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ブレイブ・クロニクル・オンライン ~全員が捨てた初期職を7000時間やり込んだら、Lv1で最強になっていた~  作者: ぶらっくそーど


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仲間が来る日



 現実。六月最初の土曜日。


 冬夜は駅前の定食屋で蓮と昼飯を食べていた。生姜焼き定食、いつものだ。



「ゼミ発表、第二回の準備はどうだ」蓮が聞いた。


「教授に『サンプル数を増やせ』と言われたから、他のプレイヤーの移動ログも収集してる。匿名で協力してくれるプレイヤーが三十人ほど」


「フォーラムで募集したのか」


「『移動データの学術利用に協力してくれる方』と書いたら、意外と集まった」


「お前のファンだろ、それ」


「ファンじゃない。データ提供者だ」


「ファンだよ。お前が思ってる以上に、お前は人気がある」


「……生姜焼き、もう一枚もらえるか」


「話を逸らすな」


「逸らしてない。腹が減ってるだけだ」


「宮瀬と同じこと言ってたぞ、お前。生姜焼きで話を逸らすの、二人の共通言語なのか」


「……否定はしない」



    ◇



 午後。BCOにログイン。


 今日は、いつもと違った。


 始まりの町の広場に、ハル、ミコト、ゼクスが待っていた。



「師匠!」ハルが手を振った。「綻びの大地に行きませんか? 部分的にモノクロだったり、景色も寂しいところなので、ソロはちょっときつくて……」


「わたしも、一緒に行きたいです!」


 ミコトも手を上げた。


「俺も興味がある」ゼクスが腕を組んでいた。「お前が一人で探索してる間、こっちも同じくらいに進めておいた。要領は分かってる、力になれるだろう」


 タマキがトワに向かって微笑んだ。


「みんな、トワさんと行くのを待ちきれなかったんですね」


「そんなことないだろう」


「いいえ、トワさんは人気者ですからね」


「……ところで、変動耐性の薬は配ったのか」


 あからさまな話題逸らしだったが、タマキはあえて笑って流した。


「配りました。全員分あります」


「なら、行こう」




 六人で星花の里に転送して、地下の扉を降りた。


 錆びた草原に出た。ハルとミコトが同時に声を上げた。



「うわ、草が金属です!」ミコトが草に触った。「カチカチする……すごい質感」


「現実にあると、歩くだけで大けがしそうですね」ハルがメモ帳を開いた。


 ゼクスは周囲を見回した。


「ステータスが微妙に揺れてるな。±5%か。変動耐性の薬を飲んでるから気にならないが、薬がなかったら戦闘に支障が出る」


「安定化する前は±10%だった。ほころびの近くでは±30%になる」


「それをLv1でやったのか、お前は」


「Lv1だから変動幅が小さいんだ。Lv90の方がきつい」


「……相変わらず、Lv1を武器にしてるな」


 プレイヤーが何人か、トワたちに気づいて手を振ってきた。錆びた草原はもう立派な狩場になっている。鉄草獣を狩っているパーティがいくつもある。


「トワさーん! 今日はお仲間と一緒ですか!」


「ああ、今日は主に案内だ」


「すげえメンバーですね。PvP一位のゼクスに、大人気配信者ミコトに、旅人の集いのリーダーハルだ」


 ミコトが嬉しそうに手を振った。


「今日も配信中です! よろしくお願いします!」


 ハルがメモ帳に書いていた。「プレイヤー数、目視で約四十名。パーティ編成は前衛二、後衛一が主流。鉄草獣の狩り効率は……」


「ハル、データ収集はあとでいい。先に見せたいものがある」


「先に見せたいもの?」


「ついてこい」



    ◇



 四つの修復済みエリアを駆け足で通過した。


 錆びた草原を抜けて、根冠の森を通り、鏡映の湖を渡り、虹砂の砂漠に入った。ハルとミコトは各エリアで立ち止まりたそうにしていたが、トワが「帰りにゆっくり見ろ」と言って先に進ませた。


 虹砂の砂漠の奥。虹色に輝く砂の向こうに、赤い石の門が見えてきた。


 ゼクスが足を止めた。


「何だ、あれは」


「境界門。色が戻って初めて見えた構造物だ。安定度80%で起動する。この先に、紡ぎ手の領域がある」


 ハルが門の前に立った。金色の文字を読んでいる。メモ帳に書き写している。手が震えている。興奮しているらしい。


「『この先は紡ぎ手の領域です。資格なき者の立ち入りを禁じます。門を開く条件:安定度80%以上』……師匠、これは大発見です」


「大発見というか、修復してたら見つかっただけだが」


「それが大発見なんです! 修復しなければ見えなかった。色がなければ見えなかった。トワさんが四つのエリアを直したから、この門が姿を現した。他の誰にもできなかったことです」


 ミコトがカメラを門に向けていた。


「配信のコメント、すごいことになってます」


「何て言ってる」


「読みますね。『紡ぎ手の領域!?』『やばい、ラスボスの匂いがする』『安定度80%であと15%。残りのエリアを修復すれば届くのか?』『大型レイド確定だろこれ』『トワが全部一人で見つけてるの、もう笑うしかない』」


「一人じゃない。俺にはタマキがいる」


「ちょ、ちょっと……トワさん!」タマキが頬を赤らめていた。


「焦ることはない、本当のことだ」


 タマキが照れ隠しにほっぺたを丸くしてる。


 ゼクスは門の表面に手を触れた。影潜りで門の内部を探ろうとしたが、手が弾かれた。


「入れない……『紡世者』の封印か」


「安定度が足りないんだろう。あと15%」


「残りのエリアを修復すればいいんだな」


「まだ赤い領域が糸読みに見える。少なくとももう一つ、未修復のエリアがある」


 セレスがトワの肩の上で門を見上げた。


「トワ。このもん、おおきい」


「大きいな」


「むこうに、なにがある?」


「わからない」


「わからないのに、いく?」


「わからないから、行く。旅人はいつも、そういうものだ」


「うん。セレスも、そういうもの」


 メブキが地面に降りて、門の根元で双葉を広げていた。


「このもんのねっこ、ふかい。この世界でいちばんふかいところまで、つながってる。この先には、この世界のいちばんだいじなものがある」


「一番大事なもの、か」


「めぶきには、そうかんじる」


 ルーナが影の中で静かに言った。


「……トワ。この門を開けたら、たぶん後戻りはできない。覚悟はしておいた方がいい」


「後戻りが必要だったことは、今まで一度もない」


「……そうだったね」



 六人で門の前に並んだ。トワ、タマキ、ハル、ミコト、ゼクス。そして精霊四体。



「次のエリアを直せば、この門が開く」トワが言った。「準備ができたら、行く」


「ぼくたちも手伝えることがあるなら、言ってくれ」ゼクスが言った。


「タマキの変動耐性の薬を量産してくれ。門の向こうに行く時、大人数が必要になるかもしれない」


「新レイドか」


「たぶん」


「楽しみだな」


「ああ……」


 虹砂の砂漠に、六人の影が伸びていた。赤い門が夕日を受けて、金色の文字を光らせている。


 あと一つ。あと一つ直せば、門が開く。



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