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魔王の権能 ~災厄を振りまく呪い子だけど、何でも使い方次第でしょ?~  作者: リウト銃士
第三章 流浪の戦闘冥土

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第24話 何周目?




 宿のツインの部屋をレインとメイドに譲り、俺は別でもう一部屋取ることにした。

 シングルの部屋は少々狭く感じるが、同時に懐かしさのようなものも感じた。

 レインと出会う前は、これが当たり前だったのだ。


 コンコン。


 一人きりの部屋で横になっていると、ドアがノックされた。

 俺は少し疲労の感じる身体に喝を入れ、ベッドを下りる。


 ドアを開けると、レインとメイドが立っていた。







 空き地から宿屋に戻ると、二人を湯場と食事に行かせた。

 俺の部屋に来るようには言っていなかったのだが、何か話があるようだ。


「ベリローゼと申します。」


 二人にテーブルを勧めると、腰を下ろす前にメイドが自己紹介をした。


「ベリーちゃん、若しくはローズちゃんとお呼びください。」

「…………は?」


 大真面目に「ベリーちゃん呼び」を強要する、このふざけたメイドに俺は気の抜けた声を漏らす。

 いい年齢(とし)して、なにち(・)ゃ(・)ん(・)呼(・)び(・)を求めてんだ?


「そんな馬鹿なことを言いに来たのか? だったら部屋に戻れ。俺は寝たいんだ。」


 俺がベッドに腰掛けながら言うと、ベリローゼがしゅんとなった。


「……それで、何の用だ。」


 レインに向けて言うと、レインはおろおろと俺とベリローゼを見る。

 やがて、俺の様子を窺うように、口を開く。


「その……ベリーちゃんのことなんだけど。」


 どうやら、レインはベリローゼのリクエスト通りに呼んであげるらしい。

 正気か?


 俺が眉間に皺を作ると、レインは増々言いにくそうにする。


「私たちが仕事の間、どうしたらいいかと思って……。」


 その、ごく真っ当な疑問に行き着いたらしい。


 俺とレインは、商隊の護衛をしながらあちこちを行き来する。

 ここ一カ月くらいは、拠点のようなものを持たない生活をしていた。


 そうすると問題が出てくる。

 ずばり、ベリローゼをどうするか、だ。

 必ず戻る、という拠点があれば、そこに居させればいい。

 しかし、現在の俺とレインは、そうした拠点を持っていなかった。

 何処かに行ったら、行った先で次の行き場所を探す。

 それだって、護衛する商隊次第で場所が決定されるのだ。

 そんな生活では、使用人をどうすればいいかというのは、当然持ち上がる問題だろう。


「レインはどうするつもりだったんだ?」


 そう聞いてみるが、レインはしゅんとしたまま俯く。


「何も考えないで、ベリローゼを雇う気だったのか?」


 重ねて聞くと、躊躇いながらこくんと頷く。

 俺は軽い頭痛を覚えるが、そこまでショックではない。

 これは、予想の範囲内だからだ。


 レインは根無し草だが、俺には一応根っこはある。

 ティシヤだ。

 長期間あちこちに行こうと、俺にとって戻るべきはティシヤの王城。


 だが、ベリローゼをティシヤに連れて行く気はない。

 俺のいないティシヤの王城で、好き勝手させるつもりはないからだ。

 百歩譲って、ティシヤに戻る時に一緒に連れて行くことはあるかもしれない。

 しかし、俺のいないティシヤの王城に、ベリローゼを置いていくという選択肢だけは絶対になかった。


 俺はちらりとベリローゼを見て、再びレインを見た。


「暁の脳筋団の構成員に入れる。」

「え……?」

「……のうきんだん?」


 俺の答えが意外だったのか、レインがきょとんとした。

 ベリローゼは、よく分かっていない様子で、俺とレインを見る。


「ちょ、ちょっと待って! 傭兵の仕事に連れて行くの!? ベリーちゃんを!?」

「他にいい方法があるなら、是非教えてくれ。」


 中々過酷な使用人生活になるが、それも仕方あるまい。

 それが嫌なら、真っ当な職場に就けばいいのだ。


「俺たちは傭兵だぞ? それも、特定の拠点を持たない、傭兵の中でも弱小の傭兵団だ。」

「ようへいだん……。」


 ベリローゼが、俺の言葉を繰り返す。

 俺は、真剣な表情でベリローゼを見た。


「自分の身くらい、自分で守れ。それが嫌なら、いつでも出て行ってくれて結構だ。」


 そう、たっぷり脅しのつもりでぶつけてみるが、当のベリローゼは平然としていた。

 これは、おそらく分かってないな。


 レインが立ち上がって、俺の立てた方針に異議を唱える。


「無茶よ!」

「じゃあ、無茶じゃないプランを考えてくれよ。」


 根無し草の傭兵の身で、使用人を雇おうとしたのはレインではないか。

 それは、無茶ではないとでも言う気か?


 代わりの案など出せないレインは、立ったまま項垂れる。


「分かりました。同行させていただきます。」

「ベリーちゃん!?」


 あっさりと俺の提案を飲むベリローゼに、レインが驚きの声を上げた。

 心配するレインに、ベリローゼは微笑んでみせる。


「身を守る術(すべ)には心得があります。問題ありません。」

「……心得?」


 その意外な返答に、レインが苦しそうに呟いた。

 ベリローゼが頷く。


 俺はベッドに後ろ手を突き、ベリローゼに今後の説明した。


「とりあえず明日は、回復薬(ポーション)とかの消耗品を補充に行く。その後は傭兵ギルドに行って仕事を探す。俺たちは最近、商隊の護衛が多いが、それにこだわってる訳でもない。魔物討伐だって受ける場合がある。」

「畏(かしこ)まりました。」


 本当に分かっているのか、あっさりとベリローゼは頷く。


 その後、レインがやっぱり危険だと難色を示すが、ベリローゼが自分で説得していた。

 ベリローゼの言っていた「心得」がどの程度かは分からないが、俺たちは三人で仕事に挑むことになった。







■■■■■■







 翌日の午前中。

 人数が増えたので、常備する回復薬(ポーション)などの消耗品もそれに合わせて買い増した。

 だが、ベリローゼは自分でも魔法具の袋を持っていたため、ある程度は自分でも用意してあると言う。


「…………何で魔法具の袋を持ってるんだよ。」


 普通のメイドが持てるような代物ではないのだが。

 主に、お値段的に。

 俺だって拾い物を奪って使っているくらいだ。


「仕事を求めていろいろな町に行きまして…………、魔法具の袋がないと不便でしたので。」


 そう、恐縮したように言う。


「そんなにあちこち行っても、採用されないのか?」

「ちょっと、リコ。そんなこと言ったら……。」


 レインが、俺の無神経な言い方を咎める。

 思わず聞いてしまったが、ベリローゼがしょんぼりしていた。


(使用人って、そんなに倍率が高いものなのか……?)


 若しくは、使用人になるにもそれなりに信用が必要なのかもしれない。

 世襲の影響があるのかどうかは知らないが、信用ある人から紹介でもされない限り、雇ってもらえないなどの慣習があるのだろう。


 ベリローゼが以前の勤め先をクビになったのが、一カ月ほど前らしい。

 安い給金をコツコツ溜めていたが、その金も尽き、行き倒れ寸前だったと言う。


 そんな話を聞き、俺はつい眉間に皺を寄せてしまう。

 どうにも、ベリローゼの説明にはうさん臭さが付きまとっていた。


(コツコツ溜め込んだ給金で、魔法具の袋を買った? その金があれば、まだ半年以上は食べて行けたのに?)


 ベリローゼの魔法具の袋は、俺のように誰でも使える状態の物ではない。

 使用者登録のされた、ベリローゼ専用の魔法具の袋だった。

 これからしばらく、蓄えで食べて行かなくてならないと分かっていて、そんな物を買うか普通?


 少々腑に落ちない部分はあるが、俺はあえてスルーした。

 何かある、と思いつつも、今それを問い詰めても口を割るとは思えなかったからだ。

 元々、宿屋の店主を騙したり、俺を「坊ちゃん」などと呼び、押し通そうとしたベリローゼである。

 腹の底が知れない。

 問い詰めるにも、それなりに材料が必要だろう。


 俺たちは道具屋を出て、次に武器屋に向かった。

 さすがに傭兵の仕事をするのに、丸腰とはいかない。

 ナイフの一本も無ければ、身を守れ、というのも無茶な話だ。

 …………そう思っていたのだが。


「お気遣いなく。大丈夫です。」


 武器を選ぶという話をベリローゼにしたところ、辞退されてしまった。

 さすがにこれは、俺も確認しない訳にはいかない。


「無手の…………体術の心得があるのか?」

「そうですね。そうした術(すべ)も身につけています。」


 俺とレインが顔を見合わせる。

 俺はレインをちょいちょいと手招きし、ベリローゼに聞こえないように、小声で話す。


「なあ……俺は使用人ってのに疎いんで知らないんだが、メイドってのはみんなこうなのか?」


 俺の知っているメイドさんの設定に、そんなものは無い。

 一部の漫画やアニメの設定で、馬鹿力のメイドさんなんてのも登場することも無くはないが。


「うちに使用人なんていなかったから、私にも分からないけど……。」


 どうやら、レインも少々戸惑っているようだ。


 王城には、当たり前だが使用人は多くいた。

 しかし、彼ら彼女らが護身術のようなものを身につけていたかどうかは、さすがに分からない。


 俺がちらりとベリローゼを見ると、ベリローゼも不思議そうにこちらを見ている。


「…………本当に、武器を買わなくていいのか?」

「はい。お気遣いありがとうございます。」


 そう、恭しく頭を下げた。


(プライテスみたいに、素手で魔物を倒す奴だっているし……。必要ないって言うなら、それでもいいか。…………それに。)


 ちょこちょこ、ベリローゼの行動などに引っ掛かるものがある。

 ならば、少し泳がせる意味でも、好きにさせるのも手か。

 それで命を落としても、自分の準備不足、慢心が招いた結果だ。

 これは、別にベリローゼに限った話ではなく、俺やレインだってそうだ。


 俺は、ベリローゼが腰に着けた魔法具の袋をちらりと見る。

 もしかしたら、袋の中に何か武器を仕舞っている可能性もある。

 本人が大丈夫だと言っているのだから、大丈夫なのだろう。


 俺たちは、そのまま傭兵ギルドに向かうことにした。







 ざわざわ……。


 俺たちが傭兵ギルドに入ると、若干のざわめきが起こった。

 それはそうだろう。

 子供二人に、付き添いのように後ろに控えるメイドさん。

 場違い感が半端なかった。


 俺はそれを無視してずんずん奥に進んだ。

 何をするにしても、まずはベリローゼの傭兵登録を済ませる必要がある。


 ところが、ここで一悶着起きる。


「私は使用人です。傭兵ではありません。」


 傭兵登録に、ベリローゼが難色を示したのだ。

 俺はベリローゼの正面に立ち、断固として登録を嫌がるベリローゼを見上げる。


「登録しなくても仕事はできるけどさ。登録したからって、不都合がある訳じゃないだろ?」

「…………申し訳ありません。」


 自分はあくまで使用人。

 傭兵である俺とレインに付き添いはするが、傭兵としてではない、ということらしい。

 まさか、こんなことで躓くとは予想外だった。


「この場合、どういうことになるんだ?」


 俺はカウンターの中にいる、係りの女性に尋ねた。

 係りの女性は、ある意味イロモノ集団の俺たちのことを、呆けたように見ていた。


「そ、そうですね。傭兵団として仕事を受ける場合、構成人数に関係なく、依頼ごとに報酬を決めます。また、傭兵団のメンバーは必ずしもギルドに登録されている必要はありません。結成に必要な登録人数を満たしていれば、あとは自由に入れ替え可能です。その場合でも、変更があった時には届け出ていただけると助かりますが。」


 これまで、俺とレインは傭兵団を結成はしても、仕事自体は個人扱いだった。

 雇うなら二人セットで雇ってくれ、という交渉に傭兵団を使いはしたが、報酬は個人ごとだ。

 これを傭兵団として受けようとすると「依頼達成したらまとめて幾ら」という形で交渉することになる。

 傭兵団の人数が二人なら、その報酬を二人で分ければいいし、三人なら三人で分ければいい。


 規模の大きい傭兵団になると、メンバーのうちの数人がAという仕事、数人がBという仕事、と振り分けることができる。

 仕事内容に見合った報酬を設定されていれば、それを受注して人数は最小で済ませる。

 そうしたやり方が、受注した傭兵団の裁量に任されることになる。

 勿論、依頼を達成できるなら、という前提ではあるが。


(団としての受注はともかく、ベリローゼが登録してなくても、これまで通りに受注することは可能か。)


 問題は、依頼者(クライアント)がベリローゼを一(・)人(・)分(・)として認めてくれるかどうかだ。

 ただ同行されても邪魔なだけ。

 実際の働きはともかく、一人分の収入を稼いでくれるなら、傭兵団の構成人数に含めた方が収入面では有利と言える。


 俺とレインで三人分の食い扶持を稼ぐのではなく、ベリローゼを含めた三人で稼ぐ。

 上手く潜り込めれば、これまで二人分の稼ぎだったものが、三人分の稼ぎとなる。

 一.五倍の稼ぎだ。


 俺は、そう頭の中で算盤を弾き、ベリローゼをびしっと指さす。


「分かった。傭兵登録はいい。ただし、傭兵団に登録はしてもらう。これは仕(・)事(・)に(・)同(・)行(・)す(・)る(・)た(・)め(・)に(・)必要な処置だ。」


 俺がそう言い切ると、ベリローゼも頷く。


「分かりました。」

「よし。レイン、手続きを。」


 これで、仕事を受けることさえできれば、それだけで報酬が五十%アップだ。

 頑張って捻じ込み、潜り込むぞ!


 俺は、手続きを団(・)長(・)の(・)レインに任せ、依頼の張られた掲示板をチェックすることにした。

 俺がカウンターから移動すると、ベリローゼもついて来る。


「依頼の掲示板なんか、見たことないよな?」

「そうですね。傭兵ギルドに来るのも初めてなので。」


 俺は掲示板の前に立ち、簡単に説明した。


「無造作に張られた依頼の中から、稼ぎのいいもの探す。報酬も重要だが、一番は難度だ。高額の仕事に飛びついて、命を捨ててちゃ意味がない。自分たちに達成可能か、その見極めこそが大事だ。」


 そうして、一枚の依頼書を指さす。


「仕事内容と報酬が釣り合っていても、遠方の仕事はだめだ。行ったはいいが、すでに締め切られてたなんてことになれば、移動にかかった費用が丸損になる。」


 説明を聞き、ベリローゼが頷く。

 俺は掲示板の端から、一枚一枚内容を確認していった。


「今日は見ているだけでいい。俺たちの腕も分からないんじゃ、受けられる依頼の見当もつかないだろう?」

「……………………、畏(かしこ)まりました。」


 ベリローゼはやや考えてから頷いた。

 俺が掲示板を見ている間、ベリローゼは黙って後ろに控えている。

 …………少々、居心地が悪い。


 真後ろに立たれている、というのもそうだが、何より周囲からの注目が半端ない。

 本当に「お坊ちゃんと使用人の図」としか見えないからだ。


「何だ、あのガキは……?」

「後ろのメイド。中々美人じゃね?」

「やめとけ。ありゃ噛みつき子狐(スナッピングカブ)だぞ。」

「あいつがか?」


 こそこそと噂されているのが聞こえた。


「…………噛みつき、小僧?」


 ベリローゼが呟いた。

 俺に聞こえるのだから、ベリローゼに聞こえても不思議はない。


「気にするな。ガキだからとちょっかいをかけてきた馬鹿どもを伸(の)してたら、勝手につけられただけだ。」

「なるほど。」


 そこで、手続きの完了したらしいレインがやって来た。


「お待たせ。こっちは終わったわ。」

「ご苦労さん。」

「お手数をおかけしました、レイン様。」


 レインに向かって、頭を下げるベリローゼ。

 その、いちいち丁寧な対応に、レインが苦笑する。


「私のことはレインでいいって。」


 そう伝えてみるが、ベリローゼは涼しい顔だ。

 これは、改める気は皆無だな。


「あ、そうそう。」


 そこで、何かを思い出したように、レインがぽんと手を打つ。


「手続きの項目で、年齢っていうがあったんだけど。ベリーちゃんの年齢が分からないから、一応二十歳(はたち)ってことにしておいたわ。」


 ギルドの書類では、稀に年齢を確認されることがある。

 まあ、厳密に戸籍の管理がされている訳ではないので、これは適当でも問題はない。

 どこかに問い合わせる訳でもないし。


「レイン様、訂正をお願いします。」


 だが、ベリローゼは真剣な表情で訂正を求めてきた。

 真っ直ぐにレインを見るその表情は、なぜか真剣そのものだった。


「あ、違った? ごめんなさい。それくらいかなって思ったんだけど。」


 レインは、ベリローゼの見た目で見当をつけたようだ。

 俺も、ベリローゼの年齢はそのくらいだと思っていた。

 むしろ、もう少し上かな、くらいに思っていたのだ。

 そういう意味では、レインは若干のサバを読んであげたのだろう。


「まあ、あんなのは適当で問題ないよ。確認される訳でもないし。」


 そうベリローゼに言うが、まったく効果がなかった。


「訂正をお願いします。」


 ずいっとレインに迫り、ベリローゼが訂正を求める。

 俺は肩を竦めて、ベリローゼに説明してやる。


「あんなのは形式で入ってるだけで、みんな適当に――――。」

「訂正をお願いします。」


 が、更に一歩、レインに迫るベリローゼ。

 もはや二人の顔の距離は、拳一つ分もない。

 怖いって。


「す、すぐ訂正してくるわ。ごめんなさい。」


 ベリローゼの迫力に、レインが顔を引き攣らせて仰け反る。

 たかが書類上の年齢に、そこまでこだわることもないだろうに。


 馬鹿馬鹿しいとは思いつつ、俺はベリローゼに年齢を確認した。


「……で、いくつなんだよ。実際は。」


 俺がそう尋ねると、ベリローゼはこほんと咳払いをし、姿勢を正した。


「十七歳です。」


 ざわり……。

 ベリローゼの口から放たれた衝撃の言葉に、周囲がざわめいた。


 ただでさえ悪目立ちしていた俺たちのただならぬ雰囲気に、聞き耳を立てていた者が多かったのだろう。

 その衝撃は、ざわざわ……と周囲に広がった。


「いや、いくら何でもそれは……。」

「さすがに無理があるだろ。」

「ないわー。折角の美人さんなのに、その見栄はないわー。」


 いつの間にかできていたギャラリーたちが、口々に囁き合う。


 ギランッ。


 ベリローゼが振り返り、殺気の籠った視線でギャラリーを黙らせた。

 騒がしかったフロアに、水を打ったような静寂が訪れる。

 そんなベリローゼを、俺はじとっとした目で見上げた。


「……………………。」


 言いたいことは、無くもない。

 だがしかし、女性に年齢ネタは禁忌(タブー)。

 それは、世界は違えど不変の、宇宙の法則のようだった。


 森羅万象。

 きっと解明されていない曼荼羅図にも、「女性を年齢のことでいじっちゃいけないよ」と組み込まれているはずだ。

 知らんけど。


 俺は、茫然とベリローゼを見ていたレインに声をかける。


「あー……、レイン。訂正を頼めるか?」


 俺がそう言うと、レインも我に返った。


「う、うん! すぐ行ってくる!」


 そうして、慌てたようにカウンターに走って行った。

 無事に訂正される流れになり、ベリローゼが涼しい顔で姿勢を正す。

 それはもう、何事もなかったかのように。


「…………で、何周目だ?」


 俺は、思わず呟いてしまう。


「何周目……、ですか?」


 ベリローゼは、俺の言っている意味が分からず、聞き返す。

 俺は気を取り直し、掲示板のチェックを再開することにした。


 自称、十七歳。

 元の世界の一(・)部(・)の(・)界(・)隈(・)では、何年経っても年齢が増えないことに対し、周回数を付け加えたりすることがある。


 そんな余計な考えを頭から追い出し、俺は依頼のチェックに集中するのだった。





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