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救世主と精霊王  作者: 小林あきら
第二章 学校
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ファンサ



 「アルー!!」


 中庭ですでに待っていたアルにブンブン手を振れば、気付いたアルが顔を上げて私の後ろを見た後、パチパチと瞬きをする。


「えーっと、もしかして姉さんのクラスの?」


「は、はい!チセちゃんがお昼に誘ってくれて……。ヒイロと言います。ご一緒しても良いですか?」

「俺は完全に物見遊山。ホラスキーだ、ホリーでいいぜ。よろしくな」


 肩を窄めてペコペコと頭を下げるヒイロと、ズボンのポケットに手を入れてニコニコと笑っているホリー。二人に、アルも笑顔で挨拶を返す。


「アルです。姉さんがお世話になります」

「そんな馬鹿丁寧にしなくていいって。身分とかも気にしなくていいし」


 ホリーがハハハと笑いながら、ベンチに腰掛ける。

 そっか、全然気にしてなかったけど、ホリーって貴族なんだよな。あ、もしかしてさっきからヒイロちゃんが居心地悪そうにしてるのって、人見知りもあるだろうけど、ホリー(貴族)がいるから……?


「って言うか、ちょい待ち。私、ヒイロちゃんしか誘ってないぞ」

「寂しい事言うなよ。別にいいだろ、一人増えるくらい」


 私はいいけど、ヒイロちゃんがなぁ。なるべくヒイロちゃんとホラスキーは離れた位置に座らせよう。

 横並びに二つ並んでいるベンチ。アルと一瞬で目配せし合い、ホリーが座ったベンチにアルが、もう一つに私とヒイロちゃんが座る。端から順番に、私・ヒイロちゃん、アル・ホリーという順番だ。


「あー、お腹空いた。アルは、お昼ご飯どうしたの?」

「ギルドの人達が色々くれたんだ」


 言いながら、鞄から大量のパンやら果物やらを取り出すアル。さすが、ギルドのアイドル。


「姉さんはお弁当?」

「うん。コックさん達が作ってくれた。たくさんあるから、一緒に食べよう?」


 マガフィアの家を出る時に渡された重箱のお弁当を開く。色とりどりのおかずや野菜が敷き詰められており、とても美味しそうだ。


「ヒイロちゃんは、パン?」

「そう、朝焼いて来たの」

「すごい!美味しそう!」

「ふふ、ありがとう」


 恥ずかしそうにお礼を言うヒイロちゃんの笑顔、プライスレス。


「それじゃあ食べようか、いただき――」

「おいおい、俺にも聞いてくれよ」

「ホリーは学食で売ってた弁当でしょ。知ってるよ、ココに来る前に付き合わされたんだから」


 ホリーがひょいっと持ち上げてみせた弁当の中身は、学食販売とは思えないほど豪華である。高級食材のオンパレードで、そのうえ量もボリューミー。箱に収まりきらないエビの頭がこんにちはと飛び出している始末だ。なんなの、高級おせちなの?


「それじゃあ、いただきます」

「いただきます」


 パンと手を合わせた私とアルを見て、ヒイロとホリーが不思議そうな顔をする。


「イタダキマス?」

「なんだそれ、お祈りか?」

「お祈り、みたいなもんかな。食材や料理を作ってくれた人に感謝を伝える言葉」

「へー、初めて聞いたな。じゃあ、俺も。いただきます」

「いただきます」


 二人も見様見真似で手を合わせて、ついでお弁当にペコリとお辞儀するのをにこやかに見守る。なんか、日本文化を真似る外国人を見ている気分で、ほんわかする。


「――で、アルは1組だっけ?どう?上手くやっていけそう?」

「うん、まあ。だいたい想像してた通りの雰囲気だったから、何とかなりそうかな」

「よっ、平民初の主席合格者。学校側も、さすがに主席を取られたらビリクラスに落とすことはできなかったんだなぁ」

「あ、そっか。アルは平民だけど、こっちのクラスじゃないのはそう言う事だったのか」

「でも、1組と言えば王侯貴族の中でも特に階級意識の強い奴等が居座ってるクラスだろ?僻みもすごいだろうに、お前いい度胸してんな」

「か、考えるだけで胃が痛くなるクラスですね……」

「アル、いじめられたりしたらすぐに言うんだよ?お姉ちゃんが殴り込みに行ってあげるから!」

「そんなことしたら、チセが退学になんぜ?」


 弁当を頬張りながら肩を竦めるホリー。アルも苦笑しながら首を横に振る。


「心配しなくても僕は大丈夫だよ。それより、姉さんこそ少しでも成績上げないとなんだから、自分のことに集中してよ」

「うっ、返す言葉もございません……」

「だ、大丈夫ですよ!特別入試で合格したのなら、一般入試で入って来た子より、成績は上なはずですから。8組になったのも、平民だからってだけですし……」

「そうだなぁ。チセもヒイロも、大きな問題を起こさない限りは退学にはならないだろ。他に目立つ問題児はたくさんいるし。退学になるのは一学年に毎年一人だけだしな」


 早々に弁当を食べ終えたホリーが、頭の後ろで腕を組みながら飄々と言う。って、あの量のお弁当をもう食べたの!?驚くべき早食い……。


「あれ、そう言えばホリーって何でビリクラスになったんだっけ?」


 ふと顔を上げてホリーを見る。

 そうだ。思い返せば、ホリーだけ明確な説明がなかった。


「俺は、そう言う家系だからな」

「家系?」

「そ。あ、俺アルに聞きたいことあんだ」


 背もたれから勢いを付けて身を起こしたホリーが、隣りで黙々と弁当を食べるアルの顔を覗き込む。


「アルとチセは血が繋がってないんだろ?アルってチセと会う前どこにいたん?」


 一瞬、空気が凍った。


 恐る恐る横を見遣れば、持っていたフォークをゆっくりと下ろし、俯くアルの姿が。


「っ、ちょっとホリー!初対面……しかも会って数分で聞く内容じゃないでしょそれ!」

「えー。だって気になったんだもんっ?」

「ぶりっこやめい!可愛くないわ!あんた、さては私と同じ非常識人だな!?空気読めないってよく言われない!?」

「あはは、俺が空気読まない発言すんのはわざとだよ。と言うかチセ、常識ないって自覚あったんだな」


 カラカラと悪びれなく笑ったホリーは、よっこいせと立ち上がると「先戻ってるわ~」と言って、さっさと去って行ってしまった。


「あ、アル……。その、気にしなくて良いからね?」


 ホリーがまさかあんなにデリカシーのない奴だったとは!憤慨する私の横で、俯いていたアルが顔を上げる。そして、けろっとした表情で弁当を食べ始めた。


「突っ込まれるの面倒だったから、演技しただけだよ。学校行くって決めた時点で、出自について探られることは予想してたし」

「え、演技?」


 キョトンと見つめれば、あっさり頷いたアルが私の手元を覗き込む。


「ご飯食べないの?」

「え、あ……。食べる?」

「ほしい」


 口をあーんと開けるアルに、かっと目を見開いた私は、すぐさま満面の笑みで天使に餌付けする。

 あれ、私何をあんなに怒っていたんだっけ~?あはは、まあいっか!ああ、私の天使が今日も可愛い……。



 ――事の一部始終を、固唾を呑んで見守っていたヒイロは、パンを口いっぱいに詰めこむと、もごもごと口を動かしポツリと呟く。


「あ、アル君って結構、腹黒……?」






 お昼休みの後、私達はオリエンテーションに参加するため、入学式が行われた講堂に再び集合していた。席順は入学式とは違くてクラスごとだったから、アルとは離れ離れだ。

 周りからの刺さるような視線とひそひそ声に囲まれながら、私達8組は一番後ろの端に固まって座る。


「なんだか、見られてますよね。私達……」


 相変わらず居心地の悪そうなヒイロちゃん。ホリーが頷きながらその隣に腰かける。


「ビリクラスにどんな奴等が居んのか、気になるんだろ」

「噂の的ってやつ?」

「悪い方の意味でな」


 周りを見回せば、何人かの生徒と露骨に目が合う。せっかくだしと、にっこり微笑んで見せれば、びっくりしたように目を見開いて慌てたように視線を反らされた。


「……何やってんだお前」

「ファンサだよファンサ。ほら、狼君も。手でも振ってあげなよ」


 気持ち悪いものを見たと言った表情でこちらを睨むウルフライクを、ほらほら~と促すと、チッと舌打ちし、ギロリと周りを睨め付ける。

 顔色を変え慌てて視線を反らす生徒たちに、ハッと鼻で嗤うウルフライク。その横に座るアリスがやれやれと首を振ったところで、檀上が明るくなり、オリエンテーションが始まった。




 「新入生の皆さん、改めてご入学おめでとうございます。最初に校長よりご挨拶があります」という司会の言葉から始まり、サンタクロースのような髭を生やした小さいオジサン――もとい校長のありがたくも長いお話の後、先生紹介が始まった。


「こんにちは。1組を担当します、ゲルナルド・フォークスです。担当教科は魔法学です。よろしく」


 1組……アルのクラスの担任か。顔だけ見れば眼鏡をかけた温和そうな男性だが、後ろを刈り上げ右側の髪だけを長く伸ばして編み込むという、なかなかワイルドな髪型をしている。


 クラスは全部で8組あり、オルゴの番になった瞬間、案の定、場内がざわつく。うんうん分かるよ、その気持ち。


「8組の担任、オルゴだ。教科は剣術。問題児共に関わらず、生意気な奴は叩き潰す。精々楽しめや、ひよっこ共」


 ニヤリと意味深な笑みを浮かべるオルゴに、ざわめきは大きくなる。きっと皆、オルゴが担任じゃなくて良かったって思ってんだろうな~。




「続きまして、教科選択の説明を――」


 時間割は前もって決められているわけではなく、自分で自由に組める選択制。大学のようなシステムだ。一年生の内はほぼ必須科目で埋まるから、最初はそこまで自由に組めるわけではないが、二年生からはより専門的な学問を学んでいくため、選択の幅も広がるらしい。ふむふむ。


 その後も、風紀指導の先生から学校生活の諸注意やら、これからのスケジュールやらを軽く聞いて、最後に寮に関しての説明を聞き、その場は解散となった。この後は各クラスで帰りのHR(ホームルーム)をして本日のスケジュールは終わりだ。


 講堂を出て教室に戻る途中、ジロジロと周りに見られていることに気付く。講堂の中で感じたのと同じ、ビリクラスの面々に向けられる、好奇と軽蔑と嘲弄の混じった視線。こうも毎回注目されては、少々鬱陶しい。


 どうしたもんかな。手始めに、たまたま目が合った子にパチンとウインクしてみせると、ガチンと固まってしまった。


「なんだ、ところかまわず誘惑か?」

「ん?あ、ホリーか。だからファンサだって」

「ファンサ?って何?」

「ファンに応えること!サインしたりとか握手したりとか」

「明らかに遠巻きに見られているのに、ファンと捉えるとは……。チセってポジティブだな」

「いやあ、それほどでも~!」


「嫌味だろ、アホ」


 後ろを歩いていたウルフライクがボソリと呟く。


「……まあ、どうせ見られてんなら、サービス精神旺盛にファンサでもしてあげようかなと。ほらほら、ホリーもヒイロちゃんも!手ぇ振ってみ!」

「え、え!?」

「ま、面白そうだしいっか。いえーい」


「……一緒の集団と思われたくねえ」

「同意。珍しく気が合うわね」

「目立つのは嫌なのです」

「……」



 ん、あれ?他のクラスメイト達は何処(いずこ)へ?






 ――帰りのHRも終わり解散となったため、私はこれから過ごす事になる寮の自室へ向かっていた。

 女子寮の4階。階段を上り切って、右に曲がった突き当りの部屋。一人部屋って聞いてるけど、どんな感じの部屋なんだろ……。


「オープン!……お、おぉおお!」


 思ったより、広いし綺麗!


 柔らかい色合いで揃えられた家具に、セミダブルはあるだろうベッド。家具には所々、お洒落な金糸の刺繍や、蔓草模様があしらえてあったりと、お洒落な雰囲気で温かみのある部屋だ。日当たりも良いし、窓外には人ひとり立てるくらいの小さなバルコニーも付いている。乙女心をくすぐられる造りである。


「こっちがお風呂で、あ、ここがトイレか。うーんっと、荷物ってこれかな?」


 ベッドの傍に置いてあったトランクを見つけて開けてみる。生活に必要なものは先に寮に送ってあると、執事のジーマイルさんから聞いてはいたが、なるほど。確かに着替えやら文房具やら、よく分からない草やら瓶やらまで入っている。

 んん?何この木彫りの人形。絶妙に不安感を煽る見た目だな……。え、何これ鞭が入ってるんだけど。一体どこで使うんだ……?


「ま、後でいっか」


 ベッドにボスンと腰掛けて、空中に向かって声をかける。


「ルッシー、フェレット、出てきていいよ」


 途端、グウィンと空間が歪み、ひょこッと顔を出したルシナンテと、転げ落ちるようにベッドに飛び込んだフェレット。


『うう、酔った……。うぷっ……』

≪ほう、此処がこれから過ごす部屋か≫


 異界から出て来たルシナンテが、興味津々と言った様子で鼻を鳴らしながらグルリと周りを見回す。

 ベッドの上で伸びているフェレットの背を撫でてやりながら、お家探検をしているルシナンテを見守る。うん、やっぱり部屋に馬一匹いると圧迫感すごいな……。


『気持ち悪ぃ……。お前が学校通っている間、俺はずっとこの酔いに堪えなきゃいけないのか……?』

「明日、使い魔の常時召喚申請提出してくるから。それが受理されたらまた一緒に行動できるよ。それまでの辛抱だから」

『ちっ……』


 舌打ちですら元気がない。相当参っているようで、ベッドに横たわりそれっきり動かなくなってしまったフェレット。その真っ白な毛並みを撫で回しながら、私は口元に手をやる。


「えー、おっほん……」

『……』

「……ゴホンゴホン」

『…………』

「げほごほっ!うぇっほん!!」


『………………………………耳だけ貸してやる』

「あざっす!!」


 パンパンと手を叩き、風呂場を見学していたルシナンテを呼び戻すと、私はベッドに胡坐をかく。


「えー、それではこれより。皆さんお待ちかね、定例作戦会議を始めます!」



ちなみにオリエンテーション中、ネットシーは教室で一人、ぐっすり眠りこけていました。

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