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美少女な後輩の片思い相手が、どう聞いても俺なんですが  作者: 永菜葉一


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7/22

第7話 葛藤のゆにちゃん、ギリギリで髪フェチを許容する

「暑いねー……」

「蒸しますよねー……」


 さて、今日も今日とて手芸部の部室。

 俺とゆにちゃんは向かい合って座っている。


 ただ今日は二人とも若干グロッキーだった。


 というのも暦は今、6月。

 梅雨真っ盛りで蒸し暑い。


「部室のエアコンってまだつけちゃいけないんだっけ……?」

「はい、エアコンの稼働は7月からなので……風紀委員さんに見つかったら怒られちゃいます」


 お互いにうちわでパタパタと自分を扇ぎつつ、だらだらと会話。


「でもうちわで手を動かすだけで……」

「はい、なんか暑さが増しますよねー……」


 はあ、と2人でため息。

 するとゆにちゃんがうちわを長テーブルに置いて提案してきた。


「じゃあ、こうしましょうか?」

「なに?」


「ジャンケンをして、負けた方が勝った方を扇ぐ、っていうのはどうです?」

「なるほど」


 それならうちわを動かす必要がなくなる。

 実質、扇風機の前にいるようなものなので、勝者には涼しい風が約束されるというわけだ。


 よーし、と俺もうちわを置いた。


「いいよ。忠告しておくけど、俺、わりとこういう勝負は弱くないからね?」

「ふふん、策士のわたしに勝てるとでも?」


 キラッと目を光らせる、ゆにちゃん。


「では、一本勝負です」

「よし」


「ルールは単純。ジャンケンで負けた春木(はるき)先輩がわたしを扇ぐということで!」


「望むところさ! ……ん? ちょっと待って。なんで俺の敗北があらかじめルールに明記されてるの⁉」


 と、待ったの意味で手を広げた時だった。

 ゆにちゃんが高速呪文のようなハイスピードでまくし立てた。


「――はいジャンケンポンやったわたしの勝利でーす!」

「ぎゃーっ!?」


 勝利のVサインのチョキを掲げられ、手を広げたままだった俺は絶叫。


 ………………。

 …………。

 ……。


 で、結局。

 

「うぅ、ズルい。小学生の頃、『ジャンケン4連勝の春木』を自称した俺がこんな反則に屈するなんて……」


「ふふふ、これぞ策士の勝利です。ジャンケン勝負の発生前に勝負を決めること、これすなわち『天下零分の計』。わたしのことは『諸葛ゆに明』と呼んでくれて構いませんよ?」


 現在、俺はゆにちゃんの隣の椅子に移動して、向かい合わせで彼女のことを扇いでいる。


 完全なる敗北。かつて、かくれぼの鬼決めジャンケンで4回連続の勝利を果たした俺の栄光は失墜してしまった。


 4回ぐらいまああるんじゃない? とかツッコんではいけない。小学生の俺にはそれが誇りだったのだ。


 ……とはいえ、実際のところ、ゆにちゃんを扇いであげることは別に嫌じゃない。先輩として、可愛い後輩を助けてあげるのは普通のことだし。


「ふふふーん♪ 極楽ですー♪」

「それは何よりです」


 俺はパタパタと扇ぎ続けながら苦笑する。

 向かい合わせなので、ゆにちゃんはこっちを向いていて、嬉しそうな顔が視線の先にある。


 これはこれで、こっちも嬉しくなってくるというものだ。


 パタパタ。

 パタパタ。

 パタパタ……。


 と、扇いでいて、ふと気づいた。


「ふふん、ふーん♪ 勝利の~♪ 南西の風~♪」


 ご機嫌で鼻歌を歌ってるゆにちゃん。

 俺が風を送っているせいで、その髪がさらさらと揺れている。


 ゆにちゃんの髪……。


 つい思い出してしまうのは先日、中庭でゆにちゃんが膝を擦りむき、なんやかんやで彼女の髪を撫でることになった時のこと。


 すっごい手触り良かったなぁ……。


 男子の俺の髪とは繊細さが違うのだ。

 触れるだけで感動してしまうような柔らかさとキメ細かさがあった。


 そんなことを考えていたら、いつの間にかゆにちゃんの鼻歌が止まっていることに気づいた。


 おや? と思って我に返ると、ゆにちゃんが……なんかものすごい困った顔でこっちを見ている。


「あのー……春木先輩?」

「え、あ、なに?」


「こんなこと言うの、わたしも生まれて初めてでちょっと戸惑ってるんですが、ええと……」


 彼女は柔らかそうな毛先に指先で触れ、おずおずと口を開く。


「春木先輩からなんかイヤらしい視線を感じるんですが……わたしの髪に」

「へっ!?」


 びっくりして思わずうちわを落としそうになってしまった。


「い、いやいやいや、なにイヤらしい視線って!? しかも髪って! 髪にって! ど、どういうことなのさ!?」


「いえ、戸惑ってるのはわたしの方なんですけど。えっと……そんなに好きなんですか、女の子の髪」


「別に好きってわけでは……っ」


 俺は今、動揺している。

 そのせいで言う必要のないことが口からぽろぽろこぼれてしまう。


「ただ、こないだ中庭でゆにちゃんの髪を撫でた時、柔らかさとキメ細かさに感動して……っ。それでちょっと気になっちゃったっていうか……っ」


「ああ、まあ確かに髪のケアにはこだわってますけど。わたしも美少女ですし」


「そう! だから別に髪好きってわけじゃないんだっ」


「そのわりにはイヤらしい視線を感じましたよ?」


「イヤらしくはないよ!?」


「春木先輩、女の子がイヤらしいって感じたら、それはイヤらしいんです。残念ですが逃げ道はないんです。それがこの世の摂理なんです」


「摂理怖い!」


 俺は恐怖に頭を抱える。

 しかし摂理には逆らえないので、受け入れるしかなかった。


 なんてこった、俺はゆにちゃんにイヤらしい視線を向けていたらしい……っ。


「どうしよう、自分でもどうすればこの気持ちを治せるか分からない……っ。誰かの髪に心惹かれるなんて、生まれて初めてのことだったし……っ」


「初めて?」


 ピクッとゆにちゃんが反応した。


「じゃあ、他の女の子の髪に興味を持ったことはないんですか?」


「ないよ。あの中庭の時が初めてだもん」

「……なるほど」

 

 ゆにちゃんは突然、真顔になった。

 かと思うと、口元に手を当てて、なにやら独り言を言い始める。


「……確かにあの時、わたしも春木先輩の芯に届いたのを感じた。てっきりそういう趣味なのかと思ってたけど……もしかしてわたしが春木先輩のナニカの扉を開いたってこと? そんなまさか、でもだとしたら……」


 ぽつり、と小さなつぶやき。


「…………すっごい嬉しい」


 その声は小さすぎて俺の耳には届かなかった。

 なので、少し首をかしげながら尋ねる。


「ゆにちゃん?」

「春木先輩、また触ってみますか?」


「えっ。な、なにを?」

「この流れなら一つしかないでしょう?」


 さらり、と自分の手で毛先を梳きながら彼女は言う。


「わたしの髪です」


 思わず返事をするのが一拍遅れた。


「い、いいの?」

「お好きにどうぞ」


 ちょっとドキドキしてしまう。

 でもゆにちゃん本人が良いって言ってくれるし、正直また触れたいという気持ちもある。


 だからうちわを置き、おずおずと手を伸ばした。

 

 しかし俺の指先が彼女の髪に触れる直前、ふと脳裏をよぎるものがあった。


 それはノリが軽くてモテる友人、近藤(こんどう)がいつかの休み時間に言っていた言葉。


 ――いいか、春木? 女子が髪に触ってオッケーって言う時は、完全に心を開いてる証拠だ。そん時はエロいこともオッケーってサインだぜ!


 ビタッと俺の手が止まる。

 するとゆにちゃんが不思議そうに目を瞬いた。


「春木先輩? どうしました?」

「あ、いや……」


 今日の俺は動揺している。

 正直、動揺し過ぎている。


 そのせいで言っちゃいけないことが口から出てしまった。


「……以前(まえ)にクラスの友達が言ってたんだ。女の子の髪に触ってオッケーな時は……」


「時は?」

「……ヤラしいこともオッケーなサインだって」


「ふぇっ!?」


 ボンッと爆発したような勢いで、ゆにちゃんの顔が真っ赤になった。


 そのままうさぎのように飛び跳ねる。

 飛び跳ねすぎてパイプ椅子の上に立ってしまったほどだ。


 その高みから彼女は叫ぶ。


「な、ななななに言ってるんですかーっ!?」


「だ、だだだよね!? ごめんごめんごめん! 違くて、変な意味じゃなくて、緊張状態でつい記憶が再生されてしまっただけで!」


「だとしてもちゃんと脳内で検閲してしゃべって下さい! 春木先輩の理性はお休みなんですか!? 有給休暇でバカンス満喫中なんですか!?」


「そ、そうみたい! ちょっと俺の理性さん、長期休暇に出ちゃってる!」

「いや駄目でしょう!? さっきの発言をした後で理性さんが不在なのはアウトでしょう!?」


「た、確かに! ごめん、すぐ呼び戻す!」

「もう~っ!」


 ハーフアップの髪をぶんぶん振り、彼女は叫ぶ。


「えっちなことはよくないと思いまーす!」


 ごもっともの嵐だった。

 俺は心のなかで理性さんに緊急帰還命令を出し、全力で己を律する。


 ブラック企業と言われても構わない。

 理性さんは24時間365日、年中無休だ。


 帰ってきた理性さんと心のパイルダーオンを果たし、俺は深呼吸。冷静さを取り戻して口を開く。


「取り乱してごめん、ゆにちゃん。安心して、もう二度と変なこと言わないから。これから先、理性さんにはブラック企業並みに無休で働き続けてもらうことにする。もうゆにちゃんの髪のことも考えない。絶対に、決して、もう二度と」


「え、もう二度と?」


 パイプ椅子の上のゆにちゃんがピタリと動きを止めた。

 そして何やら葛藤するように、もにょもにょ言い始める。


「や、もう二度とってなると、それはそれでわたしも困ると言いますか……アルパカな春木先輩を人間にする光明がようやく見えたと思ったのに、またアルパカまみれのアルパカ・サファリパークに逆戻りっていうか、う~……っ」


 ゆにちゃんはパイプ椅子の上でしゃがみ込む。

 そのまま器用に膝を抱えて悩み始めた。


 例によって、また小声過ぎて俺には聞こえないけれど、


「も~、こんなの完全に計算外……正直、春木先輩を射止めるために、ちょっと下着を見せるくらいのハニー・トラップは覚悟してたけど、まさかこんなナナメ45度な展開になるなんて……」


「えーと、ゆにちゃん……?」


「どうしよう……でもここで諦めたら春木先輩がアルパカに戻っちゃう。春木先輩を人間にしてあげられるのは、わたしだけ。髪好きに目覚めさせちゃったのはわたしっぽいから、その責任もあるし……」


「ええと、ゆにちゃん? あのー……?」


「でも恥ずかしい……っ。だって、髪を触らせることになんか変な意味が入って来ちゃってるし! だけどこのままじゃアルパカ・サファリパーク……それだけはダメ。ぜったいダメ」


「おーい、ゆにちゃーん……?」


「頑張れ、わたし。ファイトだ、わたし。鳴かぬなら、鳴かせてみせよう、アルパカス!」


「へ? カス?」


「春木先輩!」

「は、はいっ」


 いきなり顔を上げて名前を呼ばれ、つい敬語になってしまった。


 ゆにちゃんはじっとこちらを凝視してくる。

 なにか……強い決意を込めた眼差しだった。


「ホワイト企業になりましょう。理性さんには適宜、休憩をあげて下さい」

「え?」


「だから、理性さんにお昼休憩やオヤツ休憩をあげることを許可します」

「ま、待って、ゆにちゃん。それってまさか……っ」


「はい」


 確かなうなづき。


「触っても……いいですよ。いえ、むしろ……」


 ゆにちゃんは一瞬、躊躇するように言葉を止めた。

 しかし大きく首を振ると、自分を鼓舞するように胸に手を置く。


 そして再び俺を見つめると、口を開いた。


「春木先輩、どうか――」


 緊張で潤んだ瞳を向けて。

 まるで絞首台に向かう聖女のような悲壮な決意で。

 恥じ入るようにカァァァッと頬を赤らめて。




「……す、好きなだけわたしの髪を愛でて下さいっ!」




 俺は思わず「――っ!?」と息を飲んだ。

 ガツンと殴られたかのような衝撃だった。

 あまりのことに脳の処理が間に合わない。


 間に合わな過ぎて。

 シュウ~ッと頭から煙が上がる音が聞こえた……気がした。


「……あ、……あ」

「? 春木先輩?」


「オウ、シット……」

「春木先輩っ!?」


 頭がオーバーヒートし、俺は長テーブルにバタンッと倒れ込む。

 正直、あまりに刺激が強過ぎた。


「ゆにちゃんのハニートラップ、恐るべし……」


「いや今は仕掛けてませんけど!? 一体、どういうこと!? もう春木先輩の生態がわからないんですけどーっ!?」


 彼女のツッコミを聞きながら、俺は静かに気絶した……。



次話タイトル『第8話 髪フェチ論争「エッチなのはよくないよ!」VS「こっちのセリフです!」』

次回更新:明日

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