第七章 仲間の危機と誓約の重み
ギルド団体保険が根付き始めたことで、冒険者たちは危険な依頼にもかつてない安心感を覚えるようになった。
「もしもの時も、ジロウさんの保険があるから大丈夫だ」――そんな言葉が、ギルドの日常会話に混じるようになっていた。
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だがその裏で、一人の青年冒険者――リクは、焦りを感じていた。
彼はまだ駆け出しで、自分の価値を示そうとするあまり、仲間への信頼やルールを疎かにしてしまうことが多かった。
ある日、リクは四人パーティで魔獣討伐の依頼を受けた。
「もう少し効率よくやれば、俺だって……」
リクは仲間の制止を無視して、近道だと称する危険な獣道を強引に提案する。誰も通らない崖沿いの細道――そこには罠が仕掛けられ、地形も不安定だった。
「みんな、こっちなら早いって!」
「でも、ギルドのマップに“要注意”って……」
「大丈夫だよ、俺が先導するから!」
結果、仲間の一人が足を滑らせ、隠れた罠にかかり重傷を負った。
リクはショックと焦りで「みんなのためだった」と言い訳を重ね、ギルドへの報告書にも事実を曖昧に書いてしまう。
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数日後――
治療費の申請に、ギルドから非情な通告が下る。
「契約違反により、保険金は一切下りません」
動揺が広がる。リクの仲間も、他の冒険者も驚いた。
「どうして? せっかく保険に入ってたのに!」
「リク、お前まさか……!」
リクは何も言えず、肩を震わせてその場を逃げ出す。
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ジロウは静かにリクを呼び止めた。
「リク。保険は“絆”を守るためのものだ。
自分だけが得をしようとしたり、仲間を裏切れば、“安心”も契約も力を貸してはくれない。
失敗してもいい。大切なのは、自分の弱さを認めて、もう一度誓い直すことだ」
リクは歯を食いしばり、やっと言葉を絞り出した。
「……すみません。僕が、全部怖くて……みんなより自分を守ることしか考えてなかった」
「本音を言えた時から、もう君はやり直せる。
これからの行動で、“誓約”を証明してくれ」
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そんな矢先、町に魔獣襲撃の報が轟く。
ギルド中が戦闘態勢に入り、アスカが真っ先に仲間を率いて前線へと駆けつける。
「全員、無理せずにパーティで連携して!」
リクも仲間たちの姿を見て、自分も現場へ走る。だがパニックの中、魔獣の巨体に弾かれ、一人崩れ落ちた。
――絶望と後悔。
(また、俺は……)
その時、鋭い声が飛ぶ。
「リク、立て! ここは私が抑える!」
アスカの剣が輝き、魔獣に斬りかかる。その背中は力強く、リクの胸に新たな勇気を灯す。
しかし、別の魔獣が背後から迫る。
「下がれ!」
ジロウが飛び出し、リクの前に立ちはだかる。
「まだ終わりじゃない。
今度は、仲間を信じるんだ!」
ジロウの《契約魔法》が光を放つ。
その光はアスカとリク、仲間たちにも広がり、傷ついた体を癒し、心に力をくれる。
リクは震えながらも、アスカの背にすがり、叫ぶ。
「ごめん……でも、もう逃げない!今度はみんなと戦う!」
アスカは力強くうなずき、二人で魔獣に挑む。
最後はアスカの剣が魔獣を討ち、ジロウの保険魔法が全員を包み込む。
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戦いの後、リクは涙を流しながら土下座した。
「みんな、ごめん!俺は……本当の仲間になるって、今ここで誓います!」
仲間たちはリクを抱き起こし、アスカは優しく頭を小突いた。
「バカ。でも、それでこそ冒険者だよ。
“信じる”って言葉、団体保険の“誓約”として十分だ」
ジロウも微笑み、肩を叩いた。
「失敗しても、仲間のために立ち上がれば、保険は必ず力になる。それが“安心”の意味だ」
ギルドには再び静かな絆と誇りが戻る。
仲間たちは“誓約”の本当の重みを知り、ヒロインたちもジロウを囲んで笑顔を交わした。
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その夜、町の外れではカズマが冷たく呟いていた。
「正義と絆か……どこまで持つか、見せてもらおう」
次なる嵐の予感を残しつつ、ジロウたちの“絆の契約”は、
さらに深く、強く結ばれていくのだった。