《障壁、消える》
友好度レイドから五日後。
【聖都ルクスの信頼度:100%に到達しました】
【光の障壁が──完全に消滅します】
大聖堂への道を塞いでいた光の障壁が──消えた。
白い光が霧のように薄れていって、その向こうに、大聖堂への長い石畳の道が現れた。
聖都の住人たちが──集まってきた。大通りに、NPCたちが。パン屋のエリー、武器屋の親父、宿屋の女将、花屋の少女。──記憶を取り戻し始めたNPCたちが。
「旅人さん。──道が、開いたのね」エリーが言った。
「ああ」
「あの先に──王がいるの?」
「いる。──会いに行く」
「……気をつけてね。カレン王は……怖い人じゃないの。でも、とても……悲しい人よ」
悲しい人。
「昔のカレン王は……笑う人だったの。パン屋にも来てくれて……みんなと同じものを食べて、みんなと話して。旅人だった頃の話をしてくれて……でもある日から、笑わなくなった」
エリーの記憶が、少しずつ戻っている。カレンの、王になる前の記憶。
「どうか……カレン王を──」
エリーが言いかけて、言葉を飲み込んだ。代わりに、焼きたてのパンをトワに差し出した。
「これ、持っていって。ルーチェのパン――カレン王の……好物だったの。昔は」
トワはパンを受け取った。温かい。焼きたてだ。
「ありがとう。──必ず、届ける」
集まっていたプレイヤーたちが、トワを見送っていた。聖都のNPCたちが、並んで立っている。記憶を取り戻したNPCと、まだ戻りきっていないNPC。──でも全員が、大聖堂への道に立つトワを見ていた。
「頑張れトワさん!」
「カレン王に会ってきてくれ!」
「友好度レイド完走したぞ! あとは、トワさんに任せた!」
トワは振り返らなかった。だが、一歩目を踏み出す前に、ぽつりと言った。
「みんなのおかげで、ここまで来れた。ありがとう」
聞こえたかどうかはわからない。でもセレスが肩の上で、代わりに叫んだ。
「トワが、ありがとう、っていった! みんな、きいた!?」
歓声が上がった。
「聞こえた!!」
「トワさんがお礼言った!!」
「レア度SSSSだぞ!!」
「まじ!? 夢じゃねえよな!?」
「だれか配信……配信してたやつはいねえか!?」
「アーカイブで聞いてみようぜ!」
喧騒が広がる中、トワは少しだけ足を速めて、大聖堂への道を歩き始めた。
メンバーは七人と一匹。トワ、タマキ、セレス、ハル、ルーナ、ゼクス、アストレア。そしてシロ。
石畳の道の両側に、白い花が咲いている。ルーチェ草。エリーのパンの材料と同じ花。カレンが好きだったパンの材料。
大聖堂の尖塔が──近づいてくる。白い塔。光の国の中心。聖王カレンがいる場所。
「トワ、きんちょーする?」
「しない」
「うそ。──てが、すこし、ふるえてる」
「……風だ」
「かぜはふいてない」
「……」
「だいじょーぶ。セレスがいる。ルーナもいる。みんないる。──トワは、ひとりじゃない」
「ああ……わかっている」
大聖堂の扉の前に立った。巨大な白い扉。金色の紋章が刻まれている。──押せば、開く。
手を扉にかけた。
エリーのパンの温もりが──アイテムストレージの中から、伝わってくる気がした。
「開けるぞ」
扉を──押した。




