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敵国にきて2週間、邪魔だと言わんばかりに押し込められた私には、本来1人は付くはずの侍女というものがいなかった。

まあ幽閉されていた間もいなかったのだから、今更侍女を付けられても困るのだけど、それを理由にたまに様子を見に来る騎士団長や、王に馬鹿にされるのは腹が立つ。


騎士団長は本人曰く私がおかしなことをしていないのか見張りも兼ねて来ている。何故毎回騎士団長が来るのか、と聞いてみたところ、巷では私に会うと不幸が移ると言われてるらしい。全く失礼な話であるが、実際そう言われているのだから仕方ない。しかしそれを信じない者が騎士団には団長くらいしかいないため、こうしてわざわざ敵国の捕虜の所まで毎回足を運んでいるのだ。

王に至っては、最後には「足も顔も悪いお前なんて本当は生きている価値もない。しかし俺の優しさとアンジェリカの妹であるおかげでお前は生きていられる、俺に感謝をし、その命を捧げるのだぞ。」と毎回同じようなセリフを言って去っていく。


訪問者は食事を運んでくる侍女と騎士団長と王の3人しかいないが、幽閉されていた時よりは多い方だ。なのになんで、幽閉されていた時より寂しいのだろう。


広くなった部屋のせい?慣れない枕で寝ているから?外から見える景色が違うから?

違う。もっと大切なことが足りない。


「クレイオス…。」


そうだ。夢を見ないんだ。ここに来てもう2週間が経とうとしているが、未だに一度も夢をみない。

別に疲れているわけでも、深い眠りについているわけでもないのに、夢を見ないのだ。


「幽閉されていた時はどんなことがあっても見ることができていたのに…。」


きっと心配しているに違いない。

いや、私の夢なんだから心配しているわけはないんだけど、それでも次夢を見た時は絶対に怒られるに決まってる。

だってクレイオスとの約束をもう何週間も破っているのだから。

あの日はすぐ会えると思っていた。でも夢を見なければ私は彼に会えないのだ。

その事実に気がついた時、私は初めてあの国に帰りたいと思った。


「どうしよう、なんとしてでも夢をみなくちゃ…。」


以前の部屋とこの部屋ではどんな環境の違いがある?

……だめだ、違うことだらけでどれが原因かわからない!


じゃあここに来てやるようになったことは?

……本を読むこと。王と騎士団長と話すこと。ご飯を味わって食べること。お花を見つめて過ごすこと。ベットでごろごろすること。高級な石鹸で湯汲みをすること。


逆にここに来てやらなくなってしまったことは?

……誰かにおはようのあいさつをすること。笑うこと。星の数を数えること。寝る前のハーブティー。


…なんか、考えてみるとここでの生活は贅沢な気がするんだけど、気のせいかしら。

とりあえず、今の状態で以前の生活に戻るために出来ることはハーブティーを飲ませてもらえるように頼むことくらいしかないみたいだ。

王は私のこと嫌みたいだけど、騎士団長なら私のお願いを聞いてくれる可能性がある、かもしれない。


この国で採れた茶葉じゃなくて、きちんと私の国でとれたハーブで作った茶葉にしてもらわないと安心して眠れないのだけれど、そんなわがまま果たして通用するのかな…?


「と、とにかく一回頼んでみよう…。」


あぁ、早くあのかわいらしい声で名前をよんであどけない笑顔の彼を抱きしめたい。約束破ってごめんなさいって謝れば、優しいクレイオスのことだから許してくれるはずだ。


かわいいかわいいクレイオスのことを思い出していたら、ノックが聞こえて返事をする間もなく騎士団長様が入ってきた。

いつものことなのだが、返事がないのに入ってくるなんてノックの意味あるの?まぁこんな女にプライバシーがあるとは思ってないけどさ…。

そんなことより今日はハーブティーのお願いをしなければ!


「あの…すみません、一つお願いしたいことがあるのですが…。」


「お願い?捕虜の身分でよくそんなことが言えるな。」


「お、お願いします。どうしても欲しいものがありまして…」


「欲しいもの?なんだ、ルビーの指輪か?パールのネックレスか?ふん、どれもお前のようなものに与えられるものなどない!」


「お願いします、故郷のハーブティーが飲みたいのです…!」


「なに?ハーブティーだと?…仕方ない、ならばうちの国で採れたものを…」


「いいえ!故郷のハーブティーでなけれなならないのです!お願い致します!」


「なぜそこまで故郷のものにこだわる。まさか何か企んでいるのではないだろうな?」


私の死さに気がついたのか、騎士団長は眉を潜めて私を見つめる。

ここで、見たい夢がみれない、なんて言ったら以前にも増して馬鹿にされるに違いない。慎重に言葉を選ばなければ。


「企むだなんて、そんな大層なことではありません。ただ、最近夢見が悪くて…故郷のハーブティーを飲むといつも治っていたので…。」


頭の中では媚を売るときの姉の動作をイメージしながら、おずおずと団長を見上げる。


「…仕方ない。用意させよう。」


「あ、ありがとうございます!」


「俺の寛大な心に感謝するんだな。」


そういうといつもと同様偉そうに騎士団長は部屋を去っていった。

そして一週間後、夕食と共に私の目の前に差し出されたのは間違いなくあのハーブティーの匂いであった。


「騎士団長様より、約束のものだ、と伝言を預かっております。」


「あ、ありがとうございます…!あの、騎士団長様にお礼を伝えておいてください。」


「かしこまりました。」


執事は必要最低限の会話とお辞儀をして、何事もなかったかのように去っていった。

それからしばらくすると、今度は団長本人が現れた。


「あ、ハーブティーありがとうございました。」


「ふん、わざわざ俺が王にまで許可を取り、あんな田舎臭い国まで部下を取りに行かせたんだ。貴様は俺にこの恩を一生かけて返さねばならないからな。」


「は、はい…。」


たかがハーブティーで一生恩を返せと言う騎士団長の図々しさは王に匹敵しているのではないのだろうか。

騎士団長はその後も私の服装や見た目について散々文句を言い帰っていた。その後同じようなことを言いに王がやってきたのだから、心労が溜まったのかハーブティーで癒されることもなく眠りについた。


次の日、私は夢を見ることなく目覚めたのだった。

  


「」


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