タマキの居場所
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宮瀬──タマキがBCOを始めて三週間。薬師レベルは18になっていた。
冬夜が付き添わない時間も、タマキは一人で、あるいはハルと一緒に探索していた。始まりの町の周辺エリアを歩き、NPCに話しかけ、採薬クエストをこなしている。
タマキの遊び方は、トワとは全く違っていた。
トワは歩いて、見つけて、戦っていたが、タマキは話して、聞いて、作っている。
NPCの薬師ギルドに入り、薬草の知識を学び、ポーションを自作するようになった。BCOの調合システム──トワがほとんど触れなかった分野だ。
「トワさん。わたし、新しいポーション作れるようになりました!」
「どんなポーションだ?」
「【陽光のポーション】。飲んだ人の状態異常を全部治すやつです。毒も、麻痺も、呪いも」
「状態異常全解除か。それは……珍しいな」
「薬師ギルドのNPCに、ずっと通って友好度上げたら教えてくれました。素材は、始まりの町の薬草園で採れるんです!」
NPC友好度で新レシピを得る。──マーサと同じだ。
しかし薬師にもそんな隠しイベントがあっただなんて、トワには意外である。
「あと、このポーション──【道具通】の対象になるみたいで」
「……なに?」
「トワさんが持っている【道具通】スキルで効果が二倍になります。わたしが作って、トワさんが使えば、全状態異常治癒の効果時間が倍に!」
トワは驚きで声が出なかった。
タマキが自力で、トワのスキルとの相乗効果を見つけた。薬師の調合と旅人の【道具通】のシナジー。
「お前、いつの間にそこまで調べたんだ」
「えへへ。だって、トワさんの役に立ちたいから。トワさんのスキル一覧はフォーラムに載ってるので、全部読みました」
「フォーラムに、俺のスキルが全部載っているのか」
「載ってますよ。『トワのスキル・アイテム完全まとめ』っていうスレッドがあります。『ハルはる晴る』さんっていう方がまとめてくれてて、すごく見やすいんです」
「あいつ……」
「あ、嫌でした?」
「嫌ではないが、弟子に丸裸にされている気分だな……」
「弟子?」
「ああいや……弟子じゃない、撤回する。とにかく、なんだか気恥ずかしい気分だ」
「トワさんの知名度を考えれば、もう全プレイヤーに丸裸ですよ。今更です」
トワは途端に恥ずかしくなって頭を掻きむしりたい衝動に駆られたが、「これも旅だ……」と自分に言い聞かせた。ついでに、あの弟子は今度PVPでお仕置きしておくことに決めた。
◇
タマキの成長は、思った以上に速かった。
理由は単純だった。タマキは「効率」で動いていない。「楽しい」で動いている。NPCとの会話が楽しいから友好度が上がる。薬草を集めるのが楽しいからレシピが増える。楽しいことを続けているうちに、自然と強くなっている。
──冬夜と同じだ。歩くのが楽しいから歩いた。だから、強くなった。
薬師ギルドのNPCが、タマキに特別なクエストを出した。
【薬師クエスト:「始まりの町の薬草園の主を探せ」】
「薬草園の主? 誰ですか?」
NPCが答えた。
「昔、この町に凄腕の薬師がいてね。名前は──マーサ」
タマキが振り返って、冬夜を見た。
「マーサって──トワさんの料理の師匠の?」
「師匠じゃないぞ、レシピを教わっただけだ」
「マーサさんって、元は始まりの町の薬師だったんですか?」
NPCが続けた。
「ああ。マーサは昔、始まりの町で薬師をしていた。だがある日、町を出て霧底の森に行ってしまった。──もし会えたら、この手紙を渡してくれないか」
タマキがクエストを受けた。
「トワさん。マーサさんのところ、連れて行ってもらえますか?」
「もちろんだ。──セレスの星渡りで行ける」
セレスが【覚醒形態】になり、タマキとトワを乗せて霧底の森に転送した。
マーサの泉。苔の上で鍋をかき混ぜている老婆。
「おやおや。トワじゃないか。──おや、連れがいるね。薬師の子かい?」
「初めまして。タマキです。始まりの町の薬師ギルドから、手紙を預かってきました」
タマキが手紙を渡した。マーサが読んで、ふっと微笑んだ。
「ああ、懐かしいね。──あの薬草園、まだあるのかい」
「はい。わたし、毎日通ってます」
「そうかい。──じゃあ、お前さんに一つ教えてあげよう」
【マーサの友好度がタマキに対して開放されました:1/10】
トワのマーサ友好度とは別に──タマキ独自の友好度が解放された。
「わたしもマーサさんのレシピ、教えてもらえるんですか!?」
「料理じゃないよ、薬さ。──薬師のための、特別な調合法を教えてあげよう」
タマキの目が期待で光っている。
冬夜は横で見ていた。──自分の旅とは全く違う道を、タマキが歩いている。同じNPCと出会っても、関わり方が違う。トワは料理を教わった。タマキは薬を教わる。
同じ世界を歩いているのに、違う世界がここにはあるのか。
「タマキ」
「なんですか?」
「楽しいか」
「はい! すっごく楽しいです!」
「なら──よかった」
セレスが横で、マーサのスープをこっそり飲んでいた。
「セレス、それはマーサのだぞ」
「ちょっとだけ」
「お前の『ちょっとだけ』は──」
「しんようできない、でしょ? セレス、しってる」
「……先に言うな」
「だって、トワ、いつもおなじこという。セレス、もうおぼえた」
タマキが横で笑いを堪えきれなくなっている。
「セレスちゃん、あたまいいね」
「頭がいいなら、人のスープを飲まないでくれ」
「あたまがいいから、セレス、おいしいスープのばしょ、しってる」
冬夜はマーサに目を向けた。マーサは鍋のスープが減っているのを見て、にこにこ笑っていた。
「いいんだよ。可愛いお嬢ちゃんだ。──もう一杯作ってやるから、そっちを飲みな」
マーサがセレス用の小さな器にスープをよそった。セレスが両手で器を抱えて、嬉しそうに飲んだ。
「マーサ、やさしい。トワよりやさしい」
「俺は優しくないのか」
「トワは、やさしいけど、ごはんにきびしい」
「それは食い意地が張ってるセレスちゃんの問題じゃ……」
「タマキ、いまなんていった?」
「何も言ってません!」
冬夜は二人を見て、ため息をついた。
なんだか最近、ため息が増えている気がする。まあ……嫌なため息ではないから、よしとした。
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