【01】一周目の終わり
〈シュウ視点〉
あぁ……最悪だ。
改めて、振り返ってみても。
やっぱりクソみたいな人生だった。
失敗した。
間違えた。
勘違いしていた。
俺の人生には、後悔しかない。
一体どこで……俺は。
間違いなく、成功が約束されていたはずの未来図を、踏み違えてしまったのだろうか。
やはり——
『——わかりました、兄さん』
一度たりとも、俺を疑うことをしなかった幼馴染を、死地に向かわせたときだろうか。
それとも——
『——もうおにぃのこと、信じらんねぇよ』
俺の決断で、命を救われたはずの幼馴染に、背を向けられたときだろうか。
あるいは——
『——にぃや、飽きた』
仲間だと思っていた幼馴染に、あっさりと、裏切られたときだろうか。
もしくは——
『——だってにぃにが、可哀想、だったから……』
最後まで一緒にいてくれた幼馴染の抱く感情が、親愛ではなく同情だと、理解してしまったときだろうか。
わからない。
失敗が多すぎて、わからない。
だけど……もう、どうでもいい。
「うわぁあああ!」「に、逃げろぉ!」「クソッ、冒険者はどこだよ!?」「おいっ、あっちにもモンスターがいやがるぞ!」「どけどけぇ!」「邪魔すんな!」「うぇえええんっ! おかあさん、どこぉおおおっ!」
西暦2020年。
日本全土を襲った連鎖型異界暴走は、もう、誰にも止められない。
おそらくこの大規模な魔力災害は、日本史はおろか、世界史にすら名を残す災禍となるだろう。
なにせ政府による発表から、発生までの時間が、短過ぎた。
そのうえ全国で同時多発したため、対応が間に合わなかった。
さらに、状況の不味さを察した冒険者が、次々と国外逃亡した。
そもそも日本という国自体が、ここ20年ほどの失策や失敗続きで、優秀な冒険者の育成や確保をし損じていた。
今回の悲劇は、偶然ではない。
幾重にも積み重なった、敗北の結末が。
回避不可能の、大災害となって。
極東の島国を襲ったのだ。
きっと今後数十年に渡って、今回の傷痕は、この国に悪影響を与え続けるだろう。
いや……もしかすると。
もう、この国は、終わりかもしれない。
株価は大暴落。
インフラも壊滅。
国力の底も露呈した。
例え生き残ったとしても、国民に、未来はない。
……。
…………。
………………。
まあ、どうでもいいか。
俺は自分の腹に手を当てようとして……
(……クソッ、動かねぇ)
身体が重い。
腕が上がらない。
冷たい。
全身から『熱』が抜けていく実感がある。
魔力技能で痛覚を軽減させているから、こうして思考を巡らせる余裕があるが、もう肉体の下半分が『潰れている』のだ。
手足の一本や二本ならともかく、体内の重要器官と大量の血液を失ってしまえば、致命傷であることに違いはない。
もうすぐ、俺は死ぬ。
こんな、クソみたいな戦場で。
臆病な仲間どもに、見捨てられて。
最高にクソったれな人生に、幕を降ろす。
あぁ……本当に、クソ過ぎて、笑えてくるな。
「……ふっ……ごぼっ……ぶっ」
チクショウ。
血泡が邪魔で、碌に笑うことすらできない。
いや……そもそもこれって、笑えているのか?
わからない。
考えてみれば、素直に笑うのなんて、いつぶりだろう。
思い出せない。
(アイツらが……いた頃は、普通に、笑っていたと思うんだけどなぁ……)
ジンヤ、アユム、ガエル、ハルカ……
自然と、脳裏に浮かんだ。
懐かしい幼馴染たちの姿に。
「……チッ」
緩んでいた頬が、強張りを取り戻した。
この期に及んで、情けない。
みっともない。
なんだよ。
あれだけ散々と、恨み辛みを重ねておいて、けっきょく俺は……今でも、未練タラタラだったんじゃねえか。
死、という。
絶対的な解放を、前にして。
薄っぺらな虚勢が、剥がれ落ちていく。
それが悔しくて……情けない。
(アイツら……そう、アイツらだよ。幼馴染たちさえいなければ、俺だって、ここまで無様に勘違いすることはなかったんだ!)
あくまで。
少し優れた『凡人』に過ぎない俺が。
本物の『天才』どもに囲まれて。
俺自身も、そちら側なのだと。
勘違いするなんて……
(……もし……人生を、やり直せたら……)
もはや何十回。
いや、何百回。
何千回。
もはや何度夢想したか、わからないが。
もしも本当に、人生を、やり直せるとしたら。
(今度は……ちゃんと、身の程にあった、ほどほどの人生を……送りてぇ、もん、だなぁ……)
そうすれば俺だって、きっと……
『……ギャッギャッギャッ!』
こんな、最低な終わり方を。
迎えることは、なかったはずだ。
「……」
霞んできた、視界のいっぱいに広がる、血生臭いモンスターの乱杭歯。
それが俺にとっての幕引き。
ああ、本当に……
「……くそっ……たれ、が……」
ごりゅっ。
ばきばき……ごきん。
こうして、俺のクソったれな人生は。
誰にも看取られることなく。
クソみたいに終わった。
………………
…………
……
↔︎
……
…………
………………
「……お? んおお?」
それから、一瞬のような。
あるいは、永遠のような。
曖昧な感覚が、ややあって。
「よしよし、ちゃんと『戻ってきた』ようなのだ!」
幼い声音に、反応して。
ゆっくりと、重い瞼を開くと……
(……ん? なんだ、ここ……?)
白い空間。
上下左右に、何もない。
なのに何故か、手応えのある不思議な虚空に、俺は横たわっていた。
「というわけで、どうだったのだ、カナタ・シュウくん!? 一周目はいい『人生』を、送れたのだぁ!?」
眼前には、姿が霞んで見えない。
しかし声音に喜色を滲ませた、圧倒的な気配がある。
いっそ吐き気を催すほどの、強烈な重圧。
この感覚には、覚えがあった。
(たしか、コイツは……)
上位存在。
1999年に発生した大異界蝕以降。
地球に湧き始めた異界とともに、存在が確認されるようになった、地球人《俺たち》よりも遥か高位の位相からこちらを面白半分で観測したり、干渉したりしてくる、クソみたいな愉快犯ども。
そして、約20年ほど前に。
俺たちが遭遇した、それの名前は……
「……リスキー」
「うんうん、そうなのだっ♡ ちゃんと可愛いリスキーちゃんのことを覚えていて、えらいえらいなのだっ! さすがリスキーちゃん、どうやら〈権能〉は、上手く機能しているようなのだ♡ さっすがリスキーちゃんなのだ〜っ♡」
「……」
「いや、ちょっぴり〈権能〉の容量が大きかったから、下位存在が耐えられるか、微妙だったけど、ちゃんと『前回』の記憶が『引き継がれている』ようで、良かった良かったなのだっ♡」
「……そうかよ」
やっぱり上位存在は、クソどもだ。
たとえどんなに言葉で着飾ったところで、本質的には下位存在のことを、都合のいい玩具か、良くて愛玩動物程度にしか、認識していない。
だとしても……
(……そうか。俺は助かった……いや、コイツの言葉を借りるなら、あそこから『戻ってきた』のか?)
真っ白な空間。
不愉快な上位存在。
そして周囲を見渡せば……
「「「「 …… 」」」」
気を失って、倒れ伏す。
まだ『幼い』、四人の幼馴染たち。
「それでは改めて、お帰りなさいなのだ、シュウくん! そしてようこそ、二周目の人生へっ♡」
祝福の再会を、祝うように。
悪夢の再開を、悦ぶように。
上位存在が……ニヤリと、嗤った。
〈作者の呟き〉
というわけで、新作です。
ダークな物語の入りですが、作者はラブコメ好き好き侍なので、すぐに化けの皮が剥がれて、癖が滲んでしまうかもしれません。
よろしくお願いいたします。
m(_ _)m




