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ブレイブ・クロニクル・オンライン ~全員が捨てた初期職を7000時間やり込んだら、Lv1で最強になっていた~  作者: ぶらっくそーど


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v綻びの番人


 境界門の先は、長い下り坂だった。


 三千人のプレイヤーが暗い通路を降りていく。星巡りの靴の光が先頭を照らし、後方では松明やスキルの光が連なっている。誰も喋らない。足音だけが響いている。


 十分歩いて、通路が終わった。


 広い空間に出た。


 巨大だった。天井が見えないほど高い。壁が見えないほど広い。灰白色の空間が、どこまでも続いている。空間の中央に、光の柱が立っていた。床から天井まで貫く、ねじれた巨大な柱。五つの色が柱の表面を流れている。赤、紫、灰、白、黄。


 そして、柱に何かが絡みついていた。


 巨大な影。高さ三十メートル。人型ではない。形が定まらない。身体の中を五つの色が流れていて、絶えず姿が変わっている。おそらく、アレが今回のレイドギミックの本命だろう。


 トワが見聞録を起動した。スキャンが走った。


 データが返ってこなかった。



【スキャン失敗:対象のデータが不安定です】

【法則異常が集中しているため、正確な情報を取得できません】

【名前:??????】

【HP:??????】

【特性:??????】



「見聞録が効かない」


 隣のゼクスが振り返った。


「情報なしか」


「ああ……法則異常が集中しすぎて、スキャンが通らない」


「つまり、何が来るかわからないまま戦うのか」


「そういうことになる」


 三千人が核の入口で止まっていた。巨大な影を見上げている。誰も動けない。情報がない。作戦が立てられない。


 トワがレイドチャットに打った。



 トワ:「情報がない。見聞録でも読めない。何が来るかわからない。だが、行くしかない。俺が先に行く。何かわかったら叫ぶ。全員、俺の声を聞いて動け」



 三千人が動き始めた。トワを先頭にして、巨大な空間に足を踏み入れた。


 柱まで五百メートル。


 三百メートル進んだ時、それは来た。


 前触れなく。


 世界の色が反転した。


 床の灰白色が黒に変わった。光が闇になった。前衛の魔法使いが放った火球が、氷の塊になって味方に飛んでいった。僧侶の回復魔法が、緑の光ではなく赤い棘になって仲間を貫いた。


 悲鳴が上がった。



【環境異常が発生しました】



 たった一行のシステムメッセージ。何の異常か、どう対処すべきかは書かれていない。


 レイドチャットが叫びで埋まった。



 名無しの聖職者:「回復したら味方が死んだ! なんだこれ!?」

 名無しの魔法使い:「火魔法が氷になってる! 俺の魔法が味方に当たった!」

 名無しの暗殺者「いったい何が起きてるんだ!?」



 トワの身体が反応した。考えるより先に。


 これは知っている。錆びた草原で体験した。属性逆転だ。


 レイドチャットに叫んだ。



 トワ:「属性逆転だ! 全ての属性が反転してる! 僧侶は回復を止めろ! 回復魔法がダメージになる! 攻撃魔法を味方にかけろ! 攻撃が回復になる!」



 トワの指示に従って、三千人が攻略を始めた。


 聖職者たちが回復を止めた。攻撃魔法を味方にかけた。HPが回復し始めた。



「効いてる! 攻撃魔法で、回復できる!」


「逆転を逆手に取るのか!」


 タマキがミラの横で叫んだ。


「ミラさん! 逆転中は、毒薬が回復薬になります! 毒薬を配ってください!」


 ミラは薬箱から毒薬を取り出し始めた。前衛のプレイヤーたちに配っていく。毒薬を飲んだプレイヤーのHPが回復した。


「毒飲んだら回復した! 何だこのゲーム!?」


「NPCの薬師が毒薬配ってる! 普通じゃないぞこのレイド!」



 巨大な影が動いた。腕のようなものを振り下ろしてきた。前衛百人が同時に吹き飛ばされた。装備が砕けた。


 リルクトが走った。吹き飛ばされた前衛のもとに駆けつけて、壊れた盾と鎧をその場で叩き始めた。ハンマーの音が核の中に響いた。



「武器が壊れた奴は俺のところに持ってこい! 直してやる!」


「鍛冶師NPCが前線修理してる!」


「レイド中に装備修理!? こんなの見たことないぞ!」


 メブキとウルが地面に根を広げていた。核の床に根を這わせて、影の動きを感知しようとしている。


「つぎのこうげき……わからない! ねっこのじょうほうもゆれてる!」


「メブキ、無理するな!」


「むりしてない! でも、データがぐちゃぐちゃ!」


 ウルが四つ葉を震わせながら言った。


「……トワ。この影は、壊れてる。怒ってるんじゃない、苦しんでる。法則がめちゃくちゃで、自分でも制御できてないんだと思う」


「苦しんでる?」


「……うん。この世界の管理プログラムが、壊れたまま放置されて、暴走してるだけ」


 倒す相手ではなく、直すべき存在。


 だが、直すためには何が必要だ?


「……あの柱か」


 トワは空間の中央に立つ、光の柱を見据えた。


 柱がギミックの本体なら、あそこまで近づく必要がある。柱まで二百メートル。その間に巨大な影が暴れ続ける。三千人で受け止めながら、トワが柱に辿り着くしかない。


 トワが走り始めた。


 百五十メートル。百メートル。影の腕が横薙ぎに振られた。ゼクスが影潜りでトワを引き込んで回避した。


 七十メートル。ノーネが横に並んだ。この空間の地形を読みながら、最も走りやすいルートを示してくれている。旅人の案内。


 五十メートル。


 そして、異常が切り替わった。


 前触れなく。


 重力が消えた。


 トワの身体がふわりと浮いた。三千人のプレイヤーが、全員、天井に向かって落ち始めた。武器が手から離れた。薬が散らばった。悲鳴と怒号が空中で交差した。



【環境異常が切り替わりました】



 一行だけのシステムメッセージ。対処法は書かれていない。


 だがトワは知っている。これも知っている。逆さの森で体験した。


 空中で体勢を整えた。天井に足をつけた。着地した。



 トワ:「重力反転だ! 天井に着地しろ! 受け身を取れ!」



 ガレスが空中で鎧をきしませながら叫んだ。守衛長の声が、核の全域に響いた。



「旅人の声を聞け! 天井が地面だ、足をつけろ!」


 ガレスの声で、浮遊していたプレイヤーたちが天井に着地し始めた。守衛長の号令が、三千人を動かした。


 天井の上で、トワは柱を見た。柱は動かない。上下が逆でも、柱はそこにある。


 走った。天井を蹴って。


 柱まであと三十メートル。


 糸の鍵が手の中で震えている。光っている。近づくほど強く。


 何かがわかりかけていた。この柱を、どうすればいいのか。見聞録では読めなかったが、鍵が知っている。鍵が、柱に呼ばれている。


 あと二十メートル。


 次の異常が来る前に、辿り着けるか。

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