30 信太朗「それでは、味方になってくれますか?熊谷殿!」
熊谷家の家人たちが、倒した賊たちの後始末をしている。
俺たちは、熊谷屋敷の客間に通された。
屋敷といっても、客間と寝間が3部屋に炊事場がある、平屋の古民家といったところだ。
熊谷家客間には、熊谷次郎直実、直実の長男熊谷小次郎直家。あと家人数人。
そして俺と敦ちゃん。
「父上、下手人はやはり久下郷のやからどもと思われます。」
「やはり叔父上の仕業か……。」
「はい。敦盛殿の笛の事は、武士のうちで噂になっております。それを聞いた大叔父殿は、当家から盗み出して我らの面目を失わせ、所領争いを有利にしようとでも思ったのでしょう。その帰りに突然敦盛殿が現れ、奴らさぞ驚いたでしょうな。」
小次郎直家は、敦ちゃんと同い年だというが、大人びた顔をしている。
親父の直実と違い、髭は薄く面長で、すらっとした長身で目が細い。
いわゆる貴族顔で気品を感じる。
しかし、一ノ谷の戦いでは、父直実と共に、平家の陣に一番乗りで突入して活躍した、豪のものらしい。と、蛭尾教授が教えてくれた。
それにしても事態の把握が早い。
俺たちが時空を超えてやってきていることも、理解してくれた。
親父の直実はしきりに首を傾げているが。
俺は、蛭尾教授に教えてもらった作戦を熊谷家の面々に話した。
要約すると次の3点である。
①敦盛は平家一族の危機を救いたいので、この戦いを終わりにしたい。
②平家と源氏の講和は可能だが、源義経の存在がそれを阻んでいる。
③熊谷直実には、義経を倒す手助けをしてほしい。
「なるほど、よくわかり申した」
小次郎が父の代わりにこたえた。
「確かにその策なら、戦を避けられるやもしれません。失われなくてもよい命も助かるでしょう。」
「それでは、味方になってくれますか?熊谷殿!」
俺と敦ちゃんは敦盛が身を乗り出す。
「しかし、なぜわが熊谷家なのです。敦盛殿なら、まず屋島におられる総大将宗盛殿か、お父上の経盛殿に頼むべきでしょう。」
親父の直実は隣でじっとそれを聞き入っている。
「わが熊谷家は鎌倉殿の御家人。平家を倒す算段ならいざ知らず、危険を犯して平家を救ういわれはありません。いったい何の得があるのです?」
小次郎の言っていることはもっともだ。
あと2~3回、熊谷屋敷でのシーンが続きます。
その後曽我兄弟のシーンに戻る予定です。
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