絶望
Side横山
学校側に定時連絡を兼ねた報告をしたところ、片桐がトランシーバーを二尉に渡した。
たぶん、変わってくれとでも言われたんだろう。
会話の内容はよくわからないが、少なくとも断るような雰囲気ではなさそうだ。
話が終わったのか二尉がトランシーバーを切ると片桐に返した。
「うちの校長、なんて言ってました?」
「立場はどうであれ、私たちみたいな人がいると心強いから是非とも。って言ってたわ。」
まぁ校長ならそう言うと思ってたんだが、あの教頭が首を縦に振ったのは意外だな。
流石に空気読んだか?
「それと、一人煩いのがいるけど責任持って黙らせておく。とも言ってたけど、あなた達の校長先生って交渉上手なの?」
たぶん拳で語る交渉だと思うが、そんなことはともかく現役の自衛官が4人も加わったのは有難い。こっちは武装したとはいえ元は民間人、銃火器や戦術に関する知識は向こうが上だ。
「では、改めてよろしくお願いします。早速ですがこのままプラントまで行きましょう。もう正午を過ぎたので急がないと日が落ちて大変なことになりますからね。」
真っ暗な夜の中であんなのに襲われるなんて想像もしたくねぇから、さっさと車を拝借して移動しよう。ここは事務所っぽいから車のキーは探せばすぐに見つかるはずだ。
「近くにガソリンスタンドがあるからそこで外の高機動車に燃料をいれましょう。中の装備は捨ててくには惜しいですし。」
「それもそうね。須藤兄弟は燃料を確保して、3曹は彼らが乗る車のキーを探して。できる限り大きなのをね。状況開始!」
「「「「了解!」」」」
指示を受けた自衛官たちがテキパキと行動を開始し、俺たちは一旦外に出て適当な車を見繕うことにした。
Side片桐
自動車の燃料を無事確保し、俺たちは拝借したワゴン車で移動している。
ハイブリッドカーは残念ながら調達できなかったが、今のところは大挙して押し寄せてくる気配はない。
「しかしすごいな、あの………キルゴアくんだったか?」
運転を担当している須藤陸曹長が窓の外に見えるキルゴアくん1号に視線を向ける。
なぜ彼が運転してるのかというと、織琴先生が車の免許を持っていなかったからだ。
「性能はいいんですよ、性能は。」
「まあ、流す音楽があれだしな。しかも2機とも同じ曲はいくらなんでも。」
『2機とも』………?
「須藤さん、俺たちが飛ばしてるのは1機だけなんですが。」
「は?じゃああそこに飛んでるのはなんだ?」
俺は陸曹長が指を指した後方を見るために窓から身を乗り出した。
その先に見えたのは確かにヘリコプターだが、何か変だ。それに機首がなんか鋭いし段々とゴマ粒みたいな姿が大きくなってくる。
「横山ちゃんと操縦しろ!機体がこっちに近づいてんぞ!!」
「何言ってんだ!?俺が飛ばしてんのはあっちだ!!」
俺が横山が指差した左方向を見ようとした途端
本物のヘリコプターが低空を全速で通過していった。
「おいおいおいおい、なんか不味いんじゃねえの!?」
「なぁ、あのまま行くとプラントにぶつかるんじゃ………。」
《二尉!!全速力でプラントに向かって!!》
陸曹長が無線機に向かって叫びアクセルペダルを思いっきり踏みつけてワゴン車が急加速し、先行している高機動車もやや遅れて併走する。
そのヘリコプターがふらつきながら何とか飛んでいるが、どうやら限界が来たようだ。
まるで竹トンボのようにクルクルと回転しながら吹雪山に吸い込まれるように落下していき、そしてついには墜落した。
墜落地点から真っ黒な煙が上がり、オレンジ色の何かどんどん広がっている。
到着した時には、すでに山の三分の一が炎に包まれていてなお燃え広がっている。
俺たちは唯、何もできずに、見ていることしかできなかった。
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