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ブレイブ・クロニクル・オンライン ~全員が捨てた初期職を7000時間やり込んだら、Lv1で最強になっていた~  作者: ぶらっくそーど


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知識無双


 孤島を拠点に周辺の島々を探索する日々が続いた。



 トワとハルの二人旅。セレスが肩にいて、ナミが海を泳ぐ。四人(?)パーティ。



 ハルの成長は目覚ましかった。温度センサーの精度が日に日に上がり、一週間もするとカメレオンをほぼ確実に察知できるようになった。



 しかし戦闘力だけでなく、探索能力の方がもっと伸びていた。



「トワさん! あの岩の裏に、隠し通路があります! 温度が変で……空気の流れがある感じがします!」

「よく見つけたな。よし──行ってみよう」



 隠し通路の奥に──宝箱。




【南海の真珠を入手しました】




 効果不明の素材アイテム。こういうのは後で化けることが覆い。ハルが見つけた。



「わたしが見つけたんですね!? トワさんより先に!」

「ああ、俺は気づかなかった」

「やった! こんなわたしが……師匠より先に!」

「師匠じゃないぞ」

「師匠です!」



 ハルの強みは、トワとは違う視点で世界を見ていること。トワは七千時間の経験から「効率的なルート」で歩く。しかしハルは経験が浅い分、直感で動く。トワが見落とすような些細な違和感に気づくことがある。



 ──教えるつもりが、教えられている。

 あるいは、本当に『子供の勘』のようなものかもしれない。


 このボイスチャット……ハルの声の高さからして、恐らく中身は本当に中学生くらいの子だろう。



「師匠、どうしたんですか?」

「いや……気にしなくていい」

「ちょっと、師匠? 待ってくださいよ、師匠~!」



 中学生の女の子から、師匠と呼ばれるのはいいのだろうか。


 どことなく危ない匂いを感じながら、トワは逃げるようにそそくさと歩いていった。




    ◇




 ある島で、他のプレイヤーに出くわした。



 五人のパーティ。Lv85〜88。

 先行解放エリアではないが、海のエリアに大型船で到達したプレイヤーたちだ。




「やべえ、この島のモンスター強すぎる! 誰か、モンスターの攻撃パターンを知らないか!?」



 Lv88の剣士が叫んでいる。島のモンスター──【珊瑚のゴーレム】に苦戦しているようだ。



 トワはスルーしようとした。自分たちの通り道じゃないし、わざわざ助ける必要もない。

 しかし、ハルが立ち止まった。



「トワさん。あのゴーレム、わたし倒したことあります。昨日、トワさんに教えてもらった方法で」

「すごいな、ハルは倒したことがあるのか」

「あの人たち、困ってます。──わたし、教えに行っていいですか?」



 冬夜は少し驚いていた。ハルが、人に教えに行く。


「好きにしろ」



 師匠の許可が下りるや否や、ハルが五人パーティに駆け寄った。



「あの! そのゴーレム、弱点は背中の珊瑚の下です! 正面から殴っても硬いだけなので、側面に回り込んで珊瑚を剥がしてから攻撃すると効きます!」



「え、マジ? って、お前……Lv1?」

「はい、旅人です!」

「Lv1の旅人が、なんでゴーレムの弱点知ってんだ……?」

「師匠に教えてもらいました!」



 五人パーティがハルの言う通りに側面から珊瑚を剥がし、弱点を叩いた。

 ゴーレムはすぐに倒れた。



「おおっ、ほんとだ! 一気にHPが削れたぞ!」

「ありがとう! 助かった!」

「ってか、師匠って誰だ? Lv1の、旅人の師匠……」



 ハルが後ろを振り返った。トワが十メートル先で、セレスを肩に乗せて立っている。



「あの人です」



 五人がトワを見つめた。


 Lv1。旅人。肩に角の生えた小さな妖精。



「──おいおいおい、トワじゃねえか!」

「マジ……え、マジかよ?」

「トワの弟子!? Lv1の旅人に、弟子がいるのか!?」

「いや、俺は弟子なんて取った覚えがないが」

「えっ、弟子じゃないの……?」

「ちょっと、師匠! わたしは師匠の弟子ですよね、ね?」

「……旅仲間でいいだろう。なぜ、わざわざ弟子にこだわる?」

「だって、そっちの方が、なんかいい感じじゃないですかぁ!」

「いい感じ……?」

「トワ、意地っ張り。ハル、かわいそー」

「ほらほら、セレスちゃんもそう言ってますよ!」

「……知らん。俺は、知らないからな」



 頑なに弟子と認めないトワを、五人は笑って見守っていた。




    ◇




 ゴーレムを倒し、無事一件落着かのように見えたが、これは始まりに過ぎなかった。




 次の島に渡った時、今度は十二人の大型パーティに遭遇した。ギルド名は〈翠星の航海〉。海のエリアを専門に攻略しているらしい。



 彼らはフィールドボスの手前で立ち往生していた。




【珊瑚巨蟹・クラーケンの爪 Lv94 ── フィールドボス】




 巨大な蟹だ。全長十メートル。両方の鋏が翡翠の結晶で覆われている。十二人パーティで何度か挑戦したようだが、鋏の防御が硬すぎて攻撃が通らないらしい。




「もう三回も全滅したぞ……鋏が硬すぎて、話にならねえ」

「弱点がわからん。攻略サイトにも情報がない。誰も倒してないんだ」




 トワはこの時も通りすがる──つもりだった。



「あ、あの! ……もしかしてあなたは、あのトワさんですか!?」



〈翠星の航海〉のリーダーが声をかけてきた。




「あなたの情報は、毎日追ってます! もしよければ──あのボスの弱点を、教えて頂けないでしょうか?」



 冬夜は立ち止まった。



 フィールドボス。初見。攻略情報は自分も持っていない。──しかし。



【見聞録】を起動した。距離百メートルからボスのデータを読む。




 HP:380,000。攻撃パターン五種。弱点──




【弱点情報:鋏の内側に関節部あり。関節部の防御力は1/10。ただし、鋏を開かせないと関節部は露出しない】




 鋏を開かせる。どうやって?




【見聞録】をさらに深く読む。温度センサーと魔力感知を同時起動。ボスの体温分布を確認する。




 ──甲羅の裏側に高温の部位がある。呼吸器官だろう。蟹は甲羅の下のエラで呼吸する。



 そしてこの蟹は海辺のモンスターだ。水が必要。甲羅の裏が乾くと──



「わかった」



 トワの声に、十二人が一斉に振り向いた。



「あのボスの弱点は、()()()()()()()()だ。だが、鋏を開かないと弱点は露出しない。鋏を開かせるには──ボスを、陸に引きずり上げろ」



「陸に?」



「あのボスは海辺のモンスターだ。甲羅の下にエラがある。水辺から離れるとエラが乾いて、甲羅を開いて呼吸しようとする。甲羅が開く時、連動して鋏も開くはずだ。その時に、関節部が露出する」



「エラ……? そんなの、どうやってわかったんですか?」



「温度センサーで体温分布を読んだ。甲羅の裏側に高温部がある。呼吸器官だ。呼吸器官の構造から行動パターンを逆算しただけだ」



 十二人が唖然としていた。



「温度センサーで体温分布を読んで、エラの位置を特定して、行動パターンを逆算……?」

「初見で?」

「見ただけで?」

「見ただけだが、やつを引きずり上げるのは力仕事でいける。十二人で足りるか?」

「や……やります! やれます!」

「トワさんが言うなら、絶対合ってる!」



 十二人が鎖やロープ系のスキルでボスの脚を縛り、海辺から内陸に引っ張り始めた。蟹が暴れる。巨大な鋏が振り回される。それでも十二人は諦めずに、必死に引く。



 水辺から五メートル離れた。十メートル。



 蟹の動きが変わった。甲羅がわずかに持ち上がる。エラが乾き始めている。



 十五メートル。



 甲羅が──開いた。鋏が同時に開き、内側の関節部が露出する。



「今です!」


 ハルが叫ぶと同時に、十二人が関節部を攻撃した。硬かった鋏が──脆い。一気にHPが削れていく。




「通った! 通ってる!!」

「めちゃくちゃ削れるぞ!!」

「やっぱり、トワさんの言う通りだ!!」




 そして五分で、フィールドボスが倒れた。




【フィールドボス「珊瑚巨蟹・クラーケンの爪」討伐】




 十二人パーティが、トワの一言のアドバイスで、三回全滅したボスを初めて倒した。




「すげえ……」

「初見で弱点を見抜いて、攻略法まで教えてくれた……」

「一切戦闘に参加せずに勝たせた……」

「トワさん……いえ、トワさま、ありがとうございます!!」




 トワは軽くうなずいただけで通り過ぎようとした。



「通り道だったから、ついでだ」

「ついでで初見ボスの攻略法を教える人がいるかよ!!」



 セレスがトワの肩の上で、また上機嫌に鼻を鳴らした。



「ね。トワ、すごいでしょ」

「すごいなんてもんじゃないよ……」



 十二人のリーダーが頭を下げた。



「トワさん……一度も剣を抜かないで、フィールドボスを倒させちゃいました」

「俺は何もしていないぞ。ただ、情報を伝えただけで」

「その情報が、他の人には絶対に出せないんです。温度で呼吸器官を見つけて、行動パターンを逆算するなんて──【見聞録】をあのレベルで使えるの、世界でトワさんだけですよ」

「そうでもない。いずれハルにもできるだろう」

「わたしに!? あんなの無理ですよ!」

「できる。温度センサーはもう使えている、あとは経験を積むだけだぞ」



 ハルは何か言いかけてがやめて、代わりにぎゅっと拳を握った。



「……頑張ります。いつかわたしも、見ただけで弱点がわかるようになります」



 セレスがハルの頭にぽんと手を置いた。



「ハル。がんばれ。セレスもおうえんする」

「セレスちゃん……!」

「でも、トワはセレスの。それだけ、まもる」

「それは譲らないんですね……」

「ゆずらない」



 セレスとハルが意味深な視線の応酬をしているが、トワはその意味を全く理解できないでいた。




    ◇




 その夜、フォーラムが二つの話題で持ちきりだった。




【目撃情報】トワに弟子がいる。Lv1の小さな女の子旅人がゴーレムの弱点を教えてくれた



 ──「トワの弟子!?」

 ──「旅人が旅人を育ててるのか」

 ──「弟子もLv1ってのがいい」

 ──「Lv1の旅人が上級プレイヤーにモンスターの弱点を教える絵面よ」

 ──「師匠って呼んでるのかわいい」

 ──「トワは認めてないらしいけどなwww」

 ──「セレスちゃんが一番弟子でこの子が二番弟子って書き込みあったぞ」

 ──「一番弟子(自称)」




 そしてもう一つ。



 【衝撃】トワが初見フィールドボスの攻略法を「見ただけ」で看破。自分は一切戦わず、12人パーティに指示だけで倒させた



 ──「は?」

 ──「見ただけで弱点わかるの?」

 ──「体温分布を読んで、呼吸器官の位置を特定して、そこから行動パターンを逆算したらしい」

 ──「何言ってるか全然わからん」

 ──「つまり、トワの目には俺たちが見えないものが見えている……ってコト?」

 ──「見聞録ってそんな使い方もできるの?」

 ──「できるわけないだろ普通は。熟練度MAXの見聞録を七千時間使い込んだ人間にしかできない芸当だぞ」

 ──「知識だけで初見ボスを攻略する男」

 ──「もう旅人というより、学者じゃん」

 ──「学者兼料理人兼最強戦士」

 ──「肩書き多すぎる」

 ──「しかも本人は『通り道だったからついでだ』って言って去って行ったらしい」

 ──「通りすがりの攻略情報提供者www」

 ──「これぞ知識無双」

 ──「レベルが低くても、知識があれば世界を動かせる。これが旅人の真の強さだ、なんてな」




 冬夜はフォーラムを見ていなかったが、ハルが嬉しそうに報告してきた。




「トワさん! フォーラムでわたしのこと話題になってます! 『トワの弟子』って! あと、トワさんが見ただけでボス倒させた話がすごいバズってます!」

「弟子ではないと言っているんだが……」

「もう手遅れだと思います! フォーラムでは確定扱いです! あと、トワさんの新しい称号が勝手につけられてます。『歩く攻略wiki』って」

「やめてくれ」



 セレスが得意そうに言った。



「セレスがいちばんでし。ハルがにばん」

「はい! 二番弟子のハルです!」

「……いつの間に序列ができたんだ」

「さいしょから!」


 左右からむむっと迫り女の子たちに、トワはたじたじだった。

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