第84話 四つの組織
鑑定屋ターラッツォと老執事ツフワースの犠牲により、俺はエルミアルダとの面会の機会をもぎ取った。
行商人は、なかなか売れない珍味を半分も買い取ってもらえ、ホクホク顔で帰っていった。
そうして、場所をいつものエルミアルダの部屋に移し、情報をもらうことにする。
ちなみに、ターラッツォとツフワースは、どこかの部屋で休んでいるそうだ。
現在、エルミアルダの後ろには、若い執事が一人控えている。
「なかなかいい物を紹介してくれたし、ついでだからね。いいわ、何でも聞いてちょうだい。」
エルミアルダは上機嫌で、そんなことを言う。
あんな物を紹介しただけで、機嫌が取れるのだから、ある意味ちょろいと言うべきか。
ほぼ流通が不可能な物なので、むしろ厳しいと言うべきか。
判断の分かれるところだろう。
とはいえ、目論見通りに話をする機会を得られたのだ。
これを無駄にするわけにはいかない。
「マダム・エルミアルダは、住人の消えた村というのは?」
俺がそう尋ねると、エルミアルダが訝し気な表情になる。
「まあ……話としては聞いているわ。原因は分かっていないそうね。」
エルミアルダが髪を掻き上げ、一つ溜息をつく。
「そう言えば、前にターラッツォの所に聞き来たと報告は受けているわ。そんなことに興味があるの? まさか、行くつもり?」
「行くつもりって言うか………………行ってきた。」
俺が少し言いにくそうに言うと、エルミアルダがぽかんとした顔になる。
本気で呆れているようだ。
「…………まったく。少しは落ち着いていられないの?」
「そうは言っても、やることもないし。……情報が届くには、まだかかるだろう?」
「それはそうよ。そんな簡単に情報が行き来するようになれば、こっちは商売上がったりよ。」
エルミアルダは肩を竦め、足を組んだ。
(そうとも限らないんだけどな。)
現在は確かに、非常にゆっくりとした情報伝達が基本で、そんな中で多くの情報を抱える情報屋ギルドというのは、それだけで存在価値がある。
だが、情報伝達が早くなることの弊害もある。
一つ目は、偽の情報だ。
誰かが意図的に流す、作られた情報も早く伝わってしまう。
二つ目は、情報量。
元いた世界において、情報は溢れ過ぎていた。
情報伝達が早いために、あらゆる情報が大量に飛び交う。
もはや、人が捌ける限界を遥かに超えるほどに。
日々駆け巡る膨大な量の情報には、正しいものあれば、間違ったものもあった。
誰でも、どんな情報でも手に入るからこそ、却って迷いが生じる。
正確な取捨選択さえ困難となり、間違った判断をしてしまう。
そんな時、事実は何か。
正しい情報がどれかが分かる方法があれば、非常に有用な手段だ。
現在の姿とはやや変わるかもしれないが、情報の溢れる世界でこそ、情報屋ギルドのような存在は重宝されるだろう。
もっとも、対価を支払ってまで正確な情報を得ようとする人は、ごくごく一部だとは思うが。
まあ、それはこの世界でも似たようなものか。
俺は、エルミアルダを真剣な表情で見る。
俺の雰囲気の変化を感じ取り、エルミアルダの目が細められた。
「おそらくだが、あの村の失踪事件には魔王振興会が関わってる。」
「……魔王振興会?」
「ああ。以前から、目撃されていたらしい。村の住人にな。」
「そう珍しいことでもないわね。あの連中は、そこらじゅうをうろうろしているみたいだし。」
「…………ちなみに、俺たちも見た。というか、戦闘になった。」
俺がそう言うと、何とも渋い顔でエルミアルダが首を振る。
「本当に…………少しは大人しくしていられないの?」
「そう言われても、仕掛けてきたのは向こうだし。こっちとしちゃ、身を守るしかないだろ?」
初めから、話し合いが決裂したら力技を用いるつもりではいたけどな。
「戦闘になる前に、少し話をすることができたんだ。連中の言い分はどうでもいいが――――。」
「ちょっと待ちなさい。」
エルミアルダが驚いた顔で、俺の話を遮る。
「話を、したの?」
「ああ。」
「向こうの言い分を、聞いた?」
「ああ、聞いた。世界を自然な状態に戻すとか何とかな。」
俺がそう言うと、エルミアルダが難しい顔になる。
「他は?」
「ほか? えーと、何て言ってたかな……。」
意外にもエルミアルダが食いつき、俺はダウビッドとの会話を思い出す。
「土地の力を空に還すとか…………魔王はやられてないとか……。世界の真実がどうとかってのも言ってたな。」
「世界の真実……。」
エルミアルダは、膝の上で指先をトントンと叩く。
「それは、初めて聞くわね。」
「あ、やべ……。」
エルミアルダの呟きを聞き、俺は思わず口を手で塞ぐ。
世間話のように話してしまったが、俺がエルミアルダに情報を提供しなければならない義理はない。
あくまで、客は俺だ。
対価を先払いしているので、俺は情報を買う権利があるが、エルミアルダに提供するのとはまったく別の話である。
…………と、厳密に言えばそうなるわけだが、この程度の情報まで隠していては、話を聞き出すのもままならない。
俺は口を塞いでいた手を下ろし、更に話を続けることにした。
「まあ、いいや。連中の中にダウビッドって奴がいる。顔の右半分に火傷を負った奴だ。自分で『会頭』と名乗った。普通に考えれば、こいつがボスってことになるか。」
「会頭の、ダウビッド……。」
そう呟くと、エルミアルダは俯き、少し考えるように目を伏せる。
だが、顔を上げた時には、可笑しそうに口の端を上げていた。
「……一応、聞いておこうかしらね。坊やが今日、ここに来た目的は?」
「魔王振興会の情報。それに関連して、四つ葉の情報もだ。」
俺がそう言うと、ますますエルミアルダは楽しそうな笑顔になった。
「やっぱり、四つ葉を知っているのね?」
「詳しいことは知らないけどな。前にルースオマの情報屋ギルドで聞いたことがある。その時は、使用人協会絡みだったかな? …………やばいネタらしいってことくらいか。教えてもらえたのは。」
「そう。」
エルミアルダは後ろの若い執事に声をかけ、果実酒を用意させた。
なんだ、普通の酒も飲めるのか。
「もしかしてなんだが……。」
そう前置きして、俺はエルミアルダに聞いた。
「四つ葉ってのは、四つの組織からなるんじゃないのか?」
「そう…………言われているわね。」
「言われている?」
エルミアルダは軽くグラスを傾け、じっくりと果実酒を味わう。
「おそらくそうではないか、と情報屋ギルドでも睨んでいるわ。ただ、残りの二つについては、確定していないの。」
「そうなのか……。」
情報屋ギルドなら、何か掴んでいるのではないかと思ったが、空振りだったようだ。
それでも、何かのヒントにはなるのではないかと、俺は踏み込んでみることにした。
「確定はしていなくても、怪しい組織とかはないのか?」
「あるわよ。」
エルミアルダは、あっさり認めた。
「どこだ?」
「いっぱいあるけど、全部知りたい?」
「…………そんなにあるのか?」
「裏で怪しいことをやってる連中なんて、いっぱいいるもの。すべて、候補として排除したりしないわ。排除するような根拠も無いしね。」
エルミアルダの返答に、俺は顔をしかめてしまう。
たくっ、裏でこそこそすんのやめろや。
クリーンな組織というのは、この世界にはないのか!?
まあ、裏でこそこそやってるってことでは、俺も他人のこと言えないけどさ……。
「怪しいって意味じゃ、情報屋ギルドも怪しいよな? 情報を抱え込んで、共和国にこんな拠点まで作って、一体何する気なんだか。」
俺がそう嫌味を言ってやると、エルミアルダがとてもいい笑顔になった。
「なかなかいい勘してるじゃない。勿論、情報屋ギルドだって例外じゃないわ。すべてを疑ってかかりなさい。」
「…………ちっ。」
エルミアルダは、否定も肯定もしない。
それくらい、四つ葉は社会に潜り込んでいるってことなのか?
「ふふ…………身動きが取れなくなっちゃうわね。」
「…………ある程度は、信用せざるを得ないってことか。」
「そう。本当に信用できるものなんて無いのよ? あるのは、信用『する』か『しない』か。それだけ。」
エルミアルダの話に、俺はソファーに寄りかかり、天井を見る。
それは、嫌になるほど正しかった。
俺は気合を入れて身体を起こし、エルミアルダを真っ直ぐに見た。
「少なくとも、俺はマダム・エルミアルダを信用している。」
俺がそう言うと、エルミアルダが優しく微笑んだ。
「あら、ありがとう。いいこと聞いたわ。丁度、いい儲け話が――――。」
「絶対騙す気だよなぁ、それっ!?」
エルミアルダは肩を竦め、果実酒を飲んだ。
くそ……、まじ性格悪いぞ、こいつ。
そうして傾けていたグラスをテーブルに置き、エルミアルダが足を組み替える。
「一体、坊やが何を追っているのか知らないけど、ほどほどになさい。」
「…………そうも、言ってられないんだよ。」
俺は、ティシヤ王国の謎を追わなくてはならない。
すでに、俺がこの世界で目覚めて六年半も経ってしまっている。
ようやく見つけた手掛かりを、見逃すわけにはいかなかった。
俺が拳を握り締めて黙り込むと、エルミアルダがそっと息をつく。
「教会を疑い、共和国の評議会に目をつけられ、今度は四つ葉。お次は修王国に行って、喧嘩でも売ってみる? そうなると、もう坊やにとっての安寧の場所は、この大陸のどこにも無くなるわね。」
「……………………。」
それは、考えてもみなかったことだ。
もはやこの大陸には、三つの国しかない。
アウズ教を敵に回せば、帝国では暮らせなくなる。メッジスたちのように。
そして、俺はすでに共和国の評議会に疎まれる行動を採ってしまっている。
知らなかったとは言え、評議会の命令で活動していた山賊を退治しているのだから。
また、バレていないだけで、軍管理の収容所も襲撃している。ドワーフたちを解放するために。
この上さらに修王国で問題を起こせば、すべての国でお尋ね者になりかねない。
(…………だから、どうした……っ。)
それでも、俺は追わなくてはならない。
すべてを敵に回そうと、ティシヤ王国の第一王子として!
王国滅亡の原因を解き明かし、弔ってやらなくてはならない!
俺は睨みつけるようにエルミアルダを見ると、断言する。
静かに、覚悟を明言する。
「安寧なんか、始めから求めてない。そんなものと引き換えに、俺は俺の行動を変えたりはしない。絶対に。」
エルミアルダは一瞬だけ目を瞠り、そうして口の端を上げた。
「ただの、生意気なガキじゃなさそうだとは思っていたけど……。」
そうして、冷えた目で真っ直ぐに見据える。
「面白そうね。どこまでやれるか、見物させてもらうわ。」
「ああ。たっぷり楽しんでくれ。」
俺とエルミアルダの視線が交錯し、張り詰めた空気が部屋を支配する。
エルミアルダの後ろに控えていた若い執事が、ごくりと喉を鳴らした。
エルミアルダは組んでいた足を解き、少し考え込む。
「…………とは言え、魔王振興会についても、あまり情報は無いのよね。」
「情報屋ギルドは、魔王振興会のことにはあまり興味がないってのは聞いたよ。」
「ええ、各地で何か儀式をやったりしているって話だけど。…………結局はそれだけだしね。イカれた行動をする、イカれた連中なんてのは、何も魔王振興会だけじゃないわ。傭兵も、似たようなものでしょう?」
エルミアルダにとっては、傭兵なんてやってる奴らも、イカれた連中に含まれるようだ。
つまりは、俺のこともそういう目で見てたってことか?
まあ、それはいいとして。
俺はエルミアルダの話を聞いていて、疑問に思ったことを聞いてみる。
「そんな分からないことだらけの四つ葉の、何がそんなにやばいんだ?」
俺がそう言うと、エルミアルダの口の端が上がる。
テーブルに置いたグラスを取り、果実酒を飲み干す。
「…………情報屋ギルドは、確かに四つ葉について深く探ってはいないわ。でも、軽く情報を集めるくらいのことはしているの。」
空になったグラスを若い執事に差し出すと、果実酒が注がれた。
「通り一遍の情報収集だけど、それで情報がロクに集まらないってことがどれだけ異常なことか、分からない?」
底が知れない。
それを「このネタはやばい」と判断する情報屋ギルドの嗅覚は、おそらく正しい。
だが、俺はそれだけではないような気がした。
「本当は……、残りの二つも見当がついているんじゃないのか? 確証がないだけで。」
俺がそう言うと、エルミアルダが溜息をつく。
「まったく…………人の忠告は素直に聞いておきなさい。早死にするわよ?」
「んなこたぁ、どうでもいいんだよ。出してくれ。」
エルミアルダはグラスを掲げ、その琥珀のような色の果実酒を眺める。
「……坊やが当たりをつけたら、イエス、ノーくらいは答えてあげる。」
エルミアルダはグラスを口元に運び、軽く口に含んだ。
「坊やの言う通り、確証がないの。それでも『間違いない』と確信していれば、教えてあげることもできるのだけど。」
「ギルドも、そこまでは自信がないってことか。」
「ええ。だから、坊やが怪しいと睨んだ連中がいれば、それを言ってくれれば答え合わせくらいはしてあげる。情報屋ギルドも、そこが怪しいと睨んでるって。」
どうやら、この辺りがエルミアルダの譲歩できるラインのようだ。
「分かった。それについては、それでいい。」
出せない情報があるのは、こちらも同じ。
俺も、魔王振興会が土地の力を奪ったから、村の住人が消えたという仮説は出せない。
なぜなら、どうやっても証明のしようがないからだ。
重力レンズのような穴が見えるのは、俺だけ。
土地の力が枯れていると分かるのは、俺だけなのだ。
その部分を抜きにして、いくら「魔王振興会のせいだ」と騒いでも、まともに相手にはされないだろう。
だから、「失踪事件には魔王振興会が関わっている」という、非常にふんわりとしたことしか言えなかった。
「魔王振興会もだが、使用人協会とかの資金の出所は掴んでいるのか?」
大陸中をうろつく魔王振興会。
その活動資金は、一体どこから出ているのか?
使用人協会に至っては、拠点を構える必要がある。
孤児を誘拐し、訓練施設を作る。
長い年月をかけて戦闘メイドを育成しているのだ。
どれだけの金をかけているのか。
「いいところに目をつけたわね。確かに、連中の活動資金は謎ね。」
「情報屋ギルドでも、掴めていないのか。」
「そこを押さえられたら、もう少し調べも進むのだけど。」
「まあ、それはそうか。」
組織の全体像が分からないため、どの程度の資金を必要とするか分からないが、決して安くはないだろう。
使用人協会に関しては、特に。
「じゃあ、他に魔王振興会や使用人協会絡みで、何かないか? 連中が何かやっていそうな場所とか。」
「そうねぇ……。」
エルミアルダは足を組んで、少し考え込む。
「これは…………、四つ葉が絡んでいるとは限らない話なのだけど。」
そう前置きし、エルミアルダが一つの情報を開示する。
「ある地域で、失踪が相次いでいるわ。」
「………………え?」
思いもしなかった話に、俺は目を瞬かせる。
「他にも、あるのか? 失踪事件が?」
「さすがに、村一つが丸ごと失踪なんて話ではないのだけど。ちょっと、普通じゃない頻度で発生している場所があるわ。」
その地域では、以前から失踪する者がいたのはいたらしい。
多くても、年に一人二人くらいではあるが。
「それが、今年になって急に増えたみたいね。確かもう、十人くらいになるではなかったかしら。」
「それは……ちょっと普通じゃないな。さすがに多すぎる……。」
失踪者なんてのは、どこでも多少はいるものだ。
理由は様々だが、例えば「税が重すぎる」なんて理由で、逃げ出す者だっていないわけじゃない。
多額の借金を抱え、返済できなくなり、夜逃げなんてのも無い話じゃない。
まあ、見つかれば厳しい罰があるため、そうそういるわけではないが。
(もし、失踪の理由が個人的なものではなく、外的要因で起きているとしたら……。)
それが魔王振興会や使用人協会など、四つ葉に繋がっている可能性はありそうだ。
使用人協会は孤児を誘拐して戦闘メイドに育て上げるが、何らかの目的のために、四つ葉が失踪を装って誘拐している線もあり得ない話じゃない。
「その話、もう少し詳しく教えてくれ。」
そうして俺は、エルミアルダから詳細な情報を聞き出すのだった。
■■■■■■
【ホルスカイト共和国 交易都市ヌスポ近郊】
「……さすがに、そろそろ野宿は厳しくなってきたなぁ。」
街道を外れた林で、左腕に包帯を巻いた少年がぼやく。
セステバランだった。
セステバランとピューリは、ネプストル帝国を飛び出し、ホルスカイト共和国に来ていた。
特に目的があったわけじゃない。
帝国以外に行ってみようか、とピューリに聞いたら、行ってみたいと答えた。
だから共和国に来た。
それだけ。
当然ながら、帝国以外の国と言えば、ロズテアーダ修王国もある。
だが、行き先候補としては、すぐに外された。
「つるっぱげの、ムキムキマッチョとかきしょい。」
という、理不尽極まりないピューリの一言で。
帝都での窮屈な生活から解放され、ピューリはとても生き生きとしていた。
セステバランとしては、二年もピューリに我慢を強いてしまったため、これは罪滅ぼしの旅だ。
セステバランにとっては、ピューリがすべて。
たとえ、道中の路銀のすべてがスリや置き引きによる収入であっても、そんなのは些細なことだった。
「お兄ちゃーーんっ!」
ピューリの声が聞こえ、セステバランは林の外に視線を向ける。
そこには、こちらに向かって元気に走ってくるピューリの姿があった。
「おお、妹よ。今日の収穫はどうだった?」
そう尋ねるセステバランだが、実際は聞くまでもなかった。
あの元気な姿を見れば、結果は分かりきっている。
「へへーん! どうだっ!」
セステバランの前まで来たピューリが、そう言って懐から取り出したのは、ずっしりと重そうな布の袋。
袋の中には、二十~三十枚くらいは硬貨が入っていそうだ。
「その顔ってことは、中身は銅貨じゃなさそうだね。」
「当たり前でしょ! そんなヘマしないわよ!」
唇を突き出してむくれるピューリだが、つい先日にそんなことがあったのだ。
ぱんぱんに膨れた布の袋をかっぱらったが、中身が銅貨と大銅貨ばかり。
期待に満ちた満面の笑顔から、一瞬にして絶望のどん底に落ちたようなピューリに、思わず吹き出してしまったものだ。
その時の教訓もあり、今回は中身をすでに確認しているらしい。
ピューリから渡された布の袋を開き、セステバランも目を見開く。
そこには、銀貨と大銀貨が入っていて、いくつか金貨も見える。
「すごい! これ、五十万ペイルくらいはあるんじゃないか?」
「でしょ、でしょ!」
ピューリは頭を撫でてやると、目を細めて照れ笑いをした。
何でも、商人の荷馬車が休憩で停まっているところを、上手く隙を突いてくすねて来たらしい。
「どうしようかね。しばらく宿に泊まる? 最近めっきり冷えてきて、お兄ちゃんはそろそろ宿屋が恋しいよ。」
湯場だけを借りることもできるので、数日に一回はそうして汗を流すことができる。
だが、いくら安宿でも、使ってしまえばお金はすぐになくなってしまう。
最近は大きい街の近くを仕事場に選んでいるので、それなりに稼げてはいる。
それでも、一カ所に留まるようなことはなるべく避け、ブラブラと共和国内を移動する生活をしていた。
大きい金額を得たのならば、猶更だ。
あまり荒稼ぎをしては、傭兵に野盗退治の依頼が出されかねない。
「ちょっとまずいかも……。さすがにこんな金額だと、官吏に目を付けられちゃうかもしれないね。」
ピューリも、今回の金額は大き過ぎると、少し心配になったようだ。
その時、セステバランの目がスッと冷えた。
視線だけが、ゆっくりとピューリを外れる。
ピューリの、向こう。
林の外に向けて、凍てついた目を向けた。
「………………ぅ……ぃ…………し……ょ……。」
ぼそり、と何事かを呟く。
その時、ザザァ……と風が吹き抜け、木々を鳴らした。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
ピューリに声をかけられ、セステバランはにこりと微笑んだ。
何気ない仕草で、左腕の包帯を摩る。
「ん? 何が?」
逆に聞き返され、ピューリが首を傾げた。
だが、すぐに首を振った。
「何でもない。それより、どうする?」
「ピューリの言う通り、早くここは離れた方がいいかもね。宿を使うにしても、別の土地に行ってからにしようか。」
「うん。」
とりあえずの方針が決まり、ピューリが林の外に向かって歩き出す。
だが、そのピューリの手をセステバランは掴んだ。
「何? お兄ちゃん。」
「移動するにしても、街道は少しの間避けよう。林の反対側に抜けて、この辺りを離れてから街道を使おう。」
「分かった。……意外に慎重だね。」
「意外とは何だい、妹よ。ピューリが知らないだけで、僕は常に冷静沈着で、慎重に――――。」
「あはははっ! お兄、最高にウケる!」
「…………どこに、ウケる要素があったのかね、妹よ。」
じとっとした目をピューリに向けるが、すぐにセステバランも破顔した。
そんな、いつも通りのやり取りをしながら、二人は林の奥へと入って行くのだった。
林の外。
先程、セステバランの見つめていた辺り。
そこには、静寂が広がっていた。
「……こひゅー……こひゅー……。」
「ごぽ……ごぽっ……。」
全身をバラバラに切り刻まれた、二人の男。
ピューリを追った、商人の護衛をしていた傭兵。
そんな男たちも、もはや微かな呼吸音と、泡立つ血が音を立てるだけだった。
その音が止み、完全な静寂が訪れるまで、然程時間はかからなかった。
【後書き】
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
第八章はこれにて完結です。
次回から第九章となります。
おかげをもちまして、先日ついに「神様なんか信じてないけど、【神の奇跡】はぶん回す」の書籍版の第一巻が発売となりました。
お近くの書店でお見かけの際は、是非ともお手に取っていただけると幸いです。
もう「かみかみ」も読んだよー、という方、ありがとうございます。
まだ読んでいないという方も、お読みいただけると嬉しいです。
なろう版と書籍版では、若干変わってくる部分もあるかもしれませんが、なろう版もよろしくお願いいたします。
書籍版では書き下ろしエピソードが本編に組み込まれていますので、きっとなろう版を読まれた方でも楽しんでいただけると思います。
ご購入を検討される方は、アーススターノベルのサイトのかみかみ特集ページを見てみることをお勧めします。
3月8日投稿の活動報告にリンクがありますので、ご活用ください。
特典SSは全部で五本ありますので、どのお話が読みたいかで、購入先を選ぶのもいいかもしれません。
どうぞ「かみかみ」をよろしくお願いいたします。
勿論、魔王の権能も頑張って執筆しています。
まだまだ謎だらけのお話ではありますが、見捨てずにお読みいただけると嬉しいです。
それでは、また。
リウト銃士




