
視界の奥で、灰銀色の光が揺れた。
淡く。
静かに。
まるで生きているみたいに。
そして。
ルークの意識は、深い闇へ沈んだ。
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