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魔王の権能 ~災厄を振りまく呪い子だけど、何でも使い方次第でしょ?~  作者: リウト銃士
第二章 傭兵団の初仕事

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第12話 騎士と傭兵の役割




 傭兵ギルドで、採鉱場の魔物討伐の仕事を受けると決めて、数日。

 俺とレインは領都ビゼットを出て、街道をひたすら南下していた。

 田園風景の中を、ただただ歩く。


 目指すは山脈の麓にある町、ノツトフ。

 仕事は、この町で募集しているということだ。


「同じ領内とは言え、あまり近場ではなかったな」


 俺は歩きながら、ぼやいた。

 ソバルバイジャン伯爵領は、とにかく南北に長い。

 領都ビゼットから麓の町ノツトフまで、六日もかかるそうだ。

 縦長の領地なのは知っていたが、そこまでかかるとは思わなかった。


 俺は横を歩くレインを、恨めしそうに見る。

 そんなに時間がかかっては無駄足になるかもしれないってのに、レインは上機嫌で歩いていた。


「おい、レイン。」


 俺が声をかけると、レインはにっこにっこしたまま振り返る。


「向こうに着いたら、他の傭兵たちにぺこぺこするなよ。」


 俺の言っている意味が分からないのか、レインがきょとんとした顔になった。

 俺は意識して、表情をやや険しくする。


「基本的に傭兵ってのは馬鹿が多い。丁寧な応対を『自信が無い』『下手に出てる』としか考えられない、そういう類の馬鹿だ。」


 物腰の柔らかさを『弱気』だと考え、脅せば言いなりになると勘違いするような輩がそこそこいる。

 そういう輩に、レインがぺこぺこしたらどうなるか?


「初日のこと、忘れてやしないだろうな? ああいう馬鹿はどこにでもいるぞ。」


 俺がいない状態で、あんなのに絡まれたらどう対処するか。

 覚悟だけはさせておく必要がある。


 そう忠告すると、レインは途端に情けない顔になった。


「…………どうしよう……。」


 縋るような目で、レインが俺を見る。

 そんなレインに、俺はニヤリと笑ってやる。


「手本がここにいるじゃないか。」


 そう言って俺は、親指を立てて自分を差す。


「前に言ったよな? 『俺はこんな外見(ナリ)だから、相当周りに舐められたと思うだろ?』って。 その通りだよ。」


 こんなガキがのこのこやって来れば、良からぬことを考える奴はいくらでもいる。

 俺は真顔になって、レインを真っ直ぐに見た。


「すべて跳ね返したんだよ。言うことを聞かねえからって殴られれば、殴ったその手を折った。蹴られれば蹴った足を折ってやった。そうやって躾けてやんねーと分からねえんだよ、馬鹿な連中だからな。」


 手を出せば反撃がある。

 それを身体に教えてやらないと学習できないような奴はいる。

 他人の痛みなど想像もできないような奴なら、自分の痛みとして教え込んでやるしかない。

 いくら言葉を尽くして説いたとこで、礼儀も高尚な理念も、そもそも理解できないのだ。

 ならば、相手のレベルに合わせてやるしかない。


 顔を青くするレインの表情が可笑しくて、思わず笑いが込み上げる。


「普段、俺が偉そうにしゃべってるのも、その一環だよ。まあ、もう癖になってるから、地になってるけどな。」


 丁寧な口調や対応は、それを理解できる相手に使うべきだ。

 勘違いを助長させてしまうなら、そういう相手には使うべきではないだろう。


「弱い犬ほどよく吠える、なんて言葉もあるんだけどさ。傭兵の世界じゃ、嗜みみたいなもんだ。」


 脅されても、小突かれても、遠慮して何も言い返せないような奴は、よりつけ込まれる。

 たとえハッタリでも、威嚇し、吠え、牙を剥かなくては毟り取られるだけ。

 絶対に勝てないと分かっていても、ファイティングポーズを取ること自体に意味がある。


 ぶっ殺されても、ただじゃ()られない。

 そうした()と気概を示さなくては、生き残れない世界だ。


「ギルド内では刃傷は御法度だけど、現場ではもう少し緩い。相手により大きい非があれば、先にナイフで刺しても『一方的に悪い』なんてことにはならないから。」


 その場合、他に見ている人のいない場所でやるのは避けた方がいい。

 できれば、より多くの人のいる場所で刺そう。

 周囲が「あれは刺してもしょうがない」と思ってくれれば、そこまでひどいことにはならない。…………こともある。


 まあ、さすがにそこまでのトラブルになれば厄介なことにはなってしまうが、「ちょっかいをかければ噛みつかれる」というのを示さないと、どこまでもつけ込まれることになる。

 本当に馬鹿が多いのだ。

 傭兵には。


 勿論、国からも一目置かれるようなすごい傭兵団もあるし、傭兵もいる。

 だけど、当然ながらそんなのはごく一部で、有象無象の中にはどうしてもどうしようもない奴ってのがいるものだ。


 ちなみに、こうしたトラブルが領地の法律や国の法律で裁かれるかと言えば、ケース・バイ・ケースだ。

 一般の方に対して何かやらかせばお縄につくが、傭兵同士のいざこざは、割と放置されることも多い。


「犬の喧嘩にお上が出てどうする。」


 かつて、そう言い放ったどこかの騎士団だか領主軍だかの、偉い人が居たとか居ないとか。

 傭兵がどのように思われているのか、とてもよく分かる一言だ。







■■■■■■







 山脈の麓にある町、ノツトフを目指して六日目。

 ようやく俺たちは辿り着くことができた。


 町の向こうには雄大な山々が見えるが、少々微妙な気持ちになる。

 麓から見える採鉱場やその周辺は、丸裸。

 周囲の覆い茂った山々と比べ、その剥き出しの土や岩肌に何とも言えない気持ちになった。


 ようやく目的地に着いたが、到着した喜びはほとんどない。

 むしろ、活気の欠片もない町の状態に、思わず顔をしかめたくなった。


 鉱夫の町なので、荒くれ者が多いのは容易に想像がつく。

 そして、その荒くれ者たちが仕事をできずに、日がな一日町にいるのだ。

 どうなるかは、想像に難くない。


 昼間っから酒をかっ喰らい、飲んだくれていた。

 道端で眠りこけている者、あり余った力の発散に喧嘩を始める者、仲間内で博打に勤しむ者。

 淀んだ雰囲気が、町に漂っていた。


「……………………帰るか。」

「………………。」


 俺は横のレインに提案するが、レインからの返答はない。


「馬鹿なことを言わないの。」

「いいから行くわよ。」


 そうした前向きな返答があるかと思いきや、レインもちょっと帰りたいと思っているような表情になっていた。

 町に漂うのは仕事のできない悲壮感ではなく、鬱屈した感情の発露だ。

 まあ、無理もないか。


「どうする? 話だけでも聞きに行くか?」

「う、うん……。」


 消極的賛成。

 折角こんな辺境までやって来たのだ。

 せめて話くらいは聞かなくては、と思ったようだ。


 俺たちは町の入り口から真っ直ぐ延びる大通りを歩き、鉱山の管理事務所を探した。

 さすがにこんな辺境には傭兵ギルドの支部はないそうで、依頼者(クライアント)の事務所が集合場所だ。


 依頼者(クライアント)は鉱山の管理事務所の所長だ。

 この鉱山も管理事務所も、というかこの町自体が領主のものなので、厳密な依頼元は領主となるが、所長はその代理人といったところか。


 管理事務所は、割とすぐに見つかった。

 通りに面し、町の入り口からも容易に見える場所だ。


 事務所はコンクリートの二階建て。

 かなり年季の入った建物のようで、結構ボロボロだった。

 すぐに崩れそうとまでは言わないが、地震の時のことを考えると、ちょっと心配になる。

 そんな感じの建物だ。


 少々建て付けの悪いドアを開け、建物に入った。

 カウベルなど無くても、不快なキィー……という音が来客を知らせてくれる。


 入って右側に二階に上がる階段があり、正面にはカウンターがあった。

 カウンターの向こうでは、数人の男たちがお仕事中のようだ。

 彼らは、一目見て鉱夫ではないことが分かる。

 体つきで、誰一人として力仕事に向いた人がいない。

 おそらく領主に派遣された官吏や、事務員として雇われた人たちだろう。


「すみません。」


 俺は近くにいた男に声をかける。

 その男は、明らかに怪訝そうな顔をしていた。


『何で子供が?』


 そう思っているのが、ありありと分かった。


「傭兵ギルドで見たんですけど。魔物討伐はどうなってますか?」


 俺たちが依頼を見かけてから、すでに一週間が経過している。

 そして、領都(ビゼット)に掲示される三週間も前から、近くの町では募集をしていたそうだ。

 頼むから、定員が埋まっててくれ。


 俺が魔物討伐のことや、傭兵ギルドのことを持ち出すと、男は驚いた顔になった。


「まさかっ……君たちは傭兵なのか!?」

「ええ、まあ。」


 俺からすると、この反応は想定内だ。

 というか、すでに何度も言われてきたことなので、「またか」くらいにしか思わない。


 俺は面倒な説明を省くために、傭兵ギルドの登録証を見せた。

 俺が登録証を出すと、レインもわたわたと登録証を取り出し、同じように見せる。


 それを見て、男は驚いた表情のまま目を瞬かせた。

 登録証を仕舞いながら、俺は話を進める。


「さすがにもう、魔物討伐は定員になってますよね? それじゃ、今回はご縁がなかったということで。」


 そう決めつけ、踵を返して帰ろうとすると、男はようやく我に返った。


「あ、いや、まだだ。四人しか集まっていなくて、このままもう少し待つか、定員にはなっていないが討伐に向かうか、考えていたところなんだ。」


 現在の状況を聞き、俺は微かに舌打ちをしてしまう。

 もし依頼者(クライアント)が俺たちを雇うと決めれば、これで六人になる。

 そして、これだけ募集に時間がかかっているのだ。

 参加したいという物好きがいれば、誰でもウェルカムだろう。


 その時、横の階段から一人の男が下りてきた。

 がたいのいい男だ。

 鉱夫か傭兵か、ぱっと見では判別は難しい。


 下りてきたのは、四十台前半くらいのやや無精髭の目立つ精悍な顔つき。

 白髪の多い髪は、短く刈り灰色に見える。

 俺は、その男の顔に見覚えがあった。


「あれ? バルアーゾじゃん。」


 俺が思わず呟くと、バルアーゾもこちらに気づく。

 そうして、俺の姿を見た途端に目を丸くした。


「げっ! リコ!?」

「よぉ、久しぶり。」


 顔を引きつらせながら、バルアーゾがこちらにやって来た。


「もしかして、隊長(リーダー)はバルアーゾ?」

「あ、ああ……それはそうなんだが……。」


 俺がにこやかに確認すると、バルアーゾはぎこちなく答える。

 そうして、恐るおそるという感じで尋ねてきた。


「…………もしかして、お前……。」

「こんな辺境までわざわざやって来たんだぜ? 他に何があるよ。」


 俺の返答に、バルアーゾは増々顔を引き攣らせた。


「あの、リコ……。」


 俺がバルアーゾと話をしていると、状況の分かっていないレインが遠慮がちに声をかけてくる。


「ああ、バルアーゾは知り合い、っていうか前に一度仕事をしたことがあるんだ。運が良かったな、レイン。バルアーゾが隊を組むんなら、そうひどい仕事にはならない。」


 バルアーゾはベテランの傭兵で、まとめ役としても優秀だった。

 バルアーゾが仕切るのなら、傭兵同士のトラブルはあまり心配しなくても良さそうだ。

 勿論、こちらが油断しきっていれば別だが、当たり前のことをちゃんとやっていれば、変なトラブルは避けられる公算が大きかった。


 どこの仕事でもそうだが、寄せ集めの傭兵を使い、一つの目標を達成しようとするのは大変だ。

 なぜなら、好き勝手する奴もいるし、傭兵同士でトラブルからだ。

 そうしたことを未然に防ぎ、トラブっても上手く仲裁して、依頼を達成するように立ち回るのが『隊長(リーダー)』の役目。


 複数人で挑むような大きめの仕事になると、依頼者(クライアント)に最初に雇われるのはこの隊長だ。

 仕事の内容から、何人の傭兵を雇うか、報酬は幾らくらいが適正か。

 傭兵ギルドとともに、依頼者(クライアント)の相談に乗る。

 つまり今回の仕事では、バルアーゾ以外に六名の傭兵を募集した、ということだ。


 そして、実際に仕事に取り掛った時は、現場での指揮官的な役割を負う。

 傭兵たちをまとめ、状況を判断し、決断する。

 つまり、隊長次第で仕事の成否や、俺たちの生存確率が大きく変わる、非常に重要な存在だ。


 バルアーゾが隊を組むと知り、俺は少し気分が軽くなった。

 もし採用されても、レインが他の傭兵とトラブらないように立ち回る役を、バルアーゾも手伝ってくれるだろう。


 バルアーゾはげんなりした顔で、俺を見下ろす。


「お前……、こういう仕事は好きじゃないって言ってなかった?」

「好きじゃないよ。今回はまあ…………団長の意向だから。」

「団長……?」


 俺がレインを見ると、それに釣られてバルアーゾもレインを見た。

 いきなり注目が集まり、レインが慌てて頭を下げる。


「は、初めまして。傭兵をやることになったレインと言います。よ、よろしくお願いします。」


 あまりぺこぺこするな、とアドバイスをしておいたはずなのだが、早速レインはぺこぺこしていた。

 まあ、バルアーゾなら大丈夫だろうけど。


 しかし、レインのその挨拶を聞き、バルアーゾは更に複雑な表情になった。

 おもむろに俺の襟をがっしと掴み、部屋の隅に引っ張って行かれた。


 バルアーゾが屈み、ひそひそと話しかけてくる。


「なあ……、何だあれは?」

「何って?」

「丸っきりの素人じゃねえか。」

「ああ、うん。」


 バルアーゾの疑問に、淀みなく答えていく。


「何考えてんだ? 魔物の討伐にあんな素人の……それも女の子を連れて行こうなんて。遊びじゃないんだぞ?」

「それを俺に言われても……。やる気になってる本人に言ってくれよ。採用の権限は持ってるんだろ?」


 隊長には、誰を雇うかを選定する権限が与えられているのが普通だ。

 依頼者(クライアント)にアドバイスをする、という形ではあるが、


「こいつは使えねえ。」

「トラブルばっか起こす奴だ。」


 と思えば


「雇うな。」


 と依頼者に言えるのだ。

 依頼者としても依頼を達成してもらいたいので、わざわざ隊長が仕事をやりにくくなる相手を無理に雇うことは普通しない。


 そう思って言ってみたのだが、バルアーゾは途端に()()とした顔になった。

 どうした?


 バルアーゾは黙って、先程俺たちが話しかけた男を見た。

 そうして、カウンターの向こうの男たちも見る。

 官吏や事務員らしき男たちも、こちらを見ていた。


 バルアーゾが、重い、あまりにも重い溜息をつく。


「はぁああ~~~~っ。…………俺からは断れねえ。」

「はへ?」


 その、意外な返答に思わず変な声が出てしまう。

 何でも、依頼者が「人数が揃わなくてもいいから、さっさと討伐に行ってくれ」と言っているらしい。

 採鉱場のストップは、それだけで伯爵領に大きな経済的ダメージを与えている。

 バルアーゾは成功率を高めるためにも、何とか頭数が揃うまでは、と引き延ばしている状態だったようだ。


「一人二人の欠員くらいなら何とかなるだろ!」

「次に誰か来たら問答無用で採用しろ!」


 と、今も依頼者である所長と話をしていたところらしい。

 つまり、俺からしても最悪のタイミングで来てしまった、ということだ。


(依頼者が不採用にしてくれれば…………とちょっとだけ思ってたんだけど。)


 淡い期待は、粉々に打ち砕かれてしまった。

 そうして、それはバルアーゾも同じだった。


(選りにもよって、こんな奴らかよ……とか思ってそうだな。)


 依頼者から催促され、カウンター内の男たちにもばっちり見られている。

 無かったことにはできない。

 おそらく、ここでバルアーゾが俺たちを断ると、依頼者からの催促はより激しくなるだろう。

 そして、予定人数に足りない状態でも、強行させられる事態になる。


「折角来た傭兵を断ったのは、お前だろう。」


 という訳だ。


 俺たちがやって来たことで、バルアーゾは非常に苦しい選択を迫られることになった。

 少しの間、苦悶の表情を浮かべていたバルアーゾだが、真剣な目で俺を射抜く。


「なあ……一つ聞きてえんだが。」

「何?」


 バルアーゾは今、必死にどう動くべきか考えているのだろう。

 その目は、まるで現場にいる時のようだった。


「眠る赤狼の仕事。()()、お前も参加してたって噂を聞いたんだが……。」

「眠る赤狼?」


 あれというのは、もしかして砦攻略のことだろうか。


「どれのこと言ってるのか知らないけど。二カ月くらい前の仕事のことなら、確かに参加したよ。」


 少人数での砦攻略。

 上手いことやりやがって、と大口の仕事をやり遂げた眠る赤狼のことを羨ましがる声は、俺も聞いたことがある。

 あの仕事は団長のイールナフから直接声をかけられたので、傭兵ギルドも把握していないはずなのだが。

 俺が参加してたことが漏れてんのかよ。

 まあ、いいけどさ。


 俺が肯定すると、バルアーゾは更に考え込む。

 そうして、ちらりと後ろを見て、レインを確認した。


(俺は戦力になるが、レインはどうか……って悩んでいるんだろうな。)


 ただ、レインが足手まといになるなら、非情ではあるが切り捨てる判断もある。

 隊長である以上、依頼達成が第一。

 使える仲間を安易に切り捨てるのは後々自分の首を絞めることになるが、足手まといにしかならないのならば、その判断も間違ってはいない。

 バルアーゾは比較的まともな判断を下す男だが、だからこそ必要とあれば非情な判断も下す。


 バルアーゾは意を決したように立ち上がった。

 そうして、俺とレインに言う。


「分かった。明朝にまた来てくれ。夜明けとともに出発する。」


 それだけ言うと、バルアーゾは階段を上がって行った。

 おそらく、依頼者である所長に目途が立ったと報告に行くのだろう。


 こうして、俺たち暁の脳筋団の初仕事は、採鉱場の魔物討伐に決まったのだった。







■■■■■■







 バルアーゾが所長に話をしに行った後、俺たちはカウンター内にいた男から現在の状況などを少し聞いた。

 そうして話を聞いてから、俺とレインは宿屋で休むことにした。

 明日の朝早くから採鉱場に向かうことになった以上、しっかりと休むのも仕事のうちだ。


 湯場で埃と汗を流し、腹いっぱいに夕食を食べ、部屋で休んでいた。

 休むと言っても、現在は最終点検の真っ最中だ。


 所持品の回復薬(ポーション)や毒消し薬など、消耗品に不足が無いか。

 武器や防具の具合はどうか。

 しっかりとした準備も、生存の確率に大きく影響する大事なお仕事である。


 特にレインは慣れていないので、負傷し易いだろう。

 回復薬(ポーション)などの薬関係は二人分ではなく、かなり多めに用意しておいた。

 そうそう腐ったり、劣化するものでもないので。


 ちなみに、糧食も二人分を五日分買い込んだ。つまり、三十食分だ。

 一応の計画では、一泊か二泊で町に戻るらしいが、こちらも多めに用意しておいた。

 遭難した場合に備えてだ。


「ねえ、リコ。」


 そうして、ベッドの上で胡坐をかき荷物を広げていた俺に、レインが話かけてくる。

 レインはテーブルに(ソード)を置き、念入りに手入れをしていた。


「どうして領主様は傭兵に頼むの? 領主軍があるのに……。」


 そんな、素朴な疑問を聞いてきた。


 採鉱場に魔物が現れた。

 困った事態ではあるが、領主は自前の軍を持っている。

 ならば、領主軍から騎士でも兵士でも派遣して、討伐すればいいではないか、ということのようだ。


 俺は魔法具の袋に、荷物を一つひとつ仕舞っていく。


「理由はいろいろあるだろ。一概に言えることじゃないよ。」


 そんな、当たり障りのない返答をする。

 しかし、それでは納得しないのか、レインが手を止めて俺をじっと見つめた。


 俺は荷物をすべて仕舞うと、魔法具の袋を腰に装着した。

 ベッドの端に移動し、足を下ろす。


「……領主軍の連中は、領内の治安活動に就いてる。」


 派遣する人数にもよるが、それはそのまま治安活動に影響する。


「もしも大きな怪我や命を落とす者が出れば、その穴を埋めるのも容易じゃない。」

「それは、確かにそうね。」


 騎士も兵士も、手間暇かけて訓練している。金だってかかっている。

 派遣している期間だけの欠員ならばともかく、復帰できないような負傷でもされたら大損だ。


「それを、お金で解決するのが傭兵。傭兵なら何人死のうが安心だろ?」

「…………安心って。」


 俺の言い方が微妙に引っかかるのか、レインが複雑な表情をする。


「領主軍を派遣して、リスクなく解決するなら、確かにそっちの方が安上がりだ。どれだけこき使おうが、それもお給料のうちだからな。」


 まあ、もしかしたら多少のお手当ては出すかもしれないが。

 それでも、傭兵に依頼するよりは遥かに安上がりだろう。


「領主が恐れているのは、騎士や兵士が大怪我をしたり命を落として、復帰できなくなることだ。」

「でも…………それは騎士をやっていれば避けられないことじゃないの?」


 それでは何のために騎士や兵士はいるのか。

 レインは、そこに疑問に感じてしまうようだ。


「確かに、過度に危険を避ける訳にはいかない。でも、気軽に危険を冒させたくもないんだよ。だから、危険だと分かりきってる仕事は傭兵に回ってくる。」


 騎士を目指していたからこそ、危険を避ける騎士の運用に疑問を抱いてしまう。

 だが、騎士をどう運用するかは、領主の考え方次第ではある。


 そんなレインに、俺は笑いかけた。


「それ自体は悪くない考えだと思うよ? 補充の容易ではない騎士は、いざという時のために残して置いて、いくらでも補充の利く使い捨てを投入する。」


 もしも俺が騎士だったら、是非そういう領主の下で働きたいと思う。

 ただし、そうやって危険を避け続けた騎士が、いざという時に役に立つかはまた別の話になるが。


「むしろ、使命感に燃えすぎて危険も顧みずなんて騎士は、領主からしたら困りもんだろうな。」


 俺がちくりと言ってやると、レインがジト目になった。


「…………それ、誰のこと?」

「さあ? 生憎、騎士には知り合いがいないんで。一般論だよ。」


 騎士見習いだった奴は、目の前にいるけど。


 そうして俺が寝る支度を始めると、レインも(ソード)の手入れを止めて、寝る準備を始めるのだった。





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