第九話・雨上がりの山上
キャラの性格、口調が変わりすぎかもしれないね。
その頃、剛は…
剛(何日分かの体力、全部使ったぜ…
一番軽いギヤじゃないと漕げねーや。)
剛(孝、もう見えない所まで行っちまったなー。)
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泥を突破した孝と寛太郎は、緩やかな坂のセクションに突入。
孝(坂が緩くなってきた!)
寛太郎(少しは楽になるな…!)
豪雨、タイヤが泥水を掻き揚げ、背中に飛び散り
水の影響でチェーンオイルが流れ落ち、コンポーネントに影響が出る。
おまけに、上りのセクションは大柄な二人にとって、相性が悪い。
お互い不利な条件の中、走り続ける。
寛太郎(ゴールは目前だ!)
孝(ペースが縮まらねえ…!)
ゴール直前の左コーナー、イン側に泥の山ができていたので
二人はアウト側に避けた。
パァーーー!
その時、対向して来た自動車のクラクションが鳴り響いた。
寛太郎『っそだろ!?』
孝『やべっ!』
キキーッ!
そのすぐ後に大きなスキール音が鳴り響き、自動車が停止した。
寛太郎と孝は何とか無事に回避する事ができ、路肩で自転車を下りた。
対向車のドライバー『おい!どこ見て走ってるんだ!』
ドライバーの男は怒鳴り声を上げると、すぐに行ってしまった。
孝『ふー、ヒヤっとしたぜ…。』
寛太郎『この峠は路肩整備が雑で、大雨になるとぐちゃぐちゃになる。
そこみたいに、一車線丸ごと泥で塞がってるなんてザラだ。
さっきのあの場所なんか、一車線どころか全部塞がってたしな。』
孝『何より、事故んなくてよかったぜ…。』
寛太郎『オレもまだまだって事か…
一瞬で決着を付けられない奴は本当に久しぶりだ…。』
カーーーーー…
二人の横を黒いロードバイクが通り過ぎて行った。
寛太郎『刻斗…?決着が決まったらしいな。
オレとお前のバトル、引き分けって事にしようぜ!』
孝『次こそは本当にリベンジしてやる!』
寛太郎は刻斗を追いかけに行った。
孝(榎寛太郎…上りであんなに速度を維持できるとはな…
重たいマシン、大柄な体…オレよりもさらに重たい筈だ。)
剛『たーかしーーー!』
孝『剛!』
剛『はぁ、はぁ…あー疲れた!』
孝『お前その顔、鏡か何かで見てみろよ。』
剛『えー…?』
孝『泥だらけだぜ。』
剛『くそー、あいつの自転車が巻き上げる泥が顔に…!
そ、そうだ!あいつは!?寛太郎とのバトルは!?』
孝『引き分けだよ。
事故りかけて、両者共停車しちまったからな。』
剛『大丈夫だったのか?』
孝『見ての通り、お互い無事だ。』
剛『それならよかった…
そういえば、さっき刻斗と寛太郎の二人とすれ違ったぞ。』
孝『あぁ、バトルが終わったから帰って行ったよ。
って、そう言えば翔太は!?バトルの勝敗は…!』
剛『行こうぜ…雨が止んできたみたいだ。』
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少し前、翔太と刻斗のバトルの決着が付き、ゴール地点の頂上にて…
刻斗『途中の泥は想定外だったけど、やっぱりボクの勝ちだね。
この近辺は、ボク達ブラッキーの庭も同然だし。』
翔太『くそっ!』
刻斗『キミのマシンは…BlueMagnumか。
ボクと同じ、MAXREV車だ。
だけど、そのマシンは子供用のロードバイクだろう?
キミの体が小柄なのは分かるけど、
そんなオモチャじゃ、本格的な走りはできないよ。』
翔太『オモチャじゃねーよ!
これは、ボクの…れっきとしたロードバイクだ!』
刻斗『確かに、子供用ながら生意気にフルカーボンだね。
だけど、そのカーボンは低級のカーボンだ。
MAXREVは、ロークラスとハイクラスの品質の差が著しいからね。』
翔太『馬鹿にするなよ!誰がどんなマシンに乗ろうと勝手だろ!?』
刻斗『馬鹿にしてるつもりは無いよ。
ただ、このままだと君が可哀相だから
最善の道を教えてあげているだけじゃないか。』
翔太『何をっ!』
刻斗『ふーん、中々のカスタムをしているね。
そのマシンに戦力が無いとは言わないけど…
どうせカスタムするんなら、いいマシンをカスタムした方がいい。
ボクのBLACKLINEの様なマシンをね!』
刻斗はそう言うと、来た道を帰って行った。
翔太『…くうぅ!反吐が出る!』
刻斗(ボクの獲物ですら無いけど…
BlueMagnumであの走りをするなんてね。)
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●浅羽峠・頂上●
翔太(雨が止んできたな…)
孝『おーい!翔太ー!』
剛『速い、ちょい、速いって孝!』
翔太『孝…』
孝『リベンジできなかったのはオレだって同じさ。』
翔太『あいつは…刻斗は…ボクのマシンを馬鹿にしたんだ!』
孝『でもよ、刻斗が乗ってたのはMAXLEVの
最高クラスの…ボンボンしか乗れねえ様なマシンじゃんか。
あんな奴にしちゃ…オレ達の自転車なんか、しょぼいんじゃねぇか?』
翔太『そういう意味じゃないよ…。
あいつはボクの自転車をはっきり否定した!子供用の自転車だって!』
孝『でも、BlueMagnumは子供用ロードなのは事実だろ!』
剛『孝…翔太は、その自転車を幼い頃から大事にしてるじゃん。』
孝『あ、あぁ。』
剛『正直、性能とかそんな事よりも思い出なんじゃないかな。』
翔太『剛…!』
剛『手に入れて、乗って、感動して…
嬉しくて嬉しくて、毎日、一日中乗り回してさ。
その後のクラスの大会で優勝したのも、翔太とその自転車じゃないか!』
翔太『あぁ。小学校の頃から今まで、これ一筋でやってきた。
雨の日も風の日も、一日たりとも乗らない日なんて無かった。
確かに5万もあれば買える、ロークラスなマシンだけど
それでも、ボクはこのマシンが大好きなんだ!』
孝『お前のマシンへの愛情には感服するぜ。
小遣いとか全部、そのマシン一台に使ってるんだろ?』
翔太『もう15万位は使ったかな…。』
剛『同じマシンが3台買えるじゃん!』
孝『ひえー、よくやるぜ。』
翔太『孝だって、その自転車に思い入れあるんだろ?』
孝『お前には敵わないよ。使いやすいから気に入ってるけど
特に思い出とか無いしな…まぁこれから作るよ、思い出は。』
翔太『剛はまだ買ったばかりだよな。納車して一か月ぐらいだっけ?』
剛『それ位になるかな。まだ特に思い出は無いかな。』
翔太『剛ならいい思い出が出来るよ!』
剛『サンキュー!最高の思い出を作るよ!』
孝『あ、雨が止んでる。』
翔太『もうそろそろ暗くなるね。
こんな所で日が沈んだら面倒だから、早く帰ろうぜ。』
剛・孝『おう!』
三人は浅羽峠を下り始めた。
●浅羽峠・麓●
剛『はー、すっかり暗くなっちまったー!』
孝『ライト点けようぜ。』
●宝野公園●
翔太『副リーダー、いるかな?』
孝『流石に、あの雨の中、こんな時間まで残ってないだろ…。』
剛『一通り回ってみようぜ!』
チャチャチャチャチャチャガッ!
ガガガガカチッ…
翔太『この走行音は!』
孝『野原先輩!』
市雄『おー!ありがとなー!』
孝『クランクセットと…お釣りの6万です!』
市雄『済まないな、助かる!
これはお駄賃だ、受け取ってくれ!』
翔太『3万も…いいんですか!?』
市雄『三人で分け合って一万だ!本当に助かった!』
剛『いいんですか!?ありがとうございます!』
孝『ヒャッハーーーーーー!オイルぶしゃあああぁぁぁ!』
翔太『それにしても、このタイヤの跡…ほとんど野原先輩の…?』
市雄『オレ以外のメンバーは雨が降り出してすぐに帰ったからな。
泥濘にできてるタイヤの跡は全部俺のだ。』
孝『すげー!何周したんだ!?』
剛『先輩、泥だらけですよ!』
市雄『お前等もな!』
剛・孝・翔太『うわ!やっべ!』
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●長谷川食品工業所前●
寛太郎『引き分けってのは惜しかったぜ…!』
刻斗『キミが勝てないなんて珍しいね。
竹田孝…並みのMTB使いじゃないらしい。
まぁ、それはこの前の交流戦のデータで分かるけどね。
そんな事より、子供用の低級ロードでボクと張り合った
花山翔太…パンチャーとしては優秀な脚質を持っているのに
乗り手のよさをあのマシンが全て台無しにしている事なんだけど。』
寛太郎『勿体無ぇなぁ。』
刻斗『彼がいいマシンを使えば、とんでもないローディーになるよ。
まぁ、パンチャーである時点で、スプリンターのボクには勝てないけどね。』
寛太郎『それもそうだな。』
刻斗『そしてチャリドリ使い…名前は剛だったかな。
彼はカミカゼの正式なメンバーじゃない上に
初心者だからデータが少ない。』
寛太郎『第二の桃地善太になりそうじゃねえか?』
刻斗『剛がチャリドリしている所を実際に見た訳じゃないから分からないな。
まぁ、面白いサイクリストに育ちそうだよ。』
寛太郎『カミカゼ…チームの名前の由来にもなった通り
カミカゼ走法の健吾が手強いだろうな。』
刻斗『カミカゼ…やっぱり油断できない存在だね。』
ブラッキーの二人はその場を後にした。
誰もいなくなった薄暗い工業所前に、僅かに漏れる騒音が鳴り響いている。
☆マシン図鑑☆
TAKAMATSU・D-METAL
暴走族の様な禍々しいデザインのMTB。フルサス。
本来のマウンテンバイクの趣向とは違う、完全バトル専用のマシン。
耐久性を上げるべく、惜しみ無い補強を重ねた結果
重量が大きくなり、その重さはルック車以上。
その為に人気が無く、すぐ廃盤となってしまったマシンだが
ダウンヒルやバトルでの駆け引きが上手な者には強力な武器となる。
もちろん、乗りこなすには強力な脚力が必要である。
新車価格は122500円。
搭乗者・榎寛太郎
カラー・ブラックパール
寛太郎仕様…その耐久性を生かしたダウンヒル仕様。
各部をさらに強化し、サスペンションに至っては
外国から取り寄せる程、希少な物を使っている。
改造費用は、なんと30万円以上である。
※自転車、およびメーカーは全て架空の物です。