《友好度レイド》
蓮の投稿は、瞬く間にフォーラムのトップに上がった。
【トワからの依頼】聖都ルクスの住人と仲良くなってください【友好度レイド】
──「友好度レイドとかいう謎ワード」
──「NPCに話しかけるのがレイドとは」
──「でもこれ、大聖堂への道を開く条件なんだろ? トワ一人じゃ時間がかかりすぎるから、全プレイヤーに協力を求めてるのか」
──「つまり──街のNPCに話しかけまくるイベント?」
──「ゲーム歴史上初だろ、これ」
──「でも面白そう。なあ、みんなもやろうぜ」
──「パン屋のエリーさんに果物渡したら友好度上がったぞ。ちゃんと見ると、笑顔が可愛い」
──「武器屋のNPCに剣の素材渡したら、自分の名前思い出して泣いてた。こっちまで泣きそうになったわ」
──「これ……普通に良いイベントだな」
聖都ルクスに、プレイヤーが殺到した。
ボスを倒すためではない。NPCに話しかけるために。
大通りでは、プレイヤーたちが各々のNPCを「担当」して、毎日通い始めた。パン屋担当、武器屋担当、宿屋担当、花屋担当。──まるで町内会のようだ。
「エリーさん! 今日はリンゴ持ってきましたよ!」
「まあ、嬉しい……──あなた、毎日来てくれるのね」
「はい! エリーさんのパン、大好きなので!」
「おっちゃん! この剣、打ち直してくれない?」
「剣か……ああ、これは……懐かしい鍛造法だな。昔やったことがある……気がする」
「思い出しかけてるじゃん! 頑張れ、おっちゃん!」
NPCの友好度が、聖都全体で上がっていく。一人のプレイヤーが一人のNPCを担当し、毎日話しかける。トワ一人では何ヶ月もかかるところを……数百人のプレイヤーが同時にやれば、数日で済む。
NPCたちの反応が日に日に変わっていった。定型文が減り、自分の言葉が増えていく。名前を思い出すNPCが増えていく。
【聖都ルクスの信頼度:62%──】
「上がってきてますね!」ハルが信頼度メーターを見つめている。
60%を超えた辺りで、NPCたちの間に、新しい変化が起きた。
NPC同士が──会話し始めた。
「エリーさん、今日のパン美味しかったわ」
「ありがとう──あなたの名前……思い出せないけど、顔は知ってる気がする」
「わたしも。ご近所さんだった……かもしれない」
記憶が完全には戻っていない。でも、人と人の繋がりが、少しずつ復元されている。
それを見ていたプレイヤーたちが、フォーラムにこう書いた。
──「友好度レイド、クリア報酬がNPCの笑顔って何なんだよ。泣くわ」
──「流石に神ゲー」
──「しかし、トワがいなかったら攻略にはしばらくかかっただろうな……」
──「トワさんだろ、でこすけ野郎」
──「まじで、こういうイベント好きだわ」
──「協力あり、NPCイベントありって、いいよな」
──「トワさん、次は!? 次はまだっすか?」
──「自分で歩いて考えろって言われるぞ」
──「目を閉じると、まじで聞こえてくるな、それ」
◇
信頼度が78%に達した夜。
トワは宿屋の屋上にいた。セレスが肩の上、ルーナが影の中、シロが足元で丸くなっている。
聖都の夜景が、変わっていた。以前は白い光で均一に照らされていた街が、今は窓に暖色の明かりが灯っている。NPCたちが「夜」の概念を取り戻し始めたのだ。
「トワ。まちが──あったかくなった」
「ああ」
「むかしのルミナリアも、こうだったのかな」
「今度、ヴィアに聞いてみるか」
「うん。でもね、いまのルミナリアも、すき。トワと、みんなが、あるいてるから」
ルーナが影の中からそっと言った。
「……わたしも。この街の夜が──少しずつ、本当の夜になっていくのが……嬉しい」
「ルーナは、よるのせーれーだから、よるがもどると、うれしいんだね」
「うん……夜がないと、わたしの居場所がないから。この街に夜が戻れば……わたしも、影の中じゃなくて……外に出られるかも」
「でたらいいよ。セレスのとなりに、おいで」
「……いいの?」
「いいよ。ルーナは、なかまだもん。──さんばんめだけど」
「三番目は忘れないんだ……」
トワはルーナの声を聞きながら、空を見上げた。──ルミナリアの空に、まだ月は出ていない。時間的にはもう夜だが、空はまだ昼のままだ。セレスの月光で擬似的に夜を作れるが、それは本当の夜ではない。
だが──信頼度が100%になれば。聖都の住人たちが完全に記憶を取り戻せば。この国にも──本当の夜が来るかもしれない。




