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魔王の権能 ~災厄を振りまく呪い子だけど、何でも使い方次第でしょ?~  作者: リウト銃士
第九章 地下神殿

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第88話 経験値稼ぎなんてありません




 夜が明け、白い息を吐きながら探索の準備を始める。

 テントを仕舞い、温かいスープとパンで朝食を済ませた。


「じゃあ、行こうか。」


 俺がそう言うと、レインとベリローゼが頷く。

 森の探索、二日目。

 昨日はゴブリンとは数回戦闘があったが、失踪者たちの手掛かりは何もない。

 そのため、俺たちは一方向に流れる“力”の行き先を確かめることを主目的にし、森の奥へと進んだ。


 数時間歩き、“力”の流れる方向へと、進行方向を微調整する。

 これまでは北北東くらいの向きだったが、現在はそれよりは北東寄りだ。


「大分集まってきてるな。漂う“力”が濃くなってる。」


 森のかなり奥まで来て、少しだけ様子が変わってきた。

 また、森自体にも若干の変化がみられる。

 大き目の岩が、所々に転がっているのだ。

 岩には苔が生え、長い年月が経っていることが分かる。


「リコ様。」


 後ろを歩くベリローゼが声をかけ、斜め前方にある岩を指さす。

 俺は、ベリローゼの示す岩に近づいた。


「何だろう、これ?」

「さあな。」


 岩の前に立ち、じっと観察する。

 岩には、特に珍しい物があるわけでない。

 ただ、部分的に苔が剥がれたりしている。

 人為的というか、何者かがぶつかったとか、剥がしたとか、何かがあった痕跡。


「何かがいる証拠ではある。気をつけよう。」


 その何かが、友好的である可能性は低いだろう。

 魔物でも魔獣でも、野生の獣でも、遭遇すれば戦闘になる。

 俺たちはより一層気を引き締め、奥へと進む。


「ストップ。」


 そうしてしばらく歩き、俺は立ち止まる。

 周囲を見回し、考え込む。

 レインとベリローゼは、黙って俺の様子を窺う。

 何をしているのか聞きたいが、考えるのを邪魔しないようにしているのだろう。


「…………力の向きが変わった。」


 俺がそう言うと、レインがきょとんとした顔になる。


「向きが変わったの? どっち?」


 俺は踵を返し、歩いてきた方向を見る。


「向きが変わったってのは、正確な言い方じゃないか。……多分、行き過ぎた。」

「行き過ぎた、ですか?」


 これまで感じていた“力”の向きは、北東に向かっていた。

 だが、今いる場所で感じるのは、南西に向かう“力”の流れ。

 完全に真逆なのだ。


「何となく、この辺は吹き溜まりっぽくてな。多分だけど、この辺りに集まってるんだ。」


 俺がそう言うと、レインとベリローゼが表情を引き締めた。

 つまり、この辺に“力”を集める原因がある。


「何かあれば、すぐに教えてくれ。どうにも、この辺は“力”の動きが変なんで、俺でもはっきりとは追えないんだ。」

「分かったわ。」

「分かりました。」


 そうして“力”の動きを追って、あっちに行ったり、こっちに行ったり。

 俺たちは、結構な範囲をぐるぐると動き回った。







「……………………また、行き過ぎた。」


 俺が立ち止まって振り返ると、レインががくりと肩を落とした。


「どうなってるの……?」

「それは、俺が聞きたい。」


 またなの!?と文句を言わないレインとベリローゼの自制心の強さに、俺は少しだけ安堵する。

 なぜなら、俺だって言いたくなるくらいには、何度も何度も行き来しているからだ。


 …………ゥー……ッ!


 俺が頭を掻いていると、遠くで何か音がした。

 木々に邪魔され見えづらいが、五十メートルくらい先に、こちらへ向かって来る魔物が見える。

 ドワーフを思わせる、丸い体形。


「もしかして、オークか?」

「おそらくは。」


 俺の呟きに、ベリローゼが答える。

 三体のオークが、鼻息荒くこちらに向かって来ていた。

 一体がこん棒、二体が長めの槍を持っている。


 ブフゥーーッ! ブフゥーーッ!

 ドスドスドスッ!


 真っ直ぐ、一直線に突進してくる姿は、なかなかに迫力があった。

 ぶっちゃけ、逃げたいくらいである。


 丸い体格の割に、思ったより足が速い。

 猪突猛進という言葉が頭に浮かぶくらいには、一心不乱にこちらに向かって来ていた。


「レイン、前を任せる。まともにぶつかるなよ? 適当にいなせばいい。俺とベリローゼで殺(や)る。」


 簡単に作戦を説明すると、レインが前に出て盾を構える。

 俺とベリローゼは後ろに下がり、周囲も警戒しながらオークの動きを観察した。


 ズドドドドドドドドドドドド……ッ!


 鼻息荒く、足音を響かせながらオークが突進してくる。

 レインはその動きを見ながら、徐々に横に移動。

 真ん中と左の二体は相手にせず、右端の一体に的を絞る。


 レインは二体をスルーし、右端のオークの持つ槍を盾で受けた。

 ただし、斜めに当たるように大外に回り込んだ上で。


 ガキンッ!

「クゥッ!?」


 衝突音が響き、レインがやや押し負けてよろける。

 それでも槍は逸らされ、がら空きの脇腹に剣(ソード)を突き立てた。


 グォォォオオオッッッ!!!


 脇腹に傷を負ったオークは、雄叫びを上げながらそのまま通り過ぎる。

 俺はレインの影から飛び出し、オークの突進が止まった所で左腕を斬り上げ、その動きのまま左足を斬り払う。


 ギュガアアウウッ!!!


 腕と足を落とされ、オークがバランスを崩して後ろに傾く。

 俺は背後から、オークの頸椎あたりを突き刺した。


 ズズーーーン……ッ!


 そのままオークは倒れ、絶命する。


 最初にスルーした二体は、ベリローゼの動きに翻弄されていた。

 槍やこん棒を振り回すが、ベリローゼは軽々と躱す。

 だが、ラッキーパンチを警戒し、ベリローゼも反撃はできないでいた。

 パワーがあるため、偶然でもたまたまでも、当たればそれが致命傷になりかねない威力を持っているからだ。


「ベリローゼ! そのままそいつら連れて来い!」


 俺が叫ぶと、ベリローゼがこちらに駆け出す。

 二体のオークは、当然ながらベリローゼを追って来た。


「レイン、次来るぞ!」

「う、うん!」


 レインは再び盾を構え、同じ作戦で挑む。

 正面から受け止めなくても、オークはその重量を活かし、かなりの突進力がある。

 俺ならいなそうとしても、軽々と吹っ飛ばされるだろう。


 ベリローゼがレインの横を駆け抜け、後ろにつく。

 俺もレインの後ろで、再び待機する。

 レインはオークの動きを見ながら、やはり徐々に横へ移動。

 先程とまったく同じ動きだが、オークは警戒も何もない。

 そのまま突進して来て、左の一体がレインの横を通り過ぎた。


 右のオークの槍をレインが受ける。

 ただし、今度はレインも強く踏み込む。


 ダンッッッッッ!!!


 まるで、シールドチャージを繰り出しているかのようだ。

 いや、正にそれはシールドチャージなのだろう。

 斜めにいなしながらも、押し負けないように、レインは槍を斜め方向に押し返したのだ。


「タアァァァアッ!!!」


 そして、気合いの声とともに、剣(ソード)を繰り出す。

 槍を逸らされ、通り過ぎようとしたオークの脇腹に、レインは剣(ソード)突き刺した。

 だが、そこで止まらない。


「ヤアッ! ハアアッ!!!」


 オークの背後に追い縋り、一撃二撃と追撃を繰り出す。

 オークの背中に傷を負わせているが、深手にはなっていなかった。


 ブウウゥゥウンッ!


 振り向きざま、槍で払おうとするオーク。

 無理な体勢で追撃していたため、レインは体勢を崩していた。


「……惜しかったな。」


 俺は素早くオークの横に飛び込み、槍を持った腕を肘から斬り落とす。

 オークは振り返るが、槍を持った腕はあらぬ方へ飛んで行った。


「止(とど)めを刺せっ、レインッ!」

「ハアアアアッッッ!!!」


 振り向いたオーク。

 槍を持った腕は、もう無い。

 それはつまり、がら空きの正面をレインに晒すことになる。


 ズブュッッッ!!!


 真正面を向いたオークの胸の中心に、レインの剣(ソード)が深々と突き刺さり貫通した。


 グギャアガオオオゥゥゥウウ……ッ!


 オークは耳が痛くなるほどの断末魔の叫びを上げ、そのまま後ろに倒れる。


 残りの一体を見ると、そちらもベリローゼが倒したところだった。

 ベリローゼはオークの首を中心にナイフで傷を負わせ、ついには致命傷を与えた。

 よろめいたオークがこん棒を振り上げるが、その勢いのまま後ろに倒れた。


「上出来、上出来。よくやった。」


 二人の戦いぶりに、俺は満足した。

 回復薬(ポーション)を取り出し、肩で息をするレインに差し出す。


「飲んどきな。多分、直撃はしなくてもダメージは入ってるだろう。」


 俺がそう言うと、レインが悔しそうな顔になった。


「…………リコ……私……。」


 おそらく、最後に助けられたことを気にしているのだろう。

 確かに、振り向きざまの反撃を、体勢を崩していたレインは躱せなかった可能性が高い。


「少し、無理攻めだったかもな。だが、悪くなかったぞ。」


 追撃を二連撃ではなく、一撃だけに留めておけば、あの反撃にも対応できたと思う。


「少し攻めっ気が強いが、レインはそれくらいでいい。」


 以前の無闇矢鱈と剣(ソード)を振り回していたのとは、わけが違う。

 きちんと組み立てを考えた上での追撃だ。

 慎重さも大事だが、失敗を恐れて踏み込めない者は、それ以上強くはなれない。


(今回の動きを見るに……、むしろ剣がレインに合っていないのかもしれないな。)


 そう、俺は考える。

 踏み込みが甘く、追撃で深手を負わせることができなかった。

 その大きな理由に、重すぎる剣があるように思う。


 現在の盾を用いた戦闘スタイルでは、今使ってる剣は大きすぎるのだ。

 レインの剣は、ドワーフのドドナッツォから譲ってもらった物。

 素晴らしい剣ではあるが、大振りすぎる。

 譲ってもらった当時のレインは、両手で扱っていた。

 それを片手で使っているのだから、少々重すぎるのだろう。


 ドドナッツォの剣は、単純な重量だけでいえば、普通の剣と大差ない。

 若干長く、幅広のため、やや重めの部類ではあるが。

 ただし、重心の位置が剣先に寄っているのだ。

 ドドナッツォは「普通の剣の範囲で、強さを求めた剣」と言っていた。

 一撃の重さを出すために、わざとそういう造りにしたのだと思う。

 そのため、戦闘で振り回す時は実際の重量以上に重く感じる、使い手を選ぶ剣だった。


 そう分析するが、そこは黙っておく。

 レインは、この剣を使いこなすことに、本気で取り組んでいる。

 何より、ドドナッツォの剣をレインがとても気に入っているのだ。

 それを「使うな」というのは、レインのやる気を殺ぐことになりかねない。

 このまま努力し続ければ、使いこなせる日も必ず来ると考え、俺は黙っていることにした。


 レインに回復薬(ポーション)を渡し、ベリローゼの方を見る。

 ベリローゼはオークにしっかりと止(とど)めを刺して、こちらにやってきた。


「ベリローゼ、怪我は?」

「大丈夫です、リコ様。」


 ベリローゼは回復薬(ポーション)を使う必要もないようで、いつも通りの涼しい顔だ。

 そうして、回復薬(ポーション)を飲み終わったレインを気遣う。


「レイン様、大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫よ、ベリーちゃん。」

「申し訳ありません、レイン様。負担の大きい役目を、レイン様に押し付けてしまって……。」


 正面から魔物と対峙するのは、負担が大きい。

 だが、それが騎士の役割ではある。

 以前、リベルバースで鳥頭と戦った時は、前衛にベリローゼを立たせる戦い方をしていた。

 しかし、あんなのは騎士の戦い方ではない。

 それぞれに役割があるので、こういう作戦になるのは当然だった。


「ベリローゼ。レインを侮辱するな。」


 俺は、過度にレインを気遣うベリローゼを叱る。


「レインは、立派に役目をまっとうしてみせた。仲間の代わりに傷を負うのも、騎士の役目だ。」


 仲間を気遣う心は大事だが、過度に心配するのは間違いだ。

 それは、相手の能力を疑っている、ということにも繋がる。

 そして、レインの能力を疑うということは、レインに役目を任せた俺の判断も疑うということ。


「レインなら問題ないと考えて、俺はレインに任せた。その期待にレインは応えた。」


 俺がそう言うと、ベリローゼが深々と頭を下げた。


「出過ぎたことを……。申し訳ありません。」


 そうして、レインにも頭を下げる。


「レイン様も。申し訳ありません。」

「い、いいのよ、ベリーちゃん。私が頼りないからいけないの。」


 レインのその言葉に、俺は盛大に溜息をつく。


「はぁーー……。お前もか、レイン。」


 せっかくの勝利に、水を差しまくりである。


「もう少し自信を持て。二人はよくやった。気遣いも謙遜も、ほどほどにしておけ。」

「……はい。」

「申し訳ありません。」


 まったく、せっかく魔物を撃退したというのに、何で説教せにゃならんのだ。

 しかも、戦いそのものについてではない。

 若干の反省点も無くはないが、問題は戦い以外の部分だ。


「いいから立て、ベリローゼ。オークどもを検めるぞ。」


 俺はそう言うと、一番近くにいるオークへと近づく。

 そのオークはレインに胸の中心を貫かれ、完全に絶命している。

 仰向けに倒れたオークの横に立ち、その姿を観察した。


(なるほど…………豚っぽいっちゃ豚っぽいか。)


 オークの顔を見て、そんなことを思ってしまう。

 顔を作りそのものは人に近いが、鼻はやや大きく、上を向いている。

 なかなか凶悪かつ醜い面構えで、口から牙がはみ出していた。

 足が短く、身長は俺と大して変わらない。一.四~一.五メートルくらいか。

 かなり筋肉質で、肉付きもいいので、重量は百キログラムを優に超えているだろう。

 この重量が突進してくるのだから、まともに喰らえば致命傷は必至。

 自分で命じておいてなんだが、よくレインはこんなのを耐えたな。

 やはり、脳筋族の血がなせる業(わざ)か。


 そんなことを思いながら、更に観察を進める。

 オークの恰好は、ゴブリンと大差ない。動物の革を腰に巻いている。

 装飾品の類は身につけておらず、知能レベルはゴブリンとあまり変わりがなさそうだ。


 俺は離れた場所に落ちている、オークの腕の所にも行ってみる。

 俺が斬り落とした腕は、槍を掴んだままだった。


「…………木の先端に、石を付けてるな。ゴブリンよりは加工技術が上か。」


 ゴブリンは、ただ木を削っただけの槍を使っていた。

 だが、オークは石を鋭利に加工し、木の棒の先端に付けている。

 自身の突進の衝撃に耐え、今も壊れることなく付いていることを考慮すると、意外にしっかりと加工しているようだ。


(石器を作るってのは、言うほど簡単じゃないんだけどな。)


 発達した文明の世界で生きてきたため、たかが石器と思いがちだが、作ろうとしてもそう簡単に作れる物ではない。

 加工に適しながら、実用に耐える耐久性も必要になる。

 石と石をぶつけながら、思った通りの大きさに鋭利な刃を作るなど、かなりの熟練を必要とする作業だ。


 石器の利用自体はホモ・サピエンス以前の、他のヒト亜科でも行っていた。

 しかし、逆を言えば、それら人族に繋がる者以外は獲得できなかった知恵とも言える。

 鈍器として、叩いたりぶつけたりする動物はいるが、加工する知恵までは獲得できなかったのだ。


 だが、この世界では人族以外にも、石器の加工を獲得した。

 まあ、ドワーフ族なんて亜人種が存在するし、見たことはないがエルフ族なんてのもいるらしい。

 それらを考えると、このオークたちもそのうち、亜人種の仲間入りする日がくるのかもしれない。

 いや、もしかしたら、すでに生物学的には亜人種である可能性もある。

 意思の疎通ができないので魔物に分類されているだけで、意外と人族に近い種なのかも?


「面白い……。でも、これだけの技術があれば、もう少し衣服も何とかなりそうだが。そこまで気にする文化水準じゃないってことか。」

「あの……リコ?」


 オークの生態に対して考察する俺を、レインとベリローゼが変な顔をして見ていた。


「ああ、悪い。つい、な。」


 俺は苦笑し、他のオークたちも確認する。

 恰好については、先程のオークとほぼ同じようなものだ。

 こん棒は、ゴブリンが使っていた物よりも大きく、かなりごつい。

 これで殴られれば、まず間違いなく即死だ。

 ゲームでは序盤から中盤あたりで登場する雑魚だが、現実としては一撃いいのを喰らえば命がない。

 侮れる要素は皆無だ。


 とはいえ、気をつけるべきは驚異的な膂力と、突進だろう。

 突進力はあれど、動き自体は然程速いわけではない。

 その突進力の源は、主に重量が担っている。


「こいつらも、失踪者の手掛かりは持っていないみたいだな。」


 そうして、周囲を見回す。


「とりあえず、この辺りを離れよう。他の魔物が集まっても厄介だ。」


 レインとベリローゼは頷き、俺たちは急いでその場から離脱した。







 しばらく周辺を探索しつつ、遭遇したオークとゴブリンは皆殺し。

 ゲームのように何かアイテムを出すわけもなく、ただただ俺たちは遭遇した魔物を狩り続ける。


「経験値もレベルアップも、お金を落とすわけでもない。現実は世知辛いな。」

「何を言っているの、リコ……?」


 俺の言っている意味が分からず、レインが困惑する。


「気にするな。ただの愚痴だ。」


 そして、相変わらず“力”の流れも追えないでいた。

 さすがにここまでくると、俺もそ(・)の(・)可(・)能(・)性(・)を(・)考えざるを得ない。


「これは多分……、隠蔽されてるな。何らかの方法で、欺瞞されているんだろう。」

「隠蔽?」

「欺瞞、ですか?」

「あからさまにこの辺りに集まっているのに、これだけ探しても場所を特定できないのは、さすがにおかしい。何らかの方法で隠蔽されているんだ。…………【隠蔽(ハイディング)】とかな。」


 同じ力かは分からないが、俺たちはかつて経験したことがある。

 精神に影響を及ぼし、対象を認識できなくさせる力を。


「それだと、無闇に探しても……。」

「ああ。絶対に見つけられない。」


 レインの考えに、俺も頷く。


「仕方ない。出直しだ。」


 “力”を吸い寄せる何かがある。

 だが、それを隠す何かもあるのだ。


(つまり、隠された“何か”があるのは確定。)


 それを解く鍵は、あの村か?

 今年に入って、七人も失踪している村。

 森に入ることを忌避している村には、森の秘密についてのヒントがあるかもしれない。


「戻ろう。明日中には、何とか村に戻れるといいんだけど……。」


 かなり奥まで来たが、村までは急げば一日半くらいで帰れるか?

 ようやく村に戻れると分かり、レインが笑顔になる。


「顔を見せて、宿屋のおじさんを安心させてあげないとね。」

「あの親父が、俺たちの心配なんかするか?」


 レインの明るい声に、俺はひねくれた意見をぶつける。

 こうして、俺たちは一度村に戻るのだった。





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