21 蛭尾「鎌倉の源頼朝率いる関東武士団を倒すということかい?」
今回からちょっと小難しい話になるかもしれません。
その晩、信太朗の家のリビングには、4人の男女が集まっていた。
帰宅した弘子と信太朗、敦盛。そして弘子が呼んだ蛭尾教授だ。
外は曇り、風が強い。例年より早く台風が近づいているようだ。
弘子はエアコンの設定温度を1度上げた。
4人はガラステーブルをはさんで、ソファに腰かけた。
「まずは、敦ちゃん。記憶が戻ってとりあえず……おめでとう。」
「……ありがとうございます。」
弘子がとりあえずと言ったのは、敦盛に記憶が戻ることが、今の彼女にとって必ずしも「良い事」とは限らないからである。
「弘子お姉さま。私はこの日が来るのが恐ろしかった。記憶なんか戻らなくてもいい。そう思っていました。」
「そうだよ、このままじゃ駄目なのかな。別にあの時代に戻らなくたって、ずっとここにいりゃいいじゃん。」
「……信太朗様。」
「記憶が戻ったら絶対にあの時代に戻らなきゃってわけじゃないと思うんだ。敦盛さんはずっとこの時代でこの家で暮せばいいよ。俺もそっちの方が……。」
敦盛は顔を伏せて黙っている。
「敦ちゃんはどう思うの?」
弘子が尋ねる。
「信太朗様のお心はうれしいです。私も記憶が戻るまでは、その方がいいと思っていました。でも、記憶を取り戻した今、私は平敦盛なのです。平家一門としての誇りを捨てることはできません。」
「敦ちゃん……。」
「この時代で歴史を知り、平家一門の運命を知った今はなおさら、お役目を果たしたいのです。一族の危機を救いたいのです。」
弘子が心配そうに敦盛の顔を覗く。
敦盛は顔を伏せたままだ。
しかし、握りしめたこぶしが、固い決意を表している。
「あのさ、俺調べたんだけど……。」
「いいよ、信太朗。意見を聞かせてくれ。」
「タイムマシンで一の谷の戦いの前にタイムスリップするっていうのはどうかな?源氏の鵯越の奇襲にも備えられるし……。」
信太朗は立ち上がって続ける。
「もっと言うなら、もう少し前にタイムスリップして、平清盛の病気を治すとかどうかな。」
「信太朗、残念ながらそれはできない。前も言ったが、あのタイムマシンは、時系列より前の時間へは行けない。現在の時間進行と、あの時代の時間進行は同じ速さなんだ。」
「……。」
「敦ちゃんがこの時代にタイムスリップしてから5か月たつけど、あの時代も同じように5か月たっている。今タイムスリップしたら、一の谷の戦いから5か月後の1184年8月に飛ぶんだ。」
「そっか……。」
信太朗はソファに座り込んだ。隣の敦盛と二人揃ってうつむいている。
「少し、いいかな。」
今まで黙ってきていた蛭尾教授が皆を見渡す。
「敦盛くん。君の言う「一族の危機」というのは、言うまでもなく、平家一門のことだね。」
「はい、そうです。」
蛭尾は敦盛に対しても、弘子と同様「君」づけで話す。
「君は、平家一門を救うにはどうしたらいいかと思うかな?」
「それは……。」
敦盛は少し口よどんだ。
「それは、源氏方を倒して平家が勝つことです。」
「源氏方を、鎌倉の源頼朝率いる関東武士団を倒すということかい?」
「……はい。」
蛭尾教授は机の上にある歴史年表をペラペラとめくり、鎌倉時代のページを開いた。
「所長、なにがおっしゃりたいのですか?今現在平家は源氏と戦争中です。源氏を戦で破って倒す以外に方法がないじゃないですか。」
「よろしい。弘子君、信太朗君、敦盛君。私なりにこの当時の日本の歴史情勢について調べてみた。少々長くなるが、最後まで聞いてほしい。」
蛭尾は一同を見渡す。
「蛭尾様。お願いします。」
最初に返答したのは意外にも敦盛だった。
弘子はうなずく。信太朗ももとより異論はない。
「では……」
リビングの外の窓ガラスに雨粒が強く当たる音がした。
台風は直撃するのだろうか?嵐になりそうだ。
このお話は、必ず完結させます。
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