04 蛭尾
黒塗りの車を駐車場に止めると黒のトレンチコートを脱ぎ、病院に入った。
私の名前は蛭尾。某国立大学の教授兼、物理学研究所の所長をしている。
グレーのスーツにグレーのコートを着込んだ私は、弘子君からあらかじめ聞いていた病室名を受付に告げると、エレベーターに乗った。
「蛭尾所長、お疲れさまです」
病室に入ると弘子君が迎えた。
「所長、お昼は?」
「ああ、済ませてきた」
弘子君の横には不安そうな顔をした若い男性。どことなく弘子君に似ている。
「弘子君の弟の信太朗君だね。初めまして、蛭尾です。」
「ど、どうも信太朗です。姉がいつもお世話に……。」
「早速状況を把握したい。「彼女」は目を覚ましたかい?」
「……いえ。命に別状はないようですが?」
「ふむ。彼女に近づいても?」
信太朗は弘子君の方をちらりと見る。彼女がうなずく。
ベッドの上の少女の顔をじっと見る。
美しい少女だ。この少女があの人とは、面白いものだ。
「なにかおかしいんですか?」
思わず微笑んでいたらしい。意外に目ざとい少年だ。
「失礼。いや、美しい少女だと思ってね」
病室を見渡し、彼女の来ていた服と持ち物を手に取る。
「弘子君。これが例の笛かね」
「はい、所長」
病室内の椅子に腰かけると、口ひげをなでる。
信太朗君は不安そうで、しきりに貧乏ゆすりをしている。
彼の不安が限界する前に、私はは口をひらく。
「信太郎君、今の時点でわかっていることが3つある。」
赤い絹袋の中から横笛を取り出す。
「まず一つ目。例の装置、タイムマシンは、私と弘子君で開発途中のものだ。試作品を弘子君の車に取り付けてある。起動させないように伝えておいたのだが……。」
「「すいません!」」
姉弟が同時に謝罪する。
「まあいいよ。あの装置はいつの時代にでも行けるわけではなく、同じ時代にしか行けない。」
「行先は固定されているということですか?」
「そう。二つ目。この装置を動かすには、特別な燃料がいる、それはすぐに手に入るものじゃない。装置の調整にも日数がかかる。」
「すぐにはこの子を返してあげられないのですね。」
「三つ目は……」
私は傍らの少女を見ながらこう言った。
「この子はおそらく、平家の武将、平敦盛だ。」




