第8話 せっかく窮地を脱したと思ったら
スティークたちを見送った僕は再び館の中に戻る。さて、まだ一階と地下しか探索していないし、上の階を調べてみるとするか。
まず初めに、玄関からほど近い場所にある階段を上っていく。2階には寝室と大きな図書室、執務室があった。
図書室や執務室の本棚には様々な種類の本が所狭しと並べられている。魔法に関する本も多いし、この中には一階にある魔法陣について書かれているものもあるのかもしれないな。
館は三階建てのため、更に上の階へとのぼる。三階にも部屋はそれなりにあったが、あまり使われた形跡はなく、薄っすらとほこりの積もっている部屋が多い。
しかし、一つだけ異彩を放っている部屋があった。部屋の入口は頑丈に閉ざされており、扉の隙間からは濃い瘴気が漏れ出ている。
「いかにもなにかが封印されていそうだな……」
僕はさすがに扉を開けることはしなかった。下手に触れたせいで封印が解かれてしまったら困るからな。
しばらくは様子見をするつもりだ。
僕は探索を終え、一階に戻る。日はすっかり沈んで暗くなっていたため、僕はリビングにあったランタンの魔道具に魔力を流す。辺りは少し明るくなった。
夜目がきくとはいえ、灯りはあった方が良い。真っ暗だと物が白黒に見えてしまうからだ。
さて、館にある部屋は大体見て回ったし、なにをしようかな。吸血鬼は眠る必要がない。
ただ、頑張れば眠れそうな気がする。吸血鬼になった状態で眠る事になにかメリットがあるのか、試してみるのも悪くないな。
僕は2階にあるベッドに横たわると目を閉じた。しばらくすると頭が朦朧としてきて、僕は意識を手放した。
◆❖◇◇❖◆
僕は瞳を開ける。すると目の前に見慣れない天井が現れた。
一瞬の間困惑するも、僕はすぐにここはシュタイアーの館なのだということを思いだす。
寝室の窓から外を見ると、ちょうど朝日が登り始めてくるところだった。
どうやら僕は一晩中寝ていたらしい。
「む、体内の魔力が回復している?」
魔力というのは不思議なもので、何もしなくても勝手に回復はする。しかし、その速度はとても遅い。
そのため、どんな種族であれ、魔力を回復させるために他の手段を使う。例えば人間の場合、魔力ポーションを使って魔力を回復させる事が一般的だ。
しかし、吸血鬼は睡眠をとることでも魔力を通常より早く回復させることができるみたいだ。いったいどういう原理なのだろう。
とりあえず、魔力をたくさん消費した日は寝たほうが良さそうだな。さて、魔力が回復したことだし、地下室に行くとしますか。
「エルドによると館の結界を生みだしている魔法陣は魔力が尽きると効果を発揮しなくなるようだからな」
◆❖◇◇❖◆
「ふぅ……。こんなものかな」
僕は魔法陣に触れていた右手を宙に浮かべる。結界を生みだす魔法陣に手から魔力を流した所、魔法陣はこれまでよりも明るく輝くようになった。
魔力が無事補填されたということだろう。
「案外簡単だったなぁ」
次はなにをしようかな。手持ち無沙汰なのも嫌だし、森で魔物と戦おうかな。
まだこの新しい身体にも慣れていないし。
僕は再び1階に戻ろうとする。
「ん?」
その時、部屋の壁に立てかけられている帯広の剣に目が止まった。
その剣は漆黒で鍔の部分には閉じられた目の彫刻があしらわれている。
「これはブロードソードか? さっきまでこの部屋にこんな武器があるなんて気が付かなかったぞ」
もしかして魔法陣が輝いた事によって部屋が明るくなり、目に止まったということだろうか。
僕はブロードソードに近づいていく。よく見ると、ブロードソードは漆黒ではなく、赤黒い線によって彩られていた。
彩られているといっても、暗いところでは分からないくらい薄らと着色されているだけだが。
手に取ってみると、見た目よりも軽い。それなりに良い素材で作られているということなのだろうか。
だんだんとブロードソードに興味のでてきた僕は館を飛びだすと近くにあった大木に向けてブロードソードの刃を突き立てた。
ずザザザザぁぁぁぁ。
木片が飛び散り、幹の4分の1くらいが切断された。僕はブロードソードの刃を確認するも、刃こぼれは全くしていない。
「結構力を込めたのになんともないなんて凄いな」
今の僕が全力で武器を振るうと、大抵の武器は壊れてしまうと思う。実際に、長年愛用してきたメイスは無理な使い方をした結果曲がってしまっている。
使えなくなるのも時間の問題だろう。その点、このブロードソードは壊れる心配をしないで使うことができるので素晴らしい。
吸血鬼の館に置いてある剣なだけはある。
それにしてもこのブロードソード、鍔の部分が閉じた目なのは本当に奇妙だよな。魔力を流したら目が開いたりするのかもしれない。
僕は試しにブロードソードへと魔力を流す。
すると、途端にブロードソードにあしらわれた赤い線が輝きだす。それとともに、閉じられた目が開く。
真っ赤な瞳がじろりと僕を睨んだ。
その瞬間――僕の意識が朦朧としだし、身体を動かしにくくなる。僕の右腕はブロードソードで僕の喉元を突き刺そうと勝手に動きだした。
まずいな。この剣に身体を乗っ取られかけている。
僕は慌てて抵抗するも、ブロードソードの刃は僕の喉元に深々と突き刺さった。




