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魔王の権能 ~災厄を振りまく呪い子だけど、何でも使い方次第でしょ?~  作者: リウト銃士
第五章 交錯する野心

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第48話 絶招




 暗闇の中、二つの光が浮かぶ。

 草叢から見つめる、二つの目。

 慎重に周囲を探り、黒い影が草叢から飛び出す。


 ガサガサッ……!


 か細い月明かりでは、その影ははっきりとは視認できない。

 ただ、速い。

 大地を駆ける、影。

 その速さは、まるで野生の獣を思わせる。


 丘を一つ越え、二つ越え、再び草叢に飛び込む。


 ガサガサッ! カサカサカサ……。


 そうして、草叢の中を移動する。

 再び、二つの光が草叢に浮かぶ。

 二つの目が見つめる先。


 そこには、いくつものテントを張った集団がいた。

 あちらこちらで焚き火を囲み、談笑する。

 鎧を着ている者、剣(ソード)を佩いている者もいるが、ほとんどがもっと身軽になっていた。


 一日の行軍が終わり、思いおもいに食事を摂り、酒を飲む。

 時々、笑い声も上がっていた。


 じっと、二つの光はその様子を見つめる。

 二つの光がフッと消えると、再びカサカサカサ……と草の擦れる音が立った。

 しかし、少し距離が離れているため、男たちがその音に気づくことはなかった。







 ……ッ…………!


 男は、微かな音に気づいた。

 眠い目をこすり、僅かに目を開く。


 最初に目に入ったのは、焚き火の揺らめく炎。

 パチパチ……と木の爆ぜる音が聞こえる。


 横になったまま、微かに身体を動かす。

 固い地面の上で寝ているため、あちこちが凝ってしまっていた。

 目を閉じ、寝返りを打つ。


「……ァ……ガ……ッ!」

「…………グ……ッ!」


 その時、微かにくぐもった呻き声のようなものが聞こえた。

 男が目を開くと、少し離れた場所で、仲間の倒れる姿が見えた。


 男はガバッと跳ね起き、凝視する。

 辺りには、何人も仲間たちが倒れていた。


「……ゥ……ッ! …………ハッ……!」


 喉がひりつき、上手く声が出ない。

 男はごくりと喉を鳴らし、声を上げた。


「……て、敵襲ぅ! 敵襲だあっ!」


 男の声に、横になって眠っていた仲間が起き上がる。

 ざっと見た感じ、すでに半分近くがやられている!?


「敵襲ぅぅううっ!」

「おいっ、起きろっ!」

「敵はどこだっ!?」


 あちこちで声が上がり始め、男も急いで剣(ソード)を手にした。

 不寝番は何やっているのか!?


「くそ、何でっ!?」

「魔獣か!?」

「いつの間に、こんなっ!?」


 戸惑いの声が上がるが、それでも仲間たちは、次々に戦いの態勢を整える。


「ぎゃああっ!?」

「グフッ!?」


 ドサドサッ……と、仲間が倒れる。

 だが、そちらを見ても、すでに誰もいなかった。


「どうなってやがるっ!」


 見えない襲撃者に、危うくパニックを起こしかける。

 だが、混乱すれば敵に利するだけ。

 男は剣(ソード)を構えたまま、大きく深呼吸をした。

 そうして、ふと思い浮かぶ。


「…………まさか、魔王(ラーナー)……?」


 何を馬鹿なことを!

 男は頭に思い浮かんだ考えを、即座に否定する。

 だが、男の呟きが聞こえてしまったらしい。


「……魔王?」

「手先か……?」

「まさか、生き残りがこんな所まで……!?」


 途端に、恐怖が伝播する。


「ギャアアアアアーーーーーーッ!」


 再び、悲鳴が上がる。

 その悲鳴を聞き、一人の男が滅茶苦茶に剣(ソード)を振り回し始めた。


「うわああっぁぁあああーっ! 来るなら来てみやがれっ! おらあっ! うらあーっ! 来いよっ! 魔王が何だってんだっ、くそがあっ!」

「馬鹿野郎っ!」

「落ち着けっ! 魔王(ラーナー)はもういないんだっ!」


 滅茶苦茶に振られる剣(ソード)に、危うく仲間が斬られそうになっていた。

 そうして暴れる男に気を取られていると、次々に悲鳴が上がり始めた。


 その事態に、脳裏に浮かぶ最悪の結末。

 全滅――――。


 男は、焦る気持ちを落ち着け、声を上げる。


「あ、集まれっ! 密集するんだ! 全周警戒で、敵を見つ――――!」


 ドゴッ!


 男が呼びかけると、横にいた仲間の頭が吹き飛んだ。

 男の頬に、飛び散った血が跳ねる。


 男は恐るおそる、そちら向く。

 血だらけの手が、男の顔に迫っていた。


 ゴシュッ……!


 …………………………………………。

 ……………………。







■■■■■■







 伸ばした手が、掴まれていた。


「大丈夫、リコ?」


 覗き込むように、レインの顔が現れる。

 掴まれていた手を放してもらい、俺は眠い目を擦る。


「……………………。」


 俺はむくりと起き上がり、辺りを見回す。

 夜風の冷たさに、思わず身体が震えた。


「珍しいね。リコが声をかけても目を覚まさないなんて。」


 そんな感想を漏らすレインを、半目で見る。

 眠くて、まだしっかりと目を開けるのがつらい。

 どうやら、深く眠り過ぎたようだ。

 何か、夢を見ていたような気もするが……。


「……疲れが溜まってたみたいだな。もう大丈夫だ、休んでくれ。」


 小声でそう言うと、レインがコクンと頷く。

 疲れているのはレインも同じだ。

 すぐに防寒用のシーツに包まり、横になった。


「お休みなさい、リコ。」

「ああ。」


 レインは横になると、すぐに寝入ったようだ。

 俺は防寒用のシーツを肩までかけ、焚き火を見つめた。


 ここは、ネプストル帝国とヨッテンソーム王国の国境に近い、砦。

 その砦を囲む、王国軍と領主軍、傭兵の集団の中だ。


 俺とレイン、ベリローゼの三人は、通常の野営と同様に、三交代で不寝番を置いた。

 普通ならそこまで警戒することはないのだが、俺たちの傭兵団は少々特殊だ。

 子供(ガキ)二人に、女中(メイド)。

 良からぬことを考える奴なんてのは、どこにでもいる。

 そのため、通常の警戒を続ける方針でいた。


 ちなみに、ここで再会したプライテスも、俺たちと同じ焚き火にあたってはいる。

 だが、プライテスは別枠だ。

 個人で警戒のできるプライテスは、わざわざ不寝番に参加する必要がない。

 プライテスに悪さをしようとする馬鹿も、いないだろうからな。


 ベリローゼもそうだが、プライテスも少し声をかければすぐに起きるだろう。

 普段は俺もそんな感じなのだが、今日は少し、深く眠り過ぎたようだ。


 俺は眠気覚ましに、焚き火にあたりながら身体を解す。

 そうして首を回し、砦の方を見た。

 砦を囲う壁の上には、明かりが灯っていた。

 あちらはあちらで、不寝番を置いているのだろう。

 まあ、当然だが。


 砦を占拠した、賊。

 帝国の、偽装した兵。

 俺たちが春に砦を落としてから、半年。

 人員や装備の補充はされているのだろうか。


 防衛のための準備は、どれだけされている?

 食料や武器の備蓄は?


 いろいろ考えてしまう。

 答えなど、出ないと分かっているのに。


(だけど……。)


 一番の不思議は、なぜ賊たちは籠城を選んだ?

 言うまでもなく、籠城とは応援が来ることを期待しての時間稼ぎだ。

 応援がなく、備蓄が尽きれば、後は逃げるしかない。

 それなら、籠城などせずにさっさと逃げるべきなのだ。


 もし仮に、賊の正体が本当に帝国の正規兵だったとしたら。

 狙いはなんだろうか。


(俺たちが通ったルートを使い、帝国も応援を出して来るのか……?)


 しかし、あんな山脈越えのルートでは大した増援は出せない。

 何より、輜重隊が通れるような道ではない。


 そして、もう一つの気になる噂。

 ヨッテンソーム軍の、オランジェス王国への侵攻。

 俺は攻城兵器を壊されたヨッテンソーム軍が、代わりの攻城兵器を手配するのに数週間かかると聞いて、その不手際に呆れた。

 しかし、もしこの砦奪還がカモフラージュだったら?

 代わりの攻城兵器など、二の次、三の次だ。


 水面下では、最優先でオランジェスへの侵攻の準備が進められているのかもしれない。

 そうなれば、こんな砦の攻城兵器など、用意している場合ではないだろう。


(……こんな、辺境のちっぽけな砦なのにな。)


 陰謀が渦巻く危険地帯(ホットスポット)と考えると、ちょっと面白い。

 もっとも、面白がっていられるのは、まだ自分が傍観者だからだ。

 本格的に戦いが始まれば、面白がっているような余裕もないだろう。


(状況の変化には、気をつけておかないと……。)


 ただ目の前の砦を落として終わり、で済んでくれればいいのだけど。

 そんなことを思いながら、俺は満天の夜空を見上げるのだった。







■■■■■■







 砦の包囲に加わって、三週間が経った。

 その間、一度も砦への攻撃は行われていない。


 ただ、集めた傭兵を遊ばせておく訳にもいかないので、訓練は施していた。

 とは言っても、全体での訓練をしているのは、素人だけだ。

 ある程度の腕を持つ者は、そんな訓練に参加しなくても、自分たちで元々トレーニングをしていた。

 身体を鈍らせる訳にはいかないからだ。


 ロクに剣(ソード)の扱いも分かっていない連中にだけ、ヨッテンソーム軍の騎士や兵士が訓練を施す。

 俺たちのような専業の傭兵は、自主トレで構わないという方針が採られた。


 と言う訳で、今日も今日とて自主トレに励む。

 レインは苦し気な表情で、プライテスの攻撃を素手で捌き、距離を取ろうとする。


「足元が留守だぞ。」

「くっ!? あっ!」


 プライテスに足をかけられ、レインが地面に転がった。


「痛(つ)ぅ……!」


 地面に両手をつき、レインが顔をしかめる。


「……油断しない。」


 そんなレインの足を取り、プライテスが足首を極める。


「あたっ!? 痛(い)たたたたっ……!」


 レインはなす術なく、じたばたと暴れる。

 だが、一度極められた関節は、そう簡単には解くことができない。


 俺たちは、プライテスに稽古をつけてもらっていた。

 無手での、攻撃を捌く稽古だ。


 ベリローゼが以前、無手での戦いの心得があると言っていた。

 そのため、どの程度戦えるのかを、プライテスに試してもらったのだ。

 さすがに歴戦の武僧(モンク)には敵わなかったが、かなりいい勝負をしていた。


 ベリローゼのメイン武装はナイフ。

 それを使わずとも、プライテスといい勝負をしてみせるとは思わなかった。

 もっとも、どちらも全力という訳ではなさそうだったが。

 手の内は見せない、というのを傍目にも感じた。


 そうして、ついでにレインにも稽古をつけてもらうことにした。

 無論、レインも無手だ。

 体捌きをベリローゼから教わり、プライテスの攻撃を捌け、という訳だ。


 とかくレインは攻撃に偏りがちだ。

 それを矯正する一環として、無手での組み手をやらせてみた。

 レインには、ひたすら防御に徹しさせて。

 まあ、下手に攻撃を繰り出せば、それが却って隙になる。

 防御に徹してでさえ捌ききれないレインが、攻撃をしようとすれば、先に潰されしっぺ返しを喰らうことは必然だろう。


 一応、騎士にも体術やナイフ術の教練などがあるらしい。

 学院では、どちらかを選択して、剣(ソード)を失った場合の対処というのも教わるのだと言う。

 だが、すぐに学院を辞めてしまったレインは、ほとんどその教練を受けていなかった。

 付け焼刃の体捌きなど、すぐに通用する訳もなく、面白いくらいにプライテスに転がされていた。


「はい、そこまで。」


 俺がそう言うと、プライテスが掴んでいたレインの足首を放す。

 レインは、その場でぐったりと動かなくなった。


「ベリローゼ。ケアしてやってくれ。」

「はい。」


 普段使わない筋肉を酷使し、関節を責められた。

 しっかりケアしてやらないと、後々に響く。

 回復薬(ポーション)もあるが、戦場では少々手に入れにくい。

 傭兵の受付に行けば売ってくれるのだが、足元を見たぼったくり価格だ。

 節約の意味もあり、ベリローゼにマッサージをさせていた。


「前に見た時よりは、動けるようになっているようだな。」

「当たり前だ。あれで頭打ちだったら、とっくに見捨ててる。」


 プライテスの評に、俺は軽く首を振った。

 プライテスが知っているレインは、ぶんぶん丸全開の頃だ。

 鳥頭(バードヘッド)との戦いを経て、レインは少しだけ成長した。

 本人も意識するようになったし、普段からベリローゼに訓練させているので、動き自体は良くなってきている。

 あくまで、前と比べれば、ではあるが。


 ベリローゼに支えられながらレインが離れると、俺は持っていた槍の一つをプライテスに投げる。

 プライテスは槍を掴むと、くるくると器用に回した。

 俺も槍を回しながら、プライテスの前に進み出る。


 この槍は、壊れた槍だ。

 刃の部分が外れてしまい、修理に回す物を受付から借りてきた。

 こんなのでも金を取ろうとしたので、文句を言ったら無料で貸してくれた。

 その代わり、毎日返しに行かないとだけど。


「さて、それじゃ頼むぜ。」


 俺がびしっと構えると、プライテスがそっと息をつく。


「あまり、棒術は得意ではないのだがな。」


 プライテスは、刃の取れた槍を『棒』と評した。

 そう言いながらも、プライテスは俺よりも棒の扱いに長けている。

 プライテスは棒として扱い、俺は槍として扱う。

 要は、長い得物での戦い方を思い出しながらやっていた。


 プライテスは、修行時代に棒術も修めていたらしい。

 千修教の寺院では、こうした武器を用いた戦い方も教えているそうだ。

 だが、破門になってからは武器を用いた戦いはやっていなかったらしく、実はプライテスも思い出しながらの訓練だった。

 本人曰く、「棒(こんなもの)を使うより、拳(こっち)の方が強い」らしい。


「俺も得意じゃねえけどな、長物は。短剣(ショートソード)じゃ手合わせしにくいんだよ。」

「まあ、刃があるからな。それは仕方のないことではあるが……。それなら、お前も無手の体術を憶えたらどうだ?」

「勘弁してくれ。」


 俺はげんなりしながら、肩を落とす。

 肉体面(フィジカル)による間合い(リーチ)の短さという、短所を補うための槍術だ。

 加減することを目的で使っている訳ではない。

 それでも刃の無い槍なら、大怪我をさせてしまう可能性は低い。


「おっし、行くぞ。」

「来い。」


 俺が槍を構え直すと、プライテスもしっかりと構えた。


 武道では、正中線の取り合いが重要になる。

 剣道で良く言われることだが、この考え自体は多くの格闘技、武術でも言われている。

 要は、自分の得物は相手の身体の中心に向かい、逆に相手の得物の先を、自分の身体の中心から逸らす。


 同時に、真っ直ぐに突き合った際に、自分の得物は相手に刺さり、相手の得物は逸れる。

 理屈の上では、そんな感じだ。


 そしてそれは、棒術でも槍術でも同じ。

 相手の得物を自分の正中線から外すために、位置取りを行う。

 相手の切っ先を、押し退ける。


 そうして、非常に厄介なことに、切っ先にばかり囚われていると、却って隙ができてしまう。

 俺が切っ先を押し退けようとすると、プライテスの槍がスルリと入ってきた。


「クッ!?」


 俺は素早く後退り、左に位置をズラす。

 だが、プライテスはその動きにぴたりとついて来た。


 プライテスの突き出そうとする動きを、俺は位置取りによって先に躱す。

 俺の攻撃の動きを、プライテスが潰す。

 刃の無い槍の先、精々十センチメートル程度での攻防。

 俺とプライテスは、細かく半歩踏み出したり、半歩下がったりを繰り返した。


 見ている側からすると、「何してんの?」と言いたくなる光景だ。

 それでも、この神経戦を数分間続けるだけで、俺の頬には幾筋もの汗が流れていた。


「…………幼少の頃に、少し齧っただけと言うわりには、中々やるな。」

「そりゃ、どうも。プライテスのおかげで、いい練習になってるよ。」


 俺たちは気を張りながら、そんなやり取りを交わす。


「このままでは埒があかんな。…………少し本気を出すか。」


 プライテスが、微かに口の端を上げた。


 俺は一層、気を引き締める。

 大きく息を吸い込み、全神経を集中する。


 プライテスの槍の先が、スッと引く。

 俺の槍に触れるか触れないかという距離から、十センチメートルほど下がった。

 そうして、プライテスの切っ先が、ブレ始める。


「…………?」


 槍の先が、徐々に大きく円運動を始めた。

 最初は、ほんの数ミリメートル程度の動き。

 その円運動が、一センチメートル、二センチメートルと大きく回り始めた。


(何やってんだ?)


 こんなブレブレの動きでは、攻撃してくれ、と言っているようなものではないか。


(……いや、これは罠だ。)


 何をしているのか分からないが、きっとこれは誘(・)い(・)だ。

 もはや、プライテスの槍の先は直径で十センチメートルほどの大きな円運動になっていた。

 プライテスの鋭い眼光が、俺を射抜く。


「来ないのか? ならば、こちらから行くぞ!」


 ぐるぐると回転をしながら、プライテスの槍が突き出される。

 プライテスの切っ先は円を描きながら、俺の槍に触れることなく迫った。


(こんなブレブレの攻撃、喰らうかっ!)


 俺はプライテスの突きを躱すのではなく、逆にこちらから突いた。

 プライテスの槍の先は、大きく円を描いている。

 その円の内側に、真っ直ぐ俺は突きを入れる。


 あらぬ方向に向いている、プライテスの槍。

 真っ直ぐに突きを入れる、俺。

 どちらの攻撃が先に当たるかなど、自明だ。


 だが、プライテスの切っ先の円運動が、急速に小さくなる。

 そうして俺の槍に触れた瞬間――――。


 カシィーーンッ!


 腕ごと、上に跳ね上げられた。


「なっ!?」


 俺の槍は左手から外れ、右手だけで何とか掴み、掲げている状態。

 そうして、プライテスの槍が俺の喉元に突きつけられた。


「…………ま、まいった。」


 俺がそう言うと、プライテスが槍を下ろす。

 俺は大きく息を吐き出すと、頬の汗を拭った。


「何なんだ、あれ。あんな、隙だらけな……。」

「面白いだろう? 一応、絶招(ぜっしょう)の一つだ。」


 そう言って、プライテスが槍を返してきた。

 その槍を受け取りながら、俺は尋ねる。


「ぜっしょう? 何だ、それ。」

「簡単に言ってしまえば、奥義といったところか。もう少し広い意味もあるが、実際は非常に狭義な、技、状態を表す。」

「広い意味に……、狭義?」


 さっぱり分からん。


「奥義なんて、そんな簡単に見せていいものなのかよ。」

「あまり良くない。……が、絶対に使うなという訳でもないのでな。」


 興が乗って、つい使ってしまったらしい。


「見て、真似ることができるようなものではない。……相当な腕があるなら別だが。」

「下手くそになら、見せても理解できないって?」


 俺がそう言うと、プライテスは黙って肩を震わす。

 くそ……完全に舐められてるな。


 もっとも、俺のメインの武器は短剣(ショートソード)だ。

 確かに槍の扱いは、そこまで得意ではない。

 そして、プライテスの言う通り、俺には何が何だかさっぱり理解できなかった。

 ただ、槍の先をぐるぐる回してりゃいいってもんでもないだろうし。


 俺が悔しがっていると、プライテスが槍を指さす。


「だが、筋は悪くない。先を見越して、槍に変更するのも悪い選択肢ではないと思うが?」

「…………それは、成長に期待できないってことか?」


 ぴきぴきと額に青筋を浮かべ、プライテスを睨む。

 プライテスが苦笑した。


「どう受け取ろうと自由だがな。……夢は見ないことだ。現実とは、無情なものだ。」


 完全にそれ、身長は諦めろって言ってんだろ!

 余計なお世話だ、ちくしょーめ!


 プライテスの忠告に、俺は地団駄を踏むのだった。





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