表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイブ・クロニクル・オンライン ~全員が捨てた初期職を7000時間やり込んだら、Lv1で最強になっていた~  作者: ぶらっくそーど


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

265/363

前夜


 深淵の章、実装前夜。


 エルシオンの調和の里。全員が集まっていた。

 トワ。セレス。ルーナ。ゼクス。アストレア。タマキ。ハル。ダリオ。ヴェノム。

 里の広場。焚き火の周りで座っている。――アップデートが来たる明日、世界が変わるのだ。



「明日……遂に【深淵】が開く」

 そう切り出したトワに、仲間たちは耳を澄ました。

「何が待っているかわからない。グランは『四つ目の光は自分で灯せ』と言った。最後の鍵はまだ見つかっていない。【深淵】の中で見つけるしかない」


「見つかりますよ」ハルが言った。「師匠が七千時間歩いてきた道の中に、答えがある。グランさんが、そう言ったんですから」

「道の中にあるなら、歩いていれば辿り着く。旅人の基本……だろ?」ゼクスが言った。

「聖騎士の矜持にかけて、最後まで一緒に歩きます」アストレアが聖剣を掲げた。

「薬は万全です。深淵用の耐性薬を六十本。回復薬を百二十本。タマキ塾の生徒が、量産を手伝ってくれました!」

「航海士は、水があろうがなかろうが潜るぜ」ダリオが笑った。

「旅人の集いは全員、虚空訓練を完了している。いつでも行ける」ヴェノムが腕を組んだ。

「ルーナの夜が必要になる場所がある。──わたしは、そのために来た」

 ルーナが影の中から手を出した。セレスがその手を握った。

「ルーナ。いっしょにいく」

「うん。──一緒に」


 セレスがトワの肩に座り直した。角がぽわっと光った。


「トワ。セレスは、いつもいっしょだよ」

「ああ……知っている」

「しんえんのそこまで、いっしょ」

「ああ……」

「こわくない?」

「……少し、怖い」

「セレスも。──でも、トワがいるから、だいじょうぶ」


 焚き火がぱちぱち鳴っている。煙が夜空に昇っていく。エルシオンのオーロラが頭の上で揺れている。六十秒の鼓動。安らかな眠り。

 テンがブーツの上で光っていた。穏やかな光。五回の明滅ではなく、ゆっくりとした一回の長い光。


「テン。お前も行くか」

 一回、了解の合図だ。

 みんなが言葉もなく焚き火を見守る中、ふとタマキが立ち上がった。

「あの──前夜なのに、なんだか暗い空気になってますね。わたし……パンケーキ焼きます! エリーさんの秘伝のレシピで!」

「なにっ……パンケーキ?」

「エリーに教わったんです。夢見のパンのアレンジで、焼くとふわふわになるパンケーキ。名前は──『夢見のパンケーキ』です」

「そのままだな」

「そのままがいいんです。──食べましょう、明日のために!」


 タマキがフライパンを取り出して、焚き火でパンケーキを焼き始めた。エルシオンの夢の蜂蜜を生地に練り込んだ特製。焼ける匂いが広場に広がった。


 全員が──匂いにつられて、表情が緩んだ。


「いいにおい」セレスが鼻をくんくんさせた。

「タマキの料理スキル、いつの間に上がったんだ」ゼクスが聞いた。

「「薬の調合と料理は同じです。素材を測って、手順通りに処理して、温度を管理する。現実でもゲームでも、同じことを言い続けてます」

「クリスマスに、現実で料理を作った時も、同じ理屈で押し通したらしいからな」トワが言った。

「押し通したんじゃないです、事実です」

「それ、誰のセリフ……いや、受け売りだ?」

「秘密ですよ。強いて言えば……目の前にいる方の受け売りです」

「そうだろうな」

「ええ、もちろんそうです」


 パンケーキが焼けた。全員に配った。エルシオンの蜂蜜が黄金色に光っている。

 セレスが一口齧った。



「おいしい。──あまくて、ふわふわで、あったかい」

「どう、セレスちゃん? 元気出た?」

「でた。──セレス、げんきいっぱい」

「よかった」タマキがほっと笑顔を浮かべた。「では明日、全力で行きましょう」


 パンケーキを食べ終えた後、一人ずつ寝場所に向かった。

 トワは最後まで焚き火の前に座っていた。セレスが膝の上で丸くなっている。ルーナが影の中で静かにしている。テンがブーツの上で光を消している。


 焚き火の残り火。エルシオンの空。オーロラ。六十秒の鼓動。

 足元に微かな振動。

 ──あしたも、あるいてくれる?


「ああ。歩く。──明日も、明後日も。世界の底まで」

 ──くすぐったいのが、なくなったら、さびしい。

「なくならない。──俺が歩く限り」


 エルシオンの心臓が、六十秒感覚で脈打っている。穏やかに、安らかに。

 深淵の章が、明日始まる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ