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交渉の決裂と決着

 『おい、あいつらの頭を見てみろよ!』

 『ハゲなのか?』


 交渉の場にやって来た行長らを遠目に見てイスパニア人達が口々に言った。

 話し合いは双方の真ん中で行われ、チョンマゲが珍しいのか頭に視線が集まる。

 物珍しいのはそれだけではなく、鎧姿もまたそうであった。

 

 『着ているのは鎧なのだろうか?』

 『その様だが、金属製ではないみたいだな』

 『目立つだけで防御力があるのか?』


 行長らの甲冑姿を見て感想を述べる。

 イスパニア人らも鎧は着ている。

 頭を守る金属製のヘルメットと、胴を覆う胸甲きょうこうである。

 火縄銃の登場によって重装備の鎧は意味を成さなくなり、歩兵は軽装に代わってきていた。

 武器にも目をやる。


 『おい! 奴ら弓を持っているぞ!』

 『銃があるという話は本当だったか!』

 『しかし、本当に使えるのか?』


 当時の銃は火縄銃で、一度撃てば次弾の装填には時間がかかる。

 銃撃し、剣や槍で突撃するのが一般的であった。

 イスパニアの武器は剣、槍、鉄砲で、日本側は刀、槍、弓、鉄砲と、双方が似た装備と言える。

 しかし、それは客観的な見方をすればであり、主観では違う。


 『あんな物は虚仮威こけおどしに過ぎん!』

 『そうだ! どうせこの辺りの遅れた奴らと変わらん!』

 『銃はベラクルスで奪ってきたんじゃないのか?』


 彼らは乱世日本の実態を知らない。

 決めつけで過小評価するのは仕方の無い事であろう。

 

 『あんなのが20万だと? 法螺ほらも大概にしろ!』

 『どうせ銃を放てば途端に狼狽えて、右往左往するに決まっている!』

 『インディアン共と同じだ!』


 西洋人にとってのアメリカ先住民は、コロンブスによってインディアン(インドに住む者という意味)と名付けられた時から変わっていない。

 北米から南米に至るまでことごとく蹂躙してきた彼らには、征服すべき対象にしか過ぎなかった。

 圧倒的な少数の筈のイスパニア人がアステカ帝国を征服出来たのは、アステカの圧政に反発する部族の協力を得られた事と、当時の西洋の剣や防具の性能の高さ、新大陸には無かった鉄砲と馬の存在が挙げられる。

 見た所は同じ様な装備をしていても、その優位性が今も残っていると思い込んでいた。 

 従って、突如現れた日本人の集団が、兵を率いて食料の支援を求めに来るという事前の報告にも、疑いと反発しか感じない。


 『食料が欲しいなんて嘘っぱちだ!』

 『そうだ! 奴ら、攻めて来たに決まっている!』

 『太平洋を渡って来たに違いない!』


 自分達がアメリカ大陸でしてきた事なので、相手も当然そうだと思ってしまう。

 それに、城ごと飛んできたという話など信じられる筈も無い。

 交渉を見守るイスパニアの空気はその様なモノであったので、日本人から伝えられた提言の内容が部隊に持ち帰られるや、和平の道は完全に断たれた。

 使者の言葉はこうであった。


 「お前達にこの国を任せるのは勿体ない。代わりに我らが上手に統治してやるから、お前達は大人しく本国に帰るか、奴隷となって働くが良かろう」


 あまりな内容に呆然とする者、自分達の力を知らない日本側の無知を嘲笑う者、無礼さに激昂する者など様々な反応であったが、交渉は決裂だという事では一致する。

 こうしてヌエバ・エスパーニャ副王領、シウダ・デ・メヒコの軍勢3万と、小西行長、加藤清正、立花宗茂の軍勢2万との戦が始まった。




 「まるでなっとらんではないか!」


 清正が呆れ半分、怒り半分で言う。

 彼の部隊がイスパニアの陣を突破した事で大勢は決した。

 中央を破られた事によってイスパニア軍は瓦解し、日本側による掃討戦へと移っている。

 

 「練度はなっとらんし、我慢も足りん!」


 清正は不満を述べた。

 戦はまず互いに鉄砲を射掛ける事から始まったが、指揮官の命令の下に一つとなった射撃を行う日本勢に対し、イスパニアの側はバラバラであった。

 それだけでも部隊の統制が取れていない事が知れる。

 そしてそれは白兵戦になってより露わとなった。

 踏み止まるべき所で踏み止まらず、易々と清正らの侵入を許してしまったのだ。


 「勇ましいのは見かけだけか!」

 

 吐き捨てる様に言った。

 鉄砲を伝えて来たのが南蛮であるし、大砲やガレオン船といった進んだ技術を持つ国と思っていたので、どの様な戦い方をするのか楽しみであったのだ。

 それが蓋を開けてみれば呆気ない。

 怒りも湧こうというものだ。


 しかし、清正の感じた練度不足は仕方ないと言える。

 日本側が正規軍だとすれば、イスパニア側はコンキスタドール達の集めた私兵の集まりに過ぎないからだ。

 冒険者兼征服者であるコンキスタドールは、自らが投資を募って私兵を集め、黄金などを求めて新大陸へとやって来た荒くれ者達である。

 私兵であるので部隊としての練度などあって無い様なモノで、蛮勇さと策謀でアメリカの諸部族を征服していった。

 彼らのもたらした天然痘やコレラで弱っていた所を、部族同士のいがみ合いなどを巧みに利用する事でゴリ押ししたのだ。

 よって、同程度の装備と兵力を持った、訓練を十分に積んだ正規兵を相手にすれば、抗うのも一時の事で時間と共に瓦解するのは当然であろう。

 命令に従う兵士で構成された部隊を用い、その巧みな運用が勝敗を左右するのが戦場の常である。 


 「生かしておいても飯の無駄だ! ことごとく殺してしまえ!」


 怒りに任せて清正は命令した。

 敵を殺せばその分だけ食い扶持も増える。 

 兵達も容赦なく止めを刺していった。




 「残ったのは1万程か」


 逃げていく敵兵を見て清正は呟いた。

 多くが行長とぶつかった部隊である。


 「思ったよりも減らせたな」


 こうなる事は見越していたので特に不満は無い。

 早速次の命令を下す。 


 「今は町へは入らぬ! ここで待機せよ!」


 折角の勝ち戦ではあるが、追撃まではしない。


 「伴天連を町に向かわせろ! 大人しくすれば命は取らぬとな!」


 恐れるのは事態を悲観して町に火を点ける者の出現である。 

 食料が目的なのに、それを焼かれたら目も当てられない。  


 「速やかに町を開発せねばならぬ故、略奪行為には厳罰を以て臨むと兵達に徹底しておけ!」


 勝ち戦の後にはそれが付き物だが今は事情が違う。

 無用な混乱は避けたい。


 「相手方には籠る城も我らの進軍を止める城壁も無い! 無防備な町を攻めるのは恥だと肝に命じよ!」


 降伏せよと勧告するのみだ。

 そうこうするうちに行長と宗茂が集まってきた。

 今後をどうするのか話し合う為に呼んでいる。

 清正は行長に言った。


 「その方は城に戻り、結果を報告して応援を呼ぶが良かろう。町は5万から3万に減ったので、食い物を半分にすれば我らの2万とは別に更に5万は呼べる事になる」

 「どうして儂が?!」


 行長にとって清正の使い走りなど受け入れられない。

 それに、彼にこの町を任せていては、何かと理由を付けてイスパニア人を殺しそうである。

 清正は行長の抗議を一喝した。


 「今は一刻を争う事態の筈だ! この町だけでは我ら全員を賄えぬ! 速やかに別の町を攻めて食料を確保するべくであろう! 己の事だけを考えている場合か!」

 「ぐっ!」


 行長は反論出来ずに押し黙る。

 清正は重ねて言う。 


 「町の開発には人手が要るので兵は置いて行け! 伴天連は後で送り届けてやる!」

 「好きにしろ!」

 

 どうにでもなれと答えた。


※The conquistadors pray before entry to Tenochtitlan

 テノチティトランを攻める前に祈るコンキスタドール達

挿絵(By みてみん)

(パブリックドメイン)

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