夏の帰り道
土曜日。現実世界。八月。
冬夜と宮瀬が、大学の近くの並木道を歩いていた。もう外は、蝉が鳴いている季節だった。
「暑いね」
「ああ……暑い」
「でも、歩くのは好き。──久坂くんと歩くの」
「俺も、まあ……嫌いではないが……」
「嫌いではない、じゃなくて、好きでしょ」
「……」
無言になる冬夜に、宮瀬が笑った。額に汗が光っている。
「ねえ、久坂くん。ルミナリアは、どう?」
「広い。──砂漠だけで三日かかった。モンスターも生態系が全然違う。蜃気楼が実体化したやつがいて、ルーナの夜がないと本体が見えない」
「あははっ、ルーナちゃん大活躍じゃん」
「そうだな。今のところルーナがいなければ、ルミナリアは攻略できない」
「セレスちゃんは、嫉妬してない?」
「してる。──毎日『ルーナばっかりずるい』と言ってきてる」
「セレスちゃんらしいね」
並木道を歩く。夏の光と、濃い緑、涼しい日陰。ルミナリアにはないものだ。こうして当たり前に影がある世界が、少しだけ贅沢に感じる。
「ねえ久坂くん。──わたし、BCOで新しいレシピ作ったの」
「光砂のスープか?」
「ううん、もう一つ。──光蠍の針から解毒薬を作れるようになった。ルミナリア固有の、光属性の状態異常を治せるやつ」
「マーサに教わったのか?」
「ううん。自分で考えた。──マーサさんに教わったのは基礎だけ。応用は自分で……だから、その……久坂くん、褒めて?」
「すごいな、宮瀬は」
「えへへ……」
「本当にいつもありがとう。お前が──俺の旅を、一番近くで支えてくれている」
宮瀬の笑顔が一瞬固まり、直ぐに恥ずかしげな表情に変わった。
「ずるい、久坂くん。──こんな暑い日に、そんなこと言わないでよ」
「暑い日に言ったらダメなのか?」
「ほら……暑くて、どきどきしちゃうから」
「確かに、心拍数は上がっているな」
「いったい誰のせいなんだろうね?」
「誰のせい? ……難しい話だな」
並木道の途中に、自販機があった。冬夜が立ち止まって、ペットボトルを二本買った。冷たい麦茶。一本を宮瀬に渡す。
「これで水分補給してくれ」
「……ありがと、久坂くん」
宮瀬がペットボトルを頬に当てた。冷たさで、赤くなった顔が少しだけ冷える。
「ねえ……久坂くん」
「なんだ」
「このお茶、返さないかも」
「まだ、飲んでいないだろう」
「飲んでも、ペットボトル捨てないかも」
「……ゴミは捨てた方がいい」
「やだ。久坂くんが買ってくれたやつだから」
「ペットボトルに感情移入するな」
「するの。──したいの」
冬夜は──宮瀬を見た。ペットボトルを両手で握って、頬に当てている。夏の光が宮瀬の横顔を照らしている。汗が光っている。
二人で歩いた。夏の並木道。蝉の声。木漏れ日。冷たい麦茶。
言葉は──もう少しで見つかる。「特別な仲間」よりも、もう一歩先の言葉が。
でも今日は、冷たい麦茶で十分だろう。




