第25話 アジト探し
俺とレイン、ベリローゼの三人は、山道を登っていた。
そうして登りながら、周囲を注意深く観察する。
「ふぅ……。」
日差しが強く、拭った首元がジャリついた。
砂が付いたのか、汗が乾いて塩になったのか。
【戦意高揚】を発動し、体力の底上げをしてはいるが、暑いものは暑い。
俺は山道を歩きながら、左の斜面を見下ろす。
木々も草も生い茂り、人の踏み入った痕跡はない。
次に反対の斜面を見上げる。
こちらも同様に、木々や草が生い茂っていた。
「あー……、もう無理。こんなの見つからんて。」
俺が愚痴を零すと、レインが苦笑する。
「不思議な話よね。どうして見つからないのかしら。」
レインは、背筋を伸ばしながら頬を流れる汗を拭うと、山の頂上を見上げた。
俺たちは、傭兵ギルドで一つの依頼を選び出した。
『山賊のアジトの捜索』
俺たちがいた町から、徒歩で丸二日。
とある山を根城にする、山賊のアジトを見つけて報告すると、報酬百万シギング。
大金貨一枚にもなる依頼だ。
山賊を討伐する必要はない。
アジトを発見、報告するだけでいい。
山賊にも懸賞金がかけられていて、首領を捕えれば生死問わずで三百万シギング。
ただし手下のことはよく分かっていないらしく、こちらには懸賞金がかけられていない。
アジトを見つけ出し、首領を倒せば合計四百万シギングにもなる美味しい仕事だが、俺たちはそこまでは狙っていない。
単に、アジトだけでも見つければ百万だ、と山に入った。
しかし、こんな仕事なら他にも飛びつく傭兵がいてもおかしくない。
実際、そうした傭兵たちは多数いたのだ。
ところが、それでもアジトが見つからない。
結構大きな傭兵団のいくつかが協力し合い、採算度外視で山狩りのようなことまでして探したが、見つからなかったというのだから不思議な話だ。
ここまで見つからないのだから「そもそも探してる山が違うんじゃね?」と思うが、どうやらこの山に間違いはなさそうだという。
というのも、この山の近くでそれらしき賊の集団が多数目撃はされているのだ。
同じ山賊による襲撃と思われる被害は、今も続いていている。
多くの傭兵たちが捜索しても見つからない山賊のアジトは、それだけで百万シギングにもなる依頼となった訳だ。
最初は、あくまで山賊狩りとして依頼が出された。
だが、あまりにアジトが見つからない。
そのためアジトを発見した者には、それだけで二十万シギングのボーナスだ、という話になった。
しかし、それでもアジトが発見できない。
そのうち、アジトの探索だけで独立した依頼へと格上げされ、現在では百万シギングもの依頼へと成長した、という訳だ。
俺は山道にしゃがみ込み、項垂れる。
乾いた地面に、ポタポタと汗が落ちた。
「…………時期が悪いだろう。冬とかの、雑草が枯れた頃の方が見つけやすくないか?」
これだけ草が生えていれば、偽装し放題だ。
アジトの入り口がこの辺りにあったとしても、草に覆われていては気づかないのも無理はない。
さすがに山狩りをしても見つからないというのには、不自然さを感じてしまうが。
そんな、ごく当然の主張を漏らすと、ベリローゼが首を振る。
「おそらくですが、そうした問題だけではないと思います。」
アジトの入り口をどれだけ偽装しようとも、周囲に痕跡は残る。
多くの傭兵たちが探しても見つからなかった理由は、きっとそれだけではないだろう、というのがベリローゼの主張だ。
俺はしゃがみ込んだまま、ベリローゼを見上げる。
いろいろ突っ込みたいところではあるが、ぐっと堪えた。
「あの……何か?」
「いや、別に。」
俺の視線に、ベリローゼが首を傾げる。
俺は大きく息をつくと、足に力を籠めて立ち上がった。
この自称十七歳のメイドには、不審な点がいくつもある。
ベリローゼが汗一つ掻いていないとは言わないが、俺とレインが汗だくだと言うのに、一人涼しい顔だ。
真っ黒な、ロングスカートのメイド服を着ていると言うのに。
(どんな鍛え方すれば、平然とここまでついて来れるんだ?)
ちょいちょい不審な点を見せるベリローゼだが、さすがにこれは異常だ。
ただの使用人にできることではない。
これまでに感じた不審点を心に留めながら、俺はこれからの方針を提案した。
「さすがに、今日中に山頂まで行くのは無理だろう。このまま進みながら、野営できそうな場所を探そう。」
夏場なので、いざとなればどこでも休める。
だが、できれば焚き火が遠くから見えないような場所がいい。
俺たちからは見えないが、山賊たちにはこちらが見えている可能性もあるからだ。
三十分ほど山道を進むと、明らかに誰かが野営したような跡を見つけた。
山道から、茂みに少し入った場所だ。
「…………最近のものではなさそうだな。」
おそらく、以前に俺たちと同じように、山賊のアジトを探しに来た者の痕跡だろう。
「俺たちも、今日はここで休もう。」
「それじゃ、薪を集めるわね。」
「手伝います。」
レインが、周囲に落ちている木の枝などを拾い始める。
ベリローゼもレインに倣い、別の場所の薪を集めた。
「少し、辺りを見回ってくる。」
「うん。気をつけて。」
俺が茂みの奥に向かうと、レインが声をかけてくる。
俺は軽く手を挙げて応えると、注意深く辺りを見回しながら茂みに入っていった。
こうした茂みに足を踏み入れる時は、慎重に進む必要がある。
視界が草木に邪魔され、一歩踏み出した先が実は崖だった、なんてこともあり得ない話ではない。
さすがにそこまで極端なことは滅多にあることではないが、ゼロではない。
実際にそうして転落し、遭難したり大怪我したりする例はいくらでもあるのだ。
俺は、足元や周囲の木々などを注意深く観察する。
人為的な痕跡が何かないか。
以前に野営した者による痕跡かもしれないし、もしかしたら山賊による痕跡があるかもしれない。
もしも罠の一つでも仕掛けられていたら、そのままにしておいては命にかかわる。
ここは、安全なキャンプ地ではないのだ。
以前の野営者が、安全に休むために周囲に罠を張り巡らせていた可能性だって、無いとは言い切れない。
自分の安全は、自分で確保する。
そうした観点から見れば、以前の野営者が周囲に罠を張りまくっても不思議はないし、俺がこうして安全を確認するのも当然の行動と言えた。
俺は野営地をぐるっと大回りするように、周囲を確認した。
そうして見たところ、罠の類は見つからなかった。
ただし、木の枝を切り落としたような痕跡はいくつか見つけた。
その切り落とした跡も、それなりに時間が経っていそうだ。
どうやら、以前に野営をしていた人というのは、一カ月以上は前のように思える。
周囲の安全を確認し、俺はレインたちのいる場所に戻った。
レインとベリローゼは、すでに火を起こし、鍋でスープを作っていた。
食事のメインは糧食だが、干し肉を使ったスープでも作れば満足度は高いし、少しでも野菜を足せば嵩も増える。
固いパンと干し肉の糧食でも、ひと手間で大分様変わりする。
「お帰り。どうだった。」
「罠とかは特にはなさそうだ。」
レインがこちらを見ながらスープをかき混ぜ、ベリローゼが野菜をカットしながら鍋に入れる。
俺は、火から少し離れた位置にある木の根に腰掛けた。
山道が見下ろせる位置に陣取ると、少しだけ緊張を解く。
そうして、ベリローゼに声をかけた。
「ベリローゼ。魔王について何か知ってることはないか。」
「…………魔王、ですか?」
「ああ。」
様子見も前振りも何もない。
どストレートに投げてみる。
レインは、俺が魔王について調べていることも、その理由も知っている。
だが、ベリローゼにはこれまで、そうしたことを伝えていなかった。
「なぜ、そのようなことを?」
「倒す気らしいぞ?」
そう言って、俺はレインを指さす。
レインは「たはは……」と苦笑している。
「前にそう思っただけで、今はそんなこと思っていないわよ?」
「ってことらしい。良かったな、魔王討伐に付き合わされなくて。」
俺は、自分の理由を隠し、レインをダシに使うことにした。
俺の意図を汲んだかどうかは分からないが、レインも特に俺の事情を口にしなかった。
「そもそも、魔王は三年前に倒されたって話だよな?」
「はい。」
ベリローゼが頷く。
これは有名な話だ。
魔王は倒された。
なのに、今も大陸中で魔王の存在が囁かれる。
頻発する、様々な災害によって。
「ベリローゼはどう思う? 魔王はいると思うか?」
俺がそう聞いてみると、ベリローゼは首を振った。
「考えたこともありませんでした。倒されたと言われていましたので『ああ、そうか』とだけ。」
それが普通だろう。
倒されたと聞いたので、そうなのだろうと受け止める。
「それじゃ、魔王のせいだと言われる災害については? 魔王のせいだとは思っていなかった?」
「それは……特に何も。そうなのかな、と。」
まあ、これもそうだろう。
みんなが言うのだから、そうなのだろう、と思うだけ。
(……無責任に噂してるだけの話だからな。特に深く考えなくても不思議はないか。)
そもそも、魔王が一体だけとは限らない。
三年前に倒された魔王は、ラーナーと呼ばれる魔王だ。
そして、現在進行形で災害をもたらしている魔王は、まったく別の魔王かもしれない。
まあ、ただの自然災害で、魔王と関係ない可能性もあるが。
(…………というか、魔王って本当にいるのか?)
元の世界の記憶を持つ身としては、まずそこから突っ込むべきだろう。
大前提として、魔王ってのは何なんだ?
正直、あまり深い突っ込みは口に出しにくい。
俺たちがいるネプストル帝国は、アウズ教を国教にしている。
魔王の存在に異を唱えることは、四百年前に魔王を認定したアウズ教に異を唱えることにも繋がる。
ちょっと口に出すくらいなら誤魔化しようもあるが、あまりがっつりと突っ込みを入れると、背教徒とか異端だとか言われかねない。
「あー……、二人ともアウズ教徒?」
少々聞きにくい話題ではあるが、ここには俺たちしかいない。
今後の円滑なコミュニケーションのためにも、個人の信仰を明確にしておくことは意味があるだろう。
俺が、これまたストレートに尋ねると、レインが目を泳がせた。
「ああ、レインが熱心な信者じゃないのは分かってるから。」
「ちょっと、リコ!?」
レインが焦ったように声を上げる。
「俺と旅をするようになって何カ月だ? その間に、一度でも教会に行ったか? 食事以外でお祈りしてるとこなんか見たことねえぞ。」
「リコッ!」
これまで、ツインの部屋で生活していたのだ。
部屋でお祈りしてました、なんて言い訳は通用しない。
「俺も熱心な信者じゃないさ。それは分かってるだろう?」
「え、ええ……。」
レインがバツの悪そうな表情でベリローゼを見る。
これでベリローゼが、バリバリのアウズ教徒だった日には、気まずくってしょうがないだろう。
だが、俺の心配をよそに、ベリローゼが頷く。
「正直申し上げますと、私もあまり信仰は……。」
そうして、やや気まずい空気が流れる。
少々、人には言いにくい秘密を共有することになった。
俺は意識して笑顔を作る。
「良かった良かった。あんまり熱心なのがいると息苦しくってな。」
「もう、リコ! 不謹慎だよ?」
あまり教会や教義に不敬なことをすると、この国では罰の対象になる。
たまにだが、どこどこの教会前の広場で鞭打ちの刑が執行された、などの噂を聞くことがあるのだ。
俺は別に信仰など持たないが、振りをするくらいは何とも思わない。
他に信仰するものがあれば「教義に反する」といった問題が出てくるが、生憎と俺にそんなものはない。
拝めと言われれば拝むし、少額なら寄付くらいしてみせる。
それで周囲から反感を買わずに済むなら、挨拶や税金みたいなものだ。
払ってねーけどな、税金。
レインとベリローゼの信仰に対するスタンスを確認し、俺は話を続ける。
「そう言えば、三年前の魔王討伐のこともよく知らないんだよな。知ってることを教えてくれないか?」
俺がそう言うと、レインとベリローゼが顔を見合わせる。
「知ってることって言っても……。私も噂で聞いたりとか、そのくらいしか知らないけど。」
レインが困ったような表情で言うが、俺は真剣な表情を作って頼む。
「それでもいい。教えてくれ。」
ぶっちゃけ、俺はあまり噂には詳しくない。
これまでは、あまり目立たないようにと考え、傭兵たちの中でも関りを薄くしてきた。
まあ、それでもちょっかいをかけてくる奴にやり返していたら、大いに目立ってしまったが。
俺がこれまでに知った魔王についての情報は、そのほとんどがティシヤの王城にあった文献からだ。
残されていた記録などを読み、魔王討伐以前の情報は、ある程度知ることができた。
だが、魔王討伐後の話となるとさっぱりだ。
なぜなら、それ以降の記録が存在しなかったから。
おそらく、魔王討伐直後にティシヤの人々が消えた。
ティシヤの王城などに、魔王討伐後の記録がないのは当然と言える。
そして、俺がティシヤ王国を出たのは、魔王討伐から半年も経ってからだ。
直後ならば人々がいろいろ話題に上げただろうが、さすがに半年も経ってはあまり口にしない。
人の噂も七十五日というが、その倍以上の時間が経ってしまえば、そうそう耳にすることもなかった。
俺が『魔王が討伐された』と知ったのは、ティシヤ王国を出てしばらくしてから。
凡その討伐の時期と、ティシヤの人々が消えた時期が非常に近いと、その時に初めて気づいたのだ。
「魔王ラーナーを倒したのが誰か知ってるか?」
俺は、以前から不思議に思っていたことを聞いてみる。
時折上がる噂に聞き耳を立てるだけでは、誰が倒したのか判断つかなかったのだ。
大陸中から強者をかき集め、魔王を討伐した。
当然、その討伐した者は英雄だの勇者だのと祀り上げられるはずだ。
しかし、不思議なことに、そうした話は一切出て来なかった。
俺が疑問に思っていたことを聞いてみると、レインとベリローゼが困ったような顔になった。
「誰って、討伐隊の人でしょ?」
「討伐隊の、誰?」
「誰って……。」
レインも「討伐隊」という答えだけで、具体的な個人名までは知らないらしい。
ところが、驚きの事実をベリローゼがもたらした。
「討伐隊は、全滅していると聞いています。おそらく刺し違えたか、帰還するまでに力尽きたのではないでしょうか。」
「えっ!? 全滅してんの!?」
ベリローゼの情報に、俺は思わず身を乗り出す。
「じゃあ、どうやって魔王を倒したって分かったんだよ。」
「それは分かりませんが……。教会が、『魔王は討伐された』と。」
「その教会は、どうやって魔王討伐の事実を知ったんだよ。」
そう突っ込むが、ベリローゼが増々困惑顔になる。
討伐隊は全滅?
教会が一斉にアナウンスをし、魔王討伐の事実を広めた?
(…………それって、本当に魔王は討伐されてんのか?)
根本的な部分に疑義が生じ、俺は考え込む。
もし仮に、魔王が討伐されていないとして、なぜ教会はそんなアナウンスを出したのか。
自分たちのおかげで討伐されたと謳えば、入信者数はうなぎ登りではある。
ただし、これには大きなリスクが伴う。
魔王が現れれば、嘘がバレてしまう。
そうなった場合、新たに入信した者だけでなく、元々の信者たちからも反感を買うだろう。
(うーむ…………そんな嘘をつくメリットはないよなあ。)
それならば、普通に「ともに魔王の苦難を乗り越えましょう」とでも言っている方が安泰だ。
爆発的な信者獲得はならなくても、地道に数を増やしていける。
しかし、実際に魔王討伐がなされたとすると、その事実を知った方法に不審な点がある。
もしかして、生き残りはいたのか?
魔王討伐の事実を伝えた、討伐隊の生き残りがいたのかもしれない。
だが、すでに致命傷を受けていた。
情報を伝えるだけ伝え、力尽きた。
これなら、教会がアナウンスを行ったことは不自然ではない。
あり得そうという点で言うなら、嘘をアナウンスするよりは、こちらの方があり得そうだ。
ただ、この場合はやはり「英雄の存在」が広まらないことに違和感がある。
たとえ命を落とそうと、むしろそうであればこそ、命をかけて魔王を倒した英雄を作り上げないのは不自然な気がする。
四百年ほど前、教会によって認定された災厄の魔王ラーナー。
二十六年前に突如現れ、瞬く間に四カ国を飲み込み、大陸の北西部を支配した。
そして、三年前に討伐される。
しかし、その後も災害は続き、その存在が囁かれる。
そこまで考え、俺は苦笑する。
(なんか、魔王がいたってこと前提で、考えているのな。)
俺は、特に信仰心など持たない。
なぜなら、神様の存在を信じていないからだ。
だが、なぜか魔王という存在については信じている。
神様は信じていないのに、なぜ魔王の存在は信じているんだ?
(まあ…………魔王はなあ。)
いるんじゃない?
そうでも思わないと、ティシヤ王国で起こったことに、説明がつかない。
いや、起きた現象に説明がつけられないので、魔王のせいにしているだけではあるのだが。
俺が考え込んでしまうと、いつの間にか食事の準備が整っていた。
気がつかないうちに、随分と考えに没頭してしまったようだ。
「ふぅーーっ、ふぅーーっ。」
ベリローゼがスープの入ったカップを両手で持ち、息を吹きかける。
「はふはふっ、ほぉーー……っ。」
熱々の野菜が口に入ると、熱そうに口の中で転がす。
「……………………。」
そんなベリローゼを、俺は半目になって眺める。
(…………子供っぽい。)
何と言うか、食べ方がまるで子供だった。
普段はきりっとしたベリローゼだが、食べ方に関してはえらい子供っぽかった。
自称十七歳のこのメイドは、食事の際の仕草だけを切り取れば、十歳かそこらに見える。
「ベリローゼは猫舌なのか?」
俺がそう言うと、レインが苦笑した。
おそらく、レインも同じような感想を持っていたのだろう。
ベリローゼは苦労して口の中の野菜を咀嚼すると、ごくんと飲み込む。
「そんなことは…………ありません。」
少しだけ気まずそうに、ベリローゼが否定する。
なぜ、そんな見栄を張る?
「どう見ても猫舌だろう。」
「違います。」
「ま、まあまあ。」
突っ込む俺と、否定するベリローゼに、レインが仲裁に入った。
初めて会った時、空腹でぶっ倒れたベリローゼも、やたらと子供っぽい口調をうわ言のように呟いていた記憶がある。
もしかして、本当に若いのか?
俺はじっとベリローゼを見た。
顔は、どう見ても二十歳を超えている。
身長も高い。百七十センチメートル台の前半から半ばくらいか。
普段まとっている雰囲気から、二十代前半で間違いないと思うのだが……。
俺が、隠すことなく堂々と見ているため、ベリローゼがやや居心地悪そうにした。
「あの…………そう見られていると、少々食べにくいのですが……。」
「気にするな。」
「無理言わないの。」
ベリローゼからの抗議を聞き流す俺を、レインが窘める。
俺は肩を竦めた。
「まあいい。明日は夜明けにすぐ出発するからな。さっさと休もう。」
そう言って俺はぼそぼそのパンを口に放り込むと、スープで胃に流し込む。
「とりあえず、ここまでは予定通り進めている。だが、俺たちの目的は登山じゃない。山賊どものアジトを見つけることだ。」
レインとベリローゼが、頷いた。
一応の目安として、一週間程度をアジト探索に費やす予定だ。
「まずは山頂から、怪しげな地形を探そう。……正直、そんなのは他の連中も散々やってきただろうけど、当たりをつけて探さないことにはな。」
山狩りまでして探しても、見つからないアジト。
きっと、何か分かりにくい理由があるはずだ。
ベリローゼの言っていたように、普通ではない、単なる偽装とは違う“何か”。
その“何か”を見つけなければ、俺たちも他の連中と同じ轍を踏むことになるだろう。
(ちょっと、楽しくなってきたかな。)
不謹慎ながら、リアル宝探しやオリエンテーリングのようなワクワク感を、俺は感じていた。




