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『katharsis』探偵事務所  作者: 成橋 阿樹
第二章 悲劇を喜劇に
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エピローグ

「淳史センパーイ……聞いてくださいよお」


 早々と瞭良さんが事務所にやって来た。

 テーブルに頭を垂れ、ブツブツと不満を口にするのは、変わらずも杜嵜 緋色の事だ。


「杜嵜と父親を宥めたの、俺なんですからね? 淳史先輩、見てたでしょ? 少しくらい打ち解けてくれたっていいじゃないスかあ……なのに、今抱えてる依頼、また勝手に一人で調査に行ってるんスよー……」

 淳史さんは、少し困ったように瞭良さんを見ていたが、亮二さんは揶揄うように笑うと言う。

「はは。また撒かれたのか。瞭良、お前、尾行下手なんじゃねえ?」

「亮二さんっ! それはないっスよ!」

 瞭良さんは顔を上げ、向いに座った亮二さんを軽く睨む。


「ああ、そう言えば聞いてます? 杜嵜 新、完全に廃業しましたよ。伯羽たちは事務所の場所を変えて、続けるみたいっスけど。九埜も一緒みたいっスね」


 やっぱり続ける事にしたんだな……。

 伯羽にしても悪徳ではない事を祈るが、まあ……大丈夫だろう。伯羽も九埜と同じように、自分に非を向けられるように振る舞っていたのだろうから。


 珈琲を淹れると僕と淳史さんは、二つずつカップを持ち、淳史さんは瞭良さんの隣に、僕は亮二さんの隣に座った。

「瞭良、ここで油を売っていると、緋色にも早水さんにもバレるぞ?」

「なんスか、亮二さん、杜嵜は俺を撒いたんスから別にいいとして、ボスにバレる訳ないっしょ」

 ケラケラと笑う瞭良さんに、亮二さんはニヤリと笑う。


 事務所のドアが開き、入って来る人の足音が僕たちの前で止まる。

 あー……。


「……瞭良。お前、緋色と一緒に出たんじゃないのか」

「うわっ! なんでボスがここに来るんスかっ」

 瞭良さんを睨む、早水さんの隣でオーナーが笑っている。


「ショウと約束していたんだよ、今日は圭介の店がオープンして十年だからな。前々から話していたんだが、依頼が依頼だったからな、中々話を進められなくてね。依頼も終わった事だからサプライズをと、ショウのところの探偵にも協力して貰おうと思ってね」

「ボスがサプライズって……顔に似合わないっスね……」

「瞭良……」

 早水さんの表情が更に険しくなる事に、瞭良さんは席を立った。

「あ、俺、調査に行かなくっちゃっ。じゃ、詳しく決まったら、俺にも教えて下さいよー」

 そそくさと瞭良さんは事務所を出て行った。


「そういえば、ずっと『圭介さんの店』って言ってるけど、店の名前ってあるんだよね? 隠れ家みたいなバーだから、表に看板もないけど……」

 今更ながらもそう言った僕に、オーナーがふっと笑みを見せて答えた言葉に、僕は胸が一杯になった。


「BAR『katharsis(カタルシス)』だよ」



『パートナーだった親友同士の最終的に持った夢が違ったからね……僕はショウの力になってあげられなかった。ショウは探偵事務所を開きたかったし、僕はバーを開きたかったしね』


 ……圭介さん。



 その夜、圭介さんの店『katharsis』は賑やかだった。


 亮二さんが僕に言う。

「ユウ、お前が圭介さんに言った言葉……圭介さんは嬉しかったと思うよ」


『十分、力になってると僕は思ってるよ。それは亮二さんだって淳史さんだって、勿論、オーナーは一番に感じていると思う。それは証明出来る事だよ。だって……』


 僕たちはここに集まるんだから。


 僕は、楽しそうな皆の様子を眺めながら言った。

 そうだなと、柔らかな笑みを見せて頷いた亮二さんが飲む酒は『ブラック・ルシアン』だった。



「僕たち探偵だって『katharsis』は必要だよね」

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