新たな希望
Side熊野
「畜生ッ!!こんなことってあるのかよ!!」
「いやまだだ、今ならまだ………!」
「内部構造もわからないのに突っ込めるか!!今入ったらローストビーフになるぞ!!」
「落ち着きなさい!!騒いだって鎮火するわけないでしょ!!」
俺たちは誰一人欠けずプラントにたどり着いた。
だけど、その代償なのか吹雪山が墜落したヘリコプターのせいで盛大に燃えている。
この様子じゃあ、中の食べ物はすべて丸焦げだろう。
「ここまで来て、ここまで来たってのによぉぉぉぉ!!!」
俺は手に持っていたトランシーバーを地面に叩きつけた。
叩きつけられたトランシーバーは音を立てて半壊したが、そんなことはどうでもいい。
今からスーパーなどの食料品店に行くか?
無理だ。
既に空がオレンジ色に染まっている。暗闇の中で移動するなんて自殺行為だし、キルゴアくんの電池もそろそろ底を尽く。
俺はヘナヘナと地面に座り込んで地面を何度も、何度も叩きながら『チクショウ!』と壊れた録音機のように叫び続けた。
今日ほどいるかどうかもわからない神様を呪ったことなんてない。いるのなら殺したくなるほどの憎しみが渦巻いてるのが嫌でもわかる。
《ザザッ……こち…はザッ、えいたい第3…たいザザッ艦はりまザッ……これを聞いて……》
急に先ほど叩きつけたトランシーバーから何かが聞こえて来た。
雑音と周りの口論でよく聞こえないし、俺も地面に叩きつけたせいでイカれたのかと思った。
しかし自分でも何を思ったのか、耳を近づけて意識を集中させた。
《……繰り返す。こちらは海上自衛ザザッ護衛艦隊旗艦ガッガッ聞こえたら応答を………》
俺は耳を疑った。
精神が追いつめられて幻聴でも聞こえたのかと思ったが、それにしては正確に聞き取れた。
この先を聞き取ろうと更に耳を近づけるが、周りのせいで聞き取れない。
「おいお前ら一旦『てめぇやんのかゴルァ!!』まておち『上等じゃねぇかオルァ!!』だから待て『おおお落ち着いて二人とも!』………。」
「黙れつってんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
俺は近くにいたイリナ3曹からライフルを奪い取って真上に向かって乱射して強制的に黙らせた。
反動と精神的な疲れのせいで息切れを起すが、軽く整えた。
「お前ら静かにして、無線を、聞け。」
俺以外の全員が円陣を組むように集まって、トランシーバーに耳を傾ける。
《当護衛艦隊は国民救助の任を受けガガガッッに停泊ちゅザッ、周波数は……》
六条二尉が高機動車に向けて走り出し、荷台でゴソゴソと何かを探している。
目的の物が見つかったのか、『あった!』と可愛らしい声を上げて地面に置いた物。
背負い式の広帯域多目的無線機の受話器を耳に当てて周波数を合わせて
《こちら東部方面隊車橋駐屯地残存分隊の六条二等陸尉です!護衛艦隊聞こえますか?送れ!》
《ザザザッッ…第三護衛艦隊旗艦はりま艦長の天田一等海佐だ。貴官の状況を報告されたし、送れ!》
Side六条
「それは……本当なんですか?」
「はい。明日、1230時に東京湾に停泊している海上自衛隊の艦隊から救助ヘリが到着予定です。間違いありません。」
場所は変わって高校の校長室。私は彼らの校長に無線の内容をすべて答えた。
「そうですか……。六条さん、生徒を守っていただき教員を代表して礼を言います。ありがとうございました。」
「いっいえ、そんな頭を下げなくても。我々なんかよりもあなた方のほうがよっぽど…。」
実際、私たちはたいして活躍していない。やったことと言えば車を運転しただけだし、無線に関しては偶然に過ぎないのだから。
ともかく、私は報告を終えて退出した。寝床を用意してくれるとのことだったが、やんわりと断って駐屯地から拝借したテントで一夜を明かすことにする。
「さて、小銃のメンテナンスをしてテントを張って……。」
廊下を歩きながらやらなければいけないことを頭の中にリストアップしていく。どうせ明日にはここを脱出する予定なのだが、自衛官としての癖は抜けないしここの避難民を送り届けた後私たちは別の部隊に配属されるだろう。
それに聞いた話によると、日本はまだ死んではいない。
政府首脳陣と皇族の方々は小笠原諸島に属す無人島の一つに避難している。
その島の名前、かつて日米合わせて数万人が亡くなった激戦区『硫黄島』。そこの擂鉢山内旧日本軍司令跡に臨時政府を立ち上げている。
臨時政府は比較的被害が少ない海上自衛隊を総動員して民間人を小笠原諸島内に避難させ、その後各地で孤立している自衛隊と共同して本土奪還作戦を取るらしい。
その中でも関東地方に散らばってる自衛隊と警察組織は、現在陸自第一師団と空挺団が立てこもっている現時点で最大の激戦区である皇居に集結する旨を無線で流している。
皇居はかつて『江戸城』と呼ばれ、徳川家康が天下一の堅城として築いた名実ともに日本一の中世城塞。単純な防衛能力はそこいらの城より上だ。
「あ、二尉。ここにいたんですね。」
「どうしたの3曹?」
背後からイリナ3曹に呼び止められて振り返る。
彼女には負傷者の応急手当をさせてたはずなんだけど。
「応急処置は完了したんですが……。」
「ですが、なによ?」
「人数に対して負傷者が少なすぎるんです。いえ、それだけなら喜ばしいことなんですがなんというか、その……。手当を受けるのを躊躇っているような感じがするんです。ふつうなら医療知識を持つ人間がこんな場所にいると躊躇うなんてないはずです。むしろ歓迎されます。もしかすると、手当を受けさせたくない事情があるのでは、と。」
「…………その根拠は?」
「イラクと南スーダンでの経験からです。それと、東北地方の。」
彼女の性癖は問題だが仕事に対しては真面目一筋だ。
それにこんな状況で手当てを受けさせたくない理由なんて一つに決まってる。
「すぐに須藤兄弟と織琴先生、それに片桐君にこのことを知らせて。私は校長に状況を説明する。復唱はいらないから急いで。」
「了解!」
私は来た道を駆け足で戻って校長室の扉をノックなしに乱暴に開けた。
感想、評価をよろしくお願いします。




