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魔王の権能 ~災厄を振りまく呪い子だけど、何でも使い方次第でしょ?~  作者: リウト銃士
第四章 沈む塔

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第35話 意外と敬虔なんです




 リベルバースの街に着いた翌日。

 俺たちは、朝から街中をうろついていた。


「こっちの方だって話だったよな……。」


 歩きながら周囲を見回し、呟く。

 その時、レインが目的のものを見つけたようだ。


「もしかして、あれじゃない?」


 俺は、レインの見ている方に視線を向ける。

 街外れに旗が立てられ、多数のテントが張られている場所を見つけた。


「確かに、教会騎士団(テンプルナイツ)が駐屯しているようですね。」


 俺たちの中で、一番背の高いベリローゼが、多数の教会騎士(テンプルナイト)を確認する。


「規模はどんなもんだ。」

「おそらく…………百はいないと思います。」


 ここにいる一団ですべてとは限らないが、思ったほど規模は大きくないようだ。


(魔王が現れた…………なんて話なら、こんなもんで済むはずないよな。)


 おそらく、教会は『鰐の魔物』を魔王とは考えていない。

 派遣された教会騎士団(テンプルナイツ)の規模から、教会の考えを読み取ってみる。


「テントの中に、何か特徴的な物はないか? 他と違う大きいのとか、一つだけ豪華だとか。」

「あります。テントの中心に、一際大きいのが二つ。」

「二つ……。その二つは、同じものか?」

「……おそらくは。」


 ベリローゼから聞いた話を、よく考える。

 百人ほどの規模の、教会騎士団。

 大きなテントは特使用か?

 派遣された特使は、街の教会ではなく、駐屯地に滞在しているのだろうか。


(一つを特使が使い、もう一つは会議用? それとも、同等の地位の者が二人派遣されている?)


 考えながら、俺は腰に佩いた短剣(ショートソード)を外した。

 胸当てと手甲も外し、最後に魔法具の袋や腰のナイフも外す。


「……? 何してるの?」

「持ってろ。ちょっと行ってくる。」


 俺は荷物をレインに押し付け、高々と掲げられた旗に向かって歩き出した。


「はい!?」

「行くって、まさか……!」


 驚きの声を漏らすレインとベリローゼに、俺は片手を挙げ、そのまま駐屯地に向かった。







 微かな振動を地面から感じ、遠くにある巨大な塔を見上げる。

 今日も平常運転で沈んでいるようだ。

 そうして、俺は視線を目の前のポールに向けた。


 高々と掲げられた旗が、風に靡く。

 旗に描かれるのは、アウズ教のシンボルマーク。

 一筆書きの八芒星が、T字の交点に重なっているようなマーク。

 いや、八芒星から両手と一本足が飛び出ているような、というべきか。

 何を表現しているのか知らないが、駐屯地にはあちこちにこのマークが描かれていた。


 俺が旗を見上げていると、教会騎士の一団が後ろを通り過ぎていった。

 特にこちらを気にしたりはしない。


 俺はふいっと身を翻し、駐屯地の中心に向かう。

 すでに朝食の時間は終わり、片付けをする者や、どこかに向かう者など、駐屯地内は少々慌ただしい。

 そうした流れの中を、俺はひょいひょいと抜けて行く。


「ん?」

「子供?」


 俺の姿を見かけた教会騎士のうち、数人は怪訝そうな顔をするが、特に見咎めたりはしなかった。

 そのまま奥へ奥へと向かう。


(……あれか。)


 ベリローゼが言っていた、大きなテントを見つけた。

 確かに二つ並び、明らかに他よりも大きく豪華だった。

 それはもはや、コテージと言っていい大きさ。

 おそらく、ベッドや本棚などの調度品も楽々入るサイズだ。


 その大きなテントの入り口は、垂れ幕が降ろされ、でかでかとアウズ教のシンボルマークが描かれていた。

 二つとも同じような大きさで、外から見ているだけではあまり違いはなさそうだ。


(さすがに、中に入るのはリスクが高いか。)


 教会の狙いは、どこにあるのか。

 それを少し確認しようと思ったが、リスクを背負ってまで深追いするようなことではない。

 …………少なくとも、今はまだ。


(最上階の、“何か”。それが掴めれば、御の字だったが。)


 まあ、今はそこまで慌てるような状況ではない。

 傭兵の受付にも行ってみて、もう少し情報収集すれば良い。


 そんなことを考えていたら、二人の教会騎士がこちらにやって来た。


「何をしているんだい、君。」


 なぜこんな所に子供がいるのか、訝しむ顔だ。

 俺はそんな教会騎士に、とびっきりの笑顔で答える。


「特使様がいらっしゃるんでしょう! すごいよね! 会えないかなっ?」


 略式の祈りの仕草をしてみせると、二人の教会騎士は少し困った表情になった。


「特使様は、大変お忙しい方だ。」

「会いたいと言って、会えるものではないんだよ。」

「ええーーーっ!? そうなのぉ……。」


 俺は大袈裟に驚き、しょんぼりしてみせる。

 だが、気を取り直し、子(・)供(・)ら(・)し(・)い(・)質問をぶつけてみた。


「特使様ってすっごく偉いんでしょう? 総大主教様と、どっちが偉いの?」

「いや、あのな……。」


 空気を読まない俺の質問に、教会騎士が苦笑する。


「特使様は、総大主教聖下のご指示でいらっしゃっているんだよ。」

「それじゃあ、総大主教様の方が偉いの?」


 そんな、分かりきったことを喜々として質問する。


 ちなみに、形式上は主教も大主教も総大主教も、同じ扱いだ。

 どっちが偉いというものではなく、完全な同列として扱うことになっている。

 大主教も総大主教も、役割として決定したり命じたりするだけ、ということだ。


 まあ、建前上はそうなっているが、人はやはり権威に弱い。

 そのため、一主教と総大主教を完全に同列に扱うようなことは、中々難しかった。


 そんな、どうでもいい質問を次々にぶつけてみる。

 珍しい物があるので、好奇心の赴くままにやってきた子供、という態で。


「おい……、何を騒いでおる。」


 その時、俺が見上げていたテントとは別の、もう一つの大きなテントから、垂れ幕を除けて一人の男が姿を見せた。


 男は、四十代の後半といったところか。

 オレンジ色に見える髪を短く刈り、額や眉間に刻まれた、深い皺。

 とても聖職者には見えない、中々の強面だ。

 教会騎士たちよりは小柄だが、威圧感だけはとびっきりだった。


 教会騎士の二人が、軽く頭を下げてから報告する。


「申し訳ありません、ムバイト特使。どうやら、街の子供が入り込んでしまったようで……。」

「そんなことは見れば分かる。」


 そう言って、ムバイトと呼ばれた特使は、じろりと俺を見下ろす。


(……おいおい、子供が見たら泣くぞ、その目つきは。)


 それはそれは、見事な悪人面(づら)だった。

 少々呆れるような気持ちになるが、俺は笑顔を作って質問をぶつける。


「ねえねえ! あなたが特使様?」


 わくわくしているような顔。仕草。

 期待に満ちた眼差しを向けられ、さてこの御仁はどう対応するだろうか。


「…………ふん。さっさと追い払え。」


 詰まらなそうに言うと、ムバイトはテントに戻ってしまった。


(子供の相手はしない、か。本当にこいつは聖職者か?)


 もう少しサービス精神を持った方が、信者の受けはいいだろうに。

 取り繕うこともせずに、追い払うことを命じるのは少々意外な対応だった。


 ムバイトに命じられた教会騎士の二人は、俺を挟み込むように立つ。


「さあ、特使様はお忙しいんだ。」

「今度は本当に叱られてしまうぞ?」


 そう言われ、俺は素直に踵を返す。

 俺が歩き出すと、二人もついて来た。

 どうやら、俺がちゃんと出て行くか、最後まで見届けるつもりらしい。


「特使様は二人いるの?」

「ん? 何でだ?」


 そう尋ね返した騎士に、俺は振り向いて大きなテントを指さす。


「特使様のテントと、同じ物がもう一つあるよ。」

「あっちは、儀式や会議のためのテントだ。」

「特使を任命されるのは、普通は一人だよ。補佐がいたとしても、それは特使とは言わないからね。」


 二人は、俺の質問に素直に答えてくれる。

 なるほど。やはり一つは会議用のテントだったらしい。


(あっちが、特使のテント。こっちが会議用、ね。)


 俺は、今確認した位置関係を憶えておく。

 別に意味はないけどね。

 あくまで、念のために、だ。


「特使様は主教様だよね!」

「あ、ああ。そうだ。主教座下、な。」

「ざかっ! とっても偉い方なんだね!」


 子供らしい無邪気さで、情報を固めていく。


(特使は、ムバイト主教。総大主教の勅令で特使に任じられ、リベルバースの街に来た。目的は、塔の最上階にある“何か”。)


 駐屯している教会騎士団(テンプルナイツ)の緩み具合から、おそらく戦うことを目的にはしていなそうだ。

 あくまで、特使の護衛が主目的。

 若しくは、入手した“何か”を持ち帰るための警護か。


 二人の教会騎士に駐屯地の外まで連行され、俺はそのまま街の方に駆け出す。

 途中で振り返ってぶんぶん手を振ると、二人の教会騎士も苦笑しながら手を振り返した。


 そうして雑踏に紛れ、俺はレインとベリローゼに目配せをすると、そのまま走って街中にまで進む。

 適当な建物の陰に入り込み、そこでレインたちが来るのを待った。


「まったく、無茶するんだから。」


 レインとベリローゼも、慌てて俺を追いかけてくることはせずに、何気ない風に歩いてきた。

 ちゃんと考えてるじゃないか。


「こんなのは、無茶でも何でもないさ。まあ、おかげで大した情報も得られなかったがな。」


 俺はレインから胸当てなどを受け取り、一つずつ身につけていく。


「向かって左がムバイト主教のテント、右が儀式や会議用のテントらしい。」

「ムバイト主教?」


 俺が手甲の着け心地を確認しながら説明すると、レインが確認してくる。


「特使の名前だ。総大主教の勅命で、わざわざリベルバースまでやって来たらしい。」

「特使の名前まで……。」

「名前くらいなら、他にも確認する方法はいくらでもあるさ。四十代後半。オレンジの短髪。レインよりやや大きいくらいの背丈で、中々の悪人面(づら)してた。」


 ベリローゼが頷く。


「昨日見かけた、一団の先頭にいた男と特徴が一致します。」

「あれはちょっと…………お世辞にも、聖職者には見えないような人だったわね。」

「ああ、子供の相手なんかしてられるかってのを、隠そうともしない。あれで主教だってんだから、驚きだよ。普通、もう少し取り繕わないか?」


 魔法具の袋のベルトを、腰に巻く。


「教会騎士団(テンプルナイツ)には、緊張感の欠片もない。規模からして予想はついていたが、こいつらは戦いが目的じゃないな。あくまで傭兵に塔の“何か”を盗って来させ、それを持ち帰るのが目的だろう。」


 何かを得るまでは、特使の警備だけしていればいい。

 そんな、弛緩した空気を感じた。


 俺は、最後に短剣(ショートソード)を受け取ると、ベルトに取り付ける。


「今のところ、リスクを負ってまで調べたいようなことはない。特使と教会騎士団(こいつら)のことは、とりあえずいいだろう。」


 俺たちは、次に傭兵の受付に行ってみることにした。







「……呆れるほどでかいな。」


 街の大通りを歩きながら、真正面にあるリベルバースの塔を見上げる。

 現在、地上から出ている分だけで、おそらく三十階くらいだろう。

 窓らしき穴を数えていけば、正確な階層は分かるだろうが、数える気にならない。


 レインも間の抜けた顔をして、塔を見上げていた。

 口が半開きになってんぞ。


 通りには、人がごった返していた。

 いつ倒壊するか分からない塔だが、一応は観光名所だ。

 建造時期も、その目的も分からない巨大は建造物を見ようと、多くの人が詰めかけていた。

 もしかしたら、沈みきったらもう見れない、今だけのショーくらいに思っているのかもしれない。


 ドンッ。


「あ、ごめんなさい。」


 レインが、どうやら誰かにぶつかってしまったようだ。

 咄嗟に謝るが、相手は気にしていないのか、そのまま雑踏に消えていった。

 まあ、こんなに混んでいては、ぶつかるくらいは普通に起こりそうだが。


(……?)


 俺は、レインのぶつかった相手が、少しだけ気になった。

 薄汚れた防塵のローブを羽織り、レインより少しだけ小柄だが、それ以外にはまったく外見的な特徴が掴めない。


「レイン。何か盗られてないか?」

「え?」


 俺がそう声をかけると、レインが慌てたように確認する。

 ぺたぺたと自分の身体を触り、確認していく。

 そうして魔法具の袋に手を入れて、固まった。


「………………。」


 その引き攣った表情を見るだけで、結果はお察しというものだ。


「レイン様、まさか……!」

「お財布…………盗られちゃったみたい。」


 それを聞き、ベリローゼがバッと身を翻そうとする。


「やめとけ、ベリローゼ。無駄だ。追えるかよ、こんな混雑している中で。」


 相手もそれが分かっていて、ここを仕事場(かりば)に選んでいるのだろう。


「ですが……!」

「スられる方が悪い、とは言わないけどな。ちゃんと警戒していれば、この手のスリは確実に防げる。」


 魔法具の袋の口に手を添えておくなどをすれば、それだけで獲物候補からは外れる。

 ぽけ~……と塔を見上げているから、こいつは盗れる、と狙われたのだろう。


「俺やベリローゼを狙わず、一発でレインを狙った辺り、いい目してんな。」

「リコ様!」


 スリを褒めるような俺の口調に、ベリローゼが抗議の声を上げる。


 実を言えば、この程度のリスクは俺も考えていたので、元々レインに持たせていたお金は大した金額ではない。

 まったく持っていないのでは不便かと思い、銀貨五枚、五千シギングだけを持たせていたのだ。


「だから言ったろ? 警戒していないと盗られるぞって。」

「うん……。」


 レインにとっては、これもいい勉強になっただろう。

 所謂、勉強代というやつである。


「糧食とか回復薬(ポーション)はどうだ?」

「うん…………回復薬(ポーション)も、いくつか……。」


 レインが、しょんぼり答える。

 警戒心の欠片もないレインが、まじへ(・)こ(・)み(・)していた。


(これで、少しは警戒心が身についてくれれば、ね。)


 それはそれで、結果オーライぐらいに俺は考えていた。

 全財産を失ったとかであれば、相当にきつい状況だが、あくまで俺の想定の範囲内。

 むしろスった相手に、謝礼で大銀貨をあげてもいいぐらいの気分だった。


「こういうことは、どこに行っても起こる。次からは気をつけろよ。」

「うん……。」

「ついでだ。スラれたらどんな困ったことが起きるのか、体験してみるといい。しばらく自前の分だけでやりくりしろ。ベリローゼも、金を渡したりするなよ?」

「そんな、リコ様!」


 手を貸すなと言う俺に、ベリローゼが抗議の声を上げる。


「元々金なんか持って無くたって、宿は取ってあるんだ。然して困ることはない。」


 小遣いを失くした程度の問題だ。

 少しだけ我慢すれば済む問題だった。


「さすがに回復薬(ポーション)を融通するな、とは言わないさ。そっちは命に関わるからな。」


 貰った小遣いを、その日のうちに落としてしまったレベルの事態である。

 これまでも現金など持たないでいたレインにとっては、実は何も変わっていないと言ってもいい。

 ただ、これまでと違うのは、持(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)物(・)を(・)失(・)っ(・)た(・)というショックだけ。


 俺の言葉に、レインはしょんぼりした様子で頷くのだった。







 俺は、目の前の壁を見上げる。

 塔を囲む石壁は、三メートルといったところか。

 切り出した石を組んだ壁は、所どころひび割れ、相当な年月が経っていることを物語っていた。


「正直、もう少ししっかりした壁を作っていると思ったが……。」

「以前はこれでも十分だったみたい。でも、最近の魔物にはちょっと頼りないみたいね。」


 レインが、昨日仕入れてきた情報を教えてくれる。


 これまで、石壁を直接壊されたことはないらしい。

 ただ、それも時間の問題のような気がした。


 かなりの怪力を持ち、大きさも二メートルを超える個体がいるという話だった。

 下手をすると、石壁を壊さなくても、乗り越える奴もでてきそうだ。


「門は何度か破られているんだろ?」


 そう言って、俺は石壁の内側に入るための、門の方を見た。


 門扉(もんぴ)は、木でできているようだ。

 堅い木を加工し、金属で固定している。

 城門に付けられていてもいいくらいの、しっかりとした門扉(もんぴ)ではある。


 しかし、やはり石壁の部分と比べると脆いようだ。

 門(ここ)を、これまでに何度か破られているらしい。


(さて、これからどうするかな。)


 俺は、傭兵の受付をしている掘っ立て小屋を見た。

 今も何人かの傭兵の受付をしている。


 禍(わざわい)を口にした、魔王。…………かもしれない、魔物。

 街の警護やら、塔の攻略なんかは、俺からしたらどうでもいい。

 ぶっちゃけ『鰐の魔物』のことさえ調べられれば、その他のことは二の次、三の次だ。


 契約をすれば石壁の中に入れるが、そうすると誰かの指示で動かなくてはならない。

 自由に、自分の思う通りに調べるという訳には、いかなくなるだろう。


(どうしたものかな。……石壁を乗り越えて、勝手に調べるか?)


 バレた時には、かなり厄介な事態になりそうだが、これが理想ではある。

 そんなことを考えていると……。


「おい、あれ? リコじゃねえか。」

「ん?」


 不意に名前を呼ばれ、そちらを見る。

 そこには、門に向かって歩く、見覚えのある二人組がいた。


「メッジスと……ウラコー?」

「おうよ。久しぶりだな。つっても、まだ二カ月ぐらいのもんか。」

「相っ変わらず、生意気そうな顔(ツラ)してんな。」


 そう、笑いながらこちらにやって来た。

 俺はわざとらしく、憂いを帯びた表情を作る。


「生意気そうだなんて…………そんな、ひどいよ……。」

「やめろやめろ。本気で気色悪いわ。」

「中身を知らなきゃ、騙されるんだろうけどなぁ……。」


 二人は、まじでドン引きしていた。

 メッジスは首を竦めて両腕を擦り、懸命にサブイボを消す。

 ウラコーは頬を引き攣らせながら、じとっとした目で俺を見た。

 その反応は、本気でひどくないかい?


「二人は何やってんだ? 観光か?」


 俺がそう聞くと、二人も気を取り直したのか姿勢を正す。

 そうして、ニッと口の端を上げる。


「んな訳ねーだろ?」

「塔の攻略だよ。」


 なんと、二人はすでに塔の攻略隊に参加していると言う。

 少し粗野な印象の二人だが、実は非常に敬虔なアウズ教徒だ。

 ドワーフ族の祀る火の神トルヒグスを、トゥーヒーグと言っていた。

 あれはアウズ教から見た場合の解釈、教会の魔物認定が多分に影響した言い方だ。


 二人は、教会が塔から“呪物”を回収できずに困っていると聞き、半月前に手を貸しに来たらしい。


(…………呪物?)


 これが、塔から盗み出そうとしている“何か”だろうか。

 ウラコーは、俺の後ろにいるレインに視線を向け、更にその後ろにいるベリローゼも見る。


「レインも久しぶりだな。そっちも相変わらず、傭兵を続けてるのか。」

「お久しぶりです、ウラコーさん。メッジスさんも。」

「ああ。久しぶり。」


 メッジスは、やや複雑な表情だ。

 おそらくだが、レインが傭兵を続けていることに、少し思うところがあるのだろう。

 まあ、あんまり戦力にならないしな、レインは。


 そうして、メッジスとウラコーはベリローゼを気まずそうに見る。

 触れていいものかどうか、悩んでいるのだろう。


「暁の脳筋団(うち)のメンバーのベリーちゃんだ。ローズちゃんでもいいぞ。」

「べ、べりーちゃん……?」

「……ろうず、ちゃん?」


 俺は、自分では呼ばない呼び方を、二人に押しつける。

 特に意味はない。

 ただ、ちょっと面白いかなって思っただけである。


「あ、あー……よ、よろしくな。メッジスだ。……その、ベリーちゃん?」

「ウラコーだ。よろしく、ローズちゃん。」


 やや顔を引き攣らせながらも、俺の紹介した通りにベリローゼを呼ぶ二人。

 面白くて、思わず吹き出しそうになった。


「どうしたんだ?」

「いや…………何でもない。」


 怪訝そうな顔をするメッジスに、俺は誤魔化すように微笑んだ。


 そんな俺に、訝し気な顔になる二人。

 しかし、すぐに頷き合った。


「まあ、細けえ話はいいか。」

「そうだな。じゃあ、行くぞ。」


 そう言うと、二人は俺の両脇を抱えた。


「…………は?」


 メッジスとウラコーに両側から持ち上げられ、俺はぷらーん……と宙ぶらりんになる。


「丁度欠員が出て、困ってたところなんだ。」

「大丈夫だって。お前の腕は俺たちが保証してやるから、即採用されっぞ。」

「へ? いや、ちょっとぉ!?」


 戸惑う俺をよそに、二人はずんずんと門に向かった。


「…………行っちゃった。」


 ぽかんとした顔で、レインが呟く。

 ベリローゼは、静かに会釈して見送る。


「ちょ!? 待ってぇーーーーーーーー……っ!?」


 俺の叫びは、雑踏に空しく掻き消されるのだった。





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