第77話 魔王振興会の影
澄んだ秋空の下、俺たちは街道を歩いていた。
俺たちは二つに分かれ、一つは俺とレイン、ベリローゼで組み、もう一つをメッジスとウラコー、カンザロス、ホーマーで組む。
一キロメートルほどの距離を空けて、他人の振りをしながら移動していた。
あまり大所帯だと、やはり周囲の注目を集めやすい。
そのため、人目のつく場所では接触せず、林の中で野営する時に合流するような方法を採っていた。
鑑定屋のターラッツォに失踪事件のことを詳しく教えてもらい、場所の特定と発生時期も確定させている。
それによると、この失踪事件は二週間ほど前に発生したらしい。
場所は、ヌスポの街から八日ほど南に行った村だ。
この村は山間部にあり、ヌスポからの直線距離なら一週間かからない程度なのだが、山道などを通るため八日はかかると言われた。
そうして現在、俺たちはその村に向かっている、というわけだ。
得られた情報から、この失踪が国による移住計画などではないことが分かっている。
失踪発覚から若干騒ぎになりはしたが、元々があまり人の行き来のない山間部での事件。
その情報の広まりは、事件の大きさに比してゆっくりとしたものだった。
失踪した村人は、総勢で五百人近い。
この村では農作物を生産し、それを売って生計を立てていたようだ。
ネプストル帝国では、居住地を勝手に変えることは、法律によって禁止されている。
農民が土地を放棄して勝手に出て行ったら、領主としては困るどころではない。
そのため、傭兵のような一部の職業を除いて、居住地の変更は普通は許可されない。
例外は結婚だが、それだってほとんどは同じ領地、というか同じ村や町で結婚するのが普通だ。
せいぜい隣の村か、その隣の村といったところか。
そして、共和制を敷いているホルスカイト共和国ではあるが、やはり居住地の変更は容易ではない。
今回の失踪事件も、最初は住民が勝手に土地を放棄して、逃亡した疑いがあるとして捜査を行ったようだ。
しかし、それはすぐに否定された。
住民たちの財産が、ほぼすべて残されていたからだ。
もし夜逃げをしようとしたら、何を準備するだろうか。
大きな家財道具などは諦め、なるべく荷物を減らしたりするのは、誰でも思いつく。
そんな時、優先して持ち出す筆頭に挙げられるのが、やはりお金だ。
嵩張らず、必要な物にいつでも交換できる便利な道具、と言える。
いくら何でも、計画的な失踪で、そんなお金を置いていく人はまずいないだろう。
ところが、この村の失踪事件では、お金が残されていた。
捜査した官吏が家中引っ繰り返すと、その家の蓄えと思えるお金がごろごろ出てきた。
村長に至っては、村の運営に必要なお金さえ、そのまま残っていたのだ。
この事実から、官吏たちは「計画的な夜逃げではなく、原因不明の失踪事件」と断定。
今も村人の捜索が続けられているという。
そして、一つ気になる情報もあった。
どうやらこの村をある一帯で、地震が頻発していたらしい。
大体、五~六年ほど前からだ。
そのため周囲の山が、小規模ながら土砂崩れを起こしたりしていたという。
地質学のような学問が確立されていないため、地震の原因など分からないが、近くに活断層でもあるのだろうか?
そうして、ヌスポの街を出て六日。
俺たちは住人の消えた村に続く、山道の手前まで来ていた。
「さて、どうするかな……。」
山道は、見た感じは道が整備されている。
しかし、土砂崩れをちょくちょく起こしていた山と聞けば、立ち入るのは無謀な判断だと言わざるを得ない。
「どうするの? 回り道する?」
立ち止まり、村へのルートを悩む俺に、レインが尋ねる。
ここに至るまでに、山道を使うか迂回するか、まだ決めていないことを何度か伝えていた。
あからさまに、山道を塞ぐ土砂でもあれば迂回一択なのだが、ここから見る限りは普通だ。
そして、この山道のルートが塞がれているわけではないことも、情報として聞いている。
しかし、それはあくまで「現在は」というだけである。
最悪、俺たちが通っている最中に土砂崩れが発生し、飲み込まれる危険だってあるのだ。
だが、迂回のルートも決して楽ではない。
というのも、目的の村は山に囲まれているのだ。
一応、平地で通れるルートもあるが、それは村の南東からのルートだ。
そして、俺たちが今いるのは、村の北。
ぐるっといくつもの山を迂回し、南東からのルートを使おうと思うと、それだけで九~十日は余計にかかるそうだ。
俺はしばらく山道を眺めていたが、レインたちを振り返った。
「やっぱり、こんなことでリスクを取りたくはないな。面倒だが、迂回しよう。」
「分かりました。」
俺が迂回ルートを選択すると、ベリローゼが頷いた。
俺は、昨夜のうちに用意していた紙を、左肩に止まっていたピイに咥えさせる。
「メッジスたちに届けてくれ。」
ピイを左腕に移動させ、上に払う。
これで、メッジスたちにも、迂回を選んだことを伝えられる。
「じゃあ、行こうか。」
俺たちは、山沿いに東へと移動を始めた。
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面倒な迂回ルートを進んで二日目。
あまり人の通らない、マイナーは街道を歩く。
主要な街道以外にも小さな街道はいくつもあり、小さな村や町に繋がっている。
今いる街道もそんな感じで、俺たち以外に誰もいないというわけではないが、かなり少ない。
「そろそろ、少し休憩にするか。」
一里塚ではないが、街道沿いに丁度いい大きな木を見つけ、そこの木陰で休むことにした。
朝早くから歩き、今は九時から十時の間くらいか。
俺たちは木陰に入ると、水分を補給し、軽く糧食を摘まむ。
「こら、だめだって。お前はこっち。」
俺が干し肉を齧っていると、膝の上のピイが首を伸ばして啄もうとしてくる。
干し肉は腐敗を防ぐために、塩を過剰に使用している。
こんなのをピイが食べては、身体に良くないだろう。
人間にだって、この塩分量は良いとは言えないのに。
俺はピイを押さえ、糧食のパンを手のひらに乗せる。
ピイは手の中のパンを、パクパクと啄んだ。
その時、レインとベリローゼが立ち上がり、俺の前を塞いだ。
こちらに歩いてくる、二人の男を警戒したのだ。
「よお、楽しそうにしてるじゃねえか。俺たちも混ぜてくれよ。」
二人組の男は、近くまで来ると声をかけてきた。
にやにやしたその顔は、見るからに良からぬことを考えていそうだ。
この二人組は、俺たちの後ろにいた、荷馬車の護衛だ。
俺たちが休憩している間に先に進むかと思ったが、すぐ近くで休憩を始め、なぜか声をかけてきた。
俺は、うんざりした気持ちで返事をする。
「あんたら、あの荷馬車の護衛だろ? いいのか、さぼってて。」
しかし、二人組はさらににやけ面を歪ませる。
「人聞きの悪いこと言うなよ。怪しい奴を検めてるだけさ。」
「そうそう、これもお仕事だぜ?」
二人組は見かけによらず、仕事熱心なタイプだったらしい。
だが、荷馬車の主らしき商人風の男は、オロオロしながらこちらを見ていた。
「あんたらの雇い主は、随分と困ってるみたいだけど?」
俺がそう指摘すると、二人組の一人が睨みつける。
「ごちゃごちゃ煩せえんだよ、ガキが! 生意気に女二人も侍らせやがって!」
醜く顔を歪ませ、怒鳴りつけてきた。
うーむ、絵に描いたような小悪党である。
久々に見たな、このレベルの馬鹿は。
俺は肩を竦めて溜息をつくと、ピイの首を掻く。
「はぁー……。レイン、相手してやれ。」
「はっ。」
俺が命じると同時に、レインが大きく一歩を踏み出す。
恫喝が成功したと思い、男は欲望を顔に滲ませた。
「そうそう、聞き分けが良くっ――――。」
ダンッッッッッ!!!
レインが強く地面を踏みつけ、凄まじい音を立てる。
その瞬間、何かを言いかけた男が五~六メートルほど吹き飛び、ごろごろと転がった。
「は……え……?」
何が起きたのか分からず、もう一人の男が間抜けな声を漏らす。
ダンッッッッッ!!!
そして、次の瞬間にはその男も吹っ飛んだ。
二人の男は街道に寝っ転がり、呻き声も上げられず、ただぴくぴくと痙攣している。
その威力に満足し、俺は頷いた。
「上出来だ。大分ものにしたな、レイン。」
「はい。」
レインは特に気負うこともなく、静かに俺に向かって一礼した。
シールドチャージ。
盾を使った攻撃方法では、代表的なものの一つだろう。
一言で言えば、レインがやったのは盾を使った体当たりである。
強く踏み込み、盾ごと体当たりを喰らわせる。
ただ、それだけ。
ただし、これを全力で行うには、それなりにコツがいる。
なぜなら、下手なやり方をすれば、自分が怪我をするからだ。
体当たりの衝撃に、自分が耐えられないのだ。
首や腰を痛めたり、ひどい時は肩や腕を骨折することさえある。
そうした怪我をしないように、無理のない姿勢で安定させ、しっかりと全力で当たる。
これこそが、シールドチャージの基礎であり、極意だ。
ティシヤ王国の騎士は、盾の使い方をみっちりと叩き込まれるが、このシールドチャージも当然ながら身につけないといけない。
盾を使った体当たりで、相手を圧死させんとばかりにぶつかるのだ。
腰を落とし、全身の力を使い、瞬間の爆発力が最大化するようにぶつかる。
ティシヤ流では強い踏み込みこそが肝で、レンガさえ割る威力で踏み込む者もいるほどだ。
この強い踏み込みから繰り出される、頑丈な盾が全力でぶつかった威力は、十数メートルの高さからコンクリートに叩きつけられたような衝撃を与えるだろう。
上手く当てれば、相手を即死させるだけの威力を産み出せるのだ。
勿論、それだけの威力を出すには、相当に熟練する必要がある。
レインでは、そこまでの威力は当然ながら無理だ。
だが、上手く当てれば、十分に致命傷を与えられる。
そこ転がっている、二人の男のように。
ある程度シールドチャージを身につけた者は、二人一組で訓練を行うようになる。
互いに、同時にシールドチャージを繰り出し、ぶつかり合うのだ。
力量が釣り合った者同士でやらないと、一方的に吹っ飛ばされかねない、非常に危険な訓練である。
この訓練では、毎回怪我人が出るほどだ。
そうした訓練を繰り返し、初めて実戦でも使えるようになるという。
ちなみに、レインはその訓練をしていない。
釣り合う力量の者がいないからだ。
俺は体格差があり過ぎるし、ベリローゼも盾の使い方など練習していない。
そのためレインは、ティシヤ王国に籠っていた時、薪集めで森に行くと木を相手に練習していた。
繰り返し行われたこの練習により、レインは一本の木を倒している。
幹の太さが、直径で一メートルほどもある木だったのだが……。
二人組の男が倒されたのを見て、荷馬車の傍にいた商人らしき男が、慌てた様子でこちらにやって来た。
「ああ……っ、何てことをっ!」
商人の男は、頭を抱えて嘆く。
護衛がいなくなり、これからどうすればいいのか、困っているのだろう。
それを見て、レインが振り返る。
「……どうする?」
こいつにも喰らわせるか?
そう、確認しているのだ。
俺は首を振った。
「放っておけ。」
そう言って、俺は干し肉を噛み切った。
「おーい、どうしたー?」
「何かトラブルか?」
後を歩いていたメッジスたちが追いつき、声をかけてくる。
二人の男が街道で倒れ、その横で嘆いている商人風の男。
うん、どう見てもトラブルだね。
とはいえ、そのトラブルは俺たちにとってのトラブルではない。
降りかかった火の粉を、ちょっと払っただけ。
そう考え、放っておこうとしたが、俺は一つ思いついた。
「おい、あんた。その馬鹿どもの雇い主か?」
「ひっ……!?」
俺が声をかけると、商人の男は怯えた表情になる。
難癖をつけられると思ったか?
まあ、難癖じゃなく、正当な迷惑料と言えなくもないが。
だが、俺はにっこりと微笑んだ。
「護衛がいなくなって困ってるんだろう?」
「え、あ、ああ……。」
「護衛の内容は?」
商人の男は若干怯えながらも、素直に答えてくれる。
まるで、脅されて白状させられているかのように。
「……二十万ペイルか。まあ、四人じゃちと少ないが、小遣い稼ぎにはなるかな。」
「四人……?」
「何の話だ?」
俺が一人で納得していると、ウラコーとカンザロスが怪訝そうな顔になる。
俺は商人の男に視線を向けて、メッジスたちを指さす。
「あんた。その四人を雇いなよ。」
「へ?」
商人の男はわけが分からず、呆けた顔になった。
当然ながら、メッジスたちにもわけが分からない。
「おいおい、何勝手に決めてんだ。」
「いいじゃないか。丁度通り道みたいだし。」
「だったら、お前がやればいいじゃないか。」
「やってもいいけど、いいのか? こんな楽な仕事貰っちゃって。」
現在、俺は特に金に困っていない。
そして、大量のドワーフ製の装備を入手し、これからも困る場面は少ないだろう。
だが、メッジスたちはどうか。
今すぐは問題ないかもしれないが、手持ちの資金はそのうち尽きる。
俺のように、売れば済む、というわけではないのだ。
俺の意図を察し、メッジスたちが微妙な表情になった。
「そっちがやらないなら、俺たちが引き受けるぜ? どっちにしろ通り道だしな。ちょっと護衛してやるだけで、小遣いが稼げる。」
「うっ…………うぅーん。」
メッジスとウラコーが考え込んでいると、カンザロスが頷く。
「いいだろう。引き受けよう。」
カンザロスが合意したことで、俺はニッと口の端を上げた。
そうして、商人の男を見る。
「良かったな。代わりの護衛が見つかったぞ。」
「あ、え……? いや、でも……。」
話について来れず、商人の男が戸惑う。
相変わらず転がっている二人組に、視線を向ける。
「そんなゴロツキに義理立てして、一人でここに残るのか? そうしたいなら止めはしないが…………俺たちだって、もう行くぜ?」
その一言が決め手となり、商人の男も覚悟を決める。
「わ、分かりました……よろしくお願いします。」
「よし、話はまとまったな。じゃあ、ついでに二人組も好きにしていいぞ。」
俺がそう言うと、メッジスとウラコーが目を輝かせた。
「お、まじで?」
「へへ……悪ぃな。」
そうして、喜々として二人組に止めを刺す。
懐を探り、現金や金目の物を奪う。
「ちっ……しけてんなぁ。」
「まあ、魔法具の袋も持ってねえ三流じゃ、こんなもんだろ。」
二人は死体の手と足を持って、草叢に放り投げる。
そんな様子を、商人の男は青褪め、引き攣った顔で見ていた。
そして、なぜかホーマーも青褪めていた。
逃亡生活の間に、こうした場面を見ていないのだろうか?
「そう怯えなくても大丈夫だよ。仕事柄、慣れてるってだけで、誰彼構わずってわけじゃないから。」
必要に応じて、首を切り落とすことだってあるのだ。
倒した悪党から巻き上げることも、別に珍しいことではない。
つーか、俺もやってたし。
一般人からかけ離れた傭兵の常識に、すっかり慣れてしまった自分がいる。
そのことを改めて認識し、俺は苦笑してしまうのだった。
■■■■■■
ガラガラガラ、ゴトンッガラガラガラ……。
俺は御者台に座り、商人の男と世間話をしていた。
膝の上に乗せたピイは、荷馬車の揺れがお気に召さないようだ。
居心地悪そうにし、逃げたがっている。
「へぇー、地方の特産をサーラスティーに運んだりしてるんだ?」
「まあ、サーラスティーまで行くことは滅多にないけどね。あそこは税が高くって、私らみたいな小さな商会じゃやってけないよ。」
俺は、馬車の横を歩くベリローゼにピイを預け、背もたれに寄りかかった。
この商人の男は、共和国の首都サーラスティーに、地方の特産を運んだりする商売をしているらしい。
だが、サーラスティーは税金が高くて、やってられないという。
「大量に、まとめて運ぶ大店があるんで、私なんかはそういう大店に卸すことが多いね。今回も、その大店に届けるところだったんだ。」
大店は、様々な特産をいろいろな商会から引き取る。
それをまとめて運び、サーラスティーで売り捌くそうだ。
俺は軽く首を捻り、身体を伸ばす。
欠伸が漏れた。
「ふぁ~……。俺はこの辺は初めてなんだけどさ、あんたはこの辺り、よく行き来してるんだ?」
「そうだね。年中、この辺りなんかを回ってるよ。」
俺は聞きたい話が聞けるか、何気なく探りを入れてみた。
どうやら、可能性はありそうだ。
「……そういや、小耳に挟んだんだけどさ。どっかの村が、丸ごと夜逃げしたって?」
そう話を振ってやると、商人の男は悲し気に眉を寄せた。
「あの話か…………もう、そんなに広がってるのかい?」
「どのくらい広がってるか分からないけど、俺たちはヌスポの方にいた時に、この話を聞いたよ。」
「そんな所まで……。」
「好き勝手にいろいろ尾ひれが付いてるよ。実際は夜逃げじゃなくって、国が移住計画をしてたとか。魔物の群れに襲われたんだ、とかさ。」
そんな噂があるかなんて知らないが、それっぽい尾ひれを付けてみた。
商人の男は、増々悲し気な表情になる。
「……多分、夜逃げなんかじゃないよ。国や魔物も、おそらく関係ない。」
商人の男のその言い方に、俺は引っかかるものがあった。
「何か、知ってるのか? ていうか、もしかしてあんた、行ったことある?」
俺がそう言うと、商人の男は躊躇いがちに頷いた。
(……大当たり。)
俺は内心を隠し、気遣うように表情を作る。
「そうか……じゃあ、その……村の人とも知り合いだったのか? すまない。」
「……いや、いいんだ。」
そうして商人の男は、消えた村人との長年の交流などを語った。
不便な土地のため、あまり行商人なんかも来ない。
取引のついでに、塩や生活必需品なんかを載せていくと、とても喜んでくれたという。
「最初に発見したのが、確か行商人って話だったか。……もしかして、あんただったのか?」
「いや、私じゃないよ。だけど、その行商人は知り合いだよ。」
まだ噂にもなっていない頃、その行商人から直接話を聞き、とても驚いたそうだ。
俺は、商人の男を励ましつつ、情報収集に勤しむ。
そうして聞き出すうちに、一つだけ異質な話が飛び出した。
「怪しげな連中……?」
俺が確認すると、商人の男が溜息交じりに頷く。
「何年か前から、商人でもない、近隣の村の者でもない連中を見かけるようになったそうだ。」
「どっかから移り住んできたのか? その村の近くに。」
「いや、そいつらは山の方に行ったりするだけで、またフラッとどこかに行くらしい。何をやってるのか分からんが、薄気味悪いって話をしてたよ。」
「山、に……。」
そいつらは、村の近くの山に時々やって来ては、またどこかに行ってしまうらしい。
村には立ち寄らず、年に一~二度、山に向かう集団を見かけることがあったという。
そこで、商人の男は何かを思い出したように、「あ……」と声を漏らす。
「そう言えば、村人の中に、山で何かやってるのを見た人がいるって言ってたな。…………なんか、全員が黒いローブを着てて、怖くなって逃げ帰ったって。」
黒いローブ!?
俺は、商人の男から出てきた話に、総毛立つような感覚を覚えた。
だが、内心の興奮を隠すように、俺はあえて声を抑える。
「へぇー……、全員がお揃いの、黒いローブ? 何だそりゃ。何をやってたかは分からないのか?」
「何か、儀式でもやってるみたいだったってのは言ってたな。そのせいで、余計に気味が悪かったって。」
黒いローブに、儀式?
商人の男から二つのワードを手に入れ、俺はその怪しい連中に当たりをつけた。
(……四つ葉、魔王振興会。)
四つ葉使用人協会と同じ、『四つ葉』を冠する集団。
使用人協会が孤児を拐かし、戦闘メイドを育成するテロ組織である以上、魔王振興会もロクでもない集団であることは間違いないだろう。
しかも、集団失踪事件の起きた村での、目撃証言。
(何を、やっていた……?)
今のところ、目的などは一切不明。
怪しげな連中が、怪しげな格好をし、怪しげな儀式を行っていた。
それだけだ。
しかし、失踪事件の発覚により、これまで考えてもいなかった可能性が浮上してきた。
(住人の失踪と、魔王振興会には関連がある……? この事件は、魔王振興会によって引き起こされた?)
ガタゴトと揺れる馬車で、俺は深く深く、思考の海に沈み込んだ。
「どうしたんだい?」
急に黙り込んだ俺に、商人の男が声をかける。
そんな商人の男の問いかけに意識が向くことはなく、俺は今後採るべき行動について考え込むのだった。




