第一部 第一章(前編)
第一部 第一章(前編)
西暦23××年
「レキ!いい加減に起きろよ!!」
寮の隣部屋アキト・フジタカは、成績優秀(学年主席)の学生で、色素の薄い髪を少し長めにそろえ、眉目秀麗で皆に慕われている。だが見た目とは違い結構大雑把な性格が本性だが・・まぁ根は優しいと・・思う。
「うぁ?」
「うぁじゃねぇ!!」
レキは半ば無理やりにベットから引きずり落とされ、打った頭を擦りながら起き上がる。
「ッ痛~」
「ったく!今日が何の日か解ってるか?」
俺はまだ覚醒しきってない頭を何とか働かせ、今日が年に3回ある式典の日だということを思いだす。
「もっと優しく起こしてくれよ・・」
少し痛む頭を思いながら、バタバタと支度を整え、全速力で廊下を走る。
「へぇー毎日毎日起こして上げている俺にそんな事言うんだ~」
表情は笑ってるのに、悪寒を感じて俺は無かったことのように走る。
「嘘だって・・・いつもご苦労様です!」
ここ【ガーディアル】は、教育機関と職場など生活一般が一緒に行われる小さな都市の様なもの。小さいと言っても、子供から大人まで4千人の人間が住んでいる。
特にココは神への信仰が厚く、教育を受けている俺達生徒が中心となって式典を行うこととなっている。
ここ以外にも多地方でガーディアルに属す施設は数多く点在する。
ガーディアルを統括しているのは、戦後に作られた新政府で二度とこの様な戦争を起こさないために、子供達に幼い時から教育する事もカリキュラムに取り込まれているらしい。真意の事は、一般の人が知る所では無いのだが・・・。
俺達は一応静かに大聖堂に入るが、ガーディアルでもっとも古い建物の大聖堂の扉はかすかな嫌な音をさせ・・・目ざとい教師達にもちろん睨まれるが、無視をして席につく。
「遅いぞー」
ミツキ・S・セイジ(通称:ミツキ)は、とにかくスモールサイズで目が大きく、フワフワのショートの緑の髪を持ち一見弱そうな感じだが結構気が強かったりする・・。
「あ~ダルッ折角の休日だって言うのにな」
「ほんとほんと!」
「これからどうする?久々にゲーセンでも行く?」
「そうだな、どうせ帰っても暇だしな」
「レキも行くだろ?」
3人は振り返り1番後ろにいた俺に声をかけた。
『連絡します。使徒学科レキ・D・キサラ、至急理事長室まで来なさい』
「何かしたのか?」
ギルは何かおもしろい情報を仕入れようと思ったのか、楽しそうに聞い<てくがそれをいつものように軽く受け流す。
「まぁ行って来るよ」
「お、おう」
至急と言われながらも、ゆっくり歩いて行く俺を見ながら他のミツキが呟く。
「レキって時折、何考えてるんかわかんないよな・・」
ガーディアルの生徒のほとんどは、小さい頃からガーディアルに住み年齢が達すると学生に入学する。そのため自分のように他のガーディアルから移って来たのでも無く、外から来た者は珍しい。
それに勉強・運動などの成績が特別飛び出ているわけでは無いのだが、人目につく人物なのだ、まぁ本人は周りの目なんて気にしてないのだが。
「そんな事より早く遊びに行こうよ」
「そーだな」
「使途科レキ・D・キサラ来ました。失礼します」
入ると薄暗い大部屋のバックには巨大な水槽があり、様々な魚が泳ぐ。その前には数人が腰掛けていたが、逆光のせいで顔は見えない。
「お呼びいただいたようですが、何かご用でしょうか?」
暫く間を置く様にして、一人が言った。
「今日はお前に進級の話だ、どうだ?そろそろ決意したか?」
前々から上官達に、研究所やガーディアル専属の養成機関に入れと言われていた。
「お前にとっても悪い話では無いと思うが?」
「お言葉ですが、私は今の生活・教育に満足しています。それに私は特別な成績でもありませんし、進級する事はここの法で反する事でしょう?スイマセンがこれで失礼させていただきます」
「きっ君!」
一番の下っ端らしい者は、慌てて顔は蒼白だ・・何かを脅えているのか・・・。
「彼がレキ・D・キサラか・・・」
奥に居た人物の手元には資料が置いてあり、そこには経歴と能力水準を示してあり、一般に公開されている成績では無く、一部の者しか知らないその資料には、全てにおいて標準を上まった数値が記入されていた。
「いい加減諦めろって・・・ったく」
ブツブツ言いながら寮の部屋に入るとアキトが待っていた。
「よぉ早かったな」
「あぁどうしたんだ?ギルと遊びに行ったんじゃ・・」
「途中でギルの親に会ってな・・・」
ギルの親は日頃はとってもイイ人なんだけど、この式典の日は説教マシーンに変貌する。
「逃げてきた」
「それは災難だな~」
「・・なぁ理事達、何の話だったんだ?」
「いつもの話だよ、俺が優秀すぎて理事までも俺の頭を買いたいなんて、俺の成績知ってるのか?って感じだよ~」
アキトは何となく俺の事を知っているのかもしれない、なんて事を時に思う。でも俺につっこんで聞いてくることは無かった。
「頭って・・進路は?もうすぐ俺達も決めなきゃいけないだろ」
「別に、俺はどっちも希望してないけどな」
「希望してないって、勧誘された所に行くってこと?」
「いや、そうゆうわけじゃないけどな、お前はどうなんだよ?」
「俺?俺はまだ決めてない」
「何だお前も決めてないんじゃないか・・」
「いいだろ!俺はお前みたいじゃないんでね!」
「はぁ?お前の方が頭いいだろ!なんたって学年主席なんだからよ」
アキトはそれには答えず黙ったまま、何か空気が重い・・・。
「俺そろそろ帰るな」
「あ、あぁ」
って言って立ち上がろうとアキト視点が定まらず倒れ掛けた。危機一髪に支えると、アキトの体はすごく軽かった。
「大丈夫か!?」
「あぁ・・悪ィ平気平気、最近ちょっと疲れてんだ・・じゃ俺帰るよ」
アキトはヨロヨロと部屋に帰って行った。気づくと外はもう夕方になり薄暗くなっていた。
あれから数日が経ったが、アキトが調子が悪いようには言わなかったが、どこか・・・。
「あ゛~」
机に突っ伏したレキを見て「理事達も粘るな」苦笑気味にアキトは言う。
毎日毎日理事や教師達の勧誘三昧で学校でも個人に支給されている各部屋(寮)にまで来て安らぐ場所は無い状態・・。
「おい!ニュース」
ドタドタと大きな足音で急に入ってくるのはいつものことで。
「何と3日後に、他の施設から視察が来るんだって!」
「ふ~ん」
「何だよ~もっと驚いてくれよ」
「いいさ、もっとすごい情報があるんだ!・・何と!レキお前がその時歌を歌うんだって!!」
「・・・・!はぁ!?」
「本当なのか?」
初めて興味を示した2人に、ギルは得意げに言う。
「本当だよ~だって掲示板にも書いてたし、先生達も言ってたよ!」
「・・・」
「レキって歌うまいのか?」
アキトは顔色が真っ青のレキを見てギルに聞く。
「あぁ1年の時選抜されていたハズ」
「じゃあ何で今は?」
「寝坊ばっかりしてたからな」
「お前、今も昔も変わないんだな~」
2人は頑張れ~と笑っているが、レキの方は・・・ 。
『レキ・D・キサラ至急理事長室まで来なさい』
「お呼びだぞ~」
ヨロヨロしながら、背中には暗い影を背負いながら行くレキを見てアキトが呟く。
「レキも大変だな」
「レキ・D・キサラ失礼します」
「話は聞いているだろう、3日後の視察会の事だ、君には・・・」
「すいませんが、適当な者なら数多くいるでしょう?」
「しかし、誰も君の選抜に反した者はいなかった、それで良いでは無いか?君は選抜された事もあると聞いている」
「それは!」
「話はもう終わった、曲は教師達に聞いてくれ」
「ちょっ!」
フツフツとわいてくる怒りを感じながら、部屋に戻ろうと振り返るとそこにはアキトがいた。中庭の椅子に手を付き、座り込んでいる。
「アキト?こんな所で何をしてんだ?」
顔を上げたアキトの顔色は真っ青で額には脂汗がつたっている。
「・・レキ・・・別に何でも・・無・・い」
「アキト!おい!!」
青白く血の気が見えない顔色に気を失い横たわる姿は、まさに死人の様だ・・・。
闇が・・・いつのまにか痩せ細ったアキトに影を落とす。
「ん・・・」
あのまま気を失ったアキトは、時刻午前0時を回った位にアキトは目を覚ました。
「レ・・キ・・」
「アキト・・大丈夫か?」
その質問には答えずに、アキトは腕で顔を隠した。
「アキト・・お前やっぱり・・・実験に参加したのか?」
実験とは上(ガーディアルの理事や幹部達が指揮をおいている研究所などのこと)が出した薬を、自らの体を実験体に差し出すことだ。その分多額の報酬が貰えるが・・・いわくが多い代物だ。アキトがその事を知らなかったとは思えない・・。しかしアキトは顔を埋めたまま頷く。
「どうしてそんな事をした?どうゆう事になるかお前ならわかっただろ?」
強く問い詰めたい所だが、なるべく俺は静かに言う。少し経ってアキトは言った。
「金が必要だったんだ・・村に」
アキトは貧しい村の出身だって前に言ってたのを聞いた事がある。
「・・・どんな薬か説明は?」
「・・栄・・養剤って言って・・」
「・・・」
「栄養剤って事が嘘って事はすぐにわかった、一緒に飲んだ奴らが次々いなくなってたから・・」
アキトは自嘲気味に話をする。
「その薬、自我を無くし上の思うままに扱える強靱な生物兵器を造る薬だ」
レキは自分が調べた情報をアキトに教える
その時アキトはやっと顔を上げた、その顔はやはり顔色が悪くそれが恐怖からなのか体調からなのかはわからなかった。
「奴らと一緒なら近い内に段々と自我を失い、自分さえもわからなくなる・・」
「治す事は?」
レキはゆるく首を横に振る。
「・・そっか、もういいよ・・サンキュウな・・・おやすみ」
そう言うとアキトは礼を言って部屋から出て行った。隣の部屋からは、泣き声や暴れる音などは聞こえなかったがアキトが前に好きだと言っていた歌が聞こえてきていた。
きっとアキトが歌っているんだろう・・そう言えばアキトが歌を歌っている所は2回目だな・・・何て事を思っている内に空は明るくなり始めていた。
本番当日、渋い顔をしているだろう俺にはお構いなく楽しそうに聞いてくるギル 。
「どうだ調子は?」
「うるせぇ、何で歌の楽譜がこんなに分厚いんだ・・・」
確かに、その楽譜は辞書並だ・・とギルは思いながら。ちょうど通り掛かったアキトに声をかける。
「・・レキ、購買、行くんだ・・何か買って来ようか?」
「じゃオレンジジュース」
「わかった」
「おい!レキ」
「息抜きも必要だろ?まだ時間あるし、アキト俺も行くよ」
あれから俺達は必要以上喋ることはなかった・・。久しぶりだと何をしゃべっていいのか・・・ことがことだけに・・。
「大変そうだね」
「あぁまったくイジメだぜ」
「「・・・」」
「・・今日見に来るのか?」
「・・もちろん、レキがとちるところを見ないとね」
「何を!」
「はは、嘘だよ!頑張れよ」
「出来る限り頑張らしていただきます、じゃ先行ってるわ、また後でな」
「あぁ」
笑顔でレキを見送るアキトは、すごい汗をかいていた。
「・・・オレンジジュースだったよな」
自販機に向かった時後ろに気配を感じ振り向くと、白服の男達は妖しい笑みを浮かべアキトに言う。
『アキト・フジタカ君これから楽しいパーティーの始まりだよ』
床に倒れこむアキト、意識が遠のくのを感じながら、アキトはレキの去った方向を最後まで見ていた。
会が始まり、俺は歌った。
一つも間違う事なく、そればかりか会場にいたすべての人がレキの歌声に酔いしれた
まさに“神の歌声”だった。大歓迎をよそに、礼もせずに舞台を降りる。 舞台の上から何度も確認したがアキトの姿がなかったからだ。探しに行こうとした時、大聖堂の扉の方から大きな音がした。
会場にキメラと化した生物が乱入し、辺り構わずに殺略と破壊を起こす中、逃げまどう人々と叫び声、パニックな状況になった。
【キメラ=人格を無くし元は人間だと言う情報もあるが、実の所は解らなく、ただどこから生まれたなどは一切の不明でありただ破壊を行い姿は人にも獣にも似ている。知数は低いが身体能力は優れている】
視察団の人々はキメラに食い殺されている、それに気がつけば理事達は姿を消していた。
「・・・なるほど、全部理事の策略だったわけだ」
考えていると、背後から出てきたキメラが襲って来た。何とか服をかすめたくらいにかわせた。だがキメラはそれ以上を攻撃をしなく、他の人間達を襲い始めた。
さっきのキメラが見た視線の先には・・・左耳の赤い石のピアス・・・優等生のアキトが校則違反のピアスをしていて先生達から色々言ってたけど絶対外さなかった物。それは真面目すぎるアキトにレキが上げた物だった。
「お前まさか!!」
兵士達の攻撃の流れ弾が俺の方に向かって来た。その時俺の前に立ち銃撃を受けたのは、さっきのキメラ・・・。
目の前で倒れていくキメラが・・確かにこいつはアキトだった。半分ほど人の姿に戻ったアキトはゆっくりと瞳を開けた。
「・・レ・・キ・・ゴメン・・・俺、見に行けなくて・・でも、聞こえたんだお前の・・声・・・」
「アキトもう喋るな!」
「レキ、俺・・本当・・もう村が無い・・こ・と・・・だ、でも・・やっぱり・・・信じられなくて」
「アキト・・」
「舞台・・お前の事だから・・大丈夫か・・ハハ・・俺なんてこんな・・・なっちゃってさ・・レキ・・俺お前に・・会えて・・良かっ・・た・・・」
頬に差し出された手は重力通りに地に落ちる、レキの頬に血の跡を残して。
「アキト・・・」
人間の姿を取り戻したアキトに何度呼びかけても、何度揺さぶってもアキトは目を覚ますことは無かった・・・。
後に、侵入したキメラすべては処分されたと発表された。
視察団は全員殺され、会が開かれていた大聖堂は無惨な姿になっていた・・ガーディアルの方でも被害者は約60人で、キメラ7体の侵入だったみたいだ。
「レキ、この間の会はすばらしいものだったな」
事件の方も1段落がついたころ、再び理事長室に呼ばれる。
「最初からこの為・・・高い報酬を与えると言いふらし、キメラを造った!」
「君は頭が良いな、だが、我々はキメラを造る為っというのは困るな、彼らは自ら我々に力を貸してくれたのだ、しかし残念な事にキメラと化してします・・」
「・・失礼します」
「おい!レキ!!アキトが死んだって本当なのか!?」
一般にはアキト、他6名の死体は事件に巻き込まれ死亡したと放送された。
「・・あぁ」
「どうしてだよ!!」
ギルとミツキの2人は泣き崩れる中。
「レキどこに行くんだ?」
振り向いたレキの表情は見た事も無い人形の様な顔だった。
「どこにも・・どこにも行かないさ」
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