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ブレイブ・クロニクル・オンライン ~全員が捨てた初期職を7000時間やり込んだら、Lv1で最強になっていた~  作者: ぶらっくそーど


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《聖王の回廊》


 二つの試練をクリアしたことで、正面の道──聖王の回廊が開いた。



【信の試練:聖王の回廊。──この先に、聖王カレンがいます】




「信の試練……力でも知でもなく、信か」ゼクスが呟いた。

「何を信じるかの試練だろうか」

「考えすぎだよ、ゼクスさん。きっと、行けばわかるはず」ハルが先に歩き出した。

「そうか……だといいがな」




 聖王の回廊は、長かった。

 ただの直線の廊下。モンスターもいない。罠もない。ただ歩いていくだけで、セレスが退屈そうにトワの肩の上で足をぶらぶらさせている。



「トワ。ながい」

「ああ、そうだな」

「おやつ、たべていい?」

「まあ……いいんじゃないか」

「ほら、トワも、おやつ」

「歩きながら食べさせるな」

「じゃあ、とまって、たべる」

「止まらない、歩く」

「じゃあ、あるきながらたべる」

「……最初に戻ったぞ」



 壁にステンドグラスが連なっている。

 最初のステンドグラス。──若い旅人が、杖を持って歩いている。笑顔で、世界を旅している。




「これ、カレンだ」セレスが言った。「わかい、カレン」



 次のステンドグラス。旅人が仲間と歩いている。旅人と、聖女と、老人と。三人の旅。



「聖女は、きっと西の楔を守っていた彼女のことだろう。老人は……ヴィアか」

「三人の旅……トワさんと、セレスちゃんと、わたしみたいですね」タマキが呟いた。

「セレスだけじゃない、ルーナもいる」

「そうでしたね、ルーナちゃんもいます!」

「でも、セレスとルーナは、にんずーにはいらない。せーれーだから。トワのいちぶ」

「師匠! わたしも、師匠の一部ですよ!」

「それは流石に無理があるんじゃないか……?」



 旅人が世界の全てを踏破する。地図が完成する。でも、地図の端に、黒い点がある。

 旅人が黒い点に近づく、深淵。手を伸ばす。仲間が止めようとしている。だが旅人は──

 ステンドグラスの旅人の表情が……変わった。笑顔が消えて、恐怖に染まっている。





「トワ。──このさき、きになる」セレスがステンドグラスを見上げている。



 旅人が王冠を被っている。白い鎧、光の国の王。しかし目が、怯えている。

 王が国を光で満たす、影を消す、記憶を消す、住人が笑顔になる。でも王だけが、笑ってない。

 王が大聖堂に入る。扉を閉じる。鍵をかける。──一人になる。



 最後のステンドグラス。王が一人で、小さな部屋に座っている。周囲には誰もいない。壁に手をついている。──泣いている。

 セレスがおやつを握ったまま、じっと見つめていた。


「カレン……ないてる。ひとりで、ないてる。──セレスも、ソルシアでひとりだったとき、ないた。おなじかお」

「大丈夫だよ、今はもう一人じゃないから」



 ルーナが影の中から顔だけをにょきっと出す。セレスはえへへと笑う。



「カレンさんの人生が……全部描いてあるみたいですね」タマキが顔を俯かせた。

「自分の人生を、誰にも見られない場所に──」アストレアが目を伏せた。

「いや、違う……これはきっと、見てほしかったんだろう」



 トワの言葉に、全員がはっと顔を上げた。



「カレンは、誰かにこの絵を見てほしかった。自分が何をしたか、なぜこうなったか。理解してほしかった。だから大聖堂に残した……千年間、誰も来なくても」



 回廊の先に扉が見えた。あと五十メートルほど。


 そのとき──大聖堂に異変が起きた。

 足元が揺れる。天井が軋む。ステンドグラスに亀裂が入る。




「地震──じゃないよな」


 

 ゼクスが身構える。建物全体が獣みたいな唸りの音を発して、足元の石畳が振動し始めた。

 システムメッセージが表示された。──赤い文字。





【──警告──】

【大聖堂管理システム:異常を検知しました】

【未認可の侵入者が聖王の回廊に到達しました】

【──最終防衛機構を起動します──】





「トワ。──セレス、かんじる。このシステム──カレンがうごかしてない。べつのなにかが、あやつってる」

「なに……? 別の何かとは、いったい──」



 言い終わる前に、床が動いた。

 石畳の床が、巨大な歯車のように回転を始めた。足元が滑る。六人が立っている区画が──三つに分割され、ゆっくりと回り始めた。



「うわっ──! 床が──!」



 ハルがバランスを崩し、タマキにぶつかった。



「ハルちゃん重いです──!」

「ごめんなさい──って、わたしそんなに重くないですよ!?」

「二人とも、今それどころじゃないだろ!」



 床だけじゃない。壁が横にスライドして、天井が回転し、階段が持ち上がり──大聖堂が、巨大な立体パズルのように組み換わっていく。



 部屋と廊下と階段が──がちゃがちゃと位置を入れ替えている。ルービックキューブの内側にいるような感覚。



 トワ、セレス、ゼクスが乗っている区画が下に沈んだ。大聖堂の深層へと引きずり込まれていく。



「トワさん──!」タマキが手を伸ばした。だが壁がせり上がり、視界が遮られた。



 アストレア、タマキ、ハルの区画は──横にスライドし、大聖堂の側廊に繋がった。

 回転が止まった時──大聖堂の構造は完全に別物になっていた。




    ◇




 下層。トワ、セレス、ルーナ、ゼクス。



 暗い通路に立っていた。ステンドグラスの光が届かない。──そして壁が脈動している。ドクン、ドクン。心臓の鼓動みたいに。




「分断されたか」ゼクスが通路を確認した。「上に戻る道はない。──下に進むしかないようだ」

「管理システムが暴走している。──だが、セレスが言うには、カレンの意志じゃない。別の何かがシステムを操っているようだが……」と、トワ。


「カレンの意志とシステムの意志が──矛盾している? カレンは『来い』と言ったのに、システムは排除しようとしているのか」いぶかしむゼクス。


「トワ。このシステムのうごき──カレンのにおいじゃない。もっと──つめたい」



 冷たい──【闇】。



「まさか大聖堂の管理システムに、【闇】が侵入しているのか?」

「まだわからない。でも──つめたいのは、まちがいない」



 ルーナが影の中から声を出した。



「わたしも感じる。この建物の奥に──冷たいものがある。わたしが千年間浸されていたのと、同じ冷たさ……」

「ルーナまで言うなら……間違いないな」



 二人と二精霊で通路を進む。壁の脈動が──強くなっていく。



「ところで、セレス」ゼクスが歩きながら聞いた。

「なに」

「さっきのおやつ、結局食べたのか?」

「たべた。でも、さいきん、トワきびしい。ぜんぶたべると、おこる」

「ダメだよ、セレス。おやつもおかねがかかってるんだからね」

「わかってる。だから、バレないうちに、ぜんぶたべた」

「……」

「おい精霊。そんなことを言ったら、全部バレないか?」

「あ」

「……」

「セレス。あれだけあったおやつ、全部食べたのか? 怒らないから、正直に言え」

「たべました」

「こら、セレス~!」

「どーしてルーナがおこるの。セレス、むざい」

「まあ……たまになら大目にみるが……ほどほどにしてくれよ、頼むぞ」

「トワ。お前らは、いつもこうなのか?」

「いつもだな」

「いつもですね」

「いつも」

「そうか……」



 ゼクスのため息だけが通路に響いた。



    ◇




 上層・側廊。アストレア、タマキ、ハル、シロ。



「今頃……あっちはどうなっているんでしょうか。トワさんと、連絡を取ってみますね」



 タマキがチャットで確認した。



「ダメです……大聖堂の内部ではチャットが遮断されてます。外にも繋がりません」

「完全に分断されちゃいましたね」

「シロがこっちにいるのは予定外だけど──」ハルがシロの頭を撫でた。「シロ、あなた狙ってこっちに来たでしょ」

「どうして、シロがこっちに来たがってると分かったんだ?」アストレアの問い。

「それは……えへへ、ちょっと……面倒を見ていたので」



 ハルがインベントリからドッグフードを取り出し、床にまいた。

 シロは嬉しそうに飛びついた。なんと、取ってこい用の骨まである。



「なんだか……ペットみたいですね」

「こら、清き光の狼が、ペットに成り下がってはダメだろう。白狼よ、尊厳を取り戻すのだ!」



 アストレアがお説教をする。

 シロは首を傾げた。知らんぷりの顔だ。



「犬って、こういう時だけ都合よくわからないフリするんだよね」

「シロは犬じゃないですよ。光の白狼さんです」ハルがフォローした。

「見るからにわんちゃんだと思うけど……光の白狼も、都合よくわからないフリをするの?」



 シロが再び尻尾を振った。肯定とも否定とも取れる、絶妙な態度。



「まあいいです。四人──いえ三人と一匹で、進みましょう」



 アストレアが聖剣ルミナスに光を灯し、薄暗い側廊を照らした。



「トワさんなら、向こう側でも大丈夫。わたしたちはわたしたちのやり方で、合流地点を見つけます」



 通路を進む。壁に管理システムの自動メッセージが刻まれている。




【警告:この区画は管理システムの制御下にあります。速やかに退去してください】




「退去してくださいって言われても……出口もないし……」タマキが苦笑いした。

「『退去してください』って、こんな丁寧な追い出し方するシステム初めて見ました」ハルが呆れた。

「カレン王が設定したからかな。──元旅人だし、礼儀正しいのかも」

「礼儀正しく追い出されても、困るんですけど……」



 通路の先に──広間が見えた。そこに何かがいる。白い光。



「来ましたね。──準備しましょう」



 アストレアが剣を構えた。タマキが薬の瓶を確認した。ハルが杖を握った。シロが低く唸った。

 トワのいない戦い。──でも、一人じゃない。

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