果ての道標
始まりの町に戻り、グランの工房で最終武器を鍛造した。
月蝕の結晶。影の残滓。海神の水晶。三つの素材が炉に入れられ、グランが槌を振るう。
「よい素材だ。──旅人が歩いた全ての場所の記憶が、この武器に宿る」
炉から一振りの剣が姿を現した。
剣の形は一瞬で変わった。槍になり、弓になり、杖になり、また剣に戻った。形が定まらない。流れるように変化し続ける。
【旅人の最終武器「果ての道標」が完成しました】
武器名:【果ての道標】
種別:旅人専用・可変武器。
公式説明文:全ての道の先に、この武器がある。
効果:全武器種の形態に自在に変化。切り替え時間ゼロ。さらに、移動距離に連動してATKが永続上昇する(【旅路の極意】との重ね効果)。
切り替え時間ゼロ。0.17秒すら不要。思った瞬間に武器が変わる。
さらに、移動距離連動のATK上昇が、【旅路の極意】と重なる。歩けば歩くほど、二重に強くなる。
冬夜は【果ての道標】を握った。手に馴染む。旅立ちの剣よりも軽く、それでいて……重みがあるような。きっとこれは、七千時間分の旅の重みなのかもしれない。
「トワ。それ、かっこいい」
「すごいです……武器の形が流れるように変わってる……」
二人が見つめる中、トワは【果ての道標】を手に歩き出した。
「行こう、【霧底の森の門】へ」
◇
霧底の森。あの巨大な門の前。
【旅人の最終試練への入口です】
【入場条件を確認中──】
【全エリア踏破率:100% ── OK】
【旅人レベル:Lv1 ── OK】
【旅人専用最終武器装備中 ── OK】
【──すべての条件を満たしました。入場しますか?】
門が、開いた。
門の向こうからは、眩いばかりの白い光が溢れている。
「トワ。セレスも、いっしょにいける?」
システムメッセージを確認した。
【最終試練は「ソロ」での挑戦が必須です。守護精霊を含む全ての同行者は入場できません】
ソロ。
一人で行かなければならない。
「……トワ。ひとり?」
「ああ。一人だ」
「セレス、いけない?」
「行けない。──だが、大丈夫だ」
「だいじょうぶ? ほんとに?」
「俺は二年間、一人で歩いてきた。一人で歩くことは、得意な方だ」
セレスが小さな手でトワの指を握った。
「トワ。かえってきて」
「必ず帰る」
「やくそく」
「約束だ」
トワはセレスを、ハルに託した。
「ハル。セレスを頼む」
「はい。──師匠、頑張ってください」
「師匠じゃないぞ。だけどまあ……ありがとう、行ってくる」
門に向かって歩き出した。白い光の中に、トワは一人で。




