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詩人アルディスの観察日記  作者: ボタン
第四章 アルディス暇を持て余す
25/25

【日記】金剛石の月 2日目

【金剛石の月 2日目  快晴】


 今日は朝から来客がありました。

 部屋の外からトントンと扉を叩く音が聞こえてきたので開けてみると、そこに立っていたのはフェナ王女付き侍女のカロラさんでした。


「アルディス様、おはようございます。今日は良い天気ですね~」


 と、相変わらず緩い声で元気よく朝の挨拶をしてくれました。


「おはようございます。カロラさん。どうされたんですか突然」


 私は挨拶を返しながら、扉を塞ぐようにカロラさんの前に立ちます。

 前回、彼女が私の部屋を訪ねた時は、フェナ様が城を勝手に脱出するのに巻き込まれて大変な目に合いました。部屋を突然訪ねてきたカロラさんに警戒しないとい方が無理と言うものです。


 ちらりと、カロラさんの背後を伺うと、今回はフェナ様は一緒ではありません。それを確認して心の中でほっとしてしまう私がいました。

 フェナ様がいないだけでも、何かに巻き込まれる可能性はぐっと下がったと言えますからね。

 そんな私の心配に対して、カロラさんはやけに周囲を気にしている様子でした。

 自分の立っている廊下の先をちらちら見たり、辺りをやけに警戒しています。

 その怪しい様子にやっぱり何か厄介な事が起きているので無いかと私は疑いの目を向けてしまいます。私の疑いの目には気づかずに、カロラさんは辺りに声が響かないよう小さな声で話かけてきました。


「あの~……、少しかくまってくれませんか?」


「はい?」


「かくまってくれるなら、ちょっとした情報提供もできます」


 いきなり匿ってほしいとか、情報提供とか言われて、私は意味が分からず眉をひそめました。


「……確認しますけど、また厄介ごとではありませんよね?」


「大丈夫ですよ~。ただ私は休憩できればいいので」


「休憩? カロラさん、そもそも貴方はフェナ様が謹慎中の間は休暇では?」


 普通、謹慎中でも王女付きの侍女なら一緒にいるべきなのですが、彼女の場合はフェナ様がお城を抜け出すのを手伝った共犯者なため、謹慎中はお二人は離しておくことになったはず。

 そのため、カロラさんは長期休暇を命じられていたと聞いていました。


「それはその~……。とにかく先に中に入れさせてください!」


 言葉を濁したまま、カロラさんは無理やり私を部屋の中に押し込むと、大きな音が鳴らないよう静かに扉を閉めました。


「アルディス様、鍵かけてください鍵」


 あまり女性と二人きりの時に鍵をかける物では無いのですが、カロラさんの勢いに気圧されて、私は言われた通りに内鍵をかけました。

 しっかり施錠されたことを確認すると、カロラさんがはぁ~、と息をついてしゃがみ込みます。


「ありがとうございます、アルディス様。この御恩は忘れません」


「大げさですね。……やっぱり、厄介事に巻き込もうとしてませんか?」


 私の疑いの言葉にカロラさんはにこにこ笑いながら立ち上がります。


「いや~、厄介事じゃないですよ。実は私って今魔法の勉強をしていまして」


「ああ、フェナ様がオルカ様に頼んでいた件ですか」


 話を聞くと、カロラさんの魔法の知識の無さを憂いたフェナ様が勉強させるという事を言っていましたが、仕えているフェナ様が謹慎中で時間が空いているのでちょうどいいとばかりに勉強の授業を入れられたそうです。


「それでですね。私はその勉強の休憩場所を探していた訳なんです~」


 休憩場所? カロラさんの言葉に私は首を傾げます。


「カロラさん、先ほどは匿ってくださいって言ってましたよね? あれは?」


 カロラさんの態度はどうみても休憩所を探しているというより、誰かに追われてるような様子でした。

 私の指摘に、カロラさんはバツが悪そうな表情で目をそらします。


「それはですね。……緊急で自主休憩に入ったので、今先生が私を探し回ってると思いまして~」


 ここで私は大体状況を察しました。

 カロラさんは勉強が嫌になって、さぼるために匿ってくれそうな私の部屋に逃げてきた、と。


「ははあ、事情は分かりました――では、お帰りください」


「えぇ!? なんでですか~??」


 裏切られた!? という表情を浮かべるカロラさんですが、こちらは最初に厄介ごとに巻き込まれるのはお断りですと言っています。

 どう考えても厄介事です。厄介事というか正確に言うとさぼりに付き合わされそうになっている、ですが。


「うう、逃げると時に持ってきたお菓子を食べて休もうと思ったのに~……」


「では、そのお菓子を食べたらお帰りください。それ以上居るなら、ここに隠れてる事を告げ口しますからね」


 と、私が個人的譲歩を提案した所で廊下から大きな声が聞こえてきます。


「カロラーーーー!! てめぇ、どこに行きやがったぁー!!」


「聞こえましたか、アルディス様! あの恐ろしい声。あんな状態の方に告げ口するつもりですか!?」


「それは、貴方が授業から逃げたせいでは?」


「逃げたくもなりますよ!」


 私の当たり前の突っ込みにカロラさんがきっと睨みつけて声を荒げます。


「もう、オルカ様に直々に頼まれたからってあの、大魔女信者の魔法使い様ったら、そりゃあもう無駄に張り切るんだから。そのお陰で私にとってもとっても厳しい指導をしてくるんですよ!」


「……もしかして、カロラさんを指導しているのは、カール=ヒルシュ様なんですか?」


「そうです、魔法研究所所長のカール=ヒルシュ様です!」


 その言葉に、城の中で見たカール様の姿を思い出しました。

 深い緑色の髪と同じ色の切れ長の瞳。宮廷魔法使いの証である特殊な魔法で編まれたローブを纏い、口が中々に悪く、不愛想なため少々近寄りがたい雰囲気のある方。私の持つ簡単な印象はこんな感じでしょうか。

 そして、彼は大魔女オルカ様の信奉者としても有名な方でもあります。

 カール様ならオルカ様より直々の依頼を受けて全力で当たらないはずがありません。とはいえです。


「カール様が直接指導って、あの方かなり多忙だと思ったんですが」


 何と言いましても、魔法研究所のトップ。並みの忙しさではないはずです。

 私の疑問にカロラさんは渋い物で食べたように顔をしかめて答えてくれました。


「普通、私なんて侍女相手に魔法研究所の所長が直々に指導される訳ないって思いますよね。分かります。でも、あの人ったらオルカ様から頼まれたからって、他の仕事をぜ~んぶ放り出して勉強を教えに来たんです」


「え、仕事を放り出してまでですか?」


 まさか、自分の仕事を放棄してるとは予想外でした。

 彼に憧れて宮廷魔法使いを目指す人も多いですし、そんな方から直接指導してもらえるとか、一般魔法使いから見ればなんて羨ましい環境だろう。なんて、聞いた時は思ったのですが、所長が仕事放棄とか部下の人達はなんて大変な……。

 私が魔法研究所の職員の方々に同情している間もカロラさんのカール様への愚痴は止まりませんでした。


「本当にあの人きついんですよ~。こっちは勉強したくないのに俺がお前をどこに出しても恥ずかしくない魔法使いとしてたたきなおしてやるとか言ってくるんですよ。私は別に魔法になんて興味無いのに……――」


 さすがにそんなこと言ったら、あらゆる宮廷魔法使いを目指している人たちに怒られますよ。

 と、私が口にする前に――鍵がかかっていた扉が勢いよく開かれました。


「ここかーーーー!!」


「ぎゃーーーー!」


 扉を開けた人物とカロラさんの悲鳴が重なって、部屋の中に大きな不協和音が響き渡りました。


「てめぇ、カロラ。俺の講義をすっぽかすとはいい度胸じゃねぇか、この不良生徒!」


 怒りを滲ませた声と共に、一人の魔法使いが部屋の中に入ってきました。

 深い緑色の髪と同じ色の切れ長の瞳。その身には、宮廷魔法使いの証であるローブを纏っています。先ほど私が思い浮かべた通りの魔法研究所所長の姿がそこにありました。


「お、おはようございます。カール=ヒルシュ様……」


「おう、邪魔するぜ。アルディス=ラ=メリスルーン」


 突然のことに動揺しつつ、なんとか私は挨拶を絞り出します。対してカール様は軽く声を返すと、すぐ私の背中に隠れたカロラさんを睨みつけました。


「ご、ごめんなさい! あの……今日は調子が悪くてですねえ~」


「そんな奴が、教室からお菓子くすねてこんな離れたところまで来れる訳無ぇだろーが!」


 ちなみに、カロラさんが教室として利用していたのは魔法研究所の空き部屋だそうで、私が居る部屋は城の中にあります。

 敷地も離れてるので結構歩きますので、まず体調が悪い人が歩く距離では無いので、完全に嘘でした。


「あの、カール様。この部屋鍵をかけていたと思ったんですが……?」


「ああ、悪い。どうもこの部屋が騒がしい様子だったから、この魔法検知の魔法具でカロラが居るのを確認してから、この鍵解除の魔法具で開けさせてもらった」


 私の疑問に事もなげに魔法研究所所長が答えます。


「ずるい! 鍵開けなんて魔法はなんでもありなんですか。不法侵入じゃないですか~!?」


「お前が逃げ出さなきゃこんな魔法使わなかったんだよ!」


 カール様の声も表情もあきらかに怒りに満ちています。

 対して、カロラさんは私の後ろに隠れて表情が見えませんが、滅茶苦茶動揺しているのが分かります。後、それはそれとして魔法研究所所長相手に口が悪い。


「とにかく、たまった勉強を終わらせないと、大魔女オルカ様に申し訳が無いだろうが。とっとと帰るぞ! 不良生徒」


「嫌です~。頭使いたくありません~。休暇はちゃんとお休みしたいです~!」


 首を横に振って拒否する不良生徒ことカロラさんの首根っこを掴むと、カール様はそのままずるずる引きずって部屋を出ていきました。


「じゃあ、邪魔したな宮廷詩人」


「いえいえ。でも、できれば次いらっしゃる時は、部屋に入る前にノックくらいしていただければ助かります」


 そういって、私は二人を見送りました。廊下からまだ聞こえる喧噪を耳にしながらゆっくり部屋の扉を閉めた後、私は思わず深い息をついていました。

 朝からどっと疲れました。


 ふと、そこでカロラさんの言っていた言葉を思い出しました。

 彼女の言っていた情報提供とは一体何だったのでしょう?

 まあ、カール様がいる状況で聞けるものでもないでしょうし。

 後で、授業が終わったらお菓子でも持って聞きにいきましょう。

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