出会いの日 4-Y
地の文でローストチキンとか書いてますが、正確にはそのような名前の料理ではありません。パンもチキンも、地球のそれらによく似ているもの、というだけです。
そもそも本来はユキの思考も発言も異世界の言語です。アルトも基本的にはそうです。従いまして全てのお話のほとんどの文、単語は、私が近い意味の日本語、外来語、よく使われるファンタジー用語に訳したもの、もしくは私がそれらしい単語を造語したものとなります。
まあ普通に読む分にはどうでもいいと思いますので、気にしないでください。
不思議な魔道具で――あいつがこれを自作したというのは驚きだ――髪を乾かしてから戻ると、食卓には料理が2人分用意されている。まさか、いやこいつなら有り得るのか……?
「まさかとは思うが…… わ、私が、これを?」
「あ、ご、ごめん! これ嫌だった?」
「いや、嫌ではない! そうではなくて…… 奴隷が主人と同卓で同じものを…… しかもこんな高級な……」
思わず声が上ずってしまう。ほ、本当に……? 彼は私に床で食事させる辱めを受けさせないばかりか、あまつさえ自分と同卓して同じものを食えという。どんなに裕福な男でもこのような扱いをしようという者はいなかった。
私の中で、この男に心を許してはいけないという声と、この子供は本当に純真無垢な少年なのだと信じたい気持ちがせめぎ合う。ここで言いなりに座ってしまったら、あいつを信用したも同然だ…… けれどあの料理……! 脚付きのローストチキンからは湯気が上がり、脂のしたたるソースはあまりにも魅惑的っ……! ただでさえお腹は空いているし、あんなに美味しそうな料理は久しく食べていない。いや待て、こんな美味しそうな料理、どこから……?
「やはり、使用人がいるではないか」
しかしアルトはそれを否定し、自分が作って冷凍しておいたなどと言う。そんなことが本当に……? あんな魔道具が作れるなら魔術で冷凍はできるかもしれないが、料理の方もこの歳で一級品だと……
私はアルトに促され椅子に座ってしまった。アルトは素手でチキンを取って豪快に齧る。お、美味しそうだ…… 大人しい子なのに食べっぷりは良い。育ちが良さそうなのにこんな…… いや、確かにこの料理はそう食べるのが一番美味しいだろう。彼はそれを分かっているに違いない。私は生唾をごくりと飲み込む。
「ユキ…… お腹空いてなかった?」「いや! そういうことではないのだが……」
私がいまだに言いなりになって食べていいものだろうかと、それはこの男の善意を信用するということではないかと迷っていると、アルトに要らぬ心配をさせてしまったようだ。
「ほんとに大丈夫だから…… あ、じゃあ僕が一口食べようか!?」
主人と同卓するというおかしな提案を受け入れた時点で私はこの男にある程度従っているのだ。それにこの殺人的な魅惑を放つ据え膳を食わぬという選択肢はもはや不可能に近い。
「いや、大丈夫だ」
私はその禁断の料理を口にする。その瞬間、私の口内には至福が飛び交った!
一噛みでほぐれる柔らかさ、噴き出す肉汁、未知の味わいのソース……! こんなに美味しいチキンは、もしかしたら生まれて初めてかもしれない……!
「ど、どうかな?」アルトが感想を求めてくる。
私は感動を隠し切れない声で「う、美味いっ……!」「良かった!」
そこからはもう、獣の宴のごとく私たちは貪り食らった。マナーなどこの狂騒には存在しない。食欲が求めるまま走り抜ける!
骨までしゃぶりつくし我に返ると、アルトもこちらを見ていた。二人ともひどい有様だ。思わず笑ってしまった。油断するなと主張し続ける私の中の猜疑心は、少しだけ勢力を衰えさせていた。
手を洗うと、アルトは家の中を案内してくれると言う。




