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ブレイブ・クロニクル・オンライン ~全員が捨てた初期職を7000時間やり込んだら、Lv1で最強になっていた~  作者: ぶらっくそーど


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弟子たちの旅

 

 ある時――トワは考えた。

 俺がBCOで最も苦手なことは何か。


 戦闘じゃない、lv1でもここまで来れた。探索でもない、七千時間歩いてきた。釣りは苦手だったが、前回で克服した。


 苦手なのは──たぶん、他人に任せること。

 自分で歩けば確実に踏破できる。自分で調べれば見落としがない。自分で判断すれば最適解を出せる。だから、全部自分でやりたくなる。


 だが、エルシオンは広すぎた。


 心臓安定化後、新エリアが次々と出現している。眠りの庭に続いて、火のエリアに「灼原の化石林」、水のエリアに「碧光の泉」、風のエリアに「天歌の岬」。踏破率100%を達成したはずなのに、大陸が目覚めの寝返りを打つたびに、新しい場所が生まれる。



 俺一人では……今はまだ回りきれない。



「師匠。提案があります」

 ハルが導師の杖を握って、真剣な顔をしていた。

「旅人の集いのメンバーで、新エリアの調査を分担しませんか。師匠は、全部自分で歩きたいと思いますけど、新エリアの出現速度に、一人では追いつけないと思います」

「……わかっている」

「わかってるなら任せてください。踏破作戦の時と同じです。各チームが先行調査して、データを師匠に共有する。師匠は、後から歩いて踏破するんです!」


 踏破作戦のサイクル。あの時はうまくいった。各チームが先行調査し、俺がデータを使って効率的に歩いた。

 だが……あの時は心臓のタイムリミットがあったから、仕方なくチームに任せた。今はタイムリミットがない。自分で歩く時間はある。



「師匠。自分で歩きたい気持ちはわかります。でも、わたしたちも──歩きたいんです」

 ハルの目が、いつになくまっすぐだった。

「旅人の集いのメンバーは、師匠の背中を見て旅人になりました。師匠が全部歩いてしまったら、わたしたちが歩く場所がなくなります」

「なるほど……そういうことか」

「はい。今回だけは、弟子に──仲間に、道を残してみてくれませんか?」

 弟子ではないと何度も言ったが、もう訂正するのはやめた。

「わかった、任せよう」

 ハルが泣きそうな顔で笑った。

「ありがとうございます、師匠!」




    ◇




 そうして旅人の集いのメンバーが、新エリアの調査に散開した。


 火のエリア「灼原の化石林」にはヴェノムが向かった。今では弱小クラスの旅人だがプレイヤースキルは元Lv86の盗賊。戦闘能力は低くても、探索能力は高い。



 ヴェノム:「化石林に入った。巨大な骨がある。見聞録で解析──大陸獣エルシオンの……歯だ。乳歯。エルシオンが子供の頃に抜け落ちた歯が、化石になったらしい」

 トワ:「大陸獣の乳歯……スケールがおかしいだろ」

 ヴェノム:「乳歯一本が三十メートルある。デカすぎる」

 トワ:「エルシオンの現在の体長を考えれば、幼体の頃でも数十キロメートルはあっただろう。歯が三十メートルでもおかしくはない」

 ヴェノム:「おかしくないのか。──この世界の尺度に慣れてきた自分が怖いよ」



 水のエリア「碧光の泉」にはダリオの航海士チームが向かった。



 ダリオ:「泉の中に光る魚がいる! 前の釣り大会で見つかった七色鱗とは別種だ! 身体全体が発光していて、泳ぐ軌跡が光の線になる。名前は──【流星魚(りゅうせいうお)】!」

 トワ:「光の線を引いて泳ぐ魚か。……観賞用か?」

 ダリオ:「それがな、食ったら移動速度+20%のバフがついたんだ! 観賞用じゃなかったぞ!」

 トワ:「食ったのか、光る魚を?」

 ダリオ:「航海士は海の恵みを食う種族だからな!」



 風のエリア「天歌の岬」には、ハルと旅人の集いの有志が向かった。



 ハル:「師匠! 天歌の岬、すごいです! 風が歌ってます! 文字通り歌ってます! 岬の形が天然のオカリナみたいになっていて、風が吹き抜けるとメロディが鳴るんです!」

 トワ:「風が歌う岬か。BGMが自然発生しているのか」

 ハル:「はい! しかも風向きによって曲が変わります! 今は穏やかな曲ですけど、強風だと激しい曲になるらしいです。プレイヤーが集まり始めてます。観光スポットになりそうです」

 トワ:「観光スポットか。──BCOもそういう楽しみ方ができるようになったな」

 ハル:「師匠。一つ報告が。天歌の岬の崖の下に──洞窟があります。サーラの秘密基地と似た構造です。まだ……入っていません。師匠が、最初に入るべきだと思って」

 トワ:「どうしてそう思う? お前が見つけたなら、お前が入ればいい」

 ハル:「わたしは先行調査です。発見は師匠の仕事です。──弟子が師匠の前を歩くわけにはいきません」

 トワ:「弟子じゃないと、何度言えば──」

 ハル:「いいえ、何度でも……わたしは、師匠の弟子です」



 仲間たちがそれぞれの場所で、それぞれの旅をしている。俺の背中を見て歩き始めた旅人たちが、今は自分の足で歩いている。


 悪くない。

 悪くないが──少し、寂しい。肩の上のセレスが、俺の顔を覗き込んだ。



「トワ。さびしい?」

「寂しくない」

「うそ。──トワ、みんながいないとさびしいかおする。むかしは、しなかった」

「昔は、一人が当たり前だったからな」

「いまは?」

「今は──一人が当たり前ではなくなった」

「それ、さびしいってこと」

「……そうかもしれないな」

「セレスはいるよ。いつも」

「ああ、知っている」

「じゃあ、さびしくない」

「……そうだな」


 精霊の論理は単純だけど、正しかった。

 


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