プロローグ
硝子が砕け散ったような甲高い音でカグヤは目を覚ました。建て付けの悪い扉の向こう、玄関から母のか細い声が聞こえてきた。カグヤは不吉な予感を察知しながら、恐る恐る扉の取っ手に指を掛ける。
扉を開いた先には、玄関から差し込む朝の後光を受けて立つ騎士と、その騎士に泣き縋って地面にへたりと座り込むような母の姿があった。騎士の表情は逆光で上手く視認することはできなかったが、とても喜ばしいものではないことは確かだった。しかし、カグヤに目をやる際にはその顔つき、特に下がりきった口角を取り繕っていた。
「君がカグヤ・フォールド。間違いないか?」
カグヤは言葉なくして、ただ頷いた。騎士が次に発する言葉が何であるか、とうに検討はついていた。だが覚悟はできていない。何かの間違いであってくれ、と今は騎士の二言目に耳を傾けることに全神経を注いでいた。
短い沈黙だっただろう。しかし、カグヤにとってはその静寂はうんと長く感じられた。彼の目には、騎士も相当に疲弊しているように映った。騎士は圧のある巨躯に似つかわしくない程に視線を泳がせていたが、重々しく唇を噛み締めた後、再び口を開いた。
「カグヤ、おめでとう。君は…勇者に選ばれた。」
一見誇らしいような言伝にも聞こえるが、カグヤにとっては決してそうではなかった。その現実を受け入れることができず、カグヤはよろけた姿勢で一歩後ろへと退いた。想定していた答えが、端的な言葉として耳にするとどれほど絶望的なものとなるのか。平穏な生活、理想の将来、その均衡が綻び始め崩れる音が密かに迫り来ていた。




