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ブレイブ・クロニクル・オンライン ~全員が捨てた初期職を7000時間やり込んだら、Lv1で最強になっていた~  作者: ぶらっくそーど


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春、来る


 原初の観測者が退いた翌日。


 BCOのフォーラムは、三年間で最大級の盛り上がりを見せていた。



 ──「原初の観測者って何だったんだ。釣りしてたら、足元が光り始めたぞ」

 ──「名前を叫んだら身体が動くようになった。仕組みは全くわからん、でも鳥肌が立った」

 ──「何百万人が参加してたって話が出てるけど、正確な数字は」?

 ──「全然違うエリアにいたのに、名前を叫んだら空に光が走った。あれ見た人いる?」

 ──「旅人の集いのメンバー名が根脈の光に全部映ってたの、気づいた?」

 ──「BCO三年間で一番わけがわからなかったし、一番興奮した」

 ──「トワが関係するイベント、毎回これだから困る」

 ──「困らせてほしい、今後も」



 運営からの全体通知も届いていた。



【BCO運営チームからのお知らせ】

【「原初の世界・根の天蓋」エリアが全プレイヤーに開放されました】

【開放条件:命名を完了したプレイヤーは転送ポイントから直接アクセス可能です】

【「根の天蓋」エリアには、鏡根の泉・七色の庭・花の台地が含まれます】

【ストーリーをクリア済みのプレイヤーは、一人目の旅人「望見」および二人目の旅人「巌路」がNPCとして根の天蓋に常駐します】

【※旅人クラスのプレイヤーには、別途追加情報があります】



 冬夜はフォーラムを閉じた。


 大学の春休みはまだ続いている。窓の外が茜色に染まっている。スマホをテーブルに置いて、水を一杯飲んだ。昨夜は三時過ぎまでログインしていた。六時間寝た。十分だ。



 ゴーグルを被る。ログイン。




    ◇




 根の天蓋。花の台地。


 ゲーム内は昼前の明るさだった。昨日まで戦場だった台地に、見知らぬプレイヤーが散策している。「初めて来た」「きれい」と声が聞こえる。メブキが知らないプレイヤーの周りをくるくる飛んでいた。既に人気者になっているらしい。


 セレスがトワの肩で鼻を鳴らした。


「メブキは、セレスのこーはい。かわいいのは、あたりまえ」


「子供じゃなかったのか」


「きぶんしだい。きょうはこーはい」


「昨日は子供だったのに?」


「きのうはきのう。きょうはきょう」


「自由だな」


「セレスはいつもじゆー」


 メブキの双葉がこちらに向いた。ぴこぴこ揺れている。手を振っているのか、あいさつなのかわからないけど、健やかそうなので放っておいた。




    ◇




 花畑の端で、ボウケンとガンロが並んで座っていた。昨日と同じ場所。足を伸ばして、花畑をぼんやり眺めている。NPC化したとはいえ、旅人であることに変わりはない。やることがなければ座って見ているのだろう。


 トワが近くを通ると、ガンロが声をかけた。



「トワ。昨日ぶりだな。少し忙しかったか」


「ああ、現実……いや、別の世界に戻っていた」


「現実、か。お前にも別の居場所があるんだな」


 ボウケンが目を細めた。


「別の世界とは、どういうところだ」


「今は桜が咲いている。この時期にだけ咲くピンクの花だ。人が集まって、花を見る」


「花を見る行事か」ボウケンが花畑を見た。「似ているな、ここと」


「言われてみると、似ているかもしれない」


「良いものだ。外の世界も」


 ガンロがトワを見上げた。


「今日は何をするつもりだ?」


「運営……いや、とある管理者から通知が来ていた。旅人向けの追加情報があるらしい」


「何か変わるのか?」


「まだわからない。行って確かめる」


「そうか。良い旅を」


「ありがとう。二人も、良い旅を」




    ◇




 旅人向けの追加情報は、根の天蓋の中心にあった。


 花畑の一番奥。昨日まで七本目の心臓があった場所に、新しい石碑が立っている。古代の文字がびっしりと刻まれていた。



【旅人への伝言】

【一人目の旅人「望見」より、三人目の旅人へ】

【見聞録に、新たな力が宿りました】

【「全方観」:片鱗モードの拡張機能】

【かつて原初の観測者に取り込まれていた望見の観測力の欠片を返還するもの】

【使用条件:使用者の名前が固定されている場合のみ発動可能】

【効果:見聞録の観測範囲を全方位に拡大。センサー停止なし。持続時間は三十秒】




「全方観。片鱗モードが進化しているようだ」


 タマキが石碑を覗き込んだ。


「センサー停止なしで全方位観測が三十秒……これ、かなり大きいですよ」


「片鱗モードは強力な代わりに、視界が砂嵐になる欠点があった。それが消えている」


「ボウケンさんが力を分けてくれたんですね」


「ただ、条件が気になる。名前が固定されている場合のみ、と。俺の名前はプレイヤーネームだ。命名されたものじゃない」


「発動するかどうか、試してみます?」


「試す」




 見聞録を全方観モードに切り替えた。


 その瞬間、世界が広がった。


 百八十度から三百六十度に。視界の砂嵐がない。五種のセンサーが全部生きている。花の台地にいるプレイヤー全員の位置が、球体の地図のように見える。根の下の構造も、背後も、本来死角になるはずの場所も全て。


 三秒で通常モードに戻した。




「プレイヤーネームでも発動条件は満たすらしい。ただ、固有の名前を持つとまた何か変わるのかもしれないな」


 セレスがトワの頬をぽんと叩いた。


「トワ。なまえ、ちゃんとある。このせかいでも、トワはトワ。セレスがしってる」


「そうか」


「うん。そう」



 メブキが双葉をぴこぴこ揺らした。



「ぜんぽうかん、すごい! トワのめ、ぴかってした!」



 トワとセレスとタマキが顔を見合わせた。



「今、メブキが、ちゃんと喋っていたか?」


「喋りましたね」とタマキ。「今までで一番長い台詞でした」


「くるくるしてたり、せんぱいとか、そのくらいしか言わなかったのに」



 メブキがきょとんとしていた。自分が何かを成し遂げたことに、全く気づいていない。


 セレスが胸を張った。



「めぶきは、セレスのこーはいだから、しゃべれてあたりまえ」


「当たり前ではないだろ」


「あたりまえ」


「ちなみに、俺の目はぴかっとしていたのか」


「した! めのいろが、ぴかってかっこいい!」


「メブキに褒められるとは思わなかったな……」


「ダメ。トワをほめるのは、セレスのやくめ」


「なんだ、その独占欲は」




 花の台地の壁面では、レクトが釣りをしていた。


 根の天蓋の壁から伸びる根に糸を垂らしている。




「レクト、今日は何を釣っているんだ?」



「根の素材です。根脈に釣り糸を垂らすと、奥から上質な素材が上がってくることがあるんですよ。新しい釣り場として最高でして」



 レクトが竿を引いた。根の奥から光る球体が飛び出した。



【「根の核珠こんのかくしゅ」を入手しました】

【根脈エネルギーが凝縮された希少素材。調合・鍛造に使用可能】



「これ、五個目です!」


「けっこう楽しそうだな」


「楽しいですよ。誰も根に釣り糸を垂らそうとは思わないから、完全に未開拓の釣り場です。昨日から、二十個くらい獲れてます」


「タマキが喜びそうな素材だな」


「持ってってください。何が作れるか、試してほしいんですよね」



 十個まとめて受け取った。タマキに渡したら案の定、目を輝かせた。



「根の核珠! これ、根脈薬の最上位素材じゃないですか。根脈の暴走を抑制する薬が作れそうです」


「どういう場面で使うんだ?」


「前回のストーリーだと、痕脈を安定させるのに使えそうですけど、今はもうクリア済みですので……まだわかりません。でもいつか、使う場面が来るかもしれません」


「また時間がある時に、装備を作りに行ってみるか。新しいレシピがあるかもしれない」


「はい! 今度また、ガルドさんのところにいきましょう。でも……その前に、約束があります」


「分かっている。二人で、外に出かけることだろう?」


「えへへ……はい。覚えていてくれて、ありがとうございます」


「約束を覚えているのは当然のことだろ。でも時期的に、蓮がそろそろ何かやりたいって言い出すかもな」


「打ち上げが先でも構いませんよ。焦っては居ませんから」


「……それじゃあ、今日は」


「少、し早めにログアウトしますね。トワさん、また明日」


「ああ、また明日」




    ◇




 夜、現実に戻ってきた。


 ログアウトしてスマホを確認すると、蓮からメッセージが来ていた。




 蓮:「来週、花見どうだ。キャンパスの桜が満開になる。オフ会も兼ねてさ」



 予想通り、蓮から花見の連絡が来た。



 冬夜:「いいぞ」

 蓮:「珍しくすんなり承諾したな。最近コミュ力上がってないか?」

 冬夜:「別に、上がっていない」

 蓮:「上がってるよ。一年前だったら、三日は保留してたろ」

 冬夜:「それは一年前の話だろ」

 蓮:「ミコトとかも来れるか確認してみる。久しぶりに、ゲーム組にも声かけてみるな」



 宮瀬にも連絡した。



 冬夜:「来週、花見をやるそうだ。蓮が主催で、オフ会を兼ねる」

 宮瀬:「本当に言ってた通りだね! ご飯は、どうする? お弁当にする?」

 冬夜:「蓮に聞いてみる」

 宮瀬:「久坂くん。一つだけ聞いていい?」

 冬夜:「何だ?」

 宮瀬:「原初の世界編、改めてお疲れ様でした」

 冬夜:「ありがとう、タマキもお疲れさま」

 宮瀬:「次は、どこへ行くの?」

 冬夜:「まだわからない。ただ、なんとなく遠いところへ行く気がする」

 宮瀬:「遠いところ……」

 冬夜:「もちろん、ゲームの方の話だぞ」

 宮瀬:「わかってる。でも現実でも、一緒に来ていいなら、どこでも行くよ」



 しばらく画面を見つめた。



 冬夜:「花見にも、ゲームでも来てくれ」

 宮瀬:「えへへ……うん、行く」




    ◇




 翌朝。


 BCOのフォーラムのトップに、新しい告知が上がっていた。



【BCO運営チームからのお知らせ:大型アップデート予告】

【タイトル:「楽土の章」】

【実装予定:来月上旬】

【世界の端に、新たなエリアが出現します】

【詳細は実装日に公開します】



 フォーラムが即座に騒ぎ始めた。



 ──「楽土の章!? 深淵の章に続く新章か!」

 ──「楽土って何だ。楽しい土地? リゾート系か?」

 ──「世界の端に新エリアだと! マップ外に何か作ったぞ!」

 ──「なんか、イベントバナーにバニーガール衣装が見えるんだけど……」

 ──「バニーガール!? カジノとか、そっち系か!?」

 ──「今回も詳細を明かさないのは、運営の趣味なのか」

 ──「来月上旬……一ヶ月あるな。待ち遠しい」

 ──「トワは、何してるんだ。こういう告知、一番に反応しそうなのに」



 冬夜はフォーラムを閉じた。


 来月。


 今は花見がある。宮瀬との約束もある。


 それが済んだら、世界の端に何があるか見に行こう。


 ゴーグルをテーブルに置いた。今日は休む日だ。たまにはゲームより先に、外の空気を吸う。


 窓を開けた。春の匂いがした。桜の季節だ。


 次の旅まで、もう少し。



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― 新着の感想 ―
最終回レベルで話が終わりかけたのにまだまだあるのか、これで終わりかーって思ってた矢先に続きが出てくる、飽きさせてくれないね、すばらしい
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