第73話 言えない事情
俺は、砂煙に向かって馬を走らせた。
追跡部隊の規模が分からないことには、どうやって対処するか方針が決められない。
(一応、やってはおくか。無駄にはならんだろ。)
そう考え、俺は【災厄】を発動させた。
その時、馬の蹄の音に気づく。
俺が乗っている馬のものではなく、後ろから聞こえる。
振り向くと、そこには真剣な表情でこちらに向かって来るベリローゼがいた。
どうやら、俺を追いかけてきたようだ。
「……………………、命令が聞こえなかったとは言わせないぞ、ベリローゼ。」
俺がそう言うと、ベリローゼが少し表情を曇らせる。
しかし、引き返す気はないらしい。
そのまま俺の横に並ぶ。
「いい度胸だ。堂々と命令無視とは。」
「………………騎士の誓いをしていませんので。」
レインのように誓いを立てたわけではない。
だからセーフ、という理屈らしい。
俺は鼻で笑った。
「そんな言い訳が通用するとでも? それに、ドワーフたちはどうするんだ?」
「ここまで来れば、あとは東に向かうだけですから。メッジス様にお願いしておきました。」
追跡部隊を片付け、戻ればいいだけ。
ドワーフたちが森に着く前に合流すれば、何も問題はない。
そういうことらしい。
「まったく……。」
まあ、ベリローゼの考えも間違ってはいない。
要はさっさと片付ければいいだけの話だ。
「メッジスやカンザロスに、俺の直掩を振らなかったのは、悪くない判断だ。」
「それでは、やはり……?」
「ああ、まともに相手してやることはない。【災厄】で一気に方をつける。」
周囲に何もない場所でなら、気兼ねなく使えるってものだ。
俺は、ベリローゼにも【災厄】のことを伝えていた。
レインの借金の理由を説明するためだったが、ベリローゼには「方法が極端過ぎます」と怒られた。
レインにも、俺がどういうつもりで一億シギングなんて金額を要求したのか、バラすことになってしまった。
それはいいとして、どうやって追跡部隊を殲滅するかだが……。
俺は、風に靡く髪を掻き上げる。
馬を走らせているが、追い風に髪が顔にかかっていた。
そして、視線を少し上げる。
追跡部隊が上げる砂煙よりも、少しだけ上。
「あれは、もしかして…………リコ様が?」
徐々に形作る巨大なそれに、驚きに目を見開いたベリローゼが呟く。
追跡部隊の上げる砂煙も吸い込み、それはどんどん大きくなる。
それは、言ってみればただの砂煙の塊だ。
不自然に空中に留まり、集まる強風にうねる黒い塊。
追跡部隊は、頭上にあるそれに気づいているのか、いないのか。
変わらずこちらに向かってきている。
「あの砂煙を、ぶつけるのですか……?」
「ああ、そのつもりだ。」
怪訝そうにするベリローゼに、俺は不敵な笑みで答えた。
ベリローゼの考えていることは分かる。
あんな砂煙の塊をぶつけたところで、一体どんな意味があるのか。
視界が塞がれ追跡がしにくくなるが、それだけだ。
それ以上の意味があるとは思えない。
だが、俺は【災厄】を使い、さらに活発に砂煙を操る。
うねり、渦を成し、凝縮させた。
俺は、追跡部隊から少しだけ進行方向をずらし、丘のような場所に上がった。
目線が高くなり、追跡部隊の規模も判明する。
「……百はいそうだな。どこから湧いてきた部隊だか。」
百数十騎の騎馬隊。
まあ、中身は騎士ではなく、ただ馬に乗っただけの兵士かもしれないが。
見下ろすことで、だいたいの距離も計れた。
俺たちと追跡部隊との距離は、おそらく三キロメートルほど。
そして、逃げるドワーフと俺たちの距離は、二キロメートルほどだ。
大雑把に言うと、ドワーフと追跡部隊の距離は五キロメートルほどということになる。
「さて、そろそろいいか。」
俺は集中し、空に浮かんだ砂煙を勢いよく落とす。
ゴロゴロゴロ……ッ!
その黒いうねりは、雷鳴を轟かせながら地上に叩きつけられる。
追跡部隊を飲み込むと同時に、黒い塊に何度か稲妻が走った。
そうして黒い雲のような塊が、静かに周囲に広がっていく。
「何、ですか……今のは? まるで、雷のような……。」
「ようなって言うか、雷そのものだな。」
火山雷、と呼ばれる現象がある。
火山の噴火などで、よく見られる現象だ。
噴火で噴き上げられる砂や石の摩擦で帯電し、起こる現象とされる。
実際は、噴火である必要はない。
砂漠などでは、砂嵐でも同様の現象はたびたび確認されている。
砂嵐をちょっと激しくしてやれば、小規模ならそう難しいことではない。
「砂煙で、成果が確認しにくいのが難点だな、こいつは。」
俺は目を凝らして砂煙を見るが、部隊にどの程度のダメージを与えたか、まったく見えなかった。
仕方なく、【災厄】を使って風をいじり、突風で砂煙を払う。
砂煙がどかされると、追跡部隊は全員が倒れているようだった。
死んでいるかどうかは分からないが、まあ追跡は不可能だろう。
「護衛は必要なかったな。」
俺がそう言うと、ベリローゼが涼しい顔で答える。
「…………………………結果的に、ですから。」
結果論など、気にしないということだろう。
その考えは、護衛としては正しい。
備える、というのは、基本的には無駄になることが多い。
むしろ、それで良し、とすべきなのだ。
俺は、丘の上から他に追跡部隊がないか確認する。
見た感じでは、他にはいなそうだが……。
「あまり早く戻っても怪しまれそうだ。少し休んでから追いかけよう。……さすがに、少し疲れた。」
昨日の夕方からこっち、ほぼ動きっぱなしである。
「横になりますか?」
ベリローゼの提案に、俺はにやりとする。
「何だ? 膝枕でもしてくれるのか?」
「…………ご所望であれば。」
「冗談だ。それより、こっちの方が少し気になる。」
そう言って、俺は魔法具の袋に手を入れる。
自分のではない。
収容所で手に入れた方の魔法具の袋だ。
「大振りのナイフは…………この辺か。」
そう呟きながら、俺はいくつかのナイフを取り出す。
そのナイフを、ベリローゼに放ってやる。
「気に入ったのがあれば、いくつか確保しておけ。予備も含めてな。」
「私がいただいてもよろしいのですか?」
「お前とレインの装備の更新は、常に最重要事項の一つだ。ドワーフのナイフなんざ、なかなか手に入る物でもないぞ。」
ついでに言えば、俺が使ってるナイフも交換するつもりだった。
ドワーフは「玩具に毛が生えた」なんて言っていたが、かなり上等のナイフだ。
これだけの物は、買おうとしてもそもそも出回ることが少ない。
それほどのナイフだった。
「他に剣、槍、ダガーなんかもある。使いたい物はあるか?」
「一応、扱えなくはないですが……あまり長物は得意ではありません。」
「それでも、戦力を上方修正できるなら使うべきだ。どうだ?」
トータルの戦力を考え、少しでも上積みできるなら「使え」と命じる。
ベリローゼは少し考え、首を振った。
「ナイフを使ってできないことが、剣を使えばできる、という状況が考えられません。」
「そうか。」
俺は無理強いはせず、提案を取り下げる。
そうして、自分の分のナイフも選ぶ。
「思わぬ余禄ができたな。レインにも予備の剣を渡せるし、いくつか売るだけで借金を返せそうだ。」
取り出した数本のナイフのうち、今使ってるのと大きさがあまり変わらない物を一つ選ぶ。
そうして、腰のベルトのナイフを交換した。
ベリローゼも、太ももに着けていたベルトを外し、ナイフを交換。
馬を下りると、着け心地や動きの確認をする。
素早く抜き、構えたり、振り抜いたりの動きをチェック。
俺はそんなベリローゼを、糧食を齧りながら見ていた。
装備の更新が終わり、糧食を摂ると、俺とベリローゼはドワーフたちと合流した。
ドワーフたちが口々に感謝するが、中には「自分の手でぶっ殺しかった」などと言う物騒な奴もいた。
まあ、これは単純に物騒というだけではなく、それだけ恨みが深い、とも言えるが。
そうして、途中に一度だけ休憩を取り、森まで強行軍で向かった。
さすが鍛冶職人だけあって、ドワーフの体力は半端なかった。
むしろ、俺やメッジスたちの方が音を上げそうだ。
無事に森に着くと、馬を下りて奥へと進む。
ピイは俺が手綱を引く馬の鞍に乗り、うつらうつらしている。
眠りこけて、落ちるなよ?
「…………本当に、こっちであっているのかい?」
鬱蒼と茂る森に不安を覚えるのか、チェラートンがそんなことを呟くが、華麗に無視する。
川にぶつかると上流へと進み、湖にぶつかった。
そこで、水汲みをしている何人かのドワーフと出会った。
「っ!? あんたっ……!」
「おおっ、かーちゃん。無事だったか。」
中年のドワーフの夫婦が、再会を喜び合う。
「うちの女房はどこだ!? 無事なのか?」
あっという間に、他のドワーフたちが大騒ぎになる。
自分の家族の無事を、早く確かめたいのだろう。
「あっちに、俺の仲間と合流の目印にした大木がある。きっと、そこにいる。」
俺が指さした方に、ドワーフたちが一斉に駆け出した。
我先にと駆け出すドワーフたちの後ろ姿を、ほっとした思いで眺める。
「よかったですね。」
「ああ。」
ベリローゼの感想に、俺も頷く。
メッジスたちも、何だかんだ表情が優しい。
家族が再会を喜び合う姿に、人もドワーフも変わりはしない。
だが、一人だけ残っているドワーフに気づいた。
俺が胸倉を掴んだ、壮年のドワーフだった。
「どうしたんだ? あんたも早く顔を見せてやりなよ。」
「あ、ああ、もちろんだ。」
壮年のドワーフはそう言うが、そこを動かなかった。
少しバツが悪そうに頭を掻くと、頭を下げる。
「あんたには、どれだけ感謝してもしきれねえ。家族を、仲間を助けてくれたこと、本当に感謝してる。」
「そんなのいいから、早く家族を安心させてやりな。」
「ああ。」
壮年のドワーフは、真剣な表情で頷いた。
「あんたの出した条件。儂らは絶対に忘れねえ。ドドナッツォって言ったな、あんたの恩人の名は。」
「そうだ。俺はリコ。あっちにいる俺の仲間がレインだ。俺たちの代わりに、よくお礼を言っておいてくれ。」
「分かった。儂はロンバーダンだ。儂も、あんたらから受けた恩を、絶対に忘れん。」
そう言うとロンバーダンと名乗ったドワーフは、森の奥に入って行った。
入れ違いに、レインがこちらに駆けてくるのが見えた。
「リコッ!」
「レイン、よくやった。」
俺は任務をやり遂げたレインを褒めるが、レインの顔はちょっと情けなくなっていた。
なんか、半泣きのような表情だ。
「なんて顔してんだよ、レイン。喜べよ。」
「だって…………なかなか来ないから、もしかしたらって……。」
待っている間、俺たちに何かあったんじゃないか、と不安で不安で仕方がなかったらしい。
「ほとんど予定通りだろ?」
「そうかもしれないけどぉ……。」
まあ、レインもまだ十七歳くらいか。
経験も浅い。
何事にも動じない、どっしりとした腹の据え方はまだ難しいか。
それでも、これも貴重な経験になる。
やり遂げた、という実績は自信にも繋がるだろう。
そこに、メッジスたちと一緒にいたチェラートンがやって来て、声をかけてくる。
「久しぶりだね、レイン。」
そう、チェラートンが薄っぺらい笑みを浮かべる。
レインは急に声をかけられ、びっくりしたように目を見開き、…………固まった。
いや、多分これは違うな。
「収容所を襲撃してる時、たまたまチェラートンと会ったんだよ。」
「…………チェラートン、さん?」
無事に俺からのパスを受け取ったレインが、チェラートンの名前を呟く。
顔は憶えてるんだけど、名前をど忘れしちゃうことってあるよな。分かる、分かる。
レインは軽く目元を拭くと、ぎこちない笑顔を作った。
「お久しぶりです、チェラートンさん。」
そうして俺たちも、無事に合流できたことを喜び合い、お互いの状況を簡単に報告し合った。
■■■■■■
俺たちは食事を摂り、交代で仮眠を取った。
先に到着していたレインは、ドワーフの女性たちに食事の準備をさせていた。
「必ず、私の仲間が解放します。だから、信じてここで待ちましょう。きっとお腹を空かせているでしょうから、食事を用意しておきましょう。」
そう励まし、隠しておいた魔法具の袋を女性たちに渡した。
自身の不安を押し殺し、周囲の警戒を続けながら。
俺たちは丸一日を森の中で過ごし、落ち着いたところで今後のことを話し合うことになった。
ドワーフたちの代表数名と、俺、レイン、ベリローゼ、カンザロスやメッジスたち、チェラートンの参加した話し合いは、やや不穏な空気で始まった。
俺は最初に、貴方たちの望む場所まで護衛するつもりです、と伝えたのだ。
だが、ドワーフたちの返答はノーだった。
「どういうことだ、そりゃ? 俺たちのことが信じられねえってのか?」
メッジスが、ドワーフたちの方針を聞き、剣呑な空気を纏う。
カンザロスやウラコーも、少々険しい表情をしている。
「あんたらを信用していないわけじゃない。……だが、ここまでで十分だ。」
ロンバーダンが、固い決意を感じさせる目で言う。
俺は、ロンバーダンの言葉に断固としたものを感じ、メッジスを手で制す。
「何か、事情があるんだろう。俺も、別に無理強いをするつもりはないさ。ただ……。」
そう言って、やや眉を寄せる。
「俺が心配なのは、本当に大丈夫なのか、ということだ。」
ロンバーダンに向けて言うと、ロンバーダンも眉間の皺を深め、視線を落とす。
おそらく、その不安はロンバーダン自身も感じているのだろう。
現在いる場所は、共和国ではない。
だが、良からぬことを考えるのが、共和国の連中だけと決まってるわけじゃない。
道中に、また何か不測の事態が起きないとは限らないのだ。
ドワーフの武器を欲しているのは、共和国だけではないのだから。
「何かあったとしても、それは儂らの問題だ。儂らがどうにかする。」
「それができないから、収容所に閉じ込められていたんだろうが!」
別のドワーフの言葉に、ウラコーが反論する。
メッジスとウラコーも、別にドワーフたちの護衛をしたいわけではないだろう。
だが、助けてやったのに信用しようとしないドワーフたちの態度に、苛立ちを感じてしまうのだ。
「まあ、いいじゃないか。自分たちで何とかすると言うなら、それで。」
「リコ……。」
俺があっさり引き下がるのを見て、レインが表情を曇らせる。
そんな俺の態度が不満なのか、メッジスがドワーフたちを指さし、声を荒げた。
「いいのかよ、リコ! 確かに俺は、ドワーフのことなんかどうでもいいさ! けどな、お前らは違うだろ!? 誰に言われたわけでもない! 銅貨一枚だって得にならねえのに、命懸けで助けるって決めたんだろ!? その仕打ちがこれかよ!」
メッジスの意見に、ウラコーとカンザロスが頷く。
チェラートンもさすがに空気を読んだのか、いつもの薄っぺらい笑みを引っ込め、やや真剣な表情で成り行きを見守っていた。
「ありがとうな、メッジス。俺の代わりに怒ってくれてるんだろう? でも、いいんだ。」
そう言って、俺はロンバーダンを見る。
「言えないけど、事情があるってことだろう?」
ロンバーダンは何も言わず、唇を引き結び、俯く。
おそらく、ドワーフたちの掟か、ドワーフ以外には秘密の場所など、決して言えない“何か”があるのだ。
僅かにも、ヒントを与えることも許されない。
それを教えろというつもりは、俺にはない。
「俺たちの目的は、第一に恩返しだった。条件さえ守ってもらえるなら、別に不満はないさ。」
そう言って、俺は微笑む。
「俺たちがいたら、何かとやりにくいだろ? すぐに出るよ。」
俺は立ち上がるが、全員が動けないでいた。
何で、そんなにも簡単に引き下がってしまうのか。
レインの目が、そう訴えていた。
そんなレインを見て、俺は苦笑する。
そうして、やや声のトーンを落として言い聞かせる。
「言えない事情がある。…………分かるな?」
俺が改めて言葉にすることで、レインとベリローゼも気づく。
それが、自分たちにもあることを。
そのことに気づき、レインとベリローゼも戸惑いながら立ち上がった。
「うん…………行こうか。」
「そう、ですね。」
レインとベリローゼも立ち上がることで、メッジスたちが仕方なさそうに溜息をつく。
「本当にいいのかよ……。こんなので。」
「ああ、十分さ。満足してるよ。」
借金を返す目途もついたしな!
そう、内心でほくそ笑む。
銅貨一枚すら儲けにならないどころか、相当な金額の持ち出しだったのだ。
それでもいいと思っていたが、思わぬ収益があった。
おそらく、手に入れた武器を全部売り払えば、売却益は数十倍にもなるだろう。
まあ、安売りする気はないので、そうそう売らないけどな。
値崩れしないように、大事に大事に売り抜けますよ?
「それじゃ、俺たちはこれで。気をつけてな。」
「お元気で。」
軽い口調で別れの挨拶を済ませ、俺は踵を返す。
渋るメッジスたちを宥めながら、俺はその場を離れた。
「すまない。ありがとう、リコ。」
背中にかけられたロンバーダンの声に、俺は片手を挙げて応えた。
俺たちが馬の準備をしていると、沢山のドワーフたちが声をかけてくれた。
「いろいろと、ありがとうございました。」
「お姉ちゃん、ありがとう!」
たびたび声をかけられ、準備に若干手間取る。
「よし、行こうか。」
それでも、全員の準備が整ったのを確認すると、俺は馬を引いて森の外に向かった。
「それじゃ、僕はこれで。」
森の外に出ると、チェラートンが馬に飛び乗り、声をかけてきた。
たまたま会った傭兵同士。
あっさりしたものである。
「おう、ありがとうな。…………あんまり役には立ってないけど。」
「ははは、ひどいな。」
そう、笑い合う。
チェラートンも請け負った仕事がある。
ここまで付き合ったのも、その一環という意味合いが強いだろう。
去って行くチェラートンをしばらく眺め、それからカンザロスたちを見る。
「さて、こっちも方針を決めないとな。」
彼らに対する、俺の支払いがまだだった。
支払い――――つまり、情報だ。
「帝国の、ルースオマって街をいつも使ってんだ。そこの情報屋ギルドが、個人的には一番やりやすい。」
「ルースオマ? 確か、エザルバ子爵領だったか?」
「うーん…………帝国かぁ。」
教会に指名手配されているメッジスとウラコーが、帝国入りに難色を示す。
「俺たちだけで行ってくる…………てのは、やっぱだめか。」
「さすがに、なあ?」
「まあ、信用はしてるけどよぉ……。」
俺とレイン、ベリローゼだけでルースオマに行き、情報をもらって共和国に戻る。
情報の入手を一番に考えれば、それがもっとも確実だろう。
ただし、俺たちがそのままとんずらしなければ、だ。
「お目付け役にカンザロスが同行するってのも、残された方としちゃ、きつい状況か。」
「…………まったく身動きが取れなくなる可能性があるな、それだと。」
カンザロスが、メッジスたちを見て苦笑した。
なかなか上手くいかないものである。
俺は腕を組んで考え込む。
そうして、情報の入手方法を考えた。
「仕方ない。ヌスポに行くか。」
「ヌスポ? 交易都市の?」
「ああ。あまり気は乗らないが、そこでなら何とかなる可能性が高い。」
マダム・エルミアルダにはいい顔をされないだろうが、一応の繋ぎ方は教わった。
直接顔を合わせるわけじゃなし、どんなに変な顔をされても気にしなければ問題ない。
エルミアルダ経由でなら、帝国の情報屋ギルドと繋ぐことも可能だろう。
大分、時間のかかる方法ではあるけど。
「ちょっと特殊な待遇でな。俺も、決して歓迎されているわけじゃないんだ。だから、直接メッジスたちを繋ぎ役に紹介するわけにはいかない。…………その代わり、メッジスやウラコーが自分で買うよりも、もっと深い情報を得られると思う。どうする?」
「ああ、それでいい。元々リコたちを信用して、俺たちもこの話に乗ったんだ。そこは気にしないでくれ。」
ある程度は信用していなければ、そもそも俺たちに協力などしていないだろう。
帝国に俺たちだけで帰ってしまうのは受け入れ難いが、そうでなければ任せてくれるということで、決着がついた。
こうして、俺たちは交易都市ヌスポを目指して移動を開始した。
収容所を襲撃した町には立ち寄らず、あえて遠回りに移動する。
道中、何度かエルミアルダに飲まされた“地獄の業火”の匂いを思い出し、ちょっとだけ気持ち悪くなった。




