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魔王の権能 ~災厄を振りまく呪い子だけど、何でも使い方次第でしょ?~  作者: リウト銃士
第八章 住人の消えた村

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第84話 四つの組織




 鑑定屋ターラッツォと老執事ツフワースの犠牲により、俺はエルミアルダとの面会の機会をもぎ取った。

 行商人は、なかなか売れない珍味を半分も買い取ってもらえ、ホクホク顔で帰っていった。


 そうして、場所をいつものエルミアルダの部屋に移し、情報をもらうことにする。

 ちなみに、ターラッツォとツフワースは、どこかの部屋で休んでいるそうだ。

 現在、エルミアルダの後ろには、若い執事が一人控えている。


「なかなかいい物を紹介してくれたし、ついでだからね。いいわ、何でも聞いてちょうだい。」


 エルミアルダは上機嫌で、そんなことを言う。

 あんな物を紹介しただけで、機嫌が取れるのだから、ある意味ちょろいと言うべきか。

 ほぼ流通が不可能な物なので、むしろ厳しいと言うべきか。

 判断の分かれるところだろう。


 とはいえ、目論見通りに話をする機会を得られたのだ。

 これを無駄にするわけにはいかない。


「マダム・エルミアルダは、住人の消えた村というのは?」


 俺がそう尋ねると、エルミアルダが訝し気な表情になる。


「まあ……話としては聞いているわ。原因は分かっていないそうね。」


 エルミアルダが髪を掻き上げ、一つ溜息をつく。


「そう言えば、前にターラッツォの所に聞き来たと報告は受けているわ。そんなことに興味があるの? まさか、行くつもり?」

「行くつもりって言うか………………行ってきた。」


 俺が少し言いにくそうに言うと、エルミアルダがぽかんとした顔になる。

 本気で呆れているようだ。


「…………まったく。少しは落ち着いていられないの?」

「そうは言っても、やることもないし。……情報が届くには、まだかかるだろう?」

「それはそうよ。そんな簡単に情報が行き来するようになれば、こっちは商売上がったりよ。」


 エルミアルダは肩を竦め、足を組んだ。


(そうとも限らないんだけどな。)


 現在は確かに、非常にゆっくりとした情報伝達が基本で、そんな中で多くの情報を抱える情報屋ギルドというのは、それだけで存在価値がある。

 だが、情報伝達が早くなることの弊害もある。


 一つ目は、偽の情報だ。

 誰かが意図的に流す、作られた情報も早く伝わってしまう。

 二つ目は、情報量。

 元いた世界において、情報は溢れ過ぎていた。

 情報伝達が早いために、あらゆる情報が大量に飛び交う。

 もはや、人が捌ける限界を遥かに超えるほどに。


 日々駆け巡る膨大な量の情報には、正しいものあれば、間違ったものもあった。

 誰でも、どんな情報でも手に入るからこそ、却(かえ)って迷いが生じる。

 正確な取捨選択さえ困難となり、間違った判断をしてしまう。


 そんな時、事実は何か。

 正しい情報がどれかが分かる方法があれば、非常に有用な手段だ。

 現在の姿とはやや変わるかもしれないが、情報の溢れる世界でこそ、情報屋ギルドのような存在は重宝されるだろう。

 もっとも、対価を支払ってまで正確な情報を得ようとする人は、ごくごく一部だとは思うが。

 まあ、それはこの世界でも似たようなものか。


 俺は、エルミアルダを真剣な表情で見る。

 俺の雰囲気の変化を感じ取り、エルミアルダの目が細められた。


「おそらくだが、あの村の失踪事件には魔王振興会が関わってる。」

「……魔王振興会?」

「ああ。以前から、目撃されていたらしい。村の住人にな。」

「そう珍しいことでもないわね。あの連中は、そこらじゅうをうろうろしているみたいだし。」

「…………ちなみに、俺たちも見た。というか、戦闘になった。」


 俺がそう言うと、何とも渋い顔でエルミアルダが首を振る。


「本当に…………少しは大人しくしていられないの?」

「そう言われても、仕掛けてきたのは向こうだし。こっちとしちゃ、身を守るしかないだろ?」


 初めから、話し合いが決裂したら力技を用いるつもりではいたけどな。


「戦闘になる前に、少し話をすることができたんだ。連中の言い分はどうでもいいが――――。」

「ちょっと待ちなさい。」


 エルミアルダが驚いた顔で、俺の話を遮る。


「話を、したの?」

「ああ。」

「向こうの言い分を、聞いた?」

「ああ、聞いた。世界を自然な状態に戻すとか何とかな。」


 俺がそう言うと、エルミアルダが難しい顔になる。


「他は?」

「ほか? えーと、何て言ってたかな……。」


 意外にもエルミアルダが食いつき、俺はダウビッドとの会話を思い出す。


「土地の力を空に還すとか…………魔王はやられてないとか……。世界の真実がどうとかってのも言ってたな。」

「世界の真実……。」


 エルミアルダは、膝の上で指先をトントンと叩く。


「それは、初めて聞くわね。」

「あ、やべ……。」


 エルミアルダの呟きを聞き、俺は思わず口を手で塞ぐ。

 世間話のように話してしまったが、俺がエルミアルダに情報を提供しなければならない義理はない。

 あくまで、客は俺(こっち)だ。

 対価を先払いしているので、俺は情報を買う権利があるが、エルミアルダに提供するのとはまったく別の話である。


 …………と、厳密に言えばそうなるわけだが、この程度の情報まで隠していては、話を聞き出すのもままならない。

 俺は口を塞いでいた手を下ろし、更に話を続けることにした。


「まあ、いいや。連中の中にダウビッドって奴がいる。顔の右半分に火傷を負った奴だ。自分で『会頭』と名乗った。普通に考えれば、こいつがボスってことになるか。」

「会頭の、ダウビッド……。」


 そう呟くと、エルミアルダは俯き、少し考えるように目を伏せる。

 だが、顔を上げた時には、可笑しそうに口の端を上げていた。


「……一応、聞いておこうかしらね。坊やが今日、ここに来た目的は?」

「魔王振興会の情報。それに関連して、四つ葉(フォーリーフ)の情報もだ。」


 俺がそう言うと、ますますエルミアルダは楽しそうな笑顔になった。


「やっぱり、四つ葉(フォーリーフ)を知っているのね?」

「詳しいことは知らないけどな。前にルースオマの情報屋ギルドで聞いたことがある。その時は、使用人協会絡みだったかな? …………やばいネタらしいってことくらいか。教えてもらえたのは。」

「そう。」


 エルミアルダは後ろの若い執事に声をかけ、果実酒を用意させた。

 なんだ、普通の酒も飲めるのか。


「もしかしてなんだが……。」


 そう前置きして、俺はエルミアルダに聞いた。


「四つ葉(フォーリーフ)ってのは、四つの組織からなるんじゃないのか?」

「そう…………言われているわね。」

「言われている?」


 エルミアルダは軽くグラスを傾け、じっくりと果実酒を味わう。


「おそらくそうではないか、と情報屋ギルド(こっち)でも睨んでいるわ。ただ、残りの二つについては、確定していないの。」

「そうなのか……。」


 情報屋ギルドなら、何か掴んでいるのではないかと思ったが、空振りだったようだ。

 それでも、何かのヒントにはなるのではないかと、俺は踏み込んでみることにした。


「確定はしていなくても、怪しい組織とかはないのか?」

「あるわよ。」


 エルミアルダは、あっさり認めた。


「どこだ?」

「いっぱいあるけど、全部知りたい?」

「…………そんなにあるのか?」

「裏で怪しいことをやってる連中なんて、いっぱいいるもの。すべて、候補として排除したりしないわ。排除するような根拠も無いしね。」


 エルミアルダの返答に、俺は顔をしかめてしまう。

 たくっ、裏でこそこそすんのやめろや。

 クリーンな組織というのは、この世界にはないのか!?

 まあ、裏でこそこそやってるってことでは、俺も他人のこと言えないけどさ……。


「怪しいって意味じゃ、情報屋ギルドも怪しいよな? 情報を抱え込んで、共和国にこんな拠点まで作って、一体何する気なんだか。」


 俺がそう嫌味を言ってやると、エルミアルダがとてもいい笑顔になった。


「なかなかいい勘してるじゃない。勿論、情報屋ギルドだって例外じゃないわ。すべてを疑ってかかりなさい。」

「…………ちっ。」


 エルミアルダは、否定も肯定もしない。

 それくらい、四つ葉(フォーリーフ)は社会に潜り込んでいるってことなのか?


「ふふ…………身動きが取れなくなっちゃうわね。」

「…………ある程度は、信用せざるを得ないってことか。」

「そう。本当に信用できるものなんて無いのよ? あるのは、信用『する』か『しない』か。それだけ。」


 エルミアルダの話に、俺はソファーに寄りかかり、天井を見る。

 それは、嫌になるほど正しかった。

 俺は気合を入れて身体を起こし、エルミアルダを真っ直ぐに見た。


「少なくとも、俺はマダム・エルミアルダを信用している。」


 俺がそう言うと、エルミアルダが優しく微笑んだ。


「あら、ありがとう。いいこと聞いたわ。丁度、いい儲け話が――――。」

「絶対騙す気だよなぁ、それっ!?」


 エルミアルダは肩を竦め、果実酒を飲んだ。

 くそ……、まじ性格悪いぞ、こいつ。


 そうして傾けていたグラスをテーブルに置き、エルミアルダが足を組み替える。


「一体、坊やが何を追っているのか知らないけど、ほどほどになさい。」

「…………そうも、言ってられないんだよ。」


 俺は、ティシヤ王国の謎を追わなくてはならない。

 すでに、俺がこの世界で目覚めて六年半も経ってしまっている。

 ようやく見つけた手掛かりを、見逃すわけにはいかなかった。

 俺が拳を握り締めて黙り込むと、エルミアルダがそっと息をつく。


「教会を疑い、共和国の評議会に目をつけられ、今度は四つ葉(フォーリーフ)。お次は修王国に行って、喧嘩でも売ってみる? そうなると、もう坊やにとっての安寧の場所は、この大陸のどこにも無くなるわね。」

「……………………。」


 それは、考えてもみなかったことだ。

 もはやこの大陸には、三つの国しかない。

 アウズ教を敵に回せば、帝国では暮らせなくなる。メッジスたちのように。

 そして、俺はすでに共和国の評議会に疎まれる行動を採ってしまっている。

 知らなかったとは言え、評議会の命令で活動していた山賊を退治しているのだから。

 また、バレていないだけで、軍管理の収容所も襲撃している。ドワーフたちを解放するために。

 この上さらに修王国で問題を起こせば、すべての国でお尋ね者になりかねない。


(…………だから、どうした……っ。)


 それでも、俺は追わなくてはならない。

 すべてを敵に回そうと、ティシヤ王国の第一王子として!

 王国滅亡の原因を解き明かし、弔ってやらなくてはならない!


 俺は睨みつけるようにエルミアルダを見ると、断言する。

 静かに、覚悟を明言する。


「安寧なんか、始め(はなっ)から求めてない。そんなものと引き換えに、俺は俺の行動を変えたりはしない。絶対に。」


 エルミアルダは一瞬だけ目を瞠り、そうして口の端を上げた。


「ただの、生意気なガキじゃなさそうだとは思っていたけど……。」


 そうして、冷えた目で真っ直ぐに見据える。


「面白そうね。どこまでやれるか、見物させてもらうわ。」

「ああ。たっぷり楽しんでくれ。」


 俺とエルミアルダの視線が交錯し、張り詰めた空気が部屋を支配する。

 エルミアルダの後ろに控えていた若い執事が、ごくりと喉を鳴らした。


 エルミアルダは組んでいた足を解き、少し考え込む。


「…………とは言え、魔王振興会についても、あまり情報は無いのよね。」

「情報屋ギルドは、魔王振興会のことにはあまり興味がないってのは聞いたよ。」

「ええ、各地で何か儀式をやったりしているって話だけど。…………結局はそれだけだしね。イカれた行動をする、イカれた連中なんてのは、何も魔王振興会だけじゃないわ。傭兵も、似たようなものでしょう?」


 エルミアルダにとっては、傭兵なんてやってる奴らも、イカれた連中に含まれるようだ。

 つまりは、俺のこともそういう目で見てたってことか?


 まあ、それはいいとして。

 俺はエルミアルダの話を聞いていて、疑問に思ったことを聞いてみる。


「そんな分からないことだらけの四つ葉(フォーリーフ)の、何がそんなにやばいんだ?」


 俺がそう言うと、エルミアルダの口の端が上がる。

 テーブルに置いたグラスを取り、果実酒を飲み干す。


「…………情報屋ギルド(わたしたち)は、確かに四つ葉(フォーリーフ)について深く探ってはいないわ。でも、軽く情報を集めるくらいのことはしているの。」


 空になったグラスを若い執事に差し出すと、果実酒が注がれた。


「通り一遍の情報収集だけど、それで情報がロクに集まらないってことがどれだけ異常なことか、分からない?」


 底が知れない。

 それを「このネタはやばい」と判断する情報屋ギルドの嗅覚は、おそらく正しい。

 だが、俺はそれだけではないような気がした。


「本当は……、残りの二つも見当がついているんじゃないのか? 確証がないだけで。」


 俺がそう言うと、エルミアルダが溜息をつく。


「まったく…………人の忠告は素直に聞いておきなさい。早死にするわよ?」

「んなこたぁ、どうでもいいんだよ。出してくれ。」


 エルミアルダはグラスを掲げ、その琥珀(こはく)のような色の果実酒を眺める。


「……坊やが当(・)た(・)り(・)をつけたら、イエス、ノーくらいは答えてあげる。」


 エルミアルダはグラスを口元に運び、軽く口に含んだ。


「坊やの言う通り、確証がないの。それでも『間違いない』と確信していれば、教えてあげることもできるのだけど。」

「ギルドも、そこまでは自信がないってことか。」

「ええ。だから、坊やが怪しいと睨んだ連中がいれば、それを言ってくれれば答え合わせくらいはしてあげる。情報屋ギルド(わたしたち)も、そこが怪しいと睨んでるって。」


 どうやら、この辺りがエルミアルダの譲歩できるラインのようだ。


「分かった。それについては、それでいい。」


 出せない情報があるのは、こちらも同じ。

 俺も、魔王振興会が土地の力を奪ったから、村の住人が消えたという仮説は出せない。

 なぜなら、どうやっても証明のしようがないからだ。


 重力レンズのような穴が見えるのは、俺だけ。

 土地の力が枯れていると分かるのは、俺だけなのだ。

 その部分を抜きにして、いくら「魔王振興会のせいだ」と騒いでも、まともに相手にはされないだろう。

 だから、「失踪事件には魔王振興会が関わっている」という、非常にふんわりとしたことしか言えなかった。


「魔王振興会もだが、使用人協会とかの資金の出所は掴んでいるのか?」


 大陸中をうろつく魔王振興会。

 その活動資金は、一体どこから出ているのか?


 使用人協会に至っては、拠点を構える必要がある。

 孤児を誘拐し、訓練施設を作る。

 長い年月をかけて戦闘メイドを育成しているのだ。

 どれだけの金をかけているのか。


「いいところに目をつけたわね。確かに、連中の活動資金は謎ね。」

「情報屋ギルド(そっち)でも、掴めていないのか。」

「そこを押さえられたら、もう少し調べも進むのだけど。」

「まあ、それはそうか。」


 組織の全体像が分からないため、どの程度の資金を必要とするか分からないが、決して安くはないだろう。

 使用人協会に関しては、特に。


「じゃあ、他に魔王振興会や使用人協会絡みで、何かないか? 連中が何かやっていそうな場所とか。」

「そうねぇ……。」


 エルミアルダは足を組んで、少し考え込む。


「これは…………、四つ葉(フォーリーフ)が絡んでいるとは限らない話なのだけど。」


 そう前置きし、エルミアルダが一つの情報を開示する。


「ある地域で、失踪が相次いでいるわ。」

「………………え?」


 思いもしなかった話に、俺は目を瞬かせる。


「他にも、あるのか? 失踪事件が?」

「さすがに、村一つが丸ごと失踪なんて話ではないのだけど。ちょっと、普通じゃない頻度で発生している場所があるわ。」


 その地域では、以前から失踪する者がいたのはいたらしい。

 多くても、年に一人二人くらいではあるが。


「それが、今年になって急に増えたみたいね。確かもう、十人くらいになるではなかったかしら。」

「それは……ちょっと普通じゃないな。さすがに多すぎる……。」


 失踪者なんてのは、どこでも多少はいるものだ。

 理由は様々だが、例えば「税が重すぎる」なんて理由で、逃げ出す者だっていないわけじゃない。

 多額の借金を抱え、返済できなくなり、夜逃げなんてのも無い話じゃない。

 まあ、見つかれば厳しい罰があるため、そうそういるわけではないが。


(もし、失踪の理由が個人的なものではなく、外的要因で起きているとしたら……。)


 それが魔王振興会や使用人協会など、四つ葉(フォーリーフ)に繋がっている可能性はありそうだ。

 使用人協会は孤児を誘拐して戦闘メイドに育て上げるが、何らかの目的のために、四つ葉(こいつら)が失踪を装って誘拐している線もあり得ない話じゃない。


「その話、もう少し詳しく教えてくれ。」


 そうして俺は、エルミアルダから詳細な情報を聞き出すのだった。







■■■■■■







【ホルスカイト共和国 交易都市ヌスポ近郊】


「……さすがに、そろそろ野宿は厳しくなってきたなぁ。」


 街道を外れた林で、左腕に包帯を巻いた少年がぼやく。

 セステバランだった。


 セステバランとピューリは、ネプストル帝国を飛び出し、ホルスカイト共和国に来ていた。

 特に目的があったわけじゃない。

 帝国以外に行ってみようか、とピューリに聞いたら、行ってみたいと答えた。

 だから共和国に来た。

 それだけ。


 当然ながら、帝国以外の国と言えば、ロズテアーダ修王国もある。

 だが、行き先候補としては、すぐに外された。


「つるっぱげの、ムキムキマッチョとかきしょい。」


 という、理不尽極まりないピューリの一言で。


 帝都での窮屈な生活から解放され、ピューリはとても生き生きとしていた。

 セステバランとしては、二年もピューリに我慢を強いてしまったため、これは罪滅ぼしの旅だ。

 セステバランにとっては、ピューリがすべて。

 たとえ、道中の路銀のすべてがスリや置き引きによる収入であっても、そんなのは些細なことだった。


「お兄ちゃーーんっ!」


 ピューリの声が聞こえ、セステバランは林の外に視線を向ける。

 そこには、こちらに向かって元気に走ってくるピューリの姿があった。


「おお、妹よ。今日の収穫はどうだった?」


 そう尋ねるセステバランだが、実際は聞くまでもなかった。

 あの元気な姿を見れば、結果は分かりきっている。


「へへーん! どうだっ!」


 セステバランの前まで来たピューリが、そう言って懐から取り出したのは、ずっしりと重そうな布の袋。

 袋の中には、二十~三十枚くらいは硬貨が入っていそうだ。


「その顔ってことは、中身は銅貨じゃなさそうだね。」

「当たり前でしょ! そんなヘマしないわよ!」


 唇を突き出してむくれるピューリだが、つい先日にそんなことがあったのだ。

 ぱんぱんに膨れた布の袋をかっぱらったが、中身が銅貨と大銅貨ばかり。

 期待に満ちた満面の笑顔から、一瞬にして絶望のどん底に落ちたようなピューリに、思わず吹き出してしまったものだ。

 その時の教訓もあり、今回は中身をすでに確認しているらしい。


 ピューリから渡された布の袋を開き、セステバランも目を見開く。

 そこには、銀貨と大銀貨が入っていて、いくつか金貨も見える。


「すごい! これ、五十万ペイルくらいはあるんじゃないか?」

「でしょ、でしょ!」


 ピューリは頭を撫でてやると、目を細めて照れ笑いをした。

 何でも、商人の荷馬車が休憩で停まっているところを、上手く隙を突いてくすねて来たらしい。


「どうしようかね。しばらく宿に泊まる? 最近めっきり冷えてきて、お兄ちゃんはそろそろ宿屋が恋しいよ。」


 湯場だけを借りることもできるので、数日に一回はそうして汗を流すことができる。

 だが、いくら安宿でも、使ってしまえばお金はすぐになくなってしまう。

 最近は大きい街の近くを仕事場に選んでいるので、それなりに稼げてはいる。

 それでも、一カ所に留まるようなことはなるべく避け、ブラブラと共和国内を移動する生活をしていた。

 大きい金額を得たのならば、猶更だ。

 あまり荒稼ぎをしては、傭兵に野盗退治の依頼が出されかねない。


「ちょっとまずいかも……。さすがにこんな金額だと、官吏に目を付けられちゃうかもしれないね。」


 ピューリも、今回の金額は大き過ぎると、少し心配になったようだ。


 その時、セステバランの目がスッと冷えた。

 視線だけが、ゆっくりとピューリを外れる。

 ピューリの、向こう。

 林の外に向けて、凍てついた目を向けた。


「………………ぅ……ぃ…………し……ょ……。」


 ぼそり、と何事かを呟く。

 その時、ザザァ……と風が吹き抜け、木々を鳴らした。


「お兄ちゃん、どうしたの?」


 ピューリに声をかけられ、セステバランはにこりと微笑んだ。

 何気ない仕草で、左腕の包帯を摩(さす)る。


「ん? 何が?」


 逆に聞き返され、ピューリが首を傾げた。

 だが、すぐに首を振った。


「何でもない。それより、どうする?」

「ピューリの言う通り、早くここは離れた方がいいかもね。宿を使うにしても、別の土地に行ってからにしようか。」

「うん。」


 とりあえずの方針が決まり、ピューリが林の外に向かって歩き出す。

 だが、そのピューリの手をセステバランは掴んだ。


「何? お兄ちゃん。」

「移動するにしても、街道は少しの間避けよう。林の反対側に抜けて、この辺りを離れてから街道を使おう。」

「分かった。……意外に慎重だね。」

「意外とは何だい、妹よ。ピューリが知らないだけで、僕は常に冷静沈着で、慎重に――――。」

「あはははっ! お兄(にい)、最高にウケる!」

「…………どこに、ウケる要素があったのかね、妹よ。」


 じとっとした目をピューリに向けるが、すぐにセステバランも破顔した。

 そんな、いつも通りのやり取りをしながら、二人は林の奥へと入って行くのだった。







 林の外。

 先程、セステバランの見つめていた辺り。

 そこには、静寂が広がっていた。


「……こひゅー……こひゅー……。」

「ごぽ……ごぽっ……。」


 全身をバラバラに切り刻まれた、二人の男。

 ピューリを追った、商人の護衛をしていた傭兵。

 そんな男たちも、もはや微かな呼吸音と、泡立つ血が音を立てるだけだった。


 その音が止み、完全な静寂が訪れるまで、然程時間はかからなかった。





【後書き】


 ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

 第八章はこれにて完結です。

 次回から第九章となります。


 おかげをもちまして、先日ついに「神様なんか信じてないけど、【神の奇跡】はぶん回す」の書籍版の第一巻が発売となりました。

 お近くの書店でお見かけの際は、是非ともお手に取っていただけると幸いです。


 もう「かみかみ」も読んだよー、という方、ありがとうございます。

 まだ読んでいないという方も、お読みいただけると嬉しいです。

 なろう版と書籍版では、若干変わってくる部分もあるかもしれませんが、なろう版もよろしくお願いいたします。

 書籍版では書き下ろしエピソードが本編に組み込まれていますので、きっとなろう版を読まれた方でも楽しんでいただけると思います。


 ご購入を検討される方は、アーススターノベルのサイトのかみかみ特集ページを見てみることをお勧めします。

 3月8日投稿の活動報告にリンクがありますので、ご活用ください。

 特典SSは全部で五本ありますので、どのお話が読みたいかで、購入先を選ぶのもいいかもしれません。

 どうぞ「かみかみ」をよろしくお願いいたします。


 勿論、魔王の権能も頑張って執筆しています。

 まだまだ謎だらけのお話ではありますが、見捨てずにお読みいただけると嬉しいです。


 それでは、また。


 リウト銃士

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