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「一つ、昔話をしてやろう」

「え〜。何それ?」

「まあ付き合え。儀式のようなものだ」

「ふ〜ん。さっさとしてね。オレ、このクソ女の死体から離れたいんだからさ」

「……なるほど」

「さっさとしてね」

「―――昔、男がいた。その男はある女の師だった。その男はな、女と出逢ったとき既に狂っていた。永遠の時を過ごしていくうちに、その男の心は壊れてしまったのだ。人間というものはな、呆気ないほど容易に壊れる。潰れる。腐る。脆く、淡く」


「その男は愛に救いを求めた。何事でも癒せなかったひび割れた心を元に戻そう本能的にな。そして、男は嘗て恋い焦がれた女とよく似た女を見つけ、男はその女を全身全霊で愛でた。例えそれが邪恋であろうとなかろうと」


「男は常々余にこう言った。『儂は「我が最愛の師の生まれ変わりである」あのおなごの心が欲しい。儂の伴侶とし、永遠の時を渡る』。男は言葉通りになるよう画策した」


「だが、女にとってその男は憎しみの対象でしかなかった。男は何かと理由を付けて女を独占しようとして、女の縁者を手に掛けた。そんな男を女が受け入れるわけもなく、やがて成長した女は男を殺めてしまったのだ」


「人は貴様らが自覚している以上に脆く、惰弱な生き物よ。長い時を刻んでいくと次第にひび割れ、やがて砕ける。そして砕けた『それ』を修復しようと過去の愛を求める」


「そして過去の愛に気付く。幾重も年月が折り重なったその果てに、過去に己に向けられていた先代の愛に気付かされる。しかしそれは何代も何代も繰り返されてきた永久不滅に続く螺旋なのだ」


「それから久遠の年月が経った。男の愛に気付かなかった女はやがて男と同じ道を歩き、辿り、そして散った。女が愛した一人の男によってな」


「―――終わり?」

「以上だ」

「ふ〜ん。で、それがナニ?」

「余が代々の『追捕使』に語り継いでいる『昔話』だ。忘れても構わぬが、覚えておくがいい」

「なんだよ、それ?」

「『追捕使』は所詮『異常因子』でしかない。故、世間には受け入れられ難い」

「それぐらい知ってるさ。オレが父母に捨てられたのもそのせいなんでしょ?」

「一概には言えぬがな。『異常因子』は大多数の人間から除け者扱いされることが多いのだ。まあ、それは『異常な者を本能的に感じ取り、そして本能的に排除』しているだけのことなのだがな」

「それがどうしたの?」

「除け者にされた人間は情を欲するのだ」

「情?」

「そうだ。僅かでも己を理解してくれる者を、理解してくれた者を欲し、そして縋り付く。それが螺旋の正体なのだ」

「ねぇ、話が見えない」

「何れ分かるときが来よう」

「分かりたくもないよ。そんな意味不明な話」

「良いではないか。さて、余は貴様を一六六代目と認め、余はその証しに貴様が望む『形』となろう」

「カタチ?」

「余には固定の『形』がないのだよ。今は先代が望んだ『鷹』の姿になっておる」

「へ〜。オレが望んだらその『形』になるわけ」

「うむ」

「そーだな〜。……じゃあ『白猫』がいいかな」

 

 

     ◇◆

 

 

 これが『一六六代目』が誕生した瞬間だった。

 それは三〇〇年も前のこと。

 螺旋は螺旋。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 そう、ただそれだけのことなのだ。

全てにケリを付けようと思った。

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